ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part2】数字で救う!弱小国家

 今回感想を書いていく作品は「数字で救う!弱小国家

 数字で救う!弱小国家(通称すうすく)は電撃文庫より2017年~2020年の間に刊行されていた全5巻のシリーズ。作者は長田信織。イラストは紅緒

数字で救う! 弱小国家 電卓で戦争する方法を求めよ。ただし敵は剣と火薬で武装しているものとする。 (電撃文庫)

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 まずは本作のあらすじから紹介。

 ""小国ファヴェールは危機に瀕していた。隣国との緊張が高まり、戦争の気配がちらつき始め、王は病に倒れている。若き王女ソアラは何とかして国を守るための作戦を考え、家臣たちに訴えるも、彼らは前時代的な「戦いの栄誉」のみを重視し、理論を語るソアラを拒絶する。このままファヴェールは滅ぶのか……。

 そんな時、彼女の前に現れた一人の青年が本作の主人公ナオキ。現代からソアラのいる世界に転移した、ただの数学大好き少年。しかしこのナオキがもたらす数学の知識と理論こそがソアラの求めていた希望の光となる。

 異能ナシ、戦闘力ナシ、理系青年と、残念王女の二人がその頭脳だけで戦争に挑む異世界数学戦記ここに開幕!""

 と、こんな感じですかね。ざっくり言えば、数学的な理論で戦争に勝とうとするお話です。ジャンルとしては異世界・数学・戦記モノあたりになるでしょうか。

 そしてこの作品について一言で感想をまとめるのなら「面白いとはまさしくこういうことだ!」ですね。詳しくはこれから”作品テーマ”と”主人公とヒロイン”の2点に絞ってお話ししていきます。

1:数学理論で戦争に勝つ!?

 本作の主題ともなるこの部分。これだけを聞くといやいやそんな理論だけで戦争って上手くいくものじゃないだろと、理論だけで勝てる戦争とか現実味なさそう、ご都合主義じゃん。とか思う人いるでしょう。

 はい、まさしくそのとおり! だからこの作品はどれだけの理論を重ねても全然上手くいきません。そして、それこそが面白いのです!

 この作品ではナオキとソアラ、二人が滅びゆく国を救うためにその知識で様々な戦略を編み出していきます。ここには現実の理論を用いていて、まず純粋に学ぶことが多く面白いですね。しかし、そんな理論だけの作戦は全然上手くいきません。

 何故なら、戦争というのは人間が行うものだから。もっと言えば、人間というのは誰もが必ず理論で動くものではないから。あらすじでも述べたように、ソアラの家臣たちが求めるのは戦いの栄誉といった感情論。どれだけ筋道がたった理屈を解いても、家臣たちはそれだけじゃ納得をしないのです。加えて、ナオキがもたらす知識というのは現代の理論。読者であるわたしたちも一見では完全に理解なんかできないような話ばかり。それを聞いて「それは素晴らしい作戦だ!是非やってみよう」だなんて思うはずがないですよね。

 この作品のテーマの一つは間違いなく「理論」です。だからこそ同時にその対称ともなる「感情」もまたテーマとして扱っているとわたしは思いました。また、この作品は「戦争」もまたテーマであるが故に、その戦争を動かす「人間」も描かかなきゃいけない。この要素要素の噛み合わせ、そして軋轢、これをもう実に見事な塩梅で見せてくれる!

 ここが本当に面白いんですよ!!

 さて、話を少し戻しまして。

 ソアラとナオキにできるのは、考えることだけ。とにかく勝つための手段を戦略を手探りで求めることだけ。そうして得られたわずかな希望の光、家臣を説得し何とか作戦実行まで至ったとしても、今度はそれが完全に上手くいくかという問題に直面する。敵の行動。ここもまた感情が絡む要素ですから予測しきることなんてできない。更に現実で起こる戦争であれば天候などの、計算じゃ予測なんてできるはずのない要因も勝敗に大きく関わってきてしまう。

 そんなのレベルでどうやったら理論だけで戦争に勝てるのか。だから、最初にも言いました。勝てないのです。ナオキとソアラは常に孤独と言っていいほどに追い詰められていて、展開は常に下り坂を転がり落ちるようだと言ってもいいでしょう。これは読んでて非常に辛かったです。ソアラたちの心の内を思うと鬱憤も溜まる溜まる。

 それでも、何とかして踏ん張って、あらがって、最後まで戦う二人の姿、これが素晴らしいんだ。面白いんだ。

 

 2:ナオキとソアラの関係性

 続いてはそんな理論で戦う戦争の根幹を成す、本作の主人公とヒロインについてお話ししましょう。

 まずヒロインのソアラは言ってしまえば、その時代に早すぎる思考を持っているがために、周囲から常識がない異端者扱いをされている女の子です。国のために自分がどれだけがんばっても報われない。家臣にも、更に言えば実の父にすら理解してもらえない。それでも唯一、数学を理解するナオキには分かってもらえた。不安な心も苦しい本音も、全て打ち明けられるのは、ナオキだけ。

 そしてナオキはナオキで、元の世界では数学にばかり執着する変人と思われていました。数学を教えてくれた祖父は亡くなって、本当に大好きなものを語れる人なんていない。だけど全くの異世界にやってきて、そこで出会ったソアラという少女は真摯に数学的理論に向き合っている。どれだけ辛くても国を救おうと必死な姿。そんなものを見て何も思わないわけがない。

 お互いに異世界の住人。けれど、そんな二人は確かにお互いにだけ分かる「数学」という繋がりを持っている。数学は全世界共通言語だなんて言いますが、まさにこれです。しかしながらそんな二人の絆は誰からも理解されずに、故にこの関係が二人だけの世界になって閉じられている。こんな二人が共に生きるため必死に戦うのです。

 こんなの見せられて、読者が何も思わずにいられますか?

 無理でしょう! 少なくともわたしには無理だ。

 そして、ほら、ここにも通じてきましたよ。「理論」がテーマであるはずなのに、ソアラとナオキの関係性に見えるのは「感情」なんですよ。でも、二人の間の「感情」を繋いでいるのは「理論」という共通の考え方。

 本当にこのテーマの扱いが上手すぎるんですよ。

 当然ながらこんな二人な訳ですから、自然と恋愛にも発展していきますが、これがまぁ尊いのなんの。ソアラのナオキへの依存度合いとか本当に堪りませんよ。ぶっちゃけこの二人の関係だけで読む価値しかないと言えますね。是非ともソアラ様のちょっぴり重たい可愛さを多くの人に知ってもらいたい!


 おわりに

 お話ししたことを簡単にまとめますと。

 理論をテーマにして描く戦争、これがまず面白い。その上で理論だけじゃ上手くいかない状況、どうやって必死に食らいつくかという展開がドキドキハラハラ。何より、この作品を動かすソアラとナオキという二人の関係性が素晴らしい! これが面白くないわけがない!

 ということですね。

 あとは小話として。この作品、毎回プロローグでおっぱいについて語ります。正しくはおっぱい関数についての議論ですが。あれです、グラフを書くとおっぱいの形になるというやつです。しっかり図解付きでそんなバカ真面目な話をする小話が毎回めちゃくちゃ面白くて笑ってました。お堅いイメージのある数学ですが、こうしてネタにすることもできるのは学生を経験していれば誰もが共感できそうです。そんな面白さもまた数学をテーマにした本作の魅力の一つということですね。

 

 さて、長くなりましたが、今回の感想は以上。

 気になった方は、以下に1巻のリンクを貼っておくのでチェックしてみてください。 

 

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