ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part10】神様のいない日曜日

 今回感想を書いていく作品は「神様のいない日曜日

 富士見ファンタジア文庫より2010年~2014年の間に刊行されていた全9巻のシリーズ。作者は入江君人。イラストは茨乃

神さまのいない日曜日 (富士見ファンタジア文庫)

※画像はamazonの購入リンク(1巻)

 

 

 まずは本作のあらすじ、概要を簡単に紹介します。

 ""15年前から世界は、人が新しく生まれることがなく、死んでも生者と同じように動き続けることができるようになってしまった。"墓守"はそんな世界で唯一、死者に本当の死を与えることのできる存在であり、主人公の少女アイ・アスティンはとある村で墓守として村人たちから愛され、平和な毎日を過ごしていた。

 しかし、ある日突然やってきた「人食い玩具(ハンプニー・ハンバート)」によって村人は一人残らず殺されて、更に彼からアイは壊れてしまった世界の真実を告げられる。「世界を救う」そんな決意を胸に神様に見放された終末世界を巡るアイの旅が始まる""

 と、あらすじとしてはこんな感じです。終末世界する少女の成長物語で、特に生きることや死ぬこと、幸せであることなどの死生観、人生観を大きなテーマとしたファンタジー作品になっています。

 正直なところこの作品の感想を書くのは難しいです。人生観や死生観というものは簡単に要約できるものではなく、ここを語り尽くそうとしたら作品のネタバレにしかなりませんし、そもそもわたし自身この作品の伝えたいところを完全に理解しているとは言えませんし。ですので、抽象的な部分が多くなってしまいそうですが、がんばって感想を書いていきます。

1:アイ・アスティン

 本作の主人公であり、メインヒロインであるアイ・アスティン。冒頭の1巻表紙を見ていただければ分かりますがすごく幼い女の子です。年齢は12歳。"墓守"の少女である彼女は死んでも死なない死者を埋葬することで本当の死を与えることができる。

 この作品は彼女が終末世界を旅して、そこで出会う様々な人と関わる中で成長する物語であります。ですので、この12歳という年齢設定が絶妙なんですよね。幼く自分の夢をバカ正直に語れる、盲目的に信じていられる年齢。アイは「世界を救う」という理想を持ち、その夢のためならば自分の命すら顧みない危険すぎる行動力と精神力をたびたび発揮していきます。しかし同時にもうまっさらな子どもではなく、子どもの自分ができることは何なのかと現実を少しずつ見ていくことができる年齢。彼女は旅の先々で人と出会い、壊れてしまった世界の中でそれでも生きている生者と死者に向き合う中で「実際にどうすれば世界は救えるのか」という現実の問題に直面していくのです。

 本作は終末世界を舞台にしており、さらには人が死んでも死なない世界観ですから、私達の現実以上に複雑で一概に正解と言えないことが多くあります。世界を救うということは、単純にそこに生きる人を救うこともなければ、生き続ける死者を弔うことでもない。誰かの望みが叶うとき、誰かの望みは失われることになる。必ずどこかに生まれれてしまう矛盾。アイ自身も理想と現実の矛盾に幾度となく打ちのめされ、それでも何かを選ばなければならない状況に向かっていきます。純粋すぎるアイの精神性はこの自分自身の矛盾に対して最も発揮されており、中盤以降の彼女の心情からはずっと目を離すことができませんでしたね。

 

2:終末世界の旅モノ

 既に散々言いましたが、本作は終末世界で旅をします。

 1つのジャンルとして確立している言ってもいい終末世界旅モノ、本作もまたその魅力が存分に詰まっている作品になります。個人的に終末世界を舞台にした作品では残った人々がどのように生きているのか、どのような思いを抱えているのかといった部分が作品ごとのストーリーやテーマ性にダイレクトに通じる重要な部分だと思っています。終末世界だからこその人と人の絆や恋だったり、あるいは憎悪や絶望だったり。

 そしてこの作品の大きなテーマとなっているのは、人生観や死生観。つまりは生きることや死ぬことに対する考え方です。特にこの作品で印象的だったのは、主要キャラの持つ個人個人の人生観だけでなく、この世界だからこそのこの世界の人々(大衆)が持つ一般的な価値観や願いにもフォーカスされていたこと。この作品では死んでも死ぬことができません。唯一死ぬためには墓守に埋められる必要があります。これはこの世界の人々は全ての人が「自分の死を自分で決めなければならない」ということを意味しています。簡単な具体例を挙げると、生き続けたいと望む人がいれば、死にたいと思う人もいるということでしょうかね。さらにその上で事実として生者であることと死者であることが区別されてしまう。同じ生き続けることでも生者と死者ではまるで意味が変わってくるし、死ぬことだって同じように意味が変わってくるのです。

 この世界観だからこその人生観や死生観の複雑で濃厚な味わいは、終末ファンタジー作品として文句なしに面白いだけでなく、純粋に考えさせられる内容として楽しむこともできました。さらにこれだけ人々の持つ立場と望みが複雑になってくれば、前述のアイが「世界を救う」ためにどれだけの苦悩と覚悟と決断が必要だったか。終末旅モノで少女の成長という2つの軸がこれ以上ないほどにマッチしている作品であるとも強く感じましたね。

 

3:旅の仲間たち

 アイの成長、終末世界。これだけでも十分すぎるほどに魅力的な本作ですが、やはりアイ以外の主要キャラもいたからこそ更にこの作品の味わいは深まっていたと思います。それぞれを簡単に紹介しましょう。

 まずはあらすじでも登場したハンプニーさん。彼は不老不死です。いや、この世界だと全員不死でしょと言いたくもなりますが。そうではなく何度死んでも生者であり続けるという意味。ある種の特殊能力的なものであり、この作品にはこのように特殊能力を持ったキャラというのがたびたび登場してきます。そして、死なない性質の彼は1巻で登場し、アイと一番最初に関わった人物。旅の始まりになるこの1巻は単巻として読んでも十分すぎる満足度があるので、気になったら1巻だけでもとりあえず、の気持ちで読んでほしいと思います。

 続いて、ユリーさん。彼はアイの旅に同行する普通の生者のおじさんという感じですね。幼く純粋すぎるアイとは最も対称的なキャラだったと思います。彼のような大人がアイを見守っているというのは、作品を読む中で大きな安心感になっていました。

 そしてスカーさん。彼女は感情を持たず常に笑顔で淡々と死者を埋葬する普通の墓守、だった少女。アイが墓守として異質であることを示す比較対象でありながら、スカーさん自身も普通の墓守ではなくなることを願う異質な墓守として描かれていました。個人的には、スカーさんのようなこういう設定(普通の人ではない存在が人のような心を学んでいく)というのが大好物でめちゃくちゃ最高でした。可愛い。

 最後にアリス・カラーとディー・エンジー。3巻で出会うこの二人はそれから最後まで旅を共にしており第二の主人公、友人というポジションでアイと関わっていく重要なキャラクターでした。3巻以降の登場ということもあり、この二人についてあまり詳しくは語れませんが。アリスはカッコよくて、ディーは可愛い、これだけは間違いないです。

 

さいごに

 あれこれと語っては来ましたが、結局のところ。

 終末世界を旅する作品。少女の成長物語。死生観や人生観というテーマが深い。キャラが魅力的でこれらの要素を際立たせている。

 みたいな、めっちゃ漠然としたことしか言ってないんですよね……。

 なのでこのジャンル、このテーマ性が好きだ、読んでみたいという方にはオススメしたい作品。というのが総括になります。

 

 (長々語った挙げ句これが結論って……)

 

 まぁ何はともあれ気になった方は是非、以下に1巻のリンクを貼っておくのでチェックしてみてください。ブックウォーカーでは読み放題の対象にもなっているので、そちらで読んでみてもいいかもしれませんね。

 

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神さまのいない日曜日 (富士見ファンタジア文庫)

 

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