ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part17】ぼくと魔女式アポカリプス

 今回感想を書いていく作品は「ぼくと魔女式アポカリプス

 ぼくと魔女式アポカリプス(通称、魔女カリ)は電撃文庫より2006年~2007年の間に刊行されていた全3巻+電子特別短編集1冊(未完結)のシリーズ。作者は水瀬葉月。イラストは藤原々々

ぼくと魔女式アポカリプス (電撃文庫)ぼくと魔女式アポカリプス Essential (電撃文庫) 

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 まずはいつも通りに作品の概要から紹介。

 ""普通ではないことを好む主人公・宵本澪(よいもと れい)はある日、クラスメイトの地味な女の子・砧川冥子(きぬたがわ めいこ)に告白された。それ自体は特別でもなんでもない普通のこと。冥子もそんなことになるとは思ってもいなかった。

 けれど、それがきっかけになってしまう。魔術種と呼ばれる人外の存在が、その種の復活をかけて戦う魔術師たちの争い。代替魔術師である冥子の戦いに巻き込まれ、澪もまた代替魔術師になってしまったのだ。魔術師たちの戦いは純然たる殺し合い。何かを得ることなど決してなく、ただ失い壊れていくだけの戦い……。""

 と、あらすじとしてはこんな感じですね。ジャンルとしては現代ファンタジーになるでしょうか。

 この作品を端的に表現するなら"最後まで生き残った者はその望みを叶えてもらえる殺し合い"というものから「最後まで生き残った者はその望みを叶えてもらえる」という接頭語が消えた感じなんですよね。個人的なイメージとして。

 なので純然たる殺し合い。そうなると人体を切り刻んだりするようなグロテスクな描写が目立つ作品にもなっています。

 この辺り、以前に読んだシーキューブに通ずるところがあるなと思いました。同作者の作品というのも納得です。シーキューブのあとがきではデビュー作が新人らしいまっさらな白水瀬が書いた作品なら、魔女カリは自分の好きなものを押し出した黒水瀬が書いた作品なんて表現をしていましたね。それが本作のエグい描写というわけでしょう。あっ、シーキューブの感想記事は気になったら以下のリンクから見てみてください。

【ラノベ感想記事part4】C3-シーキューブ- - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 それでは改めて感想を書いていきます。本作の感想としては、とにかく救いがない悲しい物語であること、けれどその中でもただ生きようとする姿にどこか惹かれてしまう、といった感じになります。この部分について詳しくお話するにあたって今回はネタバレが多々あります。なので、ネタバレ厳禁という方は以下閲覧注意ということで。

1:代替魔術師たちの戦い(※ネタバレ有り)

 本作が救いのない、悲しい物語たる所以は代替魔術師の在り方にその大半の原因があいます。これが結構複雑になるのですが、この複雑で雁字搦めになってしまっている状況こそが悲しみを生み出しているので1つづつ説明していきます。

 ・まず魔術師たちの戦いは、魔術種と呼ばれる人外の存在が、それぞれの種の復活のために行っているものになります。そして魔術種は自らの戦いの代行者として、それぞれが選んだ契約者を代替魔術師とするのです。

 すなわち、基本的に魔術種には戦う理由はあるけれど、代替魔術師には戦う理由がないのですよね。

 ・ではどうして代替魔術師たちは魔術種たちに従って戦うのか。その理由は魔術種たちは命の恩人となるから、あるいは自分たちの命を握られ脅されているから。

 代替魔術師は全て、一度死んでいます。その死は自らが望んだものではなかった者だったり、自死を選んだことを後悔していたり。そんな一度目の死をなかったことにして殺し合いのための魔術師としてではあるが、一時的に生き返っていられるのなら……。魔術種は代替魔術師を選ぶ立場にあるわけですから、魔術種に見限られたら元通りの死が待っている。命を握られているというのはこういうことです。

 ・まだ殺し合いをする理由には少し足りませんね。補足しましょう。代替魔術師たちは何もしなければ、魔力的なものがなくなって死にます。

 この魔力的なものを得る方法は二つ。他の魔術師を殺す、または一般人の悪人を殺す。つまり誰かを殺さなければ生きていられないのです。だから、そうするしかない。とはいえ、これだけでは後者の一般人を殺すだけで十分、魔術師同士の殺し合いをする必要はないのでは、と思ってしまいましょう。大丈夫です、ちゃんとここも強制するための設定があります。

 ・代替魔術師たちは、どんな傷を負っても再生する不死性と、その契約した魔術種に応じた特殊能力を得ることができます。この特殊能力を使うことで人知れず殺人を行うことはできるのですが、特殊能力を使うには代償が必要となります。

 それは身体的な影響だったり、精神的な影響だったり。分かりやすい例で言えば、五感が失われていくとかですね。この代償を回復するための方法は唯一、他の魔術師を殺すしかありません。

 ・ここでもしかしたら、魔術種と契約して生き返ったあとで、魔術種を殺せば生きたままいられるんじゃないか? とか考える人もいるかもしれませんが。これも難しい。というのは、魔術種と契約した魔術師たちは戦闘の際に、その姿が魔術種に応じた姿に変化します。すなわち魔女の魔術種と契約すれば魔女の姿に、吸血鬼の魔術種と契約すれば吸血鬼の姿に。

 ここで魔術種を殺した場合、魔術師は永遠にこの戦闘時の姿になってしまいます。つまりは本来の自分の見た目を失う。さらに誰かを殺さなければ生き続けられない状態は変らない。魔術種に縛られて戦う必要はなくなりますが、特別メリットがあるわけではないのですよ。

 

 ……いやぁ、逃げ道がないですね。

 魔術種たちに従って殺し合いをしなければならなくて、戦えば身体が壊れていき、戦わなくても命は消耗されて、生き続けるには誰かを殺すしかないのだけど、そもそもに一度死んだ身である者たちには基本的に生き続けることはそれそのものが生きる理由になってしまっている。

 こんなの悲しい結末しか待ち受けていないわけじゃないですか。本作は未完結のままになっていますが、果たして完結していた場合どんな結末になっていたのか。これが非常に気になるところですが、目をそらしてしまいたい気持ちもあったり。

 

2:グロテスクな描写の程度

 本作はとにかく凄惨な戦いが繰り広げられて、人体が千切れるひしゃげるぐちゃぐちゃになるような描写は当たり前に出てきます。この中でも特に描写を加速させる要因となっているのは、間違いなく魔術師たちの不死性でしょう。

 どんな傷を負っても再生する。あれ、これどこかで見たことあるような……、たしかシーキューブにもこういう女の子がいて、たしかこれについてあとがきで「何をしても死なない=何回でも殺せる」みたいなことを言っていましたよね?

 というわけで、そういうことなんです……。

 特にこれが如実に表れているのは本作のメインヒロインである砧川冥子。彼女は魔女の魔術種と契約し、その特殊能力は”自分の身体の傷を魔法に変換する”というものです。これにどんな傷も再生する設定が合わさったらどうなるでしょうか? そうですね、彼女は自らその指や腕を切り落として魔法を使い、再生してはまた切り落として魔法を……、ということを繰り返して戦います。

 なんというか、もう……。既に説明した代替魔術師の在り方だけでも辛いのに、魔法を使うために自分で自分を傷つけなければならないようにするとか、作者は鬼か悪魔なんですかね? しかもこれ、ときには主人公に彼女の自傷行為を手伝わせますから。もう精神ダメージがががががが…………

 ともあれ、ヒロインからして身体が千切れるのがデフォルトな作品です。その他の描写もそれ相応にはえぐいのは想像にかたくないでしょう。こういうのが苦手な人には読むのをオススメはできません。

 

3:悲しい運命の中でそれでも……

 これまで述べたように魔術師たちはその先に希望はなく、現在ですら痛みを抱え何かを欠落しながら戦うような状態。

 頭がおかしくなってしまっても仕方がない。

 なんて思ってしまいます。実際に歪んでしまった人物もいました。

 けれど、そんな中で生きる人々の中には小さな光がありました。主人公の澪は何が正しく何が間違っているのか、選び取る未来はないのか、そう悩み続け戦い。冥子は既に間違ってしまった自分だからこそ、その罪を受け入れながら戦う決意をし、その上でそんな汚れた自分でも澪のことが好きだという純粋な想いだけは大切にしようとする在り方。他にも魔術師の中でイレギュラーな存在である少女は、自分がイレギュラーだからこそできる未来への選択肢を残すことに命を燃やし。敵として立ちはだかった相手にもまた、譲れない想いと大切な人がいて。

 と、契約したから、魔術種たちのためだから、なんて理由が全く関係ない。彼らの、彼女らの、絶対不可侵な想いは、たしかに暗闇の中まっくらな戦いの中でも輝いていたと思います。わたしはそんな生き様が何よりも素敵だと感じましたね。

 特に、個人的には冥子のときおり見せるピュアな恋心がマジで癒やしだったんですよ。可愛い! 砂漠の中のオアシス! ……まぁ、そんなオアシスが自分で指を切断したり、敵の攻撃でバラバラになったりするんですがががが。

 

おわりに

 とにもかくにも、救いや希望が見えない魔術師たちの殺し合いを描いた作品。作者の趣味趣向が反映された結果なのか、グロテスクな描写も活き活きと描かれており、かなり読み手を選ぶ作品となっています。

 しかしながら、そんな悲しい運命の中で、それでも生きている彼ら彼女らの選択や想いは闇の中にあるわずかな光となって読者を引きつけることでしょう。

 そんな世界観を味わいたい方は、是非一度読んでみてはいかがでしょうか。

 

 以下に1巻の購入リンクおよび、電子特別版のリンクを貼っておくので気になったらチェックしてみてください。 

 

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