ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part23】失恋探偵ももせ

 今回感想を書いていく作品は「失恋探偵ももせ

 電撃文庫より2013年に刊行されていた全3巻のシリーズ。作者は鷺宮。イラストはNardack

失恋探偵ももせ 【電子特別版】 (電撃文庫)

※画像はAmazonリンク(1巻表紙)

 

 

 まずは作品の概要から。

 

 ””失恋探偵。それは恋に破れた人たちのために、失恋した真相や理由を追求する活動。ミステリ研究会に所属する後輩の少女・千代田百瀬はどういうわけかそんな失恋探偵として日々学校の人から相談を受けていた。そして、ミステリ研究会部長である野々村九十九はその調査に否応なしに付き合わされてしまう。””

 

 と、こんな感じですね。あらすじとしてはかなりシンプル。

 ジャンルとしては青春ラブコメ×微ミステリでしょうか。個人的には青春ラブコメが中心で、そこに失恋探偵というアクセントが加わった作品と感じました。なので、ミステリメインの作品ではないのかなと。

 そんな本作の感想は端的に言うと「失恋探偵というアクセントを活かした綺麗な作品」といったところですね。それでは、詳しく話していきましょう。

 

 

1:短編形式の失恋Case

 本作は様々な失恋調査の依頼が、短編形式で各巻4編程度、描かれていきます。

 これは良い点もアリ、悪い点もアリだと個人的には感じていて。具体的には次の通り。

 ○短編形式であることで素直に区切りをつけて読みやすい。

 ○1編ごとに失恋したお話ではあるけれど、異なるカップルの物語が見られる。

 ×短編形式である以上、1編1編の物語としての味わい深さがやや難あり。

 ※ここで補足しておきたいことは、欠点として挙げた各掌編が軽いこと=作品全体が軽い、という意味ではないことです。それぞれのお話において失恋の程度や意味合いが変わり、それに応じて失恋探偵として解き明かすべき謎も変わってくる。このようにして、失恋のケースによる様々な味わいがあるため作品全体としては終始楽しむことができます。これは短編ミステリの良さが出ているのではないでしょうか。

 

 で、この失恋の意味合いが多種多様であること。これが失恋探偵をテーマとした本作の1つ大きな魅力であったと思っていて。まず、失恋と言って思い浮かぶのは何でしょうか?

 ・恋人だったけれど、何らかの問題があり、分かれてしまった場合

 ・好きな人に告白したけれど振られてしまった場合

 パッと思い浮かぶだけでも1通りではないですよね。

 そして今挙げた2つの例において、失恋の原因は当然異なってくるでしょう。前者の場合、失恋の原因はその恋人間にあったトラブルにあるでしょう。一方で後者の場合は、告白された相手に他に好きな人がいたり、それとも何か別の理由があったり、考えることができます。

 失恋探偵ももせはこのようなそれぞれのケースにおいて一体何が問題であったのかを追求することが主なストーリーになっています。もちろん、わたしが今挙げた2つの例以上に失恋ケースは多種多様です。

 

 既に言いましたが、この様々なケースの短編を読むことができる、というのが本作の大きな魅力となっていました。

 また、個人的には短編形式であり、1つ1つの問題が軽いこと、これも見方によっては良い点だと思っていて。問題が複雑でないから、読者として原因を考えながら読むことが簡単なんですよね。ミステリで複雑な事件を頭を悩ませて考えるのが好きな人もいるでしょう、一方であまり難しいことは考えずに読書を楽しみたい人もいると思います。本作は後者のような人に、楽しみながらちょっとした問題を考えながら読むことができる作品として良い作品だと思ったのです。なにせわたし自身が、読書は気楽に楽しみたい人間なので笑。

 

2:百瀬と九十九の恋模様

 ちょっとメタ的な発言をしますが、本作の主人公は九十九くんで、メインヒロインは百瀬である以上、この2人が恋をしないなんてことはないのです。

 

 というわけで、本作の魅力ポイントその2は百瀬と九十九の恋です。

 

 2人の恋路は言うまでもなく、失恋探偵の活動を通じて進展していきます。それは例えば依頼者の恋路を見て、自分自身に思うことを振り返ったり。例えば、調査をする中でお互いの意見をぶつけあって、ときに反発したり、仲直りして育まれる関係性だったり。特に百瀬は事実追求ばかりに重点を置くために他人の機微に疎い面がある、一方で九十九は失恋した人たちの心情を慮り百瀬の遠慮無い質問に苦言を呈することがしばしば。性格が対照的な2人なんですよね。そんな2人だからこそ、馬が合わないこともあれば、逆に惹かれ合う部分もあるのでしょうけど。

 と、そんな具合で失恋探偵を通じて進展する恋模様は、短編形式のケースを1冊の物語として繋ぐ大きな軸になっています。

 そして、これまたメタ的発言でありますが、失恋探偵をテーマにしている以上は最後に向き合うのは百瀬と九十九自身の失恋になるわけです。超メタ読みですが、2人の恋路には最初から暗雲立ちこめているのです。

 したがって、本作のメインとなるストーリーは失恋探偵よりも、百瀬と九十九の恋になることでしょう。わたしが本作は青春ラブコメが中心で、ミステリがアクセントというのはこういうわけですね。

 こう見たとき本作は1冊の中での構成が非常に綺麗であることが見て取れます。というのも本編には概ね4つの章がある。それぞれの章に起承転結があって、この章を繋ぐことで百瀬と九十九の恋としての大きな起承転結ができてきて……、というわけでわたしはこの作品を非常に読みやすいと思ったんですよね。1冊の中で山と谷が絶えずやってくるので、ずっと楽しみながら読むことができる感じです。

 

 失恋探偵として1つ1つの問題が楽しく、失恋探偵を通じたメインの恋が楽しめる。

 わたしが本作を、失恋探偵というアクセントを活かした綺麗な作品、と感じたのはこういった理由からですね。

 

3:これだけは許せないんだよなぁ……(怒)

 わたし、本作の主人公・野々村九十九くんが大嫌いです。

 特にその嫌な部分が目立ったのは2巻。これは色々言いたいことはありますが、たぶん読めば分かる、そのくらい明確に主人公にヘイトが生まれます。ざっくり言えば、彼女の気持ちを考えないで、自分は自分の気持ちを彼女に分かってほしいと押しつける感じです。うわぁ、思い出すだけでイラッとする。

 もちろん、これはわたしがヒロインには幸せになって欲しい、主人公は常にヒロインのためのヒーローであってほしい、といった考えを持つ人間だから感じたことだとは思いますが。それにしたって、ちょっとひどいと思うんですよ。

 マジで、この主人公だけは、許せない。

 

おわりに

 ・全体を通じて失恋探偵という要素をよく活かしている作品。

 ・3巻でよくまとまっており、1巻ごとに起承転結がはっきりした非常に読みやすい作品。

 ・欠点という欠点はない非常に綺麗な作品。……ただ1点、主人公を除けば。

 というのが、ここまで話した内容の要約になりますね。

 

 本作は「三角のゼロは限りないゼロ」で知っている方も多いかもしれない岬先生のデビュー作になっています。わたしは岬先生の作品を読むのはこれが初めてと言っていいので、新鮮な気持ちで楽しむことができました。そして、岬先生は三ゼロを含め以降の作品において過去作のキャラを登場させているようなことを耳にしています。なので、岬先生の他作品で九十九や百瀬がどんな風に登場しているのかな、というのが気になっているんですよね。そのうち読んでみたいものです。

 

 今回の感想はこんなところで。

 気になった方は以下のリンクからチェックしてみてください。

 

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