ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part39】一華後宮料理帖

 今回感想を書いていく作品は「一華後宮料理帖」です。

 角川ビーンズ文庫より2016年から2020年まで刊行されていた全11巻のシリーズ。作者は三川みり。イラストは凪かすみ

一華後宮料理帖 (角川ビーンズ文庫)

※画像はAmazonリンク(1巻表紙)

 

 

 まずはいつものように本作の概要からご紹介。

 

 ””和国で神に捧げる食事を作る「美味宮(うましのみや)」と呼ばれる職に着いていた少女・理美。

 彼女は大帝国崑国へ貢ぎ物として後宮入りすることになる。新天地でも故郷の味を感じるためにと、後宮に持ち込んだ漬物用の壺。しかし言語の違いから上手く意思疎通できずに危険物だと判断され奪われそうになる。

 そんな彼女を救ったのは、宮城で食学博士を務める朱西。その優しさに心惹かれる理美だったが、後宮内に渦巻く様々な陰謀に巻き込まれていき……。””

 

 と言った感じ。

 ジャンルとしては「中華風ファンタジー」「恋愛」「料理」あたりが軸になるかと。

 

 そんな本作のいちばんの感想としては「少しの歯車が生み出す大きな変化が素晴らしい!」この一言に尽きますね。

 

 ですので、これについて今回はお話していきます。

 


1:理美という少女

 まずは本作のメインヒロインで主人公である理美について。

 

 最初に述べたように彼女は神に捧げる食事を作る「美味宮(うましのみや)」と呼ばれる職についていました。

 いわゆる神職であり、それだけに基本的には他者との交流が極端に少ない生活を送っていたんですよね。そもそも彼女がその職に着いた理由も、元々の和国の姫としての立場が微妙だったからというものですし。

 

 そんな彼女なので、基本的にぽわぽわしてるんですよ。

 それはもう作中のあらゆる人物から惚けていると言われるくらいにはぽわぽわしてます。一読者としてわたしは、危なっかしい子だなぁと思いながら見てましたし。

 少し余談をすると、崑国の言葉が上手く喋れないということで時々飛び出す変な敬語も、そんな彼女のぽわぽわ感を助長してて可愛かったんですよね。

 

 さて、ぽわぽわした彼女ですが、そんな彼女でも譲れないもの、彼女の芯となるものがあります。

 

 それはタイトルにも示される「料理」

 後宮に入ってから彼女には毎回様々な問題や事件が降りかかります。特に後宮なんていう、貴族や皇族の闇が詰まったような場所ですから、人間関係でのトラブルが多すぎる。

 悩むことも、苦しむこともあります。

 けれど、その度に彼女は料理をする。美味しい食事は人の本能に呼びかける力のあるものだと彼女は知っているから。そしてそれが誰かの救いになると信じているから。

 

 それ以上に、何よりも、彼女にはそれしかできることがないから

 

 元々姫としての立場が微妙という理由で料理だけをする神職になっていた理美は、必要以上に自分の居場所を求める性質があるのです。

 新しい国、知り合いもいない場所。そんな世界で彼女にとって唯一信じられるもの、心の支えになるものは、料理しかないんですよね。だから料理をする。他人のための料理でありながら、その本質は非常に利己的なんですよ。

 

 基本的にぽわぽわしていて、けれどそんな彼女の信念から生まれる温かな料理で周囲の人たちが抱える問題を解いていく。

 本作の1つの軸となる「料理」であり、ヒロイン理美の大きな魅力ですね。

 

 あとは個人的に、結構見てるだけで好きなヒロインでした。

 ぽわぽわしてるのは可愛いですし、そんな彼女が料理のときだけは真剣な顔で一生懸命に誰かの心に思いを伝えようとしている力強さもあるギャップがいいですよね。

 あと純粋にビジュアルが好きです(笑)

 1巻表紙の理美、めっちゃ可愛くないですか?




2:理美を巡る三角関係

 ヒロイン理美のお話をして。

 彼女が料理で様々な問題を解決するというのは分かりましたと。

 

 しかし、これが本作の全11巻を通したときのメインストーリーかと言われると、そうではありません。

 

 三角関係!

 ここが本作の中心にはあります。

 これを話さずに、この作品は語れない!

 

 ※ここから先の内容は4巻くらいの内容に触れています。ネタバレ絶対NGな方はご自衛ください。




 理美を巡る三角関係、その残る二人。

 1人はあらすじにも登場した食学博士の朱西

 もう1人は若き崑国皇帝の祥飛

 

 この三人の物語、心の変化は波乱万丈の一言に尽きますね。

 

 それぞれの関係性を簡単に説明します。

 

 まずは理美と朱西

 二人の出会いは、述べたように理美が漬物用の壺を奪われそうになったところを朱西が助けたことですね。

 そして理美は淡い恋心のような憧れを持ち、朱西はこのあとお話する皇帝との事件の中で、既に述べたような理美の在り方に触れて惹かれていきます。

 

 続いて理美と祥飛

 祥飛との初対面は理美を処刑するお話でした。

 何でも、理美と共に送られてきたとある食材が一見すると木材にしか見えないと(鰹節のようなイメージです)いうことで、自分の国が侮られていると皇帝である祥飛が激怒したからですね。

 これが1巻のお話。

 理美は朱西と協力しその食材を用いた料理を作り祥飛に美味しいと言わせる。その中で祥飛の中にあったとある心の問題を解決され、彼は理美に興味を持ち始めます。

 

 そして朱西と祥飛

 一言で言えば、皇帝とその信頼できる臣下。

 さらに言えば、親友と言っても良いような関係性。

 

 これで三角関係になるわけですよ。

 理美は朱西が好き、朱西も理美が好き。けれど理美は後宮女官である以上、自由に恋なんかできる立場ではない。皇帝から好かれていくとなればより一層に。複雑な三角関係になるわけですよ。

 

 これでさ、皇帝が嫌な奴だったら「理美と朱西が可哀相」だとか一言で済ませられる問題だけど、そうじゃないのがこの作品の肝。

 1巻当初ではいきなり理美を処刑するとか言い出すくらいに癇癪激しい性格だった祥飛なんですけど、その内心には若き皇帝なりの悩みや苦しみがあって、でも理美に出会って彼女に好かれたいと願うようになってから他者に慕われる皇帝になるためにすごく努力して成長するんですよ。

 もうね、全巻読み終わると1巻の祥飛が思い出せないくらい、本当にシリーズを通して成長するんです。

 

 こうなると祥飛の想いも応援したくなるわけで。

 そしてこれはずっと親友として側にいた朱西はもちろん、初対面からの変化を見ている理美も同じように祥飛の成長を好ましく思うからより関係は難しいものに……。

 

 さらに大きな問題となるのは、朱西が実は皇位継承権を持つ対立派閥鳳家の直系であったという事実が明かされてから。

 皇帝である祥飛が好きな理美。

 皇帝になろうと思えばなれる朱西が好きな理美。

 これはもう国が割れますよ……。

 理美を中心にした三角関係が国を揺るがすんです。

 

 そんなだから、もう最初からこの三角関係からは目が離せなかった。三人がどんな結末を迎えるのかが気になって仕方ない

 

 そして実際に結末がどうなったかと言えば、素晴らしかったとしか言えない。

 これはもう全巻を読んだ人にしか分からないと思います。

 三人の複雑すぎる、けれどこの三人の関係性だったからこそ得られる結末は奇跡のようにも感じるほど。どこか一つでも、この三人がお互いを想う気持ちにかけ違いがあっただけでも崩れていたんじゃないかと思います。

 

 本当に、これは全巻読んだあとの読後感が良いものでした。



3:立場に縛られる人々

 この作品はとにかくどの人物も自分の立場や在り処に悩んでいます。

 

 既に述べただけでも、自分の居場所を求める理美、皇帝の友であるからこそ自分が持つ恋心と皇位継承権に悩んだ朱西、若くして皇帝になってしまった祥飛なんかがいますよね。

 

 それだけでなく。

 政敵となる鳳家の娘である徳妃だったり、そんな彼女が慕う皇帝の兄であり宦官である伯礼だったり、朱西の父親の頑固親父の考仁だったり、朱西と祥飛の二人の親友であるからこそ二人の対立する関係性で苦悩する丈鉄だったり……、もうそれぞれ話したらキリがないくらい。

 

 自分の立場と、自分がそこで何を成すべきなのか。口に出せない気持ちがあったり、やってはいけない行動があったりで、誰もが縛られている。

 その結果として、大きなすれ違いが生まれたり、冷え切った関係性が生まれてしまったりしてしっている。

 そうしたどうしようもない淀が溜まりに溜まった状態は見てて本当に苦しい。

 

 ここで最初の話に繋がりますが。

 そんな人たちの問題、心の闇を少しでも除けるようにと一途に願って作られる理美の料理というは見てて本当に温かいんですよ。

 

 そして、わたしの最後の結論にも繋がるわけです。

 

 理美にできるのは料理だけ。

 たったそれだけ。

 けれど、その一皿に込めた想いが、それを食べた者に届き、その心を軽くする。

 そしてそれまでどうしようもなかったすれ違いや固まりきった関係性に僅かな変化が起こる。

 その少しの変化はやがて大きな波紋を生み出す。

 

 例えば、祥飛が皇帝として成長することで、その周囲の人物も変わるように。祥飛と朱西が対立する家同士の直系であり、同じものを愛してしまうがゆえ国を揺るがす動乱を起こすように。

 

 きっかけは全て理美のたった一皿

 生まれる変化には良いものも悪いものもあったかもしれません。

 けれど、きっかけがなければ決して変わらなかったものであるのは間違いない。

 

 大きな物語として見たとき、その中心にあるのは理美と朱西、祥飛の三人の関係だと言いました。しかし、この大きな物語の中心にあるのは料理というささやかなものなんです。

 マクロに見たらちっぽけな、しかし何よりも重要なもの、っていうのはものすっごく面白いと思いませんか?

 わたしは、すごく思う。

 だからこの作品のいちばんの感想は「少しの歯車が生み出す大きな変化が素晴らしい」になるんですよ。

 
4:巻別満足度と総合評価

 最後に本作の巻別満足度と総合評価です。

 

 まずは巻別満足度。

 ぶっちゃけね、1巻から10巻までは誤差のレベルです。

 ずーーっと「この先どうなるんだろう」って気になる状態が続くので、最終巻を読んでようやくそれが全部解放されるシリーズ。

 

 総合評価として。

 シリーズ全体を通しての満足度は ★8/10

 全体的に満足のいくシリーズでした。読んで良かった。

 

おわりに

 以前、同作者の代表作であるシュガーアップル・フェアリーテイルを読み感想を書きました。感想リンクはこちらから→【シリーズまとめ感想part37】シュガーアップル・フェアリーテイル - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 その流れで本作も読みましたが、いやぁ~良かったですね!

 ここまでの感想を見てもらったら分かると思いますが大満足でした。

 最初から目が離せない展開と悩んで苦しんでたどり着いた結末、これはもう見事と言いたくなるシリーズでした。

 

 シュガーアップル・フェアリーテイルと合わせて是非オススメしたい作品です。

 

 といった感じで、今回の感想は締めましょう。

 

 最後に1巻のAmazonリンクとBOOKWALKERリンクを貼っておくので気になった方はチェックしてみてください。

 

Amazonリンク

一華後宮料理帖 (角川ビーンズ文庫)

 

BOOKWALKERリンク

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