今回の感想は2023年2月の電撃文庫新作「レプリカだって、恋をする。」です。
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あらすじ(BWより引用)
具合が悪い日、面倒な日直の仕事がある日、定期テストの日……。彼女が学校に行くのが億劫な日に、私は呼び出される。
愛川素直という少女の分身体、便利な身代わり、それが私。姿形は全く同じでも、性格はちょっと違うんだけど。
自由に出歩くことはできない、明日の予定だって立てられない、オリジナルのために働くのが使命のレプリカ。
だったはずなのに、恋をしてしまったんだ。
好きになった彼に私のことを見分けてもらうために、髪型をハーフアップにした。
学校をさぼって、内緒で二人きりの遠足をした。そして、明日も、明後日も、その先も会う約束をした。
名前も、体も、ぜんぶ借り物で、空っぽだったはずの私だけど――この恋心は、私だけのもの。
海沿いの街で巻き起こる、とっても純粋で、ちょっぴり不思議な“はじめて”の青春ラブストーリー。
感想
本作はレプリカとして生み出された少女のちょっと不思議な淡い恋を描いた作品。
わたしは不安8割、期待2割のワンチャンを期待して読んだ作品でしたが、残念ながら期待を引き当てることができませんでした。
率直な感想を言うと「設定で気になるところが多すぎて物語に集中できない」といったところです。
これについてお話します。
本作の主役となるのは言うまでもなくレプリカ。
愛川素直という少女のレプリカとして生まれたナオの視点で進行する物語。レプリカは、本体の望むときにだけ呼び出されて、望むときに消される、そんな存在だそうです。
そして素直のレプリカである本作のメインヒロインは本体である素直のために、彼女が嫌なことを自分が引き受けてがんばろうと、そんな風に思う健気な女の子なわけですね。そんな本体のためにがんばるレプリカである彼女が、本体のためではない自分のためだけの恋に落ちてしまう……、その心の変化というのが本作の大きな魅力となる部分なのは間違いない。
のですけど。
わたしが気になったのはこのレプリカという設定。
率直に言ってしまえば、レプリカってどういう立ち位置なのかがよく分からなかったんですよね。
例えばですよ。
素直は自分がサボりたいときに、レプリカに学校に行かせます。
素直とレプリカは読者から見て明らかに性格とかが違うんですよね。
じゃあ、周囲の人はそれを見てどう思ってるの? って気になりませんか。
まずこれが全然描かれないんですよね。ヒーローとなる真田くんとの交流で真田くんが違和感を持つという描写はありますが、それ以外の周囲からどう見られているかという描写がほとんどない。
友人キャラには気づいていたよ、とか言われるけどそれ以上は特にないし。
これに付随して。
素直がレプリカを生み出していること、彼女のいちばん側にいる親が全く気づいていないってことあるんですかね?
上手く隠そうとはしているみたいだけど……、流石に無理がある気がするんだけど。
親が気づいていない、親が気づいている、どちらにしてもそこから派生するものがあるはずなのに、ないですこの作品には。
例えばですけど、親が全然素直に興味がなくて気づいていない。素直は親の愛に飢えている。だからレプリカは自分だけは彼女に優しくしようとしている。みたいなのとか。
で、ここから次に言いたいのは、最も大きな部分。
「レプリカを生み出せるのは何故?」
とりあえず生み出せるようになった、と言われても「???」ですよ。作中で述べられている初めてレプリカが生まれたときや、本作に登場するもう一人のレプリカの話からすると、本体の現実逃避的な感情に起因するのかな、とか思うんですけど。
もしそうだとしたら、さっきの例に漏れず、もう少し本体に関する掘り下げがあってしかるべきでしょう。レプリカと言う以上、本体あってこそのものなんですから。
ここが深堀りされないと、レプリカっていう存在をどういう目で見たらいいのかがよく分からない。
その他にも。
愛川素直は基本的に自分の都合の悪いとき、それをレプリカに押し付けるような、言ってしまえば自分本位な人間なわけで。
そんな人間が何故、レプリカが自分と似つかわしくない行動をしていることに文句を言わないのか。正直もっとレプリカへの当たり方が激しくてもいいと思うんですけど。よくある娘が自分の言うことを全然聞かないからと言っても怒鳴り散らす毒親みたいな感じになってもいいと思うんだけど。自分の立場が脅かされるように感じていたなら尚更。
というか、もう呼び出さなきゃいいじゃんって思ったときもありましたし。
そこまでして些細な面倒事を避けたいのか、それともレプリカに対して言葉にできない何らかの思いがあるのか。作中で述べられている言葉だけでは、イマイチ素直のレプリカへの態度が分からない。レプリカを使ってあなたは何がしたかったの?
それは裏返してレプリカの素直への態度もよく分からない感じになります。
あと気になるのが。
レプリカは本体と同じ状態で呼び出されるというけど、感情面に関してだけは全くそれが適応されていないのはどうしてですか?
消して出すたびに外見とかはリセットされるし、記憶とかも引き継ぐというのに、なんで感情だけはそれが適応されないのかこれが分からない。
例えばさ、恋を覚えて自我が徐々に強くなってきたから感情は独立している、とかいうのは簡単なパターンとして考えられますけど。
本作は最初からレプリカも独立した思考を持っているってことになってますよね。何故ですか? もしもレプリカというのが、本体にとっての何らかの望みを叶えるために生み出される存在だとしたら、そんなのいらなくないですか?
まぁ、本作の場合は、本体の現実逃避的な感情に起因して生み出されるという仮定が正しいのだとすれば、本体と全く同じ感情を持ったままだと都合が悪い……みたいな理由は考えられますけど。だから最初から本体の望みを叶えるように思考が強制されているとかね。
しかし、今度はそうだとしたらレプリカが独立すること、本体の意に背く行動をすることへの葛藤などがあまりに薄く感じてしまいます。レプリカなのに恋をしてしまった、という一種許されざる行為のはずなのに、その重さを感じない。
その他にもレプリカがどうやったら生まれて、どうしたら消えるのかっていう部分に明確な答えがないと「レプリカはいつ消えてしまうか分からない」とかいう気持ちが茶番にしか見えなくなる問題もありますよね。既に主人公はレプリカとして生まれて長いこと存在しているのだから、いつか消えるかもしれないに説得力など一切生まれない。
なんといいますか。
とにもかくもレプリカという、明らかに異質な存在で、重要な部分なのに、その根本が分からない作品だったんですよ。
レプリカという設定の都合のいい部分だけを物語に乗せているというか。
結果として「レプリカって結局なんなの?」「どういう存在なの?」「なんでレプリカは本体のためにがんばろうとするの?」「レプリカと本体の違いってなんなの?」といった疑問が次々に浮かんできて、物語に集中できなくなってしまいました。
いや、まぁしかし。
これはレプリカ視点の物語で、恋物語。
レプリカが自分のルーツを探る物語ではないんだから、そんな深い場所に踏み込むのは蛇足でノイズになるだろ。
とか言われたらそれも一利とは思いますし。
言っているようにわたしは””作品に集中できていない状態””だったわけですから、わたしの読み逃し、理解不足があるかもしれません。
ただその場合はその場合で結局、単純に集中できない作品って言うことになりますけど。
ともあれ、わたしの感想としては。
レプリカの恋を描くなら、レプリカという設定をもう少し詰めてほしかったなと思いました。設定が甘いのでは本作のメインとなるヒロインをどう思って良いのか分からず。そして、キャラの魅力を掴めないのはそのままストーリーを楽しめないことに繋がります。
これなら正直、家の中でひどい扱いされている双子の妹ヒロイン、みたいな設定でも良かったように思えました。
総評
ストーリー・・・★★☆ (5/10)
設定世界観・・・★ (2/10)
キャラの魅力・・・★★ (4/10)
イラスト・・・★★★ (6/10)
次巻以降への期待・・・★☆ (3/10)
総合評価・・・★☆(3/10) レプリカの設定に物足りなさを感じました。
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
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最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。