今回の感想は2023年2月の電撃文庫新作「勇者症候群」です。
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あらすじ(BWより引用)
勇者、それは世界を救う特別な力。夢の中で「勇者」と称えられた少年少女は、ただ美しき女神の言うがまま魔物を倒していた。
――――その魔物が“人間”だとも知らず。
《勇者》、それは世界を滅ぼす特別な力。謎の生物「女神」に寄生された夢見る少年少女は、無意識の怪物と化し破壊と殺戮を尽くす。
そこに悪意はなく、敵意もない。ただ一方的な正義のみが押し寄せる終わりなき戦い。その均衡は少年・アズマが率いる勇者殲滅の精鋭部隊『カローン』によって保たれていた――。
《勇者》を人に還す研究をしていた少女・カグヤは、ある日『カローン』への所属を命じられる。だが過去の災厄で全てを失ったアズマたちにとって、カグヤの存在は受け入れ難いもので……。
少年は《勇者》を倒すため。少女は《勇者》を救うため。二人は衝突しながら、ともに戦場へと赴く――!
感想
これは面白かったですね!
死んだ人間が《勇者》となり人々を襲うという世界観で。勇者を殲滅する精鋭部隊カローンのリーダーである青年アズマ、勇者を救いたいと願う少女カグヤ、相容れない二人を中心に勇者との戦いを描いた作品。
冒頭から、勇者という存在は「自分は異世界で勇者と呼ばれて魔物を倒している」と認識しているが、実際はそれは夢のようなもので、現実の人間を襲っているのだと言う設定が語られます。
個人的にまず、この冒頭の掴みが良かったなと思います。
そして、そこから相容れないアズマとカグヤという二人の立場が描かれていき。
二人は戦いを通じて少しずつお互いの考えを理解していく。そしてどういうわけか、アズマには勇者の核が感じ取れること、カグヤは勇者の声を聞くことができるという事実が浮かび上がってきて、物語の進行とともに徐々に勇者という存在の核心へと近づいていきます。
終盤にはアズマとカグヤ、それぞれの心の変化とそれに伴う熱いバトルシーンが描かれて素直に面白いと言えるものでした。
また、本作は勇者という化け物に脅かされる世界観という部分でもしっかり味を出していて。
「死んだ人間が勇者になる」
これには精鋭部隊の仲間たちであっても例外ではないということ。死と隣り合わせの戦場というだけでも苦しい状況なのに、仲間が化け物になってしまったとき即座に自分たちがそれを殺さなければならないという状態が上乗せされることでさらに緊迫感が深まる。
言ってしまえば、ゾンビモノやパンデミック作品と同じような感じでしょうか。常に仄暗いハラハラした雰囲気を感じる作品なのですよね。
これが本作の異形の化け物のデザインともマッチしているのも良い点。
作品全体を通して「ボーイミーツガール」と「世界を化け物が脅かすファンタジー世界観」という二つの軸を上手く両立させていた印象です。
なので、面白くないわけがないですよね。
ただ、1点だけわたしが気になったのは。
何故「勇者」なんでしょう?
カグヤみたいに勇者の声を聞くことができないと、勇者になった人が「自分は勇者になっている夢を見ている」という事実は分からないですよね?
かつては人々を救う存在だったのに、いつしか人を脅かす存在になってしまった。かつては敬意を示すために「勇者」と呼んでいたものが、今では畏敬と皮肉を込めて「勇者」と呼んでいる。
みたいな何かしらの理由がないと不自然に思えたのですけど。
特に名前っていうのは、それを命名する人にそれを命名するだけの理由があってしかるべきものですから。
本作の中心要素である「勇者」に関してなので、少しだけ気になってしまいました。
とはいえ、全体の評価には大きな差はないので、次巻以降に語られたりするのかな? と期待する部分で残しておきましょう。
総評
ストーリー・・・★★☆ (5/10)
設定世界観・・・★★★ (6/10)
キャラの魅力・・・★★★ (6/10)
イラスト・・・★★★ (6/10)
次巻以降への期待・・・★★★ (6/10)
総合評価・・・★★★(6/10) まさに王道! 良きファンタジーなボーイミーツガールでした!
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録
最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。