今回の感想は2024年11月のTOブックス(文庫)の新作「後宮見鬼の嫁入り」です。
※画像はAmazonリンク
あらすじ(BWより引用)
「お前を、千年待っていた」
不遇な少女と冷酷非道な神。
時を超えて孤独な魂が繋がる、奇跡の後宮シンデレラストーリー!
とある時代の〈奉〉。異能一族の名家に生まれた令冥(レイメイ)は、能力をもたないことで母から虐げられて育った。ある日、生贄として嫁入りを命じられる。無情にも相手は、国を滅ぼす霊力をもつ冷酷非道な神・神喰(カミジキ)。だが──「お前を、千年待っていた」。なぜか、抱き締められ…? その夜、母が殺され、令冥に死者の記憶がみえる〈見鬼〉の異能が覚醒する。そんな彼女の力を見込んだ皇帝から依頼が舞いこむが……。
事件の真相を見るため、神と共に呪われた後宮へ。全ての謎を解き明かす時、千年の時を超えて孤独な魂が繋がる──。
感想
久々に異種族恋愛を摂取できる作品でした。個人的な好みがあり、楽しむことができました。ただ個人的な好みがあればこその物足りなさも……。
と言った前置きで、まずは本作のあらすじから。
後宮シンデレラストーリーを謳う本作の舞台は秦という国の後宮。異能一族に生まれながら、異能授かることなく一族から冷遇されていた十二歳の少女・令冥。
ある日、母から一族の封ずる神サマへの嫁入りを命じられる。しかしその夜、賊による襲撃を受けて一族は令冥を残して殺されてしまう。
その時に令冥は”見鬼”の異能に目覚め、そして彼女が嫁ぐはずだった神サマ・神喰と出会う。
孤独な少女と孤独な神サマ、夫婦の契りを交わした二人。一族が襲撃された事件の真相を求めて、後宮の呪いへと立ち向かうことになるのだった。
と、そんな感じでしょうか。長くなってしまいました。
本作の基本的なお話としては、令冥がその異能で亡くなった人の過去を覗き見てその未練や怨念を知り、それを解いていくという、ある種短編形式で1話1事件で進行していきます。
そしてその中で、令冥の一族の話や皇族との関係性というのが描かれ、そこにまつわる事件の真相が見えてくるようになると。
その一連が1冊で綺麗にまとまっているので、満足感や読後感はとても良かったと思います。
そんな本作の大きな魅力としてあるのはやはり令冥と神喰、人と神サマの異種夫婦ではないでしょうか。
一族に冷遇され親の愛に飢えていた少女と、封じられ誰からも恐れられていた神サマ。共に寂しさや孤独があるもの同士だからこそ、たとえその存在が異なっていようと通じるものがある関係性。
その中でお互いに愛情を交わし合っているものの人と神サマの持つ愛情というのは少しづつ違っている、というのが分かってくる。
令冥は、どちらかと言えば、たった1人の寄る辺へと年相応に甘えるような感じ。後宮内での様々な事件に臨む中では、十二歳の少女らしい弱みもたくさん見せているものの、その奥に自分を支えてくれる人がいるからがんばれる仄かな光を感じられます。
一方の神喰は、自分にとってたった1人の代わりのない人間へと向ける愛情。令冥のために、自らを愛するもののためにその力と想いを使おうとする様は、人々よりも強い力を持つ超常の存在ではあるけれどその根っこには人々の想いが楔打たれている、神らしいアンビバレントな在り方がしっかり描かれる。
愛情の大小で言えば、単純な出力は神喰の方が大きいのだろうけど、愛情から派生する物事やその他の感情にも向き合える人間の令冥の方が小さくとも質の良いものを持っていると言えばいいでしょうか。
こういう人と人ならざるものの差異がしっかり感じられる点はとても良かったと思います。
また、そんな二人でありながら。
そういう違いを感じさせながらも。
そんなことが想い合う二人には些細なことであるように、平穏で温かな日々に夫婦らしい幸せな時間を生み出す点。
ものすごく端的に言って、めちゃくちゃイチャイチャしている、これが素晴らしかった!
本作のこのイチャイチャは、令冥が普通の女の子らしい甘えや寄りかかるところを起点にして始まることが多いので、そこから寄り添い支え合う信頼と親愛という純粋なものしか存在しない空間となり、下手な不純物が介在しない分だけ癒やし効果が増しているように感じましてね。
その結果、本作は読み終わって振り返ってみても「甘々イチャイチャだった。うん。良き良き」という感想が真っ先に出てくるくらいなんですよ。
これがすごく良いです。個人的には、異種甘入門と言っても良いくらいです。
一方で、個人的に物足りなさを感じたのもまたこの二人の関係性にありまして。
それは、深みが足りない、という点です。
あくまでわたしの趣味でわたし個人の意見にはなりますが、異種間異種族における魅力を引き出すモノはやっぱり「異なる」という点なんですよね。
既に述べたような愛情の質、感情面の違いはもちろんですが。それ以上に生き物の在り方としての違い、根本的に努力とかでは解決のしようがない部分こそが最も重要で、そこに如何に壁を作り上げ積み上げ関係性を揺さぶっていくかなんですよ。
そしてそれに対して二人がどういう感情を見せるか。どういう結論を出すか。どんな関係を結んでいくのか。これこそが、大事なんですよ。
極論を言えば、異種族異種間設定はこの差異による壁が大きければ大きいほど良いと思ってます。加点方式で考えて、加点要素にしかならない部分と申しましょうか。
さて、その点で本作を見ると。
本作は二人の関係への揺さぶりというのがかなり弱かったです。
終盤では、令冥に対して神サマと添い遂げることの意味を問うような展開があったものの。それが半分思考が回っていない状態での出来事だったことから、令冥自身の心の弱さと覚悟を問う展開としては申し分ないものでしたが、異種という事柄に向き合い想い悩む展開としてはパンチ不足を感じてしまいました。
もちろん、そういう思考が酩酊している状態であればこそ、真に心の底に強く持っている感情が吐き出されると解釈もできるのですが、そうであるならばやはり思考が十分に回っている状態で散々想い悩んでも答えが出せないくらいまで追い込んでからじゃないですか? とわたしは言いたくなりますね。
異種族異種間はとにかくその差異に悩ませろ。壁を作れ。そしてそれをぶち壊せが信条ですので。
また、この終盤の展開において。令冥側には変化をもたらすものがあったでしょうが、神喰側の変化をあまり感じられなかったのも、個人的に惜しいなと思っている部分ですね。というのも神喰の立場や令冥への想いが基本的には彼女に寄り添う、彼女の意志を尊重するという部分である程度固定されてしまっているので、令冥自身に揺さぶりをかける展開においては神喰の内面への衝撃というのが生じないんですよね。であれば、当然大きな変化というのもなく……。
むしろ神喰としては、日常における何気ないひとときで令冥への想いを募らせていく変化の方が大きかったのではないでしょうか? あの食事や留守番といった家庭内でのアレコレほど、神サマとして感じたことない気持ちが溢れてきているじゃないですか。そして、これもまた神喰自身の心の変化としては良質な異種族味を感じますが、そこから令冥との関係性について神喰をどう変えていくのかというもう一歩が足りないわけですよ。
というわけで、まとめますと。
令冥、神喰の境遇によって生まれた関係性はとても良い。また令冥、神喰それぞれのキャラからはちゃんと人と人ならざるものの差を感じられるのも見事。しかし二人の関係性を本質的に揺さぶっていくという異種族の奥深さ(個人的見解)を生み出すには、やや物足りない。
というのが、わたしの感想になりますね。
最初にも言いましたが、わたしが異種族異種間を好きだからこそ。こうであってほしいという個人の趣味趣向が多分に溢れて、もう一歩を感じてしまった次第です。それを抜きにすれば久々に浴びることのできた異種族恋愛で大変満足している作品です。
総評
ストーリー・・・★★★★ (8/10)
設定世界観・・・★★★★ (8/10)
キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)
イラスト・・・★★★☆ (7/10)
次巻への期待・・・★★★☆ (7/10)
総合評価・・・★★★★(8/10) 久々に良質な異種族イチャ甘が摂取できました!
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
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