ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part216】ヒロイン100人好きにして?

 今回の感想は2024年11月の電撃文庫新作「ヒロイン100人好きにして?」です。

 ※今回の感想は、終盤の展開に関する大きなネタバレがあります。

ヒロイン100人好きにして? (電撃文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 天才(童貞)な俺が100人オトせ!? 無理だ!

 

「――夜光さまには女の子を100人、恋に落として救ってほしい」

 空木夜光はどんな問題でも解ける天才だが、魔女・ベルカが出してきた超難問には頭を抱えた。だって俺は女心だけは分からない上、恋愛に対して深いトラウマがあるからだ。だけど恋への憧れを依然捨てきれない俺は、この超難問に挑みたい! 純真無垢なアスリート娘に無口な小動物系ゲーマー、妖艶美女な元カノ。様々な娘たちと俺は恋をする!

 ……俺のことを心底愛する、ベルカの監視下で。

「でも、わたくし1人を愛してね? ……早く。返事。ちゅーするよ?」

 100人と恋し、1人を愛する波乱万丈のラブコメディ、開幕!

 

感想

 なるほど。そういう感じですか。

 これは1巻読み切って初めて作品の方向性が分かるような形でしたね。

 ですので本作の感想、わたしの中では序盤中盤に向ける気持ちと終盤に向ける気持ちが完全に乖離してしまっています。

 ハッキリ言えば、終盤までは全く面白みを感じていませんが、終盤だけはこれは確かに面白いって言えるものを感じています。




 したがって、これを感想でまとめようとすると今回は明確な1巻ネタバレが含まれることになります。ご容赦ください。

 ネタバレNGな方はブラウザバック等、自衛対応をよろしくお願いします。







 それでは、感想をやっていきます。

 まずは序盤中盤の何が面白くなかったと思ったのかについて。

 

 いつものように本作の概要をお話しますと、

 

 ””主人公・夜光は勉強こそ他の誰よりもできる天才でありながら、女の子にモテないことが目下最大の悩みだった。

 そんな彼の元に現れた魔女ベルカ、彼女は夜光のことを愛してるといい、その上で人の心の悩みに取り憑き世界に厄災をもたらす影魔女を倒すために女の子たちを恋に落としてほしいと言われる。””

 

 そんな風に始まるお話です



 本作最大の問題点はココ。

 タイトルにもなっているヒロインを100人攻略しなければならない、というところだと思っています。

 

 素直に見れば、自然に様々なヒロイン登場させられる、それに応じた無数のラブコメ展開を広げることができる、更に物語としての長期的な目的の設定ができる、と言った良い点がたくさんあるように見えるものなのですが。

 

 本作に限っては、この良い点を踏まえて尚面白くないと言えるくらいに問題点を抱えてしまっているんですよね。

 

 まず最初に気になるのは、これをやる意味や理由がない、ってことです。

 魔女であるベルカ側には、影魔女を狩るということが魔女としての仕事であり、同時に引きこもりであったことから親にいい加減働きなさいと言われているので、やらざるを得ない状況ができています。

 しかし、主人公側は?

 彼にはヒロイン100人を攻略する確固たる理由もなければ、そうせざるを得ない理由も特にないんですよ。出会ったばかりの魔女ベルカに義理とかがあるわけでもない、そういう流れになったから、目の前で困っている女の子がいて自分が助けられるなら、というそのくらいです。

 一応影魔女を放置すると世界に大きな災いがもたらされる、と説明されていますので。そんな大事件を知りながら放置はできない、と思えばそれは自然な成り行きと思えるかもしれませんが。……説明されただけなんですよね。実際に影魔女がもたらす被害を目にしてなければ、それがどの程度のものかも実感が沸かず、やっぱりそこにやらなきゃならない理由や決意なんてものは生まれないわけで……。

 魔女との契約で、もう主人公はやらないと自分に何かしらの不幸が訪れる、みたいな制約とかあれば素直に納得できるんですけどね……。例えば、モテたい主人公が悪魔に契約するオカルトを頼ったら魔女に通じた、そして魔女の課題をこなさないと自分は一生モテない、みたいなのとか。

 そういうのがないと、一体何故主人公はこんなバカみたいなことをするんだ? という気持ちになりながら読むことになります。

 ……それは果たして面白い、と言えるのだろうかとわたしは疑問に思ってしまいます。

 

 次に気になるのが、攻略したヒロインをどうするの? という問題。

 本作では女の子の心に取り憑く影魔女を払うことが目的です。そのために女の子を恋に落とすのです。

 主人公自身にその女の子と恋人になりたいとかいう気持ちがあるわけでもなく、また攻略後に影魔女が祓えたらそれまでの記憶が改竄する決まりになっているようです。

 ……え、じゃあ攻略するだけしてそれで終わりなの? と思いませんか。思いますよね。そう、思うんですよ。

 こんなのは、最初から負けヒロイン前提のヒロインを量産する設定と言い換えても差し支えがないわけですよ。ヒロインをたくさん出すという設定の魅力が完全に殺されてます。

 別の目的のために、女の子に近づく必要がある。そういう設定全てを否定するわけではないのですが。

 本作に限っては初手の時点で100人の負けヒロイン(ヒロインレースに参加しないどころか、攻略されるだけされて後はポイ捨てします)が用意されてますと宣言するようなもので……、それはもうあまりに無情ではないかと。ヒロインが可哀想というか。ただの舞台装置にしかなっていないというか。

 そういう作品をわたしは好きにはなれません……。

 そしてそんな負けヒロイン前提の舞台装置の女の子がこれから100人いて、100回ラブコメ展開やりますと言われてもそれは楽しみでもなんでもないし、むしろあと何十人見ればいいの? という辛さが勝ってしまうでしょう。

 更に、本作の面白かった点として後述する終盤の展開によって、より一層この100人のヒロインたちの不遇度合いが増してしまうのも良くないところでした。



 そして3つ目の問題点は、本題の進展が見られない、ことでしょうか。

 本作、実は魔女ベルカ側からのプロローグで始まっていまして。それが魔女として働かず引きこもってるベルカが親にいい加減働け、そうでなければ勝手に人間の契約者を作ると言われて。それなら自分で自分の契約者を見つけるとして、夜光と出会い夜光に”一目惚れ”する、というエピソードなんですよ。

 すなわち本作は魔女ベルカが、自分の影魔女狩りという仕事をダシにして、一目惚れした男の子夜光くんと恋人になりたい、というお話として見ることができるんですね。

 むしろこういう話として見たほうが、物語としての目的意識もハッキリしており、更にヒロインたちを攻略しなきゃいけない理由もある上に、攻略した後のヒロインを放置することも自然になるんですよ。なにせベルカからしたら恋敵なんかいないほうがいいですし、しかし魔女の仕事としてはやらなきゃいけないから、恋に落とすところまで許容するというのが妥協点でしょう。あるいは夜光が恋愛にトラウマを持つと言うのだから、この件を通じてトラウマを克服してくれればとしたたかに考えることだってできます。

 

 ですから、この作品の本筋本題はベルカの恋である、と言えることになり。そしてそうであるなら注力して描くべきは、いかにしてベルカが魔女狩りというエピソードの中で夜光の好感度を稼いでいくか、夜光との関係性に変化が見られるか、であるべきなのに。

 それがほとんどないんですよ……。

 主役であるはずのベルカが、主人公夜光視点のエピソードでは、影魔女狩りをサポートする立場に徹しているようになってしまっている。1つ1つのエピソードを経て、一体二人の関係性にはどう変化があったのか、これもあまり見えてこない。

 そうなると、物語としての進展がまるで感じられない、読み進めていても「いつになったら面白くなるのこれ?」状態が延々と続くわけです。

 

 インスタントなヒロイン攻略展開で負けヒロインを量産しながら、本筋であるはずのメインヒロイン・ベルカが夜光を攻略する話は全く進まない……、というヒロイン100人攻略するという作品の初期設定から生み出せただろう面白さを全く感じられない構成。

 正直、わたしにとっては致命的でした。

 シンプルにラブコメとして見たときに、会話のテンポ感や、ヒロインの分かりやすい可愛さ、女の子をとても可愛く描いてくるイラスト、というポテンシャルは十分にあったはずなのに。

 作品の内容面でのマイナスがそれを完全に上回っている状態でした。

 

 




 さて、そんな序盤中盤と続いてきて終盤でどんなどんでん返しがあったのか。

 

 それは、主人公の女性に対するトラウマであった元カノの存在です。恋人として順調に仲を深めて、いざそういう行為にも至ろうとした直前、彼女に拒絶されてしまう。彼女は何も理由を語ってくれず、主人公の前からもいなくなり……、という。

 それは確かに女心に不信感を持つに納得できるもので、大きな壁となるでしょう。

 

 そして結論を言ってしまうと、実は元カノが影魔女を生み出す側に関わっていて、その事情を主人公に打ち明けることができず、離れるしかなかったということらしいです。

 主人公への想いは少しも褪せておらず、むしろ独占欲バリ強でヒロイン100人攻略なんてことをする主人公を黙って見てるなんてできるわけがないと嫉妬の炎を燃やしている。

 というのがエピローグで語られるのですが。

 

 これはすごく良かったんですよb

 そのエピローグ単体も、短いながらにちゃんとまさかの真実という強烈な印象を与えていましたし、抑えきれない想いを行動で吐き出す姿では重い女の子としての魅力をしっかり感じられる。

 更に魔女とそれに伴う魔法に関連して、それは彼女本人以外誰もが知らないこと、という状態をちゃんとキープしている。

 彼女が一体何故魔女に関わっているのか、その真相は未だに語られないものの、そこはあとのお楽しみとして残される良い塩梅でしょう。

 

 更には、ベルカとの対比がよく出来ていた。

 実を言えば序盤の時点で、ベルカが夜光に向ける想いが一目惚れであると明言したのは、悪手じゃないかと思っていたんですよ。

 というのも、一目惚れだとそれ以上の理由が存在しないために彼女の気持ちの深掘りが難しいからです。

 ベルカが夜光にガンガンアタックして惚れさせようとする構図なら、それであまり問題がないのですけど。

 夜光がベルカに惚れるためのきっかけや、深い踏み込みというのを描写しようとしたら、ベルカ自身の過去や夜光に向ける気持ちの出所を補強するのがいちばん分かりやすいと思うんですよね。

 一目惚れはそこが難点になるんじゃないかと。

 

 そう思ってたんですけど。

 元カノの存在によって、これは完全に好転してます。

 ずっとずっと好きで本当は手放したくないのに距離を置くしかなかった元カノと、きっかけは一目惚れだけどその想いを胸に精一杯のアプローチで振り向かせようとする女の子。

 ベルカは本編中で、夜光に対する自分の想いをいっぱい見せてくれました。そのきっかけは一目惚れだったのかもしれないけど、人によっては薄っぺらいと言うような理由かもしれないけど、それでも好きなものは好きだからと言わんばかりのアプローチ。それは彼女の本心を裏付けるには十分。一方の元カノはエピローグにおける一撃で、その溜めに溜めている感情を一気に吐き出してくる。

 主人公がこの先たくさんの女の子と触れ合うことになるだろうけど、それだけの経験をしても尚過去に原点回帰させてやると呪いのような愛情を見せる元カノと、たくさんの女の子と触れ合う中でいっぱいアピールして自分を好きにさせてみせると決意するベルカ。

 同じくらいに大きくて重い愛だとしても、その方向性が完全に逆方向、愛情の量と質の差、その対比が見事にできていたんですよ。

 そうすると、確かにベルカの恋の始まりが一目惚れであることには意味があった。むしろ一目惚れでなければ、眩しいばかりのフレッシュさがなければ、過去に縛られるドロドロした恋情には太刀打ちできなかっただろうと思える。

 

 また、そんな二人に挟まれる主人公の心情としても、元カノとの一件でトラウマを抱えていることで過去への強い未練を残しながら、同時にベルカとの新しい関係性に向ける想いも生まれ始める、という変化がしっかり描けていますし。

 魔女と影魔女、敵対する関係性にある二人だからこそ、このファンタジー要素に関連する部分でも今後は様々な駆け引きが期待できるようにもなっているのが見事でした。

 

 序盤ではベルカが自分の初恋のためにがんばるお話のように見せながら、終盤でWヒロインによるバチバチのぶつかり合いを予感させる形へ一気にシフトしてきた……、そう考えれば本作、とても面白いです。

 続巻も気になりますし、発売されたら買おうと思います。




 ……ただ、そうなってしまうとやっぱり思いますよね。

 これ、完全に二人がメインヒロインで固定される形になってるんだから、やっぱりヒロイン100人恋に落とすという設定がやっぱり死んでないかと。

 この二人を差し置いて、主人公が他の誰かと結ばれるとかどうやったらそうなるのか分からないレベルなので、最初に言ったような負けヒロイン量産機であることが何ら変わってませんし。

 むしろ二人の恋の戦いのために、影魔女が取り憑く先として他のヒロインが存在するので、攻略がより一層が展開のために必要な作業的なモノにしか見えなくなりますし。

 100人とかいう謎の数字が全く意味を成さなくなったというか、ベルカと元カノのWヒロイン性を描くためなら魔女と影魔女の対立関係があってという設定があるだけで十分同じ話ができますし。

 ……端的にいって、タイトルと初期設定が完全に1巻着地点からズレてるんですよね。



 ですのでわたしの結論としては。

 序盤中盤全く面白くない。

 終盤で明かされた魔女関連の部分、これにフォーカスした話をちゃんと組み立てる方が絶対面白くなるのでは?

 ということになりますね。

 

総評

 ストーリー・・・★★ (4/10)  ※終盤だけを見れば★7

 設定世界観・・・★☆ (3/10)  ※Wヒロインモノとしての魔女設定部分だけ見れば★8

 キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)  ※ベルカと元カノ、Wヒロインのみを見た場合の評価

 イラスト・・・★★★★ (8/10)  ※素直にめちゃかわイラストです

 次巻への期待・・・★★ (4/10)  ※今後の魔女に関する部分の期待だけは★8

 

 総合評価・・・★★(4/10) or ★★★★(8/10) 終盤とそれ以外で完全に評価が乖離する作品でした。ヒロイン100人設定は面白さが完全に死んでるけれど、魔女と元カノによる主人公争奪戦として見ると恋する女の子のそれぞれ違った重さや強さを感じる良いWヒロインモノ。

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

bookwalker.jp