ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part248】魔王は扇子で蕎麦を食う ~落語魔王与太噺~

 今回の感想は2025年3月のファンタジア文庫新作「魔王は扇子で蕎麦を食う ~落語魔王与太噺~」です。

魔王は扇子で蕎麦を食う ~落語魔王与太噺~ (富士見ファンタジア文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 天才的な落語の才能を持ちながらも“とあるトラウマ”を抱えていることで伸び悩んでいる、前座の高校生・浮乃家陽太。

 落語の練習とストレス発散を兼ねて、師匠に内緒で『ギル亭魔王』という名前でVTuber活動をしていた陽太だったが――とある深夜、生配信をしていた彼の元にいきなり現れたのは……自身を《魔王》と称する謎の美少女!?

 どうやら彼女は落語の前座修行をするために、こちらの世界にやってきたようで――?

 

感想

 いやぁ、これは良かった!

 面白かったのは間違いないとして、これはこの作者でなければ書けない作品であるということを作品全体から感じられる点が特に良かったと思います。

 

 本作の主人公は、落語家の前座として努める高校生・陽太。

 過去のとある出来事から伸び悩んでいるところに、異世界からやってきた魔王を名乗る少女と出会う。

 彼女は、陽太の師匠である浮乃屋光月の落語を目にして、弟子入りを志願する。

 八子(通称ハチ)として受け入れられた彼女を、陽太は兄弟子として指導することになるのだった――と、そんな具合で物語はスタートします。



 このあらすじだけ見れば実に王道。

 悩みを抱える主人公が、特殊な境遇のヒロインと出会い、彼女と関わる中で徐々に自分の過去を乗り越えていく物語。

 また二人は兄妹弟子となり、それぞれ違った個性がぶつかり合い切磋琢磨するいわゆるライバルのような関係としてお互いが成長するような見所もありました。

 

 そう、ものすごく王道な骨組みなんですよね。

 そしてこのような王道というものは、作品によって良し悪しがはっきり分かれてしまうものだと思いますが、

 本作に関しては、個人的に文句の付けようがない素晴らしいものであったと言いたいです。

 

 なぜなら、本作は骨組みこそ王道であっても、

 初期設定が既に本作独自の個性を持っているからです。

 それはいわずもがな――「落語」ですね。

 ラノベでなかなか目にすることはない職業で、わたし自身もほとんど馴染みのないものでした。

 それゆえに、読む前は果たしてわたしはこの作品を楽しめるのだろうかという不安が少なからずあったかと思いますし、わたし以外の読者にもそういう人が少なくはないのではないかと思っています。

 

 そして、そうであるからこそ王道の骨組みは効果的だったのです。

 第一印象として読みやすいと思える、これはわたしたちラノベ読みのよく知っているラノベだとはっきり分かる。

 そういった構成は読む前に少なからず持っていた落語という世界への不安を吹き飛ばしてくれた。この作品が「これはちゃんとラノベやってるんだぜ」という温かい笑みで迎え入れてくれるような感覚と言ってもいいでしょう。

 そのような読みやすいストーリーラインに乗せて、落語とは、主人公のいる前座という立場のお仕事とは、という本作独自の個性である落語についての話が広がるため、馴染みがない世界であってもスッと頭の中に入ってきました。



 序盤から、これは面白い作品だと。

 読者に寄り添っている作品なんだと。

 そう感じられるのは第一印象として完璧だったと、わたしはそう思います。

 

 そして、この点に関しては。

 作者の意図している部分が多かれ少なかれあったのではないかとも思っているのです。

 本作の作者は、実際の落語家の先生であるそうです。そして、漫画やアニメが大好きであり、自身の新作落語にもそうした、いわゆるヲタクネタを取り入れることがあると、あとがきでそのように仰っていました。

 

 まさに納得感。

 普段から、人に語るお仕事をされているからこそ、その掴みの重要性は誰より分かっていて(実際、作中で陽太やハチが落語に取り組む際の描写でも意識しているのが伝わってきましたし)、だからこそラノベという形で作品を作るにあたって、ラノベ読者が入りやすい導入を意識していたのではないかと。

 そして、自分自身が好きな漫画やアニメがあればこそ、その中から分かりやすくワクワクする王道の骨組みをアウトプットすることもできたのではないかと。

 さらに自身の落語に自分の好きな要素を取り入れるような取り組みをされている経験から、逆に落語という要素をラノベで分かりやすく理解してもらうにはどうしたら良いのかということも分かっていたのではないかと。

 

 勝手な一読者の想像ではありますが、そのように感じてしまいました。

 だからこそ、本作はこの作者でなければ書けない作品だったのではないかと、そう思ってしまうというわけですね。

 

 そして、その真偽はどうあれ、王道の骨組みで落語という特色を活かす作品であったという事実は変わりません。

 導入部だけで感じられた面白さは、終盤まで決して衰えることがありませんでした。

 

 異世界出身であることから、常識も何もあったものではないハチの指導に四苦八苦する陽太。その指導を通じてハチだけでなく、読者にも前座の立場やお仕事が理解できるようになっていて、まさに知らない世界を体験することができる面白さがありました。

 そして、その堂々とした物怖じしない姿や、裏表ないからこそ核心を突くような言葉の1つ1つに刺激を受けて、進歩しない自分をこれまで以上に深く見つめ直すことになるような展開、すごく良かったですよね。

 それは物語の軸として主人公の心情にフォーカスしているのは間違いないのですが、ヒロインであるハチ自身も知らない世界の中で一生懸命に自分なりに成長しようと努力している想いがしっかり描かれるため、どちらにもしっかり好感を持つことができますし、いわゆるスポーツに熱く取り組む少年少女のような熱さがあるのがとても面白い。

 また、そんな二人を優しく見守る師匠の存在も良かったですね。落語家の師匠でありながら、実の親のような優しさと厳しさがあって、陽太は本当に良い師匠の元にいられるなと見ているだけでも温かい気持ちになりました。

 陽太自身の過去とそれを乗り越える物語に終始した1巻ではありましたが、作者自身の落語家の経歴を見るとまだまだここからの道のりも長く険しいものと思いますし、ハチのこれからの成長はもちろん、他の師匠の元にいる前座たちとの関わりなんかも気になるところとして残っている。話の引き出しはまだまだ残っているぞという期待感で続巻もとても楽しみです。

 

 

 そんな感じで、全体として序盤から終盤まであますことなく楽しめるお話になっていて、その中でしっかりと落語家という特色を存分に発揮していた作品だったといういうのがわたしの感想のまとめになります。

 

総評

 ストーリー・・・★★★★ (8/10)  

 設定世界観・・・★★★★☆ (9/10) 

 キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)

 イラスト・・・★★★★ (8/10)

 次巻への期待・・・★★★★☆ (9/10)

 

 総合評価・・・★★★★☆(9/10) 大満足です!落語って馴染みないな、と思っても楽しめるのが本当に良かったですね

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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