【新作ラノベ感想part279】あの夏に捧ぐ逢いことば
今回の感想は2025年8月の電撃文庫新作「あの夏に捧ぐ逢いことば」です。
※画像はAmazonリンク
あらすじ(BWより引用)
『星が果てても君は鳴れ』著者が紡ぐ、ひと夏の逃避行。
「わたしを連れてってくれませんか。誰もいない、どこか遠くへ」
何かを「願う」ことにトラウマを抱える修也へそう願ったのは、緑色に輝いて、人気youtuberでーーそして、AIの少女・愛岳ユウ。
「逃げ出してきた」と言う彼女に押される形で始まった、夏の逃避行。仄甘い共犯者と駆け抜ける夏は、全てがどうでも良くなるくらい、美しくて。その日々が、修也の心の傷を優しく縫い合わせていく。
しかしある時、ユウが修也の元を訪れた本当の目的を知りーー
「それでも僕は、ユウと一緒にいたいよ」
だから、このことばを捧ぐ
たった一ヶ月しかなかった、間違いだらけのあの夏に。
感想
いやぁ、これはすごく良かったですね!
個人的な好きにしっかり刺さり大満足です。
本作のジャンルとしてはSFボーイミーツガール?といった感じでしょうか?
幼い頃のトラウマから自分の何かをしたいという欲を吐き出せなくなった主人公が、自らをAIと名乗るVtuberの愛岳ユウにスマホを乗っ取られ、逃げてきたという彼女の言葉に押されて始まる逃避行の物語。
まずね、最初の2人から始まる逃避行とそこで見せるキャラ造形が良いんですよ。
主人公の抱えているトラウマと苦しみ、自分の願いを口にすることを諦めているようでいてどこか救いを求めている感じ。ユウとの出会いがあったとはいえ、そこに足を踏み出した衝動性と何かを求める気持ちというのが、まだ年齢として中学生の少年らしいものがあるなと。また、この手の作品における終盤で、ヒロインを救いたいと願いそのためにがむしゃらに走ることができるというのも少年の特権という感じで、まさしく王道のボーイミーツガールになるんだよなと。
そして、AIヒロインである愛岳ユウ。
彼女は、主人公と対比する形で、自分の願いが分からないという女の子。一見すれば自由な自我を持っているような振る舞いをしつつも、その根底に自分はあくまでプログラムされたモノであり、製作された目的のためにしか在ることのできないことに自問自答しているようなヒロインなんですよね。
2人の旅の中でそれぞれがお互いに抱える悩みや苦しみを和らげる様子は、人と人ならざるモノだからできたことだろうと思えるし、それだけじゃないちゃんと彼女もまたプログラムの中で自分の願いや想いがあると分かる人間らしさ……、まさしくロボットやアンドロイド系ヒロインだからこその魅力が詰まっているAI少女だったと言えるでしょう。
まぁ、わたしの人外ヒロイン大好きな色目が多少はあるでしょうが。
また個人的に良かったと思うのが、中学生の少年の逃避行という現実的に限界のある状況が、AIによるサポートやさらには拡張現実などを用いたある種の現実逃避もあることでちゃんと成立しているところですよね。軽く犯罪行為に触れてたりもしますが、そういう部分を含めて、逃避をしているという仄暗さや重苦しさがありつつも、電子的な存在と共にあることによる明るさも感じられるコントラストが読んでいて非常に心地良いのです。
それから、AIであるユウの逃走によって、彼女を追ってくる制作者の女性。
この人も二人とは違う生きづらさを抱えている人で、中盤から彼女が加わってからはさらに物語の深みが増した。特に、彼女の持つ普通への憧れというものがあるからこそ、人ならざるモノであるはずのユウがそれでも普通の人間らしい願いを口にすることや、逆に普通の人間でしかない主人公がユウのためだけに行動することに根付く、想いや願いの輝きというのが増していた。
もちろん、そんな2人に触れることで彼女自身の心も救われるから、この作品は正当ボーイミーツガールだけに留まらず大人になりきれない人に対しても生きる願いを届けてくれるんだよなぁと。
あとは若干終盤のネタバレみたいになってしまいますが。
愛岳ユウ。というヒロインの名前にちゃんと意味を込めているのが良かった。
こういう願いの物語だからこそ彼女自身の願いとして物語の感動を生むだけで無く、名前というその人をその人たらしめるものとして、それそのものが作者からキャラに与えられている希望になるから。
キャラの名前を大切にすべきところで大切にしているのは好き。
終盤繋がりで軽く言及するなら。
エピローグもすごく良かったですよね。
なんというか、ちゃんと終盤からエピローグまで読者の気持ちを掴んでいて、読後感の良さを感じさせる締めになっているのが純粋に上手いだけでなく。この結末に至れたところで主人公の成長を感じ、そしてヒロインがAIであるという強みを最後まで惜しみなく出してくるなって。
あと最後に触れておきますと。
本作は作者の前作である「星が果ててても君は鳴れ」と世界観を共にする作品であり(まぁ、別に前作と内容的な繋がりはあまりないですけど)、だからこそ個人的に前作も話そのものや本作同様に詰め込まれている願いの物語としてのメッセージ性は好きだったけれど、設定の部分で個人的な好みに合わなかったところがあったので。
そういう引っかかる部分が一切無く、純粋に人が生きる願いや力を感じられるこの物語を読めたことの満足感が高かったというところもありますね。
あと純粋に前作も本作もSFな要素が多く、そういうのが好きな作者なのだろうと理解すると読んでいるときにその部分の力の入れようをひとしお感じるのも楽しいところでしょうか。
まとめると、
逃避行×電脳SFの抜群の相性と、電脳SFだからこそたどり着ける終盤の展開と希望のあり方、そしてそれに至るまでに描いてきたキャラたちの心、その全てが見事に噛み合った作品という感じでしょうか。
個人的な好みにもばっちり刺さり、非常に満足しています。
総評
ストーリー・・・★★★★ (8/10)
設定世界観・・・★★★★☆ (9/10)
キャラの魅力・・・★★★★☆ (9/10)
イラスト・・・★★★☆ (7/10)
総合評価・・・★★★★☆(9/10) 大満足! 本作はおそらく1巻完結と思いますが、また次の作品にも期待したくなる1冊でした。
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録
最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。
