【新作ラノベ感想part284】人生逆転 浮気され、えん罪を着せられた俺が、学園一の美少女に懐かれる
今回の感想は2024年11月のスニーカー文庫新作「人生逆転 浮気され、えん罪を着せられた俺が、学園一の美少女に懐かれる」です。
※2025年6月時点で、2巻まで発売中。今回は2巻まで読んだ感想です。
※画像はAmazonリンク
あらすじ(公式ウェブサイトより引用)
第9回カクヨムWeb小説コンテスト
カクヨムプロ作家部門&ComicWalker漫画賞 ダブル受賞!
夏の終わり、青野英治は幼馴染で恋人の天田美雪がサッカー部のエース・近藤と浮気しているところを目撃してしまう。
彼女に裏切られ、憔悴しきった英治が休み明けの学校に登校すると聞こえよがしに心無い悪口が飛んできた。
「サイテー」
「暴力男」
近藤によって英治の方が美雪に暴力を振るっていたDV男だという噂を学校中に流されていたのだ。
それを皮切りに始まった英治へのいじめは日に日に酷くなっていき、ある日ふらふら上った屋上で英治は学園一の美少女・一条愛と出会う。
同じく人生に絶望していた彼女の手を取って、2人は共に学校を抜け出して――どん底人生からやり直す、大逆転純愛ラブコメ!
感想
いやぁ、これはちょっと感想に困りますね。(最近、感想に困ってばかりな気がします)
本作に関しては好きとか面白いとか、そういう話にならない気がしました。強いて言えば、わたし個人の感覚では理解はできるし納得もできるんだけど、ちょっと受け入れがたいものもあるように思える作品、でしょうか。
本作の概要としては、
幼馴染の女の子と付き合っていた主人公が、彼女の浮気現場を目撃してしまい、問い詰めようとしたところを間男によって暴力を振るおうとしていると噂されてから、学校内でも腫れ物扱いされいじめを受け、人生を諦めようと屋上に向かったところでヒロインと出会い、そこから周囲の大人の助けも受けながらえん罪を晴らしていく……、そんなお話になっていました。
この作品の主題となるのはえん罪、誹謗中傷、それに伴ういじめといった要素になるかと思われます。非常に取り扱いがデリケートな問題ですね、そしてわたしの感想が困っている理由の10割がこれです。
そして、本作では絶望的な状況に陥った主人公だけれど周囲の大人、両親はもちろん、学校の教師たちが全面的に問題解決に協力してくれてどんどんと事件の首謀者である間男と幼馴染女子が追い詰められていくわけでして。
この展開がものすごく難しいですね。
これはあくまでフィクションです。ということを前提にすると、先生たちによるいじめの早期発見から、その発端であるえん罪をかけられたことの解決にも全面的に協力してくれるというものは、ある種非常に理想的であり、これがフィクションだからこそ、こういう希望のある物語とするのは良いのかなと思います。
特に、間男はとにかく自分本位で悪辣な人間であり、浮気した幼馴染女子も自己正当化の言葉ばかり並べ立てて罪の意識から逃げようとするどうしようもない人間。そういう悪い奴らが成敗される、勧善懲悪というのは物語としては王道ですからね。やはり読んでいてスカッとする、爽快感がある、そういうものは良いものなのでしょう。
ただ、一方でわたしが気になるのは。
本作がフィクションであり、このような物語的な面白みを生み出そうとするがゆえに、明確な悪を生み出しているのではないかと言う点です。
間男と幼馴染女子が悪いのは事実として。
その間男によって拡散された主人公の悪い噂があり、それを信じた周囲の人間たちから主人公はいわれもない誹謗中傷やいじめを受けることになる。
それはある種の絶望的な状況の表現ではあるのでしょうが、その中でこの作品では悪人は必ず裁かれなければならないという空気がものすごく濃いんですよ。
例えば、周囲の噂だけを聞いた人間からしたら、主人公が悪であり、だからこそその悪を捌こうとしているという話になっていると。それが一方的な誹謗中傷やいじめになってしまっているのは大問題ですけどね。
ただ逆に、主人公サイドの行動(主人公を信じるヒロインや大人の手を全面的に借りて首謀者を追い詰めていく)というのは、明確に悪を裁く正義の行動ではあるでしょうけど、悪を徹底的に追い詰めようとすることそのものは同質のものではないかと。
もちろん読者目線で、明らかに悪いことを行っているのは浮気した女と間男です。そしてその2人の言った噂だけで誹謗中傷するような奴らもどうかしていると思うことでしょう。
ただ、どうにもわたしは、この主人公の行動を素直に応援することができないんですよね……。
その理由として、少し別の角度からの話になります。
いじめ問題で往々にして言われる「いじめられる側にも問題があるのだ」とかいう文言について。
わたし自身この考えをあまり好ましいものと思ってはいないですが、それとは別に平等に見るべき点は見るべきじゃないかと思っています。
ですので、本作の主人公について少し注目してみますと。
まず第一に、この主人公は幼馴染の女の子と付き合っていたそうですね。そして、どうやら付き合ってから半年、何も進展がなかったと。
……うーん、なるほど?
浮気するような女側の発言の正当性を主張したいわけではないですけど、それはそうとして半年何もないって、この主人公も主人公ではないでしょうか。
だってこの2人は幼馴染なんですよね。幼馴染という長い付き合いがあったからこそなかなか進展しづらいこともあるでしょうが、逆に言えばその停滞を抜け出すために告白までしたということではないんですか?
だとしたら、そこからはこれまでの関係性とは違うことを意識するための何かしら新しい行動があってしかるべきではないか。それがないのなら、その点に関しては明らかに主人公側に落ち度があるでしょ。何のために恋人になったか全く分からないじゃん。
本作では、この直後に明らかに過剰なまでの主人公への攻撃が始まるため、この主人公の幼馴染に対する何もしないという落ち度と、主人公の被害者としてのダメージで、後者に偏りすぎて前者を無視しているのが作為的なものを感じてしまいます。
そしてこれが問題になってくるのは、本作の主人公が浮気されたけど、新しいヒロインと出会うことでその傷を癒やされ再び前に進み出せるという、新たな恋を純粋な目で見られなくなるところなんですよ。
純粋な目で見られなくなると、本作の主人公とヒロインの恋愛がどう見えるか。
ヒロイン側が積極的にアプローチをすること、ヒロイン側からキスという行為に及ぶこと、それを受けてから主人公もまた彼女に少しずつ歩み寄ろうとするところ、主人公自身の問題が大きすぎたりヒロインを慮っているという事情があるにしろ、主人公と同じように人生を諦めようとするくらいの問題を抱えているヒロインの問題に主人公が一切踏み込もうとしないところ。
これら全てが、結局浮気された幼馴染と付き合っていたときの問題と同じことを繰り返しているんじゃないんですか? って疑問を持ってしまうのです。
いじめ被害者に言うべきセリフではないと分かっていますが、物語の主人公としての彼に言わなきゃいけないのは、あなた自分から何かをしているところがあるんですか? って話です。(まぁ、半年も進展ないなら、そもそも幼馴染の女側にも本当にお前主人公好きだったのかと問いたくなるし、その上でこの女がまだ未練のあるようなセリフを吐いているとなかなか痛いなと感じるのですけど。この幼馴染女はひとまず置いておきます)
浮気した罪の意識から逃れようとする幼馴染女子と、自らの消極性を無視して自分の被害者性と善性の部分だけを信じてくれる周囲によしよしと保護されて自らの手を用いずに悪を裁く主人公。
歪み度合いで言えば、どっちもどっちに感じてしまうのはわたしだけでしょうかね。
結局のところ、この作品においてわたしが引っかかっているのは、理想的な在り方の描き方だと思っています。
悪を明確に悪と描くにはそこにフィクションとしての都合が少なからず介在する。そして、それと同じように正義を正義として描くためのご都合というのも多分に含まれてしまっている。
それゆえに、なまじ現実的な問題として非常に大きくデリケートな問題であるえん罪やいじめを描くにあたって、そのご都合が介入した勧善懲悪の形に成型されてしまった物語となり、それがどうにもわたしには”物語として歪んでいる”と感じてしまって仕方がないのです。
2巻においては、この歪みがさらに強く感じてしまいました。
主人公の名誉回復のきっかけが、主人公がちょっとした事件を解決して周囲から評価され直すというものですが、その流れは探偵ものには事件がつきものであると同じような話の都合で置かれた事件に見えましたし。
特に読んでいて違和感があったのは、間男によるえん罪には実はさらに黒幕がいるというような話ですね。その話、必要ですか? としか思えないのですよ。いじめを描くけれど、そのいじめに物語的な奥行きがなければならないと装飾されているような状況がとにかく苦しい。
もちろん、現実にだって同じくらい、いやもっとひどい、同じ人間が起こす事件なのかと思えるような極悪で闇の深い事件があること(実際にあったこと)は分かっていますし。
それを踏まえたらこれが十分マイルドで、物語として理想的な希望のある事件解決の道のりを描いていて、同時に小説としてちゃんと楽しめるような演出だったりキャラを描いている。そういう物語があってもいいじゃないかという、そういう気持ちが分からないわけではないんですよ。
ただ、じゃあそれを素直に面白おかしく見て良いのかと言われたら、わたしは何かが違うと思うんですよ。
これを読んで、素直に主人公たちの逆転やったぜ、悪い奴が成敗されたぜざまぁ、というように言うことはわたしにはできない。この作品を好きだとか嫌いだとかいつものようなお気持ち評価はしづらい。
完全にどこからどう見たってフィクション100%みたいな内容であったなら、そういうものだと楽しく読むのでしょうけどね。ただ、この作品は舞台も普通に現代で、扱っているテーマがテーマですから。
それに、綺麗事を言うわけではないですけど。
いわゆる、加害者側の未来も守られねばならない、みたいな話もあるじゃないですか。
悪を絶対的な悪としてしまっている本作が、被害者にとっての理想的な解決ストーリーになっている以上、もう加害者側への救いがほぼほぼ成立し得ないというのが個人的には少し思うところがありますね。
今どき、ファンタジーの悪役ですら何かしら理由や背景があって悪事に手を染めている、みたいな読者の共感を作ろうとする時代ですもの。
いろいろな作品を読んでいると、ここまでしておきながらいまさら悪役に感情移入とか無理でしょみたいな作品もありますけど、逆に一見すれば悪役の行動もその背景を丁寧に描くことで、どんな境遇の人にだって救いや希望があってほしいという願いの物語にだってすることができるんですよ。実際、世界を滅ぼそうとした悪役だって、更生して救われるようなものだって普通にありますしね。
わたしは、異種族とか異種間っていうのが大好きでそれを感想でもたびたび言及していますが。
それはどんな境遇やどんな生まれであっても、人ならざるもの、普通とは違う人であっても、すなわち本質的な部分で自分自身にはどうしようもない理不尽を背負っていたとしても、きっといつかどこかで理解してくれる人はいて幸せになることができる……、そういうのが大好きだからなんですよ。
だから、こういう現代舞台の作品で、こんな誰もが救われる夢物語のような希望が完全に排除されているというのが……、結局現実にそんな甘い話はないと突きつけられるみたいでちょっと悲しいなと感じるんですよね。
ですから、これは結局フィクションのご都合という歪みを感じていると思っていたら、そうじゃなくてフィクションというフィルターがあることでより鮮明にありのままの現実の闇を見せている、とそういうお話でしかないのでしょう。本作のテーマを考えれば、それは大成功といってもいいのかもしれません。
そして、そうなればもう、わたしがこういう現実を直視させられる作品に弱すぎる問題でしかないという……、辛いですね。
わたしの感想は基本的にわたしが好きかどうかの評価で、本作はそれがちょっとし難いので、今回はいつもの総評での星評価はなしにします。
感想はひとまずこれで終わりです。
総評
総合評価・・・評価不能 ……闇が見え隠れするの辛い
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録
最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。
