ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part289】サクチシノニエ ~異端の儀式~

 今回の感想は2025年8月のガガガ文庫新作「サクチシノニエ ~異端の儀式~」です。

サクチシノニエ ~異端の儀式~ (ガガガ文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 ようこそ、血と肉片にまみれたサクチシ村へ。

 

 川上縫は、毎晩のようにある少女の夢を見る。

 現実では会ったことのない、その少女の名前は「芽璃」といった――

 高校生にして天涯孤独の身となった縫は、生前の父の友人が営む児童養護施設に入るため茨城県のサクチシ村にやって来る。

 縫は同い年の女子高生・水谷緒途を始めとした、五人の子供たちとの同居生活を始め、次第に新しい生活に慣れていく。

 そんなある日、縫は村人たちが古くから信仰している神、「サクチシサマ」を祀る神社へ行く。そこで彼は、何度も夢で見た少女「芽璃」と出会う。

 夢が浸食してきたかのような現実に当惑する縫に、芽璃はかつてサクチシ村で起きた事件について語る。

 実はサクチシ村では、これまでに三件の怪死事件が起きていた。

 第一の事件は四つの溺死体が蝋化し、"連結"されて発見されたというもので、第二、第三の事件は、それよりも凄惨でおぞましいものだった。

 そしてこの残酷な事件は、今年も起きるのだと芽璃は予言した。

 芽璃と出会った日から、縫の日常は狂気に呑み込まれていく――

 連続怪死事件、宗教、夢、縫自身の失われた記憶が複雑な繋がりを見せ始めた頃、村の神、サクチシサマを祀る土着的な儀式が始まった。

 

 

感想(後半は終盤への言及、ネタバレあります)

 序盤から終盤まで一本道で破滅に向かっていくお話……、というか最初からもう終わってたんだろうなと読み終わってからは思ってしまいますね。

 普段はこの手の作品をあまり好んで読まないのですが、とても面白かったです。

 

 本作は身寄りを失いサクチシという村の養護施設に引き取られた主人公が、そこでサクチシ様の祟りと言われている変死事件について知ることから始まるお話。

 主人公は子どもの頃の記憶を失っており、さらには村で初めて会ったサクチシ様を信じる少女・芽璃とは夢の中で何度も出会っているらしく、果てには彼が失っている幼少期に描いた絵がまるで村で起こる変死事件の予言書のようになっていて……、どうにも密接に事件に関わっているらしい主人公、その謎へと一歩づつ迫っていきます。

 この序盤の展開については、恐ろしく気味が悪くもありながら、正直かなり読みやすいなと思いました。

 一言でいえば、それは作者の力量という話なのですが。村の特殊な環境、そこに根付く因習、猟奇的な変死事件、村特有の神様への信仰、電波な発言をする巫女の少女などなど、本作にある多数の要素を上手く結びあげて1つの物語と世界観、雰囲気をちゃんと形成しているからこその「どうなってしまうんだろう?」「何が起こっているのだろう?」と気になってどんどん読んでしまう、そんな読み心地だったと思います。

 

 そして、本作は最初にも述べたように破滅へと向かっていく物語。最初から、陰鬱な要素は満載ですが、謎の答え(すなわち破滅)が見えてくるとさらにずぶずぶと沈んでいきます。

 特に、物語の重要な変死事件に深く関わっているらしい主人公と、表紙のヒロインの関係性は必見。一気にギアをあげて真正面どストレートに殴ってきました。

 これはいうなら破滅的純愛、とでも言えばいいのでしょうか。

 恐ろしい、ヤバい、完全に歪んでいる。そういう気持ちも出てくるのですけど、これほど壊れている中でこうなっているのを思うと、わたしはこのある意味で純愛だった本作を素晴らしかったとそう言います。

(これを好き嫌いを言うのははちょっと難しいというか、この当事者には絶対になりたくねぇという忌避化が普通にありますので、素晴らしい純愛だったという言葉にしておきますね。いや、本当にこれはわたしが完全に第三者目線で読書するタイプだから、純愛だキャッキャと言いながら楽しめるだけで、感情移入とかして読むタイプの人だったらメンタルボコボコにされますよ。)

 

 また、本作はあとがきにて90年代の各種作品からインスピレーションを受けて書いたと述べられており、わたし個人はそのインスピレーション先を知らないためなんとも言えないのですが。

 ノベルゲームのような雰囲気を感じていたり、その中でも完全に一本道で破滅直行な本作はラノベという媒体に合わせてしっかりチューニングされてるなと思ったりしまして、それがわたしの好きな読み心地になっていたところはあるかもしれませんね。



 



 

 

 ここからは少しネタバレも含めて。

 終盤の展開についてですね。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、読んだ方なら分かる芽璃による監禁および精神破壊が始まるわけですけど。完全に倫理観とか善悪とかいう価値観が存在しないまま、この行為が実現されているというところが恐ろしいですね。

 

 そして、わたしが好きなのはここからの展開全部でもって、本作の最初から完全に壊れきっているヒロインを描き出してくれるところなんですよ。それまで電波系の女の子という印象しかなかった子の”可哀想は可愛い”の部分が凝縮されてお出しされているんです。

 

 まず1つ、監禁という行為そのものの目的は、彼を手に入れることなんだけど。その想いの発端はそもそも信仰にあるという状況。

 すなわち彼女にとっての唯一の寄る辺で救いは彼であり、同時にその彼を求める神様であるという状況ですよね。

 やってる行為そのものは、ヤンデレ系ヒロインとかでも平気でやりそうなことなんだけど、そこにある気持ちの中心は俗世的な彼への恋慕の情とかではなさそうで、だからこそ何よりも純粋にただ1人を求めてそれ以外の全てを壊しているというのが、歪みきって淀んでいて方向性が180°反対向きなだけの純愛と呼べるものなんじゃないかと思って。

 これがまぁ、こういう作品じゃなきゃできないヒロイン像だよね、素晴らしいよね、って思うわけですよ。

 

 次に、現実に神様の祟りのような超常が起こってしまっているような世界観で、主人公がそんなヒロインの心を知るのが、会話とかでなく本当に重なってから追体験するというのが、また最高なわけですよ。

 この状況そのものが、ヒロイン側がもう完全に壊れてて、主人公も彼女側に寄っていた上で、こういう方法でしか知り得ないのだと突きつけてきますし。(序盤から中盤までの現実的に一歩一歩謎に進むようにしてたらどり着けない真実というのは、どこかノベルゲームのグランドルートじみたものも感じたりもしますね)

 その上で、実際に追体験で出てくる内容がその裏付け情報みたいなものばかりで、彼女の精神性が完全に現実から離れてしまってると分からされてしまうんですよ。

 非現実的、超常的な事象で見事なまでにヒロインの輪郭を描いていき、彼女が今現在まで辿ってきたエピソードにもなる。こういうのはやはり大好きです。

 

 そして、3つ目。

 ここまで描けば「最初からもう彼女は終わってる。誰にも救えない。そんな彼女に唯一残ったのが神様であり、その神様の導きで出会ったのが主人公。」というような全貌が見えてくる。

 すると、読者としてもこれはもう破滅しかありえないと理解できて、そのタイミングで本当にジエンドになってぷっつり終わる締めになってるから、最悪な結末なのに、読後感には不思議と一振りの清涼感(無情とか虚脱感の錯覚かもしれない)があるんですよね。

 ヒロインに完全に落とされた、何かが決定的に変わってしまった瞬間が、主人公視点を通じてはっきり分かるのが好き。これでもう君にもヒロインしかいなくなったねって。

 

 そして最後に。

 個人的に言及したいのは、あのエピローグですよ。

 直前までに、このヒロインの在り方を散々教えてきてから追加してくる妊娠の事実よ。

 何と言いますか、ここまで恵まれない子どもがあっただろうか、と思わされる。

 もちろんそれは、母子どっちもです。子どもが”できた”とてその精神性が変わっている様子は見られない芽璃の様子からこれ以上なく、恵まれない子どもに宿った子ども、って構図になっちゃってるんですもの。

 さらに壊されて芽璃を受け入れた主人公の様子、死(生)を美化するという思想をここに置いてくると、本来父親になるべき彼の視点でも子どもに焦点が当たってなく芽璃だけになっちゃってるのが分かって。

 見てていたたまれないし、これを救えない本作世界観の無情さがある。このとき三人の背景に広がる地獄絵図も踏まえて、それでも人は生きるし新たに命は巡っている事実に、二人の墜ちていった結末の原始的で退廃的な全てが詰まってる気がしました。

 

 謎の果てに見たのは、壊れきった1人の女の子。

 わたしの目では、これが芽璃のお話として完全に刻まれた。

 そして、終盤からエピローグまでの一連の彼女の行為を通じて、主人公側の心情も一気に圧力鍋を使ったように熟成されていく。

 幼い精神性で止まっている芽璃とは対照的に、ある程度ちゃんと成長している上でぐちゃぐちゃに歪まされて芽璃と重なること、それを救いとして歩むことを決めた彼がいることで、本作の芽璃だけだと不十分な純愛度合いがぐっと増していたなと思うなり。

 通常のボーイミーツガールであればヒロインに手を差し伸べる主人公っていう構図があるはずなのに、本作は完全にヒロインに手を引かれて引きずり落とされる主人公って構造になっているのも、本作の正負で言えば負に偏った雰囲気で好き。

 こういう壊れきったヒロインを軸にした破滅的純愛から摂取できない栄養素は、必ずあると思います。

 

 あとは、本作のイラストについて。

 本作では基本的にイラストが章と章の間に差し込まれる形になり、その中には主人公が子どもの頃に書いていたぐちゃぐちゃな変死事件の様子があったりして非常に良いイラストだなって思うんですけど。

 個人的に、欲を言えば、臓物の翼イラストがほしかったなと。特に、窓の外にいて笑顔で手を振る芽璃(その背中がヤバい)みたいなシーン。

 

 

 

 

総評

 ストーリー・・・★★★★ (8/10)  

 設定世界観・・・★★★★★ (10/10) 

 キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)

 イラスト・・・★★★★ (8/10) 

 

 総合評価・・・★★★★☆(9/10) 最高品質の村を舞台にした血と臓物にまみれた破滅的純愛でした、芽璃ちゃん可愛いね

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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