ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part290】炒飯大脱獄

 今回の感想は2025年8月のガガガ文庫新作「炒飯大脱獄」です。

炒飯大脱獄 (ガガガ文庫)

※画像はAmazonリンク

 

あらすじ(BWより引用

「わたしの脱獄、舐めんなよっ!」

 サイレンが鳴り、監視塔のサーチライトが少女――柳葉蒼音を追う。
 ここは上海――とある炒飯の監獄。
 衣食住のグレードが炒飯で決定される狂った世界。
 解放条件は、一年で千皿の炒飯を積み上げること。

「やってられるか脱獄だっ!!!」

 世俗を断つ断獄壁、そびえ立つ豪鋼門、精神をえぐり削る懲罰房。
 数々の障壁に立ち向かうのは、純白のコックコートをまとった四人の少女。

 【反逆者】蒼音
 【熱烈車輪舌】シャルン
 【メモ魔のカンフー使い】メイリー
 【疾風逃走】ウサギ

 最後に降り注ぐのは、千皿の炒飯流星群。
 ――その果てに、少女たちはどこへ辿り着くのか。
 前代未聞の炒飯プリズン・ブレイク、ここに開演。

 

 応募総数1142作品。

 斬新かつ奇想天外なストーリーで第19回小学館ライトノベル大賞の頂点に輝いた快作。驚異の新人・えるぼーが贈る人類未体験の炒飯大活劇。

 

 

感想

 うん、面白かったです!

 もう少しここは物足りないか、と思う部分もいくつかありましたが、全体を通して見れば1冊でこうしてちゃんとまとめあげてくれている面白さが勝ると感じた作品です。



 本作は、主人公の柳葉蒼音がいきなり拉致られて、完全に外界と隔離された上海炒飯大学に強制入学させられることから始まるお話です。

 上海炒飯大学は、監獄のような空間で徹底的に指導官に管理される中、4人組の班で1年間で1000皿の炒飯を作り完食したものだけが卒業できるという場所。

 果たしてそんな場所に放り込まれた蒼音の運命やいかに――



 炒飯大脱獄。

 シンプルなタイトルながら非常に読者の興味を惹きつけるワードパワーが光りますね。

 そして導入がいきなり拉致ときたもんだ。こりゃ、序盤から良い具合に読者を惹きつけてくれるじゃないかと。そう思ってまず最初からかなり好印象で読み始めることが出来ました。

 

 また、わたしは序盤である程度作品の方向性を意識できる作品でないと、なかなか乗り切れないところがありまして。

 本作に関しては、主人公自身は望まぬ入学を果たしたわけですから、そこから何をしたいというものがなかったわけですが。彼女が入った環境が、とりあえず炒飯を1000皿作るというものであり、そこをカバーしているのが良かったですよね。目の前の目標がとにかくシンプルで、学校という場所だからこそ、あとはこの中でそれぞれが学び未来を考えろみたいな状況なんだなと理解できる。

 

 そして実際、最初は蒼音は炒飯に意欲も熱量もなければ、技術もてんでなく、脱獄をしようとする問題児となるわけですが。上海炒飯大学のトップである羅王や、指導官である邪土、さらに班の仲間たちと関わる中で少しづつ炒飯に対する向き合い方が変わっていく様子が描かれるわけです。

 個人的にやはり王道と個性のバランスにおいて、こういう設定や世界観で個性を出しつつ、ストーリーにはある程度の王道さを持たせる作品というのは、その個性となる部分を集中して楽しめるから好きなんですよね。本作もその例に漏れず、といった感じで面白かったです。

 

 さらに、この蒼音の変化というのが、しっかり物語の雰囲気にも反映されているのが見事でした。序盤は問題行動の数々を起こすドタバタ感、終盤は真剣に料理に向き合う1人の若き料理人の卵の熱さ、という二重の面白さがありました。

 個人的に好きなポイントは、序盤のドタバタ感、何よりこのアグレッシブさを見せる蒼音たちのグループによる突飛な行動のコメディがしっかり終盤にも所々で差し込まれて良いアクセントになっていること。そしてそんな蒼音の変化を如実に反映したような、彼女が辿り着いた1000皿目の炒飯の味。これが読んでて1冊の満足感をぐっと引き上げているように感じました。

 

 また、そんな彼女の成長を導いた環境、特に人間関係という部分も大変良かった。

 班の仲間との活動はまさに王道の友情努力勝利であり、読んでて楽しくないわけがないですし。教員も良い人たちばかりだったなと読み終われば分かる絶妙な厳しさと優しさ、これはもっと好きだった。

 特に邪土さん、終盤に明かされたとある事実だけでもグッと好きになってしまいましたよ。あれはシンプルなギャップ萌えと分かっててもズルいですね。……まぁ、蒼音たちはそのちょっとした感動もぶち壊して、あはは……だったんですけど。流石、問題児グループ。

 

 あとは、シンプルに炒飯上手そうだな、よしわたしも今日食べるかと思った段階で作品としては成功してるかなというのもありますね。




 ここからは、少し物足りなかったと感じた部分について話すのですが。

 先ほど、蒼音の周りの人間関係とそれによる成長は良かったと言って早々手のひらを返すようですが、班のメンバー1人1人の掘り下げはやや不十分だったかなと感じてしまいました。つまりキャラモノとして読むにはちょっと……、というところです。わたし個人としてはもう少しメインの女の子たちを好きになれたら良かったなと思ってしまっています。

 

 ただこれに関しては、純粋な尺の問題であり、描くべき優先事項を履き違えなかった結果だと思うので本当に欲を言えばというところになりますね。

 本作は蒼音たちの1年間を1冊に詰め込んでいるので、どうしても駆け足気味になってしまったり、泣く泣くカットするしかないところがあったのだろうと。その1つがわたしの言うようなキャラ個々人の掘り下げであり、それ以外の点でもいくらか物足りなさを言おうと思えば言える場所はあったかと思ってます。

 そしてこういう場合、普段であればわたしは2冊くらいかけて丁寧に描いても良かったのではないか、などと言い出すところですけど。

 本作が新人賞作品であること、さらにこの作品の持つ熱量の方向性、それを踏まえるとこの作品は1巻でしっかりキリよくまとめている方がよかっただろうと思っています。なにせ、こういう構成の方が、それこそちゃんと熱々のできたて一皿の炒飯を味わうように読めるじゃないですか。上巻下巻構成とかになっていたらこうはいきません。

 ですので、物足りないとは言いますが。それが足りない分を補って余りある本作独自の魅力をしっかりと推しだしている作品でした。こういう作品は是非今後も読みたいと思いますし、別の作品を書くときにも活かして欲しいと思うところでした。

 

 

総評

 ストーリー・・・★★★★ (8/10)  

 設定世界観・・・★★★★☆ (9/10) 

 キャラの魅力・・・★★★ (6/10)

 イラスト・・・★★★★ (8/10)  (炊飯器強奪口絵のあの躍動感がめっちゃ好きだった)

 次巻への期待・・・★★★★ (8/10) 

 

 総合評価・・・★★★★(8/10) 続巻あるなら、どう話をやっていくかも気になりますし。こういう個性抜群な新作を書くならそれはそれで期待したいと思える、熱々の1冊でした。

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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