【シリーズまとめ感想part69】黄昏色の詠使い
今回感想を書いていく作品は「黄昏色の詠使い」です。
ファンタジア文庫より2007年~2009年に刊行されていた全10巻のシリーズ。作者は細音啓。イラストは竹岡美穂。
※画像はAmazonリンク
作品概要
まずはいつものように本作のあらすじから。
””名詠式と呼ばれる召喚術が体系化されている世界。
呼び出したいモノと同色の物質を触媒として行う名詠式は赤・青・黄・緑・白の五色しか存在しない。
とある名詠式の学舎に通う少女・イヴマリーは五色のいずれにも属さない「夜色名詠」と呼ばれるものを構築しようとしていた。周囲からそんなことはできないと否定される夢。しかし、それを唯一信じてくれたのはカインツという少年。彼は全ての色を習得するのは不可能とされる名詠式の五色全てを修めた虹色の名詠士になりたいのだと夢を語る。
そして二人はお互いに夢を叶えたらそのときは……、と1つの夢を交わした。
それから時は流れ。
カインツは人類で初めて五色の名詠式を修めた名詠士として名をはせていた。
一方で、とある名詠式のアカデミーにおいて名詠式を学ぶことに悩む少女クルーエルが、一人の少年ネイトと出会う。ネイトはイヴマリーの養子であり、亡くなった母が遺してくれた「夜色名詠」を完成させたいのだと言う。
この新しい出会いから物語は始まっていく――””
といった感じのお話ですね。
ジャンルは「学園ファンタジー」でしょうか。
そして本作最大の魅力はやはりイヴマリーとカインツ、ネイトとクルーエルというそれぞれの出会いによって生まれる二世代のボーイミーツガールだと思います。
ですので、今回はその点を中心に感想を話していきたいと思います。
1:ネイトとクルーエル
本作の主人公、そしてヒロインとなる子たちです。
メインストーリーは二人を中心にして進んでいきます。
そしてこの二人に関しては非常に王道な少年漫画的ボーイミーツガールの魅力があった!
すなわち特別な力を持つヒロインを守るため、無力な少年が努力して成長していくというようなやつです。
ですのでこの魅力の核となるのは間違いなく主人公のネイト。
彼は13歳の少年。飛び級してアカデミーに入学しているため、クルーエルよりは3歳年下ということになります。
そして入学当初は夜色名詠をろくに扱うこともできずに失敗続き。どちらかと言えばそんなネイトを、クルーエルがお姉さんとして見守るような立場にあったのではないかと思います。
しかしながら、たとえどれだけ弱っちかったとしても。
まだ幼く純粋であるネイトだからこそそこからの成長には目を見張るものがあり、クルーエルの抱える悩みや問題に真っ直ぐ向き合うことができたのではないかと思っています。
おそらく最初は何も意識なんかしていなかったでしょうけどね。
ただ母イヴマリーに託された夜色名詠を完成させたい、その一心でがんばっていただけ。
でもその真っ直ぐな姿が、名詠式に悩むクルーエルの目を惹きつけていた。
それが二人の始まり。
そこからは名詠式というものの根源的なものへと悩むクルーエルと彼女の持つ規格外の名詠式。それが徐々に名詠式という存在の起源へと迫っていく。そんな物語が本作の大きな枠組みにあるわけですが。
結論から言ってしまえば、ネイトは世界とクルーエルどっちが大切ですかって聞かれたらノータイムでクルーエルを選べた少年なんですよ。
ネイトたちを否応なしに巻き込んでいく壮大な運命のようなものがあって。
様々な困難、強敵がネイトたちに襲いかかってきてしまう。
ネイトは最初は間違いなく何もできない無力な少年だったんですよ。どちらかと言えばクルーエルが保護者のような立場で。ただそれでも、どんな事件の中でも、ネイトは自分にできることがあるのならそれを一生懸命に果たしていた。
徐々に自分たちを巻き込む問題の巨大さを知り、クルーエルが抱えるものを知り、それがどうしようもないくらいに過酷なものだったとしても。ネイトは絶対に諦めなかった。クルーエルの手を離したりはしなかった。そしてネイトはいつだってクルーエルが抱える悩みに大丈夫だと言い続けた。
きっとそこに何の根拠もなくたっていいんですよ。だってネイトが持つ最大最強の力は、無垢な少年だからこそ失っていない信じる心なのですから。世界とヒロインを天秤にかけてノータイムでヒロインを選べるのは、少年の特権なんですよ。
そしてその選択を貫き通すための努力と成長。
それこそがネイトの持つ最大の魅力。このシリーズのクライマックスになるわけです。
1巻であんなに弱っちかったネイトは最終巻では本当に立派な男になったなって感じますよ。特にわたしは最終巻に続く9巻ラストのネイトのセリフを見たとき本当に痺れました。マジでめちゃくちゃカッコよかったです。
そんなネイトだったからこそ、クルーエルもネイトを信じたのだろうし。ネイトに心を預けて、ネイトの言葉を信じて、自分の持つ力やその真相へと向き合うことができたのだと分かるんですよ。
そしてこういうヒロインが何らかの特別な力を持つような作品(もっとも、クルーエルは終盤まで自分の正体も知らないままですけども)では、もっと大きな力を持つ多くの存在の意図や願望が物語を誘導していくわけですが、そんな全てをはね除けてもヒロインと主人公がお互いに信じ合う心が強いのだという輝きを見せてくれる。
たとえどれだけ崇高な目的、壮大な運命があったとしても、クルーエルが自分の心を預けたのはネイトで、そんなネイトがクルーエルのために一生懸命に戦い続けた。これこそが本作のいちばん素敵で美しいモノだったと思っています。
2:イヴマリーとカインツ
そして本作のもう1つ絶対に外せない重要な関係性はこの二人。
いわば果たされなかった約束を交わした少年少女なわけですが。
それでもこっちもやっぱり最高にボーイミーツガールやってたんですよ。
そもそもイヴマリーが夜色名詠なんてものを作ろうとしたのは、元々短命の家系故に自らの生きる証を遺したかったから。その方法として未知の名詠式を選んだだけに過ぎない。
だから最初の願いはすぐに叶ってしまったんですよ。カインツが信じてくれたことで。自分のことだけを見てくれる人がいたことで。
ならば彼女が夜色名詠を作る理由は、もうカインツとの約束以外にないわけです。ネイトを育てて、夜色名詠を彼に託したのは、カインツとの約束を果たすため。自分が早くに亡くなったとしてももう一度カインツに自分の言葉を伝えるため。
そんなイヴマリーの想いが、ネイトの夜色名詠を通じて、カインツへと届く。
詳細はあまりお話しませんけど、こんなのもうエモい以外に言いようがないくらいの物語でした。
3:二世代を繋ぐボーイミーツガール
ネイトはカッコよくて。そんなネイトだからこそ信じ合う力を持ったクルーエルがいて。そしてネイトに夜色名詠を託したイヴマリーと約束を交わしたカインツがいる。
この構図だけでもそれぞれの魅力は十分に伝わるんですけどね。
この作品において重要なのは、この二世代を繋ぐことで見せられるものなんですよ。
言ってしまえば、この作品は「今を生きる少年少女たちの物語」なんです。
それは同時に「大人たちが無意識に失ってしまった輝きを見せる物語」ということになります。
だからこそ二世代を繋ぐ必要があるんですよ。
本作の主人公はネイトで、ヒロインはクルーエル。それは間違いない。
そしてこの二人の出会いが全てのきっかけとなり、過去を生きていたカインツもまたイヴマリーとの再会を果たすことができた。それはカインツとイヴマリーにとっては少年時代の続きの再生となったと同時に、そこから今はもう大人になってしまった者としてイヴマリーとカインツがネイトやクルーエルに託した言葉の1つ1つ。
これが何よりも重要だったんです。
カインツがネイトにアドバイスしたことなんて、絶対にクルーエルを手放すんじゃないぞと、伝えられる想いはしっかり伝えなきゃいけないんだぞと。それだけの話ではあったかもしれないけど。でももう十分言いましたが、たったそれだけの想いってのが本作では本当に大きな力を持っているんですよ。大切な人のために、っていうただそれだけが。
わたしがいちばん感動したのはシリーズ全部を読んだときに感じたこと。
このシリーズ「黄昏色の詠使い」というタイトルのエモさなんですよね。
人と人との繋がり、大人が子どもに託すこと、そして今を生きる子どもたちの物語が始まること。その全てが読み終わってタイトルを見ると分かるんです。果たしてこれが誰の物語だったのかって。この短いタイトルにしっかり込められているのが分かるから。
それから、本作においてこの大人たちが子どもたちに、というポイントで良いアクセントになってくるのはネイトとクルーエルのアカデミーの先生たちもありました。
というのも先生の中には、かつてのカインツとイヴマリーの同級生だった人たちがいるんです。彼らはカインツとイヴマリーという二人の約束と努力を見てきた人たち。だからこそ約束の当事者であるカインツとはまた別の角度から、先生として言えることがいっぱいあったんですよ。
かつて同じようにして青春時代を送った大人たちが、子どもたちに継ぐもの。
そして今を生きる子どもたちを守るために大人ができること。
その温かさと優しさ、2つの世代の青春がバチッとリンクした感覚、これを存分に感じられたのが本当に良かったと思ってます。
また、少し話がズレるのですが。
本作ではやっぱり子どもたちを守る大人たちのエピソードっていうのがいっぱいあるわけでして。
その中でもカインツが属する〈イ短調〉という組織の大人たちのエピソードも良いお話がいっぱいあったんですよね。特に終盤の佳境の中で見せられたネシリスとシャンテのお話とか、こんなの絶対みんな好きになるでしょと思いながら読んでいました。この二人、ある意味で本作の誰よりもイチャイチャしてたくらいですからね。
あと、これも言いたいということで。
大人たち……、とは別の角度なんですけど。
本作の名詠式。それが呼び出す最高位の存在として各色の真精というものがありまして。
クルーエルとネイト、二人に特に近しい真精たち。彼らは名詠式に関するアレコレや、二人が巻き込まれる問題の根幹を知っているわけで。知っているからこそ、そんな残酷な運命に進んでいく二人を見守り、特に鼓舞するような言葉の節々に感じさせる想いっていうのがすっごく良かったんですよね。
ネイトの側にいたアーマと、クルーエルを守り続けたアマリリス。この二人は本当に格別でしたよ。保護者とか家族、真精っていう存在すら違うモノが、そういういちばん身近な場所でネイトとクルーエルを見守っているという形が異種族大好きわたしにはとても刺さるんだなぁ。
4:そして今を生きる子どもたち
カインツとイヴマリーの青春があって。
その同級生たちが先生となり、ネイトたちへと繋がってくる。
そんな風に級友の繋がりの大きさを感じさせる作品ですから。
ネイトとクルーエルの同級生たちの友情と絆、これを描かないわけがありませんよね。
この点も、本当に良かったんですよね。
それは物語としての子どもたちを魅せるだけでなく、学園ファンタジー作品としての学園の中の日常っていう意味でも良かったと思っていて。
特に個人的に好きなのは、クルーエルの親友である少女ミオですね。
彼女は本作でいちばん日常の象徴みたいな立ち位置だったんですよ。
クルーエルを中心にどんどん話が佳境に広がる中で、ずっと普通の女子学生として巻き込まれては大変な目にあっていて。ぶっちゃけネイトよりもこの子の方がこんなわけのわからない状況でがんばっているときあるんじゃない? と思うくらいだったけど。
揺らがないままクルーエルの親友としてクルーエルとネイトが帰るべき日常を示し続けったって言うの、本当に強かったなと。
それから2巻からフォーカスされるようになるエイダという少女。
彼女は、名詠式で召喚されたモノを送り返す祓名民という家系に生まれた子で。
それ故に名詠式に対して悩んでいることがいっぱいあったんですけど。
ここもまた一人の少女が自分の道を決めて進んでいくための大きな物語がしっかりあて、それを支えていたのが同じクラスの仲間たちだったみたいなものを感じるところがいっぱいあったんですよね。
あとはやはり6巻の短編集で描かれた賑やかでわちゃわちゃした日常だったり、学園で事件が起きたときや、クルーエルやネイトが大きな問題に巻き込まれたときにクラスメイトみんなでできることをやってみせるところとか。
そういう細やかな部分で作品の立ち位置としては端役かもしれないけど、めちゃくちゃ大事な繋がりを見せてくれるのって本当に大事なんだなと感じさせてくれましたね。
巻別満足度と総合評価
最後に本作の巻別満足度と総合評価です。
まずは巻別満足度。

個人的な印象として。
本作は1巻で最初のめちゃくちゃ大きな山場をやってくれていたんですよね。
そしてそこから少しずつ少しずつネイトとクルーエルの関係性を深めて、積み上げて、ようやく最後にその全部の努力が結果になるような形。
なので、今回の満足度グラフはこんな形です。
そして総合評価としては
★9/10
ですね。
おわりに
さて、今回の感想はこんなところですけど。
この感想、すっごいわたしの感想って感じがますね……、何がって、マジでキャラに関する部分しか話してないことですよ!!!
名詠式の謎とかに踏み込んでいく話って言うのが主題にあるとか言いながら、その設定とか世界観の部分ほとんど話してないの逆にすごいと思うんです。
作品の何を意識して読んでいるかが、本当によく分かりますよ。
ともあれ、今回の感想は以上です。
現在、エデンとイリスも読み進めているので読み終わったらまとめ感想書くと思います。
前回のシリーズまとめ感想「灼眼のシャナ」
【シリーズまとめ感想part68】灼眼のシャナ - ぎんちゅうのラノベ記録
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