今回感想を書いていく作品は「飛べない蝶と空の鯱」です。
ガガガ文庫より2012年~2014年に刊行されていた全6巻のシリーズ。作者は手島史詞。イラストは鵜飼沙樹。
※画像はAmazonリンク(1巻および6巻)
作品概要
まずは本作の概要から。
””人々は空に浮かぶ島々で生きている。
その下に広がるのは霧妖という魔物が棲む無限の霧。
島々を移動する手段は、人にとって毒でしかない霧をエネルギー源とする霧鍵機構(むげんきこう)と呼ばれる技術によって作られる飛行機のみ。
これはそんな世界で、空の最果てを夢見て飛ぶ少年と少女の物語。
飛ぶのが下手で風を読めないウィルと、ある事件をきっかけに高所恐怖症になってしまったジェシカ。一人では飛べない、しかし二人なら飛べる彼らは、世界で唯一の情報伝達手段である「武装郵便屋」を営んでいる。
封書と呼ばれる、人々の記憶を封じた手紙を届ける空の旅。
その中で二人だけの夢を追い続けるのだ。””
と、そんな感じのファンタジー作品ですね。
第一部と第二部でサブタイトルが変わっていて、
1~3巻は「~たゆたう島の郵便箱~」
4~6巻は「~蒼の彼方より、最果てへ~」
がそれぞれサブタイトルになっています。
そんな本作の感想を簡単にまとめるならば
「ウィルとジェシカのイチャイチャを一生見てられる!」
「バディモノとしてのいろはの全てが詰まってる!!」
これに尽きるでしょうか。
詳しくお話していきましょう。
1:空の世界と封書が繋ぐ人の思い
本題となる主人公バカップルのお話の前に、本作の世界観に関しての感想です。
舞台は既にお話したように空。
人々が暮らす大陸のすぐ下には無数の魔物が棲む霧の世界が広がっている。
移動手段は、空を飛ぶことだけ。
当然、その移動は常に魔物によって襲われる危険を孕んでいる。
だからこそ、島々を渡りながら手紙を届ける郵便屋にはロマンが詰まっている。
誰かと誰かの想いを繋ぐ、そのために自ら颯爽と危険な空へと飛び出す覚悟。
封書という人の記憶を封じ込めて、その書き手の持つ感情を直接伝える手段があることによって、どんな場所も時代もを超えて風化しない人の気持ちが伝えられる。
そんな人と人の想いが生み出すエピソード、その仲介人となるのが郵便屋で、きっとこの世界にはなくてはならない存在。
そんな彼らが生み出す誰かと誰かの物語。
そして、彼ら自身の恋物語。
この二重構造が本作の大きな魅力であるのは間違いなかったです。
もちろん、これは言うまでも無く。
幻想的な空を飛ぶ爽快感や高揚感、霧の魔物たちと戦う空戦ファンタジーの迫力は抜群でしたし。こんな不可思議な世界だからこその、空を飛ぶ中で知っていく世界の真相と、そこで暗躍する組織との対立、空に生きる彼らが地に足着けて命を削り合う泥臭い戦闘もまた非常に面白いものとしてありました。
2:一生推せる最高のバディでカップル
さて、そんな漠然とした魅力を話したところで
今回の主題!!!
ウィルとジェシカのイチャイチャについて話します!!
おそらくわたしはネタバレとか気にしていることができないので、ネタバレ無理な方はここでブラウザバックお願いしますね。
まず、ウィルとジェシカ二人の背景から簡単に説明しますと。
ウィルは幼い頃にとある少女と約束をします。
いつか必ず二人で空の果てを見ようと。
そして、その日から空を飛ぶことを夢見て生きてきて、青年といえる年頃になったときにとある少女と出会う。
それがジェシカ。
言うまでも無く、幼い頃に約束を交わした少女で、ウィルはすぐにそれに気づいた。
けれど、ジェシカはそれを覚えていないらしい。というのも彼女は約束を交わしたその日に事故に巻き込まれ霧の中に落ちてしまい、そこで半分人間、半分霧妖の存在になってしまったから。
人を嫌い、霧妖として自由に空を飛んでいた彼女だったけれど、とある事件によってその翅をもがれてしまい……、二度目の墜落をする。
そんな彼女に寄り添ったのがウィルであり、そして現在ウィルとジェシカ、半人前の二人で郵便屋をすることになるのだった――
と、まぁこんな感じですね。
まず、この二人の関係性の何がいいって。
基本的にウィルはジェシカに一途だってことなんですよ。
ジェシカは約束を覚えていない。人間ではなくなってしまった。翅をもがれて、誰も信用しようとしない。
でも、惚れた弱みですよ。
ウィルはそんなジェシカのためだったら何だってできるんです。
そして、そんなウィルだからこそジェシカも心を開いていく。
そもそもが人を嫌っていて、そのせいか口も悪く。
本来自分は一人でも飛べたはずなのにというプライドもあって、ウィルの下手くそな操縦の飛行機で飛ぶのだって不満しかでてこない。
口を開けば毒を吐いてはウィルの心をゴリゴリ削るわけだけど、それでもウィルはジェシカが好きだから。
そんな彼女の言葉を全部受け止めるし、彼女のために強くなろうとする。
もっと上手く空を飛ぼうとする。
その気持ちは当然ジェシカも分かっていて、だから毒舌だって本当はただ自分が唯一心を許せる相手への甘えのようなもの。ウィルの操縦にどれだけ文句を言っても、決してウィルの背中から降りようとは思わない。
そうして育んでく今のジェシカのウィルへの想い。
これなんですよ。
これが、まぁーーーー、見てて甘い!!!
だってさ、言葉の1つ1つに常にウィルのジェシカへの愛情と、ジェシカのウィルへの信頼がにじんでるんですよ。
この二人は一生離れることがないんだろうなって。
そう思えるだけの確かな絆を1巻からしっかり感じさせてくれる。
そして、その上で巻数を重ねて変わっていく変化なんだよ。
最初は操縦が下手なウィルと、自分では操縦ができない高所恐怖症のジェシカ。
ウィルの下手くそな操縦技術を、ジェシカが後ろから指示を出すことでどうにか一人前といえるくらいの状態だった。
でも、自分だけでも飛べるようにならなきゃいけない。
だって二人が目指すのは空の魔物たちが棲む霧を突き抜けた空の果てなのだから。
そのためには自分達は決して欠けたものを埋め合うだけの関係じゃいられない。
ジェシカの毒舌と共に何度も何度も飛び続けた感覚を自分だけの操縦へと昇華させていくウィル。
ウィルに守ってもらわなくても、もう二度と自分の翅では飛べないとしても、新しい霧鍵式という翼で飛ぼうとするジェシカ。
ただ真っ直ぐに二人だけの空を目指す二人だからこその飽くなき向上心と進化。
当然、そんな願いを持って飛び続けていたら。
ただの相棒だなんて関係で終わるわけもなく。
元々惚れた弱みしかないウィルはもちろん、ジェシカの想いもただの信頼からどんどん恋心として成長するわけです。
あーーー、素晴らしい!!
なんですかこれ。
信頼と親愛と恋情。
二人だけの空の世界でそんな純粋な感情を育むのがあまりに綺麗すぎるんだって!!
特にわたしが悶絶不可避だったのは4巻以降。
何気ない日常でも、ジェシカがスープが熱いから食べさせてと言ったら、何も言わずに食べさせてあげるウィルとか。
夜、ちょっと二人だけの時間がほしくなったからって空に飛び出すとか。
ウィルが自分の指示なくても飛べるようになってから、何も言わずにただ彼の背中で空の風を感じて浸ってしまうジェシカ(尚、いきなり指示がなくなってウィルの方は大混乱パニック状態)とか。
もー、お前らさっさと告白してしまえ!!!
と言いたくなるようなエピソードばっかり。
バディと恋人の似て非なるもの。
しかし、二人にとってはどっちも同じくらいの想い。
命を預ける相棒で、世界中の誰よりも大好きな人。
この関係性の妙をくっそ甘い空気で最後の最後まで描ききってくれた。
だから、もうわたしは一生推せるバディでバカップルと言いたいのです!!
巻別満足度と総合評価
最後に本作の巻別満足度と総合評価です。
まずは巻別満足度。
最初から最後まで、終始ウィルとジェシカの関係性だけで飯が食える作品でした!
最高のカップルが見たいぞって人には是非呼んで欲しいくらい。
総合評価は ★9/10 ですね!
大満足の作品!!
おわりに
現在刊行中でカップル密度がありえんくらいヤバくなっている「魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?」の作者の過去作ということもあって気になっていましたが、
まぁーー、同じ作者でしたね!
もうイチャイチャの空気感が同じなんよ。
まどめが現在18巻まで出ていて色々なカップルを堪能できる作品としたら、これは6巻の中で1つのカップルを詰め込んだ感じ。
そりゃ面白いわけですよ。大満足にもなるわ。
そういうわけで最高のカップルを見せてもらったとしか言ってませんが、今回の感想は以上です。
最後に1巻のAmazonリンクとブックウォーカーリンク貼っときます。