今回感想を書いていく作品は「異世界拷問姫」
MF文庫Jより2016年~2020年に刊行されていた全9巻+短編集7,5巻+外伝3冊のシリーズ。作者は綾里けいし。イラストは鵜飼沙樹。
※画像はAmazonリンク(1巻および2巻)
まずはいつも通り、本作のあらすじから。
””瀬名櫂人は、父親からの虐待の末に命を落とし、気がつくと異世界に転生していた。彼を異世界に呼びつけたのは「誇り高き狼にして卑しき牝豚である」と自らを呼称する少女エリザベート。彼女は故郷に生きていた人々を一人残さず拷問した末に虐殺した大罪人「拷問姫」と呼ばれ恐怖され敬遠される存在だった。咎人として教会に囚われた彼女は最後の使命として、人々を虐殺しその苦痛を収集する十四の悪魔を殺し尽くすことを命じられ、その片手間の家事をさせるために死んだ魂を呼び寄せた結果、櫂人が召喚されたのだと言う。
「執事」になるか「拷問」されるか、そんな二択を突きつけられた櫂人はあえなく執事となり、エリザベートの悪魔討伐に付き合わされて……””
といった感じのお話。ジャンルはダークファンタジーですね。
今回は最初に全体の構成をもう少し話した後で、感想をお話していこうと思います。
・シリーズの構成
本作は最初に述べたように本編9巻と短編集で7.5巻、そして外伝3冊があります。
本編9巻は3巻ごとに大きなまとまりになっていて。
・1~3巻が第1章。櫂人とエリザベートの出会いと悪魔との戦い、その中で変わりゆく櫂人の姿を描いたシリーズ前半。
・4~6巻が第2章。櫂人の戦いと願いにフォーカスして最終決戦までを描くシリーズ後半戦。
・7~9巻が第3章。大きな一つのエピローグ。
みたいな感じになっています。
それぞれ3巻、6巻、9巻は各章のクライマックスになっていて、個人的には1巻を読んだら3巻まで、4巻を読んだら6巻まで、という風に3巻の塊は一気に読むといいように感じました。
そして短編集7.5巻はナンバリングのように、7巻と8巻を繋ぐ断章が描かれると同時に時系列として1~3巻の第1章当時の短編が収録されていました。なので、これは7巻の第3章の導入を読んでから、8巻を読む前に、第1章当時を懐かしむように読むのが良いでしょう。
外伝3冊は電子限定版として発売中。1巻~3巻でそれぞれアニメイト限定有償特典だった約100ページほどの短編小説だったものを収録しています。なので、電子限定版とは言いますが、中古ショップ等で探せば本来の特典として発売されていた紙本も手に入れることは可能ですね。
時系列としては外伝1が1巻の途中、外伝2と外伝3はどちらも2巻の前日譚。なので、1巻読んでから外伝1を読んで、2巻読んでから外伝2を読んで、みたいに読むも良し、本編全部読み終わってから読むも良しです。
内容としては、日常コメディをやっていたり、本編ではダイジェストで語られていた部分をやっていたり。外伝を読んでいないからといって、本編で分からないところがある、といったことはありません。あくまで本編を読んで、この作品の日常をもっと見たいと思ったら読んでみるといいと思います。
本編よりエグみが大きく減って、日常ほのぼのコメディが増している読んでいて楽しい外伝になっているので、個人的には機会があれば是非読んでみることをオススメしますよ。
また、作者の綾里けいし先生が自身のTwitterにて完結一周年記念のSSをツイートされています。本編完結後のお話なので、全巻読み終わった人で気になったら要チェックです。リンクを貼っておきます。https://twitter.com/ayasatokeisi/status/1364885200484802563?t=979HVsUqX3Qx-_3oF6Ak7Q&s=19
わたしはこのSSをTwitterのフォロワーさんに教えていただきましたが、こういうのは後追いの人だと中々情報を手に入れられないので本当に助かりました。ありがとうございます。
また作者の同Twitterではこの他にも時折SSをツイートしているようなので、探して読んでみるのも良いかもしれません。
・感想
では、改めて感想です。
いくつかのポイントに分けてお話していきます。
血みどろなダークファンタジー
本作を語る上で決して外せないポイント。
人がめっちゃ死にます。
メインヒロインが大量虐殺をしていた拷問姫とかいう時点でお察しかもしれませんが、めっちゃ死にます。そしてその殺し方もおおよそ通常の殺し方ではなく、人間をモノのように扱っては壊すような残酷なもの。そういう描写が苦手な人には精神的なダメージが大きいかと思います。
とはいえ、ある種の大量虐殺はファンタジーとして捉えられなくもないので、そういう意味ではダークファンタジーとしての面白さで十分に楽しめるものでありました。
また、個人的にダークファンタジーとしての世界観で本作の良かったと思うポイントは世間一般の人々。
エリザベートや櫂人のような物語の中心にいる人物たちは、大切な何かのために悪魔のような世界の危機と命がけで戦って、それは全部事情を知っている人から見たらめちゃくちゃ大変で偉業といって讃えられてもいいことに思えるけれど。
何も知らない一般大衆にとってはそんなことは関係ない。どうして自分たちが巻き込まれるのか。お前らのせいだ。みんなが悪いというものは悪い。人を殺した人は死ねば良い。そんなシンプルな理屈だけで動く大衆の心、人間の惰性で悪性とも言えるものを、この作品はこれ以上無く見せてくれる。
主人公たちが戦っている裏で、その余波を受けた普通の人々の憎しみや怨嗟というものが時として絶望となり襲ってくる展開を見るたびに「お前ら、主役の邪魔するなよ!」と「被害を受けた人たちの気持ちだって分からなくもないんだよな……」という感覚でなんとも悩ましい気持ちになります。
これが最高に発揮されていたと思ったのは7巻からの最終巻。6巻の最終決戦のその後を描くエピローグだからこその展開は、個人的にこの作品の最大最強の魅力だと思っています。最後の戦いが終わればそれでハッピーエンドなんて、そんな甘ったるい世界はないのだと、そう突きつけるような7巻以降は他作品ではそうそうお目にかかれない。
櫂人とエリザベート、そしてヒナ。三人の物語
ここまであらすじとか諸々の都合で1回も名前を出すことができませんでしたが、本作のメインヒロインはエリザベートだけでなくもう一人、ヒナがいます。
冒頭の画像にある2巻表紙の子ですね。彼女はエリザベートの城で眠っていた機械少女で櫂人に救われたことから、彼に仕えるようになった少女。自らを「櫂人の恋人で有り伴侶であり兵士であり武器であり愛玩具であり性具であり花嫁である」と称するメイドで櫂人の妻です。
……この自己紹介は何度見てもなかなかのパワーワードな気がする💦
本作はこのヒナを含めた3人の物語。それぞれの生き様とその関係性が本当に素晴らしいんですよ。
エリザベートは拷問姫であり、孤独に悪魔を殺し、孤独にその命を終える、ただそのためだけに戦っていた。けれど、櫂人と出会い、ヒナと出会い、大切な日常というものや他人を想うことを知っていく。けれど、どれだけ心地良い場所があったとしても、自分の拷問姫としての生き様は決して変えるわけにはいかず、悪魔と戦い続ける。確固たる生き様の気高さと、日常に見せる無邪気さの二面性が非常に印象的な子でした。
櫂人はエリザベートに召喚されて、最初こそ彼女の悪魔討伐に付き合わされて。優しさとか慈悲なんてものは一切持ち合わせていない彼女だったけれど、櫂人にとってはそんなエリザベートだけが救いだった、と。世界がエリザベートを恨み憎んだとしても、自分だけは彼女の側にいて彼女を救うのだと、そんな櫂人の戦いは壮絶で、しかし決して揺るぐことのない信念を貫き通す最高にめちゃくちゃカッコいいものでしたね。
そして、ヒナはこの二人だけでは決して得られない幸せをもたらした存在、だと個人的には思っています。エリザベートは自ら破滅の道を進み、そんな彼女のためだけに戦う櫂人の行く末に待ち受けるものも破滅以外にない。けれど、無尽蔵の愛と献身で自らの主である櫂人を支え続け、櫂人と櫂人が救いたいと願うエリザベートのために戦い続けたヒナがいたからこそ、この二人の中には愛や優しさが生まれたんじゃないかって、わたしは思うのです。
7~9巻の第3章では、最大級の絶望が襲ってきますが、それは「ヒナがいなかった、櫂人とエリザベートの未来」を暗示するようなものであり、ここまで読むと一層に三人だったから得られた結末に感慨が湧いてくることでしょう。
先ほどの項でも言いましたが、7巻以降の展開はこの作品の味わいをめちゃくちゃ深めてくれます。
キャラが魅力的すぎる!
エリザベートの生き様、櫂人の戦い、ヒナの無尽蔵の愛。
既にメインの三人で述べたように、この作品はキャラそれぞれが持つ芯がめちゃくちゃ強いです。人が玩具のように死んでいくような残酷で救いのない世界、だからこそこのキャラクターたちの持つ強さが読んでいて輝いて見える。カッコいいし、可愛いし、死なないで欲しいと幸せであってほしいと願ってしまう。重たい設定や世界観をしっかりキャラの魅力に繋げるのは本当に素晴らしいです。
個人的には「メイドでお嫁さんとか最高じゃん! メイドさん! メイドさん!」と頭ネジとんだ思考回路でヒナがめちゃくちゃ大好きですが、正直この作品の主要キャラはほぼほぼ全員好きです。
・エリザベートの城に度々やってくる謎の人物「肉屋」の持つコミカルとシリアスのギャップ。
・4巻から登場する第二の拷問姫ジャンヌの喋り方や初恋に苦悩する姿。
・そんなジャンヌと百合ップルになったイザベラの男前っぷり。
・エリザベートの父にして作中最大の悪役であるヴラドの狂気。
・唯一人の言葉で意志疎通のできる悪魔「皇帝」の要所要所で見せる活躍。
などなど。挙げたらキリがない。
・巻別満足度と総合評価
最後に本作の巻別満足度と総合評価です。
まずは巻別満足度。
ここまでに述べてきたように、3巻ごとに1つの区切りが着く作品なので3巻、6巻、9巻の満足度が非常に高かった作品です。特に6巻はまごうことなき神巻!
そして総合評価です。
シリーズ全体を通しての満足度は ★9/10
すっごい大満足の作品でした!
おわりに
今回の感想を要約すると、
・残酷で救いようがない世界とそんな世界だからこそ見せられる展開や生き様、それぞれの覚悟が最高に美しく、儚い
・特に櫂人とエリザベート、そしてヒナ、三人が中心となって紡がれる想いと絆は最高に素晴らしいもの
・そしてメイド好きだったり、百合好きだったり、カッコいい悪役みたいなのが好きな人はキャラ推しでも楽しめる作品ですよ!
と、そんな感じ。
そういえば、以前紹介した同作者の「アリストクライシ」にて異世界拷問姫はいつ読むかな、みたいな話をしましたが、それから約1ヶ月後には読んでいましたね。人生何があるか分からないものだ。アリストクライシの感想はリンク貼っておきますね。
【ラノベ感想part21】アリストクライシ - ぎんちゅうのラノベ記録
ちなみに読むきっかけは、実にわたしらしい頭の悪いお話で。
前々から度々Twitterのフォロワーさんから、わたしの好きそうなキャラがいるという話を聞いていて(それがヒナなわけですが)、彼女についてのツイートを作者の綾里先生がしているのを見て「お、なるほど。これは確かにわたしすきそうだぞ」と思ったのがきっかけだったりします。
結局、どんな作品も、ヒロインの可愛さ、コレいちばん大事!!
アリストクライシも似たような理由で読んだ気がするね……。苦手な重くて血みどろな作品でも癒やしさえあればいいのです。
と、今回の感想はこのくらいでおしまい。
気になった方は1巻のリンクを貼っておくので、チェックしていただけると嬉しいです。
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→次回のラノベ感想「魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?」
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