ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part158】私と陛下の後宮生存戦略

 今回の感想は2023年5月の富士見L文庫新作「私と陛下の後宮生存戦略」です。

 ※2巻まで刊行中(2024年4月現在)、2巻まで読了済みですが、今回は主に1巻を読んでの感想をまとめています。

私と陛下の後宮生存戦略 ‐不幸な妃は巻き戻れない‐【電子特典付き】 (富士見L文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 すぐ死ぬ少女と不憫な最強陛下の、【死に戻り禁止】の後宮攻略ストーリー!

 

 若き賢帝の唯一の妃『最愛』を決めるため、後宮に集められた妃達。

 その中で最も格下の、五十番目の妃ソーニャには秘密があった。

 それは【死に繋がる不幸を招く呪い】と【死ぬと時間が戻る祝福】を持つこと。

 玉の輿を狙う妃達により魔境と化した後宮で、彼女は毎日『死に戻り』続けていたのだ。

 (早く『最愛』を決めてくれないかな。そして家に帰りたい)

 そう願うソーニャだったが――

 「貴様を私の『最愛』にする!」

 皇帝エルクウェッドが指名したのはソーニャ。

 その上『最愛』のはずなのに陛下は大層お怒りのご様子で……!?

 

感想

 こ・れ・は・ひ・どい・!(褒め言葉)

 

 そんなふうにも言いたくなるこの作品、完全にギャグです。コメディです。作中のあらゆる要素にギャグの指向性がついているようにしか思えない。1から100まで基本的にツッコミどころしかありません。

 なので、この作品を読むときはとりあえず笑えば良いと思います。

 わたしはこういうの大好きでした。

 

 ともあれ、一体何がどうしてこんな作品になっているかを振り返れば――



 本作は、人々が誰しも「祝福」と「呪い」を身に宿す世界。

 その実態は概ね、〇〇をすれば××の恩恵がある一方で〇〇をしなければ△△の不幸を被る、といった内容。

 そしてヒロインであるソーニャが持つそれらは「死ぬと1日時間を遡ってしまう」「死に直結する不幸が常に襲いかかる」といったもの。それ故に日常的に死んでは時間を遡って……、という日常を繰り返し続けていたそうです。

 後宮入りしてからは、他の妃候補たちからの嫌がらせで何度も何度も死ぬようになったけど、まぁそれは仕方ないですよね。何回も死ぬとしても何とかがんばって生き抜いて故郷に帰れればいいじゃないか。

 

 とでも言うと思ったのか!?

 まさしく彼女の境遇にそんな待ったをかけるのが本作のヒーロー、エルクウッド。

 彼の祝福は「他者の祝福の影響を受けにくい」、そして呪いは「探し人には会えない」という特殊なもの。

 それが意味するのは、彼はソーニャの時間遡行に対して唯一例外的に記憶を持ち続けることができてしまうということ。

 

 それにより皇帝としての職務は図らずともトライアンドエラーができるため失敗はゼロ。更に無限に等しく続く時間は彼にあらゆる技芸を身につけさせていく。やがて彼は万事に精通し、未来すらも見通せる賢王であると、そんなふうな噂まで流れ始めてしまう。

 

 だがそんな良いことばかりではない。

 彼からすると、自分がそう願ったわけでもないのに、見ず知らずの誰かの手によって、意味も分からないままに、ランダムなタイミングで何度も何度も同じ日々を繰り返せられる二次被害を受けるという傍迷惑なものでしかないわけで。

 何度も何度も終りが見えないままに繰り返す日々に憤りをぶつける相手もない男は常に怒りをその身に宿すしかなく、彼が身につけた技芸すらも手慰みにあらゆる物事を趣味へと昇華させねばまともに正気を保てないようになった弊害でしかなかったのだ。

 

 彼はどうにかして時間を狂わせる犯人を見つけたいと願った。

 祝福の発現年齢の都合からその犯人は7歳年下と判明しているために、7歳年下の人間について調べまくった。

 その結果、7歳ぴったり年下の女の子にしか興味がない特殊性癖を持っていると周囲に思われしまうようになるがそんなことはどうでもいい。

 

 なんとしてでも、この怒りをぶつけてやらねば気が済まぬのだ!

 そうして時は流れゆき――もう引き返せないくらいに大分頭のネジがおかしくなってしまった頃、彼はソーニャと出会うのだった。

 

 事情を聞けば勝手に死にそうになって、死んだら時を戻してしまう?

 そんな認めるわけがないだろうが!

 お前を絶対に死なせないで全部解決してやるわ!

 よっしゃおら、どんな不幸でもかかってこいや!!

 スーパー万能人間になった私にはできないことなんかないってところ見せてやるからな!!

 アアァァァーーーーーッ!!!

 

 もう二度と意味の分からない時の牢獄に苦しめられることはない。

 そんな希望の光を見つけた彼は、あまりの喜びに遂には奇声をあげることしかできなくなってしまうのだった。

 

 ……ああ、なんと悲しきモンスターなのだろうか。



 

 ――と、まぁ大体こういうお話ですよね。

 

 すなわち本作のギャグ世界観はほぼ全てがスーパーおもしれー男になってしまった皇帝によって生み出されてるといって過言じゃありません。

 いや、まぁ周囲も大分頭おかしいんじゃねぇの? と言いたくなるのしかいませんが、悲しきモンスターに比べたら些細なものです。

 

 そして、序盤の100ページほどをかけてそんな悲しきモンスターの誕生秘話を見せられてから、ようやく視点がヒロインであるソーニャのものになりますが。

 この視点も簡単に言えば「いくら無自覚とはいえ、こんなギャグ漫画世界の住人みたいなものを生み出してしまった責任を私はどうやって取ればいいのだろう……」と思いながら、奇声をあげて自らに振りかかる不幸を肩代わりする男を見続けるヒロインという状態になります。

 色々と失礼な物言いですけど、皇帝は皇帝でヒロインを「生きてるだけで偉い」「息してるだけで素晴らしい」と言っては過剰すぎるほどに守ろうとするようになってるのでどっこいどっこい。

 こいつもう頭がパーになっているというより、これ完全に知性を失った獣が人の子を育てる系のアレじゃねぇかと思いますが、皇帝は自称パンダであるそうなので、普通に獣で間違っていませんね()。

 そしてそんな皇帝に言わせると、ヒロインは蝉の成虫よりもか弱い女らしいです。こっちもこっちで大概な扱いです。でも、彼女もまた定期的に死ねないとソワソワして不安になるとか真顔に言い出すほどにもう頭がどうかしちゃってるみたいなので、一生を必死に生きている蝉とかに謝った方が良いと思われ。

 もはやどっちもどっちで救いようがないくらいにどうかしちまってるおもしれー男とおもしれー女なので、本来皇帝とそれに見初められた姫という胸がドキドキするような甘酸っぱいものがまるで感じられない不思議まで兼ね備えてくるんだな。

 本来シリアスになるだろう設定や背景を全てコメディに変換しようとすると、こうも奇天烈な話が出来上がるのかと感心させられますよ。マジですごい。こんなの笑わずにいられませんね。

 

 

 さて、なんか今回は感想がどうにもテンションおかしいですが。

 この作品のテンションの方が大概おかしかったのでプラマイゼロですね(?)

 というわけで、まとめると純度100%のコメディです。

 後宮恋愛モノの胸キュンではなく、おもしれー男とおもしれー女の頭パーな奮闘劇が見られる作品でした。

 

 わたしは大爆笑して楽しませていただきました。

 感想は、以上です。

 

総評

 ストーリー・・・★★★☆ (7/10)

 設定世界観・・・★★★★ (8/10)

 キャラの魅力・・・★★★★★ (10/10) 

 イラスト・・・★★★☆ (7/10)

 次巻以降への期待・・・★★★★☆ (9/10)

 

 総合評価・・・★★★★☆(9/10) これはスーパーおもしれー男になった皇帝によるハイテンションコメディです

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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