今回感想を書いていく作品は「棺姫のチャイカ」
ファンタジア文庫より2010年~2015年に刊行されていた全12巻のシリーズ。作者は榊一郎。イラストはなまにくATK。
※画像はAmazonリンク(1巻)
まずは作品のあらすじからご紹介。
今回は少々詳しく話すので長いです。
””禁断皇帝、魔王、狂戦王。数多の異名で称され、何百年もの間ガズ帝国を支配し続けた皇帝アルトゥール・ガズ。八人の英雄によってこれが討たれたことで、戦争の時代は終わった。
それから5年後。
戦争の余韻が消え去ることはなく。特に、戦争のためだけに生まれ育った兵士たちの多くが行く宛も生きる意味もを失ってしまう。
主人公トール・アキュラもその一人。彼は偵察や暗殺を生業とする乱破師(イメージ的には忍者のような感じ)の卵だったが、戦場に出る前に戦争が終わり、同じく乱破師の義妹アカリと共にその日暮らしの生活を送っていた。
そんなある日、トールは大きな棺を背負う謎の少女チャイカと出会う。彼女はガズ皇帝の娘を名乗り、八英雄によって分割された皇帝の遺体を集める旅をしているのだと言う。一方戦後復興機関のジレット隊や他のチャイカを名乗る者たちも同じように遺体を狙っていた。
彼ら彼女らは旅の中でときに争い、ときに共闘して、戦争の真実、そしてそれぞれ戦争のためだけに生きてきた自分自身の新たな生きる意味を見つけていく。””
超ざっくりまとめると。
””戦争が終わって、戦闘の道具として生きてきた過去に縛られた者たちが、旅をして道具でなく人としての生きる意味を見つけるお話。””
という感じです。
そして、これこそが本作の最大の見所で魅力となる部分!
そういうわけでここを話すためだけに今回はあらすじが長くなってしまいましたが、改めて感想を話していきます。
生き方を見つけるための旅
既に述べたように本作最大の魅力は、それぞれのキャラが過去に縛られ、そこから旅の中で新しい自分を見つけること。
例えば、主人公のトール。彼は戦争のためだけに育った人間。しかし戦争は終わった。なら、これから自分はこれからどうすればいいのか。
そんな道を見失っていたときにチャイカに出会う。
チャイカの目的。それは禁断皇帝の遺体を集めること。彼女はただ純粋に父を弔うためだけに旅をしているけれど、周囲は違う。偉大な魔術師でもあった禁断皇帝は遺体であっても、絶大な力を持つ魔術触媒となる。また、彼女を担ぎ上げて帝国復権を目論む者もいる。それは新たな戦争の火種になりかねない。
トールはそれがわかった上で。戦争になるのなら、自らの存在意義が果たされる。そうでなくともチャイカとの確実に波乱万丈になるだろう旅で新しい自分が見つかるかもしれない。
そんな風に考えながら始めたチャイカとの旅。
一方のチャイカは父親の遺体を弔うために、それを集める旅をしていたのだけど。
その中で出会うのは自分とそっくりな容姿でチャイカを名乗る少女たち。自らの存在に疑問を持ち、やがてたどり着いた禁断皇帝の真実。
それを知ったときに彼女は……。
この二人だけを見ても、それぞれが最初に持っていた旅の目的があり、しかし旅の終着に向かうにつれてそれが変化していくことは想像に固くありません。
この作品の主要人物は同じように誰もが「自分はこうであるべき」という固定観念があって、しかしその意味を見失ってしまったときに果たして何を選ぶのかという決断を迫られます。
そして、このときに重要になるのは。
それぞれのキャラクターたちがお互いに関わり合って築いてきた関係性。
全ての真実を知ったときに、チャイカとトールはそれぞれの決断をしますが、これは決してそれぞれが一人ではできなかったこと。
二人で旅をしてきたからこその結末でした。
それどころか。旅を共にする仲間や、旅の中で出会う人、あるいは剣を交えて戦う相手、様々な人からの影響を受けてきたからこその選択でした。
人は決して一人で生きてはいけない。
そんな当たり前の大切なことをこの作品は物語として胸を打つ展開で見せてくれたと思います。
そして、そうであればこそここでいう「誰かと誰かの関係性」というのもチャイカの大きな強みであったと思います。
心の変化を描くということは、誰かと誰かの交わりを描くことです。
同じ乱破師であるトールとアカリの関係。トールにとって自分に道を示してくれたチャイカとの関係。敵として現れるジレット隊は敵対関係はもちろん、彼らの仲間内での関係もあったり。同じように遺体集めをする、他のチャイカたちにも関係性があって。
このどの部分も見ても、過去の戦争に囚われる心情が見え隠れしていて、またチャイカの魅力その1それぞれのキャラクターって部分に戻るわけですよね。
この2つの魅力が交差して、常に広がっていくのがチャイカという作品の巨大な軸として聳えているものではないでしょうか。
チャイカは全巻一気読み推奨作品
一方で、この作品を読む上でちょっとした注意点みたいなものとして。
基本的にこの作品のメインストーリーの性質状、最後まで読み切る、旅の終着点を見る、っていうのがいちばんの見所になるわけで。
読むなら全巻できるだけまとめて読む方がいい、っていうのが個人的な意見。
そして、それがわたしみたいに長編シリーズを一気に読むのが好きな人にはすごく合いますが、少しづつ読もうとしたり、とりあえず1巻2巻読んで続きも買うか考えよう、みたいな読み方には少し合わない作品だと思いました。
なので読むなら全巻買って、全巻読むぞという準備ができてからにするのをオススメします。
ちなみに本編は11巻までで、12巻はアフターストーリーな感じになっているので、最悪12巻は読まずとも大丈夫です。でも、11巻まで一気読みしたら12巻もそのまま読むよね、たぶん。
その他。個人的に好きなやつ。
個人的に本作の好きなキャラとして、2巻で登場するフレドリカという子がいます。
彼女は姿を変幻自在に変えて、長い時を生き続ける龍。そんな彼女だからこそ、トールたちとは全く違う価値観で会話が噛み合わなかったり、ときに核心をついたような発言もしてくる。これがもう物語が大詰めになってくると本当にいい味を出すのですよ。
いやー、異種族最高! ってこういうところで言いたくなりますよね。
正直なところ、チャイカの時点で、わたしの好きな異種族要素は十分に満たしていたんですが、それに加えてドン! というやつです。
あとチャイカの「むい」が可愛い。
おわりに
本当に最初にも言いましたが、これは「戦争が終わって、戦闘の道具として生きてきた過去に縛られた者たちが、旅をして道具でなく人としての生きる意味を見つけるお話」で、そこが最大の魅力となる作品です。
こういうのが好きな方や、気になった方は是非とも全巻揃えて読んでみてください。
今回の感想はこんなところで。
気になった方は、以下に1巻のリンクを貼っておくのでそこからチェックしてみてください。
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