ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part309】きみからうまれる

 今回の感想は2025年10月のガガガ文庫新作「きみからうまれる」です。

きみからうまれる (ガガガ文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 過去も、現在も、未来も、全てきみのもの。

 

「誰よりも会いたかったです、みきとくん」

 幼い頃にお別れした名前も知らない初恋の少女が、高校生になった僕の目の前に現れた。彼女――鈴代憬と再会し、会えなかった過去を、新しい現在で埋めていく二人。

「わたしが全部、みきとくんの理想を叶えてあげる」

 繰り返される憬との“見当違い”な倒錯の時間は、みきとの失った初恋と欲求を満たしていく。でも、憬はある秘密を抱えていた。すっかり甘い時間の深みにはまった頃、それを知ったみきとが進む未来は――。

 過去も、現在も、未来も、きみの理想で塗り替える初恋リメイクストーリー。

 

 

感想

 うーむ、感想に困りますね。

 

 とりあえず、個人的に率直な印象としては。

 ただの恋愛話には収まらない、欠落と渇望に芯まで浸かってる主要キャラたちだからこそ生み出せる強烈な読み味がある作品、といった感じですかね。




 本作の主人公は、家では引きこもりの兄と精神失調の母を持ち家事を1人で担っているヤングケアラーで、学校では委員長というみんなに頼られる自分を演じることに精一杯な男子高校生。ASMRを聴きながら、幼い頃の初恋の思い出に浸らなければ満足に眠ることすらできない心の限界を常に抱えている、そんな主人公。

 

 彼が再会を果たしたヒロイン、鈴代憬。

 初恋の女の子である彼女は、そんな彼の苦しみを全て受け入れてくれて、がんばったね大丈夫だよと自分がほしい言葉ばかりをくれる、思い出の中から飛び出して来たような存在だった。

 

 しかし、そんな何の意味もなく初恋に浸って癒されるだけのご都合があるわけもなく。

 鈴代憬という彼女のベールが剥がされていくと、そこから現れるのは、主人公と同じくらいに心に大きな空っぽを抱えている1人の女の子の姿。

 さらに思いもしなかった、初恋の彼女の真実や、主人公に対する裏切り、それを踏まえて尚も変わらない憬の在り方や、それを口では否定しながらも受け入れてしまっている主人公……、果てにはまさかの1巻の引き方で一体どうなってしまうのかと。





 1巻の内容をざっくりさらっていくとこんな感じだったと思います。

 正直に言って、次々と明かされる情報の1つ1つが重く、その重さの分だけキャラの本質を一気に掘り起こしてくるようになっているので、読み進める手は止まらなかったです。間違いなく強いリーダビリティのある作品でした。

 

 そして、主人公も鈴代憬というヒロインも。

 どちらも普通に健やかに育っていればあるはずの何か――アイデンティティとかそういう自分はこうであるという、実体もなければ具体性もない、けれどたしかに心の真ん中にあるはずの何か――それが欠落している子どもだったわけで。

 

 そんな彼らだからこそ、これはただの恋愛という話で収まらず。相手を求めることが、好きとかいう気持ちではなく、自分の欠落を埋めるための渇望に寄りすぎている。

 そして同時に、そんな強烈な毒のような渇望を前にして受け入れることもまた、自らの欠落を埋めようと必死になって心が叫んでいるようであるので、読んでて苦しい気持ちでいっぱいになってしまう。

 

 共依存。割れ鍋に綴じ蓋。

 そんな言葉があるけれど、本作はまさしく文字通りのコレなんだろうなと。

 欠落したもの同士がその心を埋め合ったとしても、決して1つの完全な何かになれるわけがない。

 辿り着く果ては歪な穴ばかりで心臓部分だけが動き続けるガラクタのような、そんな泥沼しか想像することができない。

 そういう不完全にして完全な共依存、一歩手前。

 

 特に憬が言い争いの中で見せた、あなたのような人間には決して自分を理解できない、というスタンスやエピローグで語られた彼女の原動力を見ていると。彼女は自らの欠落を理解した上で、そこからの脱却ではなく、渇望を満たそうとすることに全てを注いでいることが分かるから。

 救う救われるという選択肢がハナからないようなところも、本作の仄暗さを助長してましたね。

 

 そして、そうであればこそ、本作は最後の引きもなかなか強烈ではありましたが。もう光属性では、決してこの泥沼の中を照らすことなんてできないし。一度そこに浸かってしまったものを掘り起こすこともまた非常に困難であるように思う。

 だから果たしてここからどう転がるのかと気になるところではあるわけで。

 ただ、彼女もまたその背景を思えば、系統は違う闇属性の可能性もあるのではないかと思っていて、もしそうであるならば割れ鍋に綴じ蓋に壊れたコンロくらいの三角関係でますますヤバい方向に行くのではないかという、期待がありますね。

 まぁ、光と闇の間に揺れる主人公をやってくれてもいいんですけど、個人的には望まない方向かもしれないです。やはり過去も今も全て自分で塗りつぶそうとする憬みたいな毒には、同じく侵蝕性の毒で対抗してほしいんだ。






 なんかこう、あまりに取り留めもなく書き連ねて自分でもイマイチ何を言いたいのか分からない感想になってしまいましたね。

 

 とにかくわたしとしては、本作は良かったと思ってます。

 恋とか愛とかそういうのじゃない、欠落と渇望ゆえの、共依存や堕ちるという表現に似つかわしいものへ進んでいく主人公ヒロインが見事描かれていて良かったです。

 そして最後に1つだけ言っておきたいのは、鈴代憬ちゃんのあのキス顔は、普通に破壊力が高くて強かったというお話。あれめっちゃ好き。普通の男子高校生なら、あんな表情見せられたら秒で理性ないなっちゃいますよ。メンタルやられてる男だったらよりいっそう。あー、わたしも憬ちゃんにおぎゃりてぇなぁ。彼女の思惑を知った上で、それを指摘することなく彼女の望むままに溺れたい。何一つ問題も解決しないし、二人きりの世界が完全に閉じられる方向にしか進まなくてもそれでいいんじゃないかな。

 

総評

 ストーリー・・・★★★ (6/10)  

 設定世界観・・・★★★ (6/10) 

 キャラの魅力・・・★★★★☆ (9/10)

 イラスト・・・★★★★ (8/10)  

 次巻への期待・・・★★★★ (8/10)

 

 総合評価・・・★★★★(8/10) 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

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