ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part224】巡る冬の果てで、君の名前を呼び続けた

 今回の感想は2024年12月のMF文庫J新作「巡る冬の果てで、君の名前を呼び続けた」です。

巡る冬の果てで、君の名前を呼び続けた【電子特典付き】 (MF文庫J)

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あらすじ(BWより引用

 第20回MF文庫Jライトノベル新人賞〈優秀賞〉受賞作!

 

 勇者によって魔王は討ち倒され、この世界から魔王の脅威はなくなった――だが世界は平穏を手にすることはできなかった。決戦時の強大な魔力の余波が、人類を侵し滅びをもたらしてしまったのである。

 世界の平和と人々の命を守るために尽くした勇者一行の一人・魔法師エルメもその例に漏れず、大切な人を失い、自らの死期もそう遠くないことを悟った。

 孤独となり自身の存在意義と未来を見失った彼女は、がむしゃらに王都から飛び出した先で、アンデッドの少年と出会う。

 不思議な彼に勇気を貰い、余命わずかな少女と不死の少年は、終わりゆく世界を巡って、幸せな思い出と生きた証を後世に残すことを目指す旅に出る――

 

 

感想

 今回は、半ギレです。

 

 いつものあらすじや作品概要は省略します。

 本作に関してはとりあえず読んでみてくださいと言える物語構成が見事な作品でして。

 愛はあらゆるものを超越する不思議な力である。大切な思い出や記憶がどれだけ色褪せてこぼれ落ちたとしても魂に刻まれた想いだけは消えることがなく、それがいつしか時間をも超えて世界を変えてしまう。

 そんな想いの強さがグッと深められる終盤はまさしく圧巻で必見と言っても良いものだったかと思います。

 

 おいおい、だったら一体何にそんなキレてるんだ?

 と思われるかも知れませんが、もちろんその終盤に決まってますよ。

 本作は終盤で想いの強さを魅せる100点の解答を提出しておきながら、それと同時に-100点の解答まで用意しているために、わたし個人としてはこれはないでしょと言いたくなるんですよね。




 具体的な内容には触れないので、ここからはある程度漠然としたお話になります。

 

 まず、大前提として。

 愛はあらゆるものを超越する。

 想いの力は何ものにも勝り、やがては世界の運命すら変えてしまう。

 とかとか、そういうお話がわたしは大好きです。

 そしてそこに愛以外のロジックが必要だとは思いませんし、むしろ変な理屈をつけるだけ不純物が混ざって旨味が減ってしまうと思っています。

 

 しかしですね。

 その愛の力っていうのは、

 読者がそれを納得できるだけの想いの強さやエピソードの積み重ねがあってこそ初めて成立するものだと思っています。

 その前提条件を無視したものはご都合主義とかそういうものでしかないのですよ。

 

 そして、本作に関しては。

 結末、ゴールに当たる部分ではこれが完璧だったと思います。

 積み重ねた想いの強さこそが運命を切り開くその眩しさをこれ以上ない形で描いていたと思っています。

 

 しかしですよ。

 その始まり。きっかけ。スタート。

 これはダメでしょう。

 魂に刻まれるほどの胸を焦がす想いが何よりも強いのだと、それを証明しようとしている物語であるのに、どうしてそのスタートから既にまるで当たり前のように想いで常識を打ち破ることをやってるんですか?

 A=Bであるを証明するための第一文目が、A=Bであるっていうのと同じことやってるんですよ。

 そんなのふざけてるんですか? としか言えないじゃないですか。

 なんで終盤のあれだけ大きな想いの果てにようやく変えることができた運命と同レベルの超常の何かが、まだそこまで積み重ねていない最初のスタートにまで生じてるんですか。意味が分かりません。

 普通の人間が、何の根拠もないのに、超常の力の運命を授けられるのなら全人類が超能力者にだってなれますよ。何故、彼だったのか。彼のどこにそれだけの想いがあったのか。それをちゃんと示しなさいよ。彼だけがそう在ることができた理由は一体何ですか?

 もしも彼の想いの強さの理由が、彼は他の誰よりも精神的に強かったとかいうならグーで殴りますからね。想いの強いのは想いが強いからと言ってるのと同義で意味わからなくなって、それはすなわち彼が「特別」であることですから。本作の何ものでもない無力な少年がその想いだけは決して譲らない負けないっていうコンセプトが崩壊することに直結するんですよ。

 想いの力は決して万能の何かではないと思うのですが……。

 

 完全に蛇足としか言えないすべてのきっかけのエピソード。

 あれによって本作が見せてくれる想いの強さと美しさが完全に穢されています。

 せめて二人の最初の運命は完全に人の力では干渉すらできないような絶対的な世界の定めとするか、あるいは人の身でありながらもその想いを貫き通すための何か説明できるロジック、あるいはそれだけの想いの強さを担保するようなエピソードがない限りは納得なんか到底できないでしょう。

 本作読者からしたら、終盤にそのスタートのエピソードを描くまでにたくさんの積み重ねがあるからある程度誤魔化し効くのかもしれませんけど、時系列がおかしいじゃないですか。きっかけの時点で既に世の理を変質させるだけの理由はなければならないのですよ。

 作品最大の見所をこんな形で台無しにしてしまうのはあまりにナンセンスな悪手だとわたしは感じています。こんなの何のためにここまで読んできたんだよってなってしまう。

 本来最後まで一気に駆け抜けるための盛り上がりとして用意しただろうシーンが完全に意図しない最悪の落とし穴になっているようなパターンなので……、そりゃあもう怒りますって。期待していた面白さとかワクワクが一瞬で全部瓦解したわけですからね。

 

 わたしにとって愛は万能な何かじゃないんです。

 想いの強さを示すなら、それを示せるだけのエビデンスを、エピソードを、ラブを見せてくれ。

 ラストが100点。

 スタートは-100点。

 したがってわたしの総評は±0点、ですね。

 以上半ギレの感想でした。

 

 

 

 あと余談として、単純に理解できなかったのですが。

 本作の章タイトルの「余命〇日の~」って何の意味があったのでしょうか?

 終盤の死後〇日の~に対比させたかっただけですかね。

 そうでないなら、意味分からないですよね。だって余命何日か本人たちが全く知らない情報を読者にだけ提示する意味がないですもの。それを知ったところで、余命〇日の全部を描くわけではないですから、結局あとどのくらいの物語(残された時間)があるのかなって読者には全くイメージできないわけですし。

 こういう余命◯日って、それが完全にそういうものであると確定している状況だからこそ使えるものだと思っていたんですけども……、何故この作品でそれが使われていたのか。ものすごく謎でした。そういうのも相まって、本編への疑念が増してしまったところがあると思うんですよね。

 

 

総評

 ストーリー・・・★★★★ (8/10)  

 設定世界観・・・★★★★☆ (9/10) 

 キャラの魅力・・・★ (2/10)

 イラスト・・・★★★★ (8/10)  

 

 総合評価・・・★★(4/10) 愛の証明をしてください。

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

bookwalker.jp