ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part170】彼女は窓からやってくる。 異世界の終わりは、初恋の続き。

 今回の感想は2024年6月のダッシュエックス文庫新作「彼女は窓からやってくる。 異世界の終わりは、初恋の続き。」です。

彼女は窓からやってくる。 異世界の終わりは、初恋の続き。 (ダッシュエックス文庫DIGITAL)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 俺、陽南飛鳥には悩みがある。異世界から現代に帰ってきたせいで、高校で浮いてしまったこと。そして、隣に住んでいる彼女――文月咲耶が窓から俺の部屋にやってくることだ。咲耶は同級生であり、かつて異世界で敵として戦った魔女でもある。彼女は俺に負けたことを根に持って、今でも突っかかってくるのだ。俺の願いは平穏な日常を手に入れること。そのためには、二度と突っかかってこないよう、彼女をもう一度負かさなければならない。俺は咲耶と再び勝負を始め――その中で彼女の秘密と、俺に会いにきていた本当の理由を知ることになる。これは、異世界で最低な出会い方をした俺たちが、最高の青春を手に入れるまでの話だ。

 

感想

 うん、面白かったです!!

 異世界の勇者として召喚された青年と、魔女として召喚された少女。異世界での最悪な出会いと戦いを経て帰還してから動き出す青春と恋の物語です。

 

 そして本作に対する感想としましては。

「これぞまさしく純愛!」

 これに尽きるでしょう。

 相手を想い。相手の幸せを願い。相手の不幸を嘆き。

 そうであるからこそなりふりなんか構ってられない。たとえ自分がどうなったとしても構わない。ただ大切な人の平穏を守れればそれでよいのだ。そんな巨大で切実な感情を抱えて、それを叶えるだけの特別な力を持った者であるが故の愛がほとばしる。

 こういうのは素晴らしいのです。やっぱりその身を焦がして殺し尽くすほどに一途で研ぎ澄まされた愛は堪んないぞ!



 と、本作はそんな愛情の濁流に呑み込まれるがごとき怒涛の展開がいちばんの見所なわけであるわけですが。

 この見所を見所たらしめるのは、間違いなく本作の構成あってのこと。すなわちクライマックスを存分に味わうために必要な物語の積み重ねがしっかりしていた、と言えばいいでしょうか。

 

 異世界で勇者と魔女として、敵対する立場として出会った二人。その二人が一体何のために何の愛着もない異世界で戦っていたのか。

 

 そもそも異世界で出会うよりも前に。二人は学校で出会って、言葉を交わして、そこで芽生えていた仄かな想いがあった。

 

 じゃあ現実に戻ってきて、二人を繋ぐのは果たして何の感情でどんな関係性なの?

 

 異世界に喚ばれて、日常は失われて、人生は一変してしまっている。誰にも言えない秘密をいっぱい抱えてしまっている。拗れた関係性。口に出せない想い。自分の中で壊れてしまったもの。

 

 そんな二人の心の中にある大事な感情とそのきっかけとなるエピソードの断片。

 その1つ1つをまるで砂山の中から探り当てるように、異世界帰りでちょっぴり常識がずれてしまった二人のコミカルな日常の中から少しずつ少しずつ拾い集めていくんですよ。

 異世界では決してわかり合うこともできず、異世界に行く前ではこんな想いすら抱くこともできなかった、今だからこそ見つけることのできたかけがえないボロボロの初恋がこの作品には詰まっていたんです。

 そしてもう何もかもが穏やかな日常からは一変してしまったことで理想を掲げることもできず、最良の未来を夢想することすらできず、大切だった気持ちと一緒にあったはずの何かは砕け散ってしまっているから。決して多くは望まない。大事なのは最後に拾い上げたその気持ち、他の何にも代えがたい純粋で綺麗な愛の欠片、それさえあれば良いのです。

 この1つでも何かを掛け違えたらきっと結ばれることのなかった物語は運命と言ってもいいのかもしれない。そのくらいに素敵で、応援したくなる、二人の愛に魅了される作品だったと思います。

 

 そういうわけで、これは徹頭徹尾純粋で真っ直ぐな愛の物語ですよ。

 その愛がくすんでいてボロボロになってしまって、どうしようもないくらい膨れ上がっていたとすればそれはもう環境の問題だったというしかない。

 二人の中の本質的な部分には、ただ純粋に相手を想うだけの本当に綺麗で小さな宝石の原石のようなものしかなかったのだから。この作品はその原石のような不格好な相手を想うだけの愛で満たされていた。

 

 これぞまさしく純愛。

 真っ直ぐに誰かを愛する、ただそれだけのお話。

 最高に素晴らしかったと思います。

 

(であるからして、もしもこの作品に対して。

 二人とも色々暴走しまくってるし、愛情重すぎるし、血みどろだし、純愛というにはアレじゃない? とかそんなことを言う人がいるならば、わたしは徹底抗戦をしましょう。愛ってのは純粋であればあるほどに研ぎ澄まされて綺麗なものからは遠ざかるものなんだよ、とわたしは言うでしょうし。

 何よりも。ここまで述べたようにこの作品の二人が持つものは散々な状況の中で多くを望むこともできずに、ただ1つだけ相手を幸せにしたいという小さな純粋な願いでしかないので、これを重いだとか依存気味だとかいうのはもっての外。そんな言葉は本作の過酷な環境によって既にボロボロになった二人がそれでも手の中で必死に抱えている大切な想いにそれこそ泥をつけるようなものなんですよ。

 普通の幸せだとか平穏だとかそういうものがもう全部全部手の中からこぼれ落ちた二人の愛はむしろ重いの正反対でしょうが。限界まで削ぎ落とされてるでしょうに。仮にそれが重いと感じるのだとしたら、それは二人が最後に残った気持ちを必死になって落とさないように握りしめて力を加えているからであって。それを重いだとか言うのはナンセンスだと思うの。

 自身を省みることなく大切な人の幸せを願うことのどこにおかしなことがありますか。それは紛れもない純愛で淡い初恋の物語としか言えないはずなんです。少なくとも、わたしはそう思いました。)




 さて、ここからは余談として。

 ここまで散々純愛が素晴らしいと熱弁したあとで、言うにはあまりに空気読めないものになりますが。

  この作品は個人的な性癖がたくさん詰まっていたのも素晴らしかったんですよ!!

 それは言うまでもなく「異種族異種間恋愛!普通の人間じゃないのって素晴らしいよね!」っていうコト。

 勇者と魔女。それぞれ過酷な異世界で普通の人間ではいられなかった、やめざるをえなかった、そのなれの果てというものが本作にしっかり滲み出ていたのがもう大興奮。既に述べたように本作の二人が抱える事情や秘密ってのは少しずつ少しずつ明かされるものなので、読み進めるにつれてどんどんギアを上げるように”普通じゃない存在”が溢れ出てくるのは、わたしみたいな読者の性癖を満たすために生み出されたとしか思えないほどです。

 人外の存在×ただ一途な愛情。

 こんなのはもう優勝ですよ。ありがとうございました。

 

総評

 ストーリー・・・★★★★☆ (9/10)

 設定世界観・・・★★★★☆ (9/10)

 キャラの魅力・・・★★★★☆ (9/10) 

 イラスト・・・★★★★ (8/10)

 次巻以降への期待・・・★★★★☆ (9/10)

 

 総合評価・・・★★★★☆(9/10) ――愛こそが全て、これぞまさしく純愛――

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。 

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