ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part100】生徒会長との待ち合わせは、いつもホテル。

 今回の感想は2023年8月のファンタジア文庫新作「生徒会長との待ち合わせは、いつもホテル。」です。

生徒会長との待ち合わせは、いつもホテル。 (富士見ファンタジア文庫)

 

あらすじ(ファンタジア文庫公式サイトより引用

 真面目で人気者の生徒会長・清瀬まつりが、夜の渋谷で一体何をしているのか、志木颯大(フータ)は偶然知ってしまった。

「私、パパ活してる。私は悪い子だから」

 フータをラブホテルに連れ込み、学校とはまるで違う笑みを見せるまつり。秘密を守ることを強要され、登下校はもちろん放課後や休日も共に過ごすうち、その寂しがり屋な部分が垣間見えてくる。そしていつしか二人は互いに離れられない依存のような、あるいは恋人のような特別な関係になっていき……。

「……フータだけは、ずっと一緒にいて」

 捻くれてるけど寂しがり屋な彼女と紡ぐ青春ラブストーリー。

 

感想

 作者の前作「青春失格男とビタースイートキャット。」がすごく好きな作品で、今回新作が出るということで期待していた作品。

 前作同様にどこかズレてしまっている主人公やヒロインたちが紡ぐ物語を感じつつ、しかしストレートな癖の強さやあの濃厚なフェティシズムの衝撃では前作の方が良かったかなと、まずはそう思いました。

 とはいえ、そんな比較をしてもどうしようもないので、本作の話に集中します。

 

 本作は主人公の颯太が、生徒会長のヒロイン清瀬まつりがパパ活をしていることを偶然目撃してしまう。口封じのためにまつりにラブホテルに連れ込まれ、二人でそういう場所に入った事実を盾に秘密を守らなければと脅迫され、更には無害そうな男子だからとまつりの親友である藤沢ゆきの彼氏になれと命令される。

 そんな感じで始まるお話でした。

 

 この作品を読んで、いちばん最初に思ったのは「この主人公やべぇな」です。

 本作はヒロインたちも表裏があったり、パパ活というものを扱う以上倫理観だとか、そういうものに手を出す理由背景という部分から”普通ではない”のですけど。

 個人的にはそれ以上に主人公がナチュラルにヤバかったです。

 

 それをいちばん明確にハッキリ示していたのは、最初にあったあの2ページの出来事でしょう。

 

 主人公はある日早く登校した日に、クラスメイトの女子の机に作りかけの手編みのマフラーがあることに気づきます。それは彼女が彼氏の誕生日にプレゼントしようとして一生懸命に編んでいたけど間に合わなかったものだと知っていたみたいです。

 だから、彼は、そんなマフラーを完成させてあげました。

 そして彼女にお礼なんかいらないよ、と言うのです。

 

 ……うん、もうズレてる。

 致命的にズレてる。それはさ、彼氏の誕生日に間に合わなかったとしても、彼女が最後まで編むことに意味があるやつじゃん。

 

 本作の主人公はこういうやつです。

 こういうエピソードが多々見られる。

 自分は他人のことを気遣って良いことができる、けれどそのせいで都合の良い人としてしか見られず、周囲から壁を作られてしまってるんだ。とマジで思っているみたいだけど、その実態はそもそも優しさとか気遣いを履き違えているから引かれてる人間。
もっと言えば、たぶん自分の中の正しさとか間違いを本質的に疑うってことができない人間、なんじゃないかとわたしは思いました。

 正直、友人にいたらすごく面倒くさいタイプ。

 見てるだけでかなりイラっとしましたね。

 

 だけど、本作はそんな主人公のお話なんです。

 そしてそんな主人公が変わっていくお話、ではない。

 ズレたままで、だけどそれが奇跡的に噛み合って、お互いに惹かれていってしまう二人だけの関係性を見る青春ストーリー。

 

 この作品のキーはやはり、誰でも見た目だけじゃその心の奥までは分からないということ。

 そしてそうであるからこそ、他人が声に出す正しいとか間違っているという言葉にどれほどの意味があるかという話。

 真面目で人気者の生徒会長がパパ活なんていう、明らかに世間体の悪いものに手を出していて、しかしそこには彼女なりの事情や想いがあるのだけど、端から見るだけではそれは分からないように。彼女は自分の行為が周囲からどう見られているかを自覚しながらも、それを辞めることはなかったように。だけど、本当はずっと自分が抱えているものを知って受け入れて欲しかったように。

 一般的な意見だとか、そういうものじゃ絶対に届かない。

 この人のためになら、あの人がそう言ってくれたから、というそれだけの持つ意味や重さ。そこから生まれる二人だけの間にある特別な何か。芽生えてくる想い。築かれていく関係性。

 

 そういった部分でどうしようもないくらいにズレてるのに、真っ直ぐな青春の香りを感じさせるそういった作品でしたね。

 前作の暗黒と退廃の青春とは違うけど、同じようなただ綺麗なだけじゃない青春がありました。

 これはなかなか面白かったです。

 

 とはいえ、やはり優しさを履き違えたまま、良い人を自認する主人公はキツいですわ……。

「ただ人に親切にしようとすることが間違ってるわけじゃないの」「八方美人みたいな良い人であるのが悪いわけじゃないから」「問題なのは自分の優しさが他人の迷惑になると自覚していない部分です」

 そう、言ってあげたいですね。

 

総評

 ストーリー・・・★★★ (6/10)

 設定世界観・・・★★★ (6/10)

 キャラの魅力・・・★★☆ (5/10)

 イラスト・・・★★☆ (5/10)

 次巻以降への期待・・・★★☆ (5/10)

 

 総合評価・・・★★★(6/10) 主人公のズレを受け入れられるかどうか、ですね。

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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