ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part11】妹さえいればいい。

 今回感想を書いていく作品は「妹さえいればいい。

 ガガガ文庫より2015年~2020年の間に刊行されていた全14巻のシリーズ。作者は平坂読。イラストはカントク

妹さえいればいい。 (ガガガ文庫)妹さえいればいい。14 (ガガガ文庫)

※画像はamazonの購入リンク(1巻および14巻)

 

 

  まずは本作の概要から簡単に紹介。

 ””妹モノのラノベに情熱を注ぐ妹キ○○イなラノベ作家・羽島伊月。伊月に熱烈なアプローチをする銀髪碧眼美少女天才作家の可児那由多。伊月と同期デビューしたイケメン小説家の不破春斗。伊月の大学同級生の白川京。伊月の義理の弟(本当は妹)で家事完璧な高校生・羽島千尋

 しばしば伊月の家に集まる5人を中心に個性的(すぎる)なキャラクターたちによって紡がれる恋と創作の青春ラブコメ群像劇””

 というのが本作の概要になります。

 ジャンルは青春ラブコメ群像劇+クリエイターモノということになるでしょうか。群像劇という形式で登場人物一人ひとりが主人公と言えるほどに魅力的なキャラクターばかりであること。そんな彼らの生み出す熱いドラマや関係性・大爆笑必死のコメディ。作者の実体験に基づくボードゲームや旅行、食事といったラノベ作家の日常やそれぞれの作家が維持と矜持をもって向き合う創作活動。これらが大きな軸となって現実とフィクションが見事に融合した作品になっていました。

 もう少し具体的にざっくり言うと、1巻では伊月の部屋で集まって駄弁ったり、ボードゲームしたり、ときどき旅行してお仕事して、という内容だけで終わってました。つまり、そういう作品ということです。

 それでは、本作のおおまかな内容が分かったところで感想にいきましょう。

1:5人のメインキャラクター

 最初に紹介した5人が本作の特に中心となるキャラクター。

 この中の恋愛要素は初期段階では「伊月は那由多からの告白を断っている。那由多はそれでも伊月にアタックし続けている。一方で、京も伊月が気になっていて、春斗はある出来事から京に恋する」といった感じです。

 作家という方向から彼らを見ると。伊月は天才作家と並べるくらいの作家になりたい気持ちと、自分の妹モノの作品への信念を貫き通す情熱を持っている。那由多は大好きな伊月の側にいたいから、同じ作家でいたいから小説を書いている。春斗は那由多や伊月のような才能はなく、それを羨ましく思うこともあるけど、それでも堅実に自分だけの面白い作品を作っていく職人であり続けようとする矜持を持っている。といったように、それぞれが何故小説を書くのかというスタンスが違っています。

 そして、ここで重要になってくるのが京というキャラクター。ごくごく普通の大学生である彼女は、だからこそ三人に対して平等に外の立場から言葉を与えることができる。作家同士では決して言うことのできない彼女の何気ない一言が伊月、那由多、春斗を何度救ったことか。5人の中で特に主人公とメインヒロインとなるキャラは、伊月と那由多でしょう。しかし、読者が最も共感でき感情移入できて、その成長を喜ぶことができる第二の主人公と呼べるのは間違いなくこの京でした。

 最後に伊月の義理の妹でありながら、弟と偽っている千尋。彼女に関してはタイトルや内容に大きく関わってくる子ですのでここでは多く語れません。

 というわけで、まずは1つ。ここの五人の関係性がどのように進展していくのか、これが1巻からの楽しみになってわたしは読んでいました。

 またわたしは本作のアニメを先に見ていて、そこで可児ちゃんを好きになって読み出した作品でしたので、1巻からずっと可児ちゃんを追っていたりもしましたね。作家である理由すら伊月が好きだから、の一言で片付けてしまう子で良くも悪くも一途過ぎるんですよね。なのでそれが可愛い反面で、伊月の行動一つで暴走する可能性も秘めていて。なので伊月と可児ちゃんの一挙一動にドキドキハラハラしながらも、期待通りに暴走してくれると嬉しかったりして、可児ちゃんを見ている時間はとにかく幸せでした。

 

2:個性的なキャラクターたち

 5人だけでもお腹いっぱいな関係性。

 しかし、ここにさらに加わってくるのがドSな敏腕税理士・大野アシュリー、お尻大好きなイラストレーター・恵那刹那、パンツ大好きな漫画家・三国山蚕、伊月の担当編集・土岐健次郎、先輩ベテラン作家の海津真騎奈などなどのキャラクター。

 アシュリーさんは最初こそコメディ要員の側面が強かったですが、海津さんを含めた過去話などが掘り下げられてからは可愛いヒロインとしての魅力がどんどん増したきましたね。刹那と蚕は見て分かる通りのシモネタ枠というか、妹バカな伊月やすぐに全裸になりたがる那由多などと合わせてこの作品のえっちなサービス展開に大きく寄与してきます。土岐さんは編集者として作品の作家モノとしての側面で肝になる人物。

 さらに6巻からは新人賞受賞作家で6人ものキャラクターが登場してきます。これまたクセモノ揃いで、しかし誰もがきちんと掘り下げられて決してただのサブキャラクターとは言えない魅力で作品を彩っていました。

 この辺りの細かい人物像は実際に作品を見てもらわないことには伝えきれない部分がありますね。ただ、群像劇である作品はその誰もが主人公と言えるそれぞれの物語と個性を持っていて様々なドラマを生み出していくので、その誰からも目が離せなくなります。そういう魅力を持ったキャラたちです。なので読めば間違いなく好きなキャラクターができることでしょう。

 

3:創作モノならではの現実とフィクション

 本作は創作モノとして、ラノベ作家をテーマに扱うラノベになっています。

 そこで、作者自身の作家としての実体験を踏まえた、作家や編集者の仕事、コミカライズやアニメ制作の進み方といった内容が非常に現実に即して描かれていました。しかし現実的だからといってこれが全て真面目に職業解説するというわけではなく、ときにはコミカルに「作家の実情なんてこんなもんですわ笑」みたいな書かれ方をしている部分も見受けられました。

 また一方で「作家たるもの自分の信念は作品で語る!」といった創作モノ特有の熱量は、この作品自体が創作物だからこそ生み出せるものだと個人的には思っていたのですが。本作はここでキャラクターの持つこういった信念にもまた、作者自身が作家だからこそ分かる現実にある気持ちの重みが感じられました。

 このようにした現実らしさとフィクションらしさの書き分けが絶妙な作品だったと思います。文字通りに、現実味っぽいけどフィクション、としか言い表せない不思議な味わいがありました。

 また、真面目に職業解説をするパートにおいては小説家、編集者、漫画家、アニメーター、税理士などなど様々な職業に関して純粋に学びになることが多くありました。特に中心となる小説家と編集者の部分では、それぞれの立場や在り方、作品への向き合い方、ライトノベル市場の現在などなどの内容が丁寧に描かれており、実際に一読者としてラノベというコンテンツに関わる自分自身に「ラノベってこんな風にしてできてるんだってよ。おまえどう思う?」と自問自答しては省みることが何度もありました。

 

4:作家のお遊び

 この作品の現実っぽくもあり、フィクションっぽくもあるという雰囲気形成において大きな役割を果たしていたと思う要素がいくつかあります。それが「ボードゲーム」と「旅行」、そして「パロネタ」です。 

 最初のあらすじで言ったように1巻では駄弁ってボードゲームして旅行したら大体の内容が終わってます。これは先ほどにも言ったように「作家の実情なんてこんなもんですわ笑」というコミカルに描く現実なのだと思います。しかしコミカルに書かれているからこそ、この作家のフリーダムさは読者にとってどこか遠くのフィクションっぽくも感じられる。本当に絶妙なんですよ。

 そしてボードゲームや旅行というのは本作の形式に非常にマッチしていたことが面白さへ繋がっていたと思います。群像劇と銘打つこの作品は短編形式で描かれ1つ1つの話は短く区切られています。そのため物語の本筋から外れた内容も入れやすい。するとボードゲームや旅行という小話がしばしば入ってくるのです。

 ボードゲームTRPGだったり、海外のボードゲームだったり。主にアナログゲームを行っていて、これらのゲームの多くが言葉遊び、頭を使う内容になっていました。これは作者自身が実際に遊んだ経験を元にしているようで、作家同士だとこういうので遊ぶことがあって楽しいんだ、というのがすごいよく伝わってきました。作者が自分自身の好きなことを書いている、そういう部分って読んでいる側も楽しくなりますよね。なのでゲームそのものが読んでいてすごく面白いですし、京や千尋といった作家じゃないキャラがそのゲームをやっていることで読者としても自分も参加しているような気持ちになれて楽しい。初耳なゲームも数多くあって、わたしにこんなゲームをできる友達がいたらやってみたいって思いました。

 一方で、旅行という観点では1巻から沖縄行ったり北海道行ったりしていまして。これが作家という比較的自由度の高い職業ならではのフリーダムさであり、同時に群像劇としてのネタの幅広さに繋がってきていたと思っています。そして実在の場所、実在の料理といったものが描かれると「わたしもこの場所行きたい~!」「これ食べたい~!」という楽しみもできます。とはいえ、お酒関連の部分はわたし全然お酒飲んでいないので分からないことだらけでしたけどね笑。ただ、これも分かる人には魅力的に見えることでしょう。

 最後に「パロネタ」という点について。これは実在の作家とその作品をネタにするという意味だと思ってください。例えば平坂先生自身をネタにすることもありますが、その他の有名ラノベ作家の名前もバンバン出してきます。しかしこれはただの笑いを取るための内容ではなく。実際の作者の名前を出すことで、作家同士の日常のコミュニケーションや空気感、他の作者から聞いた体験談を自然に作品に組み込むことにも一役買っていたように思えます。これもまた現実なお話だけど、現実っぽくない点ですね。

 

さいごに

 この作品の感想をまとめるの難しいですね……。

 ちょっと、言ったことをざっくりまとめますと。

 全員主人公と言えるほどの個性的なキャラクターたちが大好き! 可児ちゃんかわええ! ボードゲームや旅行、飯テロ見てると楽しそうって思う! ラノベ読者としてラノベ業界のことを知って、自分自身を見直すことになった! そして何よりも様々な要素が総合的に組み合わさることで創作モノのラノベとして真面目になりすぎない、お堅くなりすぎない、けれど作家の実情をこれ以上無く真面目で現実的に描くフィクションというこの作品にしかできない独特な世界を構築するのがすごすぎる!

 といった感じでしょうか? もっとざっくりまとめるなら、面白くない部分がない! ってことですね。

 もしかしたら実際に作品を読んだ人にしか伝わらないかもしれません(ごめんなさい)。ただもしもこれを見て気になったという方がいるなら、個人的に一つだけ言っておきたいのが、この作品はアニメも見てから読んだ方が良いということです。作者の実体験が多く組み込まれている作品なので、アニメ化以降の巻ではこのアニメに関わるお話も多々あったりします。なのでアニメを知っていて読んだ方が楽しめると思います。またアニメのOPやEDが内容にめちゃくちゃマッチしているので、これをBGMにして読むと本作を更に楽しめます。

 

 という感じで、今回の感想はこのくらいで。

 気になった方は是非、以下に1巻のリンクを貼っておくのでチェックしてみてください。

 また平坂先生、カントク先生のコンビで現在「変人のサラダボウル」というシリーズを3巻まで刊行中です。こちらもまた個性的すぎるキャラクターの群像劇でめちゃくちゃ面白いです。 

 

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