ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

2023年の最高傑作について語るだけの記事【新作ラノベ感想part57+α】

 2023年の初っ端にやってきた最高傑作。

 

 Mother D.O.G (画像はAmazonリンク)

Mother D.O.G (電撃文庫)

 

 既に感想記事を書いていますが。(感想記事はこちらから。)

 

 あれから少し時間が経って、思いました。

 あんな感想で言いたいことを言い切ることができたのかと。

 いや、無理だ。あの程度でこの作品を読んで得られた興奮を吐き出せているわけがない!

 

 というわけで感想追記です。

 ※以下多大なネタバレを含む1万字弱の文章があります。

 

 

 今回はもう作品を1から追っていきましょう。

 初見で読んでいたときの気持ちと、今こうして感想追記をするくらいに好きになっている気持ちを織り交ぜながらいきます。感想も本作を読み返しながら書きますよ。




 まず、読む前のわたし。

 当然あらすじを読んだわけですよ。

 

 生体兵器の化け物が溢れ出した世界で、化け物たちが猟奇的な殺人事件を起こしていると。そして夜子とサトルの二人はそれを殺している。夜子は全ての化け物を生み出した存在で……。

 

 そんな感じの情報を得るわけです。

 この時点で「お?」となるわけじゃないですか!

 自分のせいで世界中に溢れた異形、それを殺して回る。こんな設定を見て惹かれないわけがないんだから。

 

 とある雪の妖精が大好きなわたしだ。街中に異能力者を生み出してしまった。その能力を全て空に還すために1人孤独を抱えた少女。

 わたしの原点の一つ。

 

 さらに世界中に溢れた化け物を殺し尽くして最後には自分自身も殺そうとする男の物語も大好きだ。決して誰にも理解などされず、殺人鬼として化け物として非難されようと揺るがない覚悟で殺し続けた生き様に惚れないわけがない。

 

 そんなわたしだから、このMother D.O.Gに期待を感じていましたよね。(この期待は今こうして余裕で飛び越えてきてるんですけど)





 とにかく。

 いざ実読ということで、読み始めるわけですよ。

 最初は口絵。美麗なイラストににっこり。ここは、まぁ、普通に過ぎていく。

 

 本編に入る。

 

 最初に状況説明から。

 レストランで食事をしているケイトという女性警察官。彼女の前にいるのは10歳ほどに見えるゴスロリ装束の少女・夜子と、顔に大きなツギハギを持つフランケンシュタインのような青年・サトルの二人。夜子は尋常じゃないほどの食事をしていて、一方でサトルは全く食事を取らない。

 

 最初は、あらすじにいなかった人の視点(三人称でケイト寄りの文章)に少し違和感を感じていたけれど、少しすれば分かりますね。こうして外の視点で見ている方が、いかに夜子とサトルが不可解な存在なのかが明確に見える。

 初見で読んでいたときはそこまで意識してはいなかったけれど、こうして振り返ると”人外”を描くのに非常に上手い方法だと思わされますよね。

 

 ともあれ、そんな食事風景から始まって少しすると本題に入ります。

 

 ケイトの暮らす国にて奇妙な殺人事件が横行していた。

 そして、その事件を追うケイトのバディであった警察官のアンディもその被害にあって殺されてしまった。犯人は異形の化け物だった。ケイトもまた襲われそうになっていたところを、夜子とサトルがやってきて化け物を撃退する――同じような常識外の力で。二人はその化け物を追ってやって来たといい、一夜明けた現在ケイトが二人に事情徴収をしていると。

 

 ようやくあらすじに述べられていた内容に入ってきました。

 

 夜子とサトルは語る。

 化け物の正体は、”特殊な細胞”を与えて生み出した生体兵器、「D.O.G」と呼ばれるモノであると。二人が所属する組織により研究所や工場は破壊されたのだが、世の中にあふれ出してしまったD.O.Gが少なからずいて、二人はそれを殺すために世界中を巡っているのだと。

 

 ここでまず1つ。

 会話の中でケイトが発した問い。

 二人もまた同様に化け物であるのか? と。

 これに対して二人はD.O.Gであることは認めるも、怪物ではないという。自分たちは人を襲ったりはしない、人を襲う化け物を殺す者だと。

 

 うん、いいですよね。こういう生物的には完全に化け物であっても、その生き方や心は人間であろうとするのって。これだけでそのキャラの軸というか、根本というかが見えるわけじゃ無いですか。そして、そのキャラの根本が「普通の人間じゃない」に繋がっているのは、もう強いです。

 ここまでで開始40ページ。

 

 初見で読んでいたわたしは、既に「これは好きな雰囲気あるわ……」と思わされていました。序盤の掴みは完璧でしたね。

 

 そして、今振り返ってみると分かる。ここまでただレストランで食事して事情徴収をしているだけのシーン。言ってしまえば日常パートとそう変わらないわけですよ。何でもない場面なのに「人外」をテーマにしている作品であることをしっかり示して、その人外であるところの夜子とサトルにしっかり読者を惹きつけているのがすごいですよね。



 食事を終えたら事件解決に繰り出す……、わけではなく。

 とりあえず、ぶらぶら歩き出しました。

 

 ケイトは当然聞きます、こんなことしている場合なのかと。

 それに対しての夜子からの返答は「D.O.Gは普段は人間に紛れて生きている」「能力を使うときだけ化け物の姿となる」「自分はD.O.Gがその本性を現しているときにはその気配を捉えることができる」というもの。まとめると「化け物が暴れ出すまでは何もできない」という。

 端的に、かつ不自然無くD.O.Gという存在の設定を足してきました。

 

 さらにこの会話からケイトが「誰かが襲われるまで待つなんて、それは正義なのか?」と問うことで、それに対する返答でまたも夜子たちのキャラ性を掘り下げることもできる。

 

 夜子は「自分たちはD.O.Gを殺すだけで、そのために誰が被害にあっても構わない」と。

 

 そんな夜子をフォローするようにサトルはこっそりケイトに言う。「夜子は本心では誰よりもD.O.Gを憎んでいる」「本当はD.O.Gが誰かを傷つけるたびに心を痛めている」そして「だからこそ、彼女は自分の命を張ってD.O.Gと戦っていて、その戦いには誰も巻き込まないために他人から嫌われるような発言をしている」と。

 

 あー、好き!

 ここだけで夜子さんのキャラ性を掘り下げて、さらにそんな彼女の側にいるサトルが夜子のことを誰より理解している特別な相棒であることを見せるわけですよ。

 それだけでなく、そんなに夜子のことをよく見ているサトル、二人の関係はどういうものだと聞かれて「自分はD.O.Gに殺されかけたところを、夜子さんに助けられた」「そのときに命を繋ぐためにD.O.Gになった」と言うわけですよ。

 

 さらにサトルの話は続いて。

 ここまでの話を総合して、

 

 「だから、夜子さんのことを嫌いになってあげてください」

 

 ですからね。

 いや、もうダメでしょ。

 ケイトに話をしたのは誤解をされたくないからで、誤解が解けたなら夜子さんは嫌われたいと思っているのだから嫌いになってあげてくださいって。自分にとっては夜子さんの意思が全てに優先されるって。夜子さんを愛してるからって。自分の心も体も夜子さんのもんだからって。

 

 サトル、お前カッコよすぎか!?

 こういうことサラッと言える男は惚れる!

 

 てか、もはや無駄が一切ないじゃん!

 まだ序盤の60ページとかですよ? 複雑なことは何も無く、自然な流れで、分かりやすく設定とキャラの魅力を出していくのなんなの!?

 もうこんなの夜子とサトルという二人だけの特別な関係性を惜しむこと無くどんどん出していくからなって宣戦布告をするのかのようじゃん。

 もうこの時点でわたしは「惹かれている」ではなく「のめり込んでいる」になっていましたよね。

 

 あと、ここで語られる内容で。

 夜子さんは見た目こそ幼いけど、実年齢はかなり行ってるという。生体兵器だから成長しないっていう。

 「異種族特性故に体が成長できない女の子」フェチのわたしにぶっささってくる内容もぶちこんできましたからね?

 ここで「ウラッシャあぁぁぁぁああああああ!!!!!」とか叫んだのはもはや言うまでもないこと。

 

 そこからは今度こそ事件解決に動くわけで。

 事件の犯人は実はケイトだったとか、色々あるわけですが。この辺りの内容は割愛して。

 

 ここで言いたいのはサトルと夜子の作戦について。

 夜子はケイトの家で疲れたから寝るといって、サトルは一人で外の見回りをすると言って、一旦別行動をするわけですね。

 

 また、ここでさりげなくサトルは「自分に睡眠も食事も必要ないですから」といって、さらに「自分の分も夜子さんが食べてるから」なんて匂わせる発言をしてまして、それは一旦置いておく。

 

 これはケイトが犯人であった場合、ケイトが犯人に狙われる場合、どちらにしても隙を見せるためだと。そして、実際にケイトが犯人で眠っていた夜子を殺すわけですが……、ここがまたいいんですよ!

 

 実は夜子は再生能力持ちだから、死なない。

っていう、死なないから死んでもいい囮になるっていう、この異形の能力を前提にしている作戦っていうのがいいんですよ。

 当たり前の話だけど、特殊能力を持っているから、その能力を前提にした戦いをするっていう、それだけでそのキャラの良さが発揮されるんですよ。

 あとはそれがどれだけインパクトがあるかという話で、やはり「死んでも死なないから、とりあえず死ねるよね」っていうのは強い考え方ですよ。だって、普通できないもの。再生できるから、生き返れるからと言って簡単に命を捨てるなんて普通じゃない。

 だからこれって、この前にサトルが話していた「夜子さんは自分の命を張って戦っている」というセリフを実践してみせているんだよね、言葉だけでなく行動で見せてるんだよ。文字通りに命を捨てて。これだけで夜子さんとサトルへの好感度がどんどん増していくの。

 

 そして本性を現したケイトに対しての戦い方も同じく、サトルが人狼となったケイトの爪にあえて胴体串刺しにされて押さえ込み、その間に夜子が始末するという。サトルもちゃんと体を張ってるのがもう本当に好き!!

 

 更にそんな好きに興奮しているわたしに追い打ちをかけるように夜子は再生できるけど、痛みは普通に感じるとか言う性癖すぎる設定を投げ込んでくると!!

 

 それだけでは終わらない!

 最後の夜子とケイトの会話。

 夜子の「お前の正義を他人に押し付けるな」という激昂からの、ケイトの「あなたに他人を裁く権利があるのか!?」という問いに対しての夜子の「全てのD.O.Gは自分から生まれたからこそ自分が始末を付ける」という、わたしが望んでいた通りの答え!

 全てのD.O.Gは初の実験成功体である夜子の細胞を移植した人間なのだと!

 待ってました! ありがとうございます! MotherD.O.Gのタイトル回収キタァ! うわぁうわぁヤバい! 大興奮!

 

 そして、まだだ! ここで終わらない!!!

 

 戦いが終わった直後で、サトルが夜子を食べるという衝撃展開!

 直前の「自分の分も夜子さんが食べている」という発言、それより前の「自分の心も体も夜子さんのものだから」という発言を回収! 文字通りにサトルの命は夜子でできていると分かって二人だけの関係性の切り離せないものを感じてさらにD.O.Gというものの在り方に踏み込む! 夜子の細胞を移植したサトルには、夜子の肉体を物理的に摂取しないと生きていられないんだって! あーもうゾクゾクするね、最高じゃないですか! というか一つの行為にこれほどまでに普通じゃないことの意味を込められるか普通?

 人外好きをどこまで興奮させれば気がするんだこの作品!! 




 あー、素晴らしかった……。

 これは最高だ……。

 

 え、これまだ最初の1話が終わっただけ?

 もう1冊読み切ったような気分なんだけど? 




 と、初見のわたしはこの100ページほどの時点で「この作品めっちゃ好き! 続きも早く読みたい!」になっていたわけです。

 

 さらにここで初めて本作が中編連作のオムニバス形式であることにも気づいて、じゃああとまだ2つもお話楽しめる? って知ると、もう完敗ですよね。

 

 キャラと設定で殴る!

 をここまで体現している作品ってそうないんじゃないですか?

 話したとおりに、100ページ程度の分量に適切な情報と設定とキャラの感情を無駄なく詰め込んでいるんですよ。人外であること、そのテーマに真っ直ぐ。だからこそ、こうして異種族人外好きのわたしのツボにしっかり刺さる要素しか出てきていない。

 こんなの強すぎる。

 期待をして読み始めたとはいえ、余裕でそれを越えてきてる。

 

 

 そんな風に第1話だけで思ったところで、第2話にいきましょう。

 

 ここからもまだまだ魅力満載ですよ。

 既に十分すぎるほどに設定と関係性を掘り下げている夜子とサトル、読者がこれ以上なく興味を持っている状態で始まる物語、そんなのは言うまでもなくオーバーキルになるんだ。




 第2話は要約すると。

 とあるD.O.G殲滅部隊(D.O.Gではない普通の兵隊)が1匹のD.O.Gを取り逃がしてしまったという連絡を受けて、夜子とサトルが助力にやってきた、というお話です。

 

 第1話が夜子とサトルのスタンス、生き様を描くものだとしたら。

 ここで主に描かれるのは夜子とサトルが周囲からどう見られているのか。

 

 D.O.G殲滅部隊の人々からすると、D.O.Gの生みの親である夜子がいなければ自分たちがこんな化け物と戦う必要なんてないのに、と思うでしょう。一体どの面下げて夜子は協力する、だなんて言うのかと。

 そんな風な悪態や陰口、風評を終始感じさせながら話が進みます。

 

 で、まずは開始早々に設定の補足説明。

 D.O.Gは全て、夜子の細胞から生まれていると1話で話していて。だからこそD.O.Gたちは夜子に自然と惹かれてしまう、逆に夜子はD.O.Gの気配を感じることができる、と。

 あー、なるほどね! って思いました。最初はてっきりD.O.G同士は何らかの気配を感じ合うのかと思っていたんだけど、そうでなく夜子を中心になっているんだって。

 あくまで全てのD.O.Gが夜子に繋がる、という部分でD.O.Gの母たる夜子の特別さが増してきました。

 

 そこからは最初に述べたような、部隊と行動を共にしていくわけですが。その中ではどことなくコメディな雰囲気があったり、またもや夜子さんの大食いシーンがあったりで、しばしほのぼの。

 化け物を殺すというシリアスなお話なだけに、こういう部分で気を緩めることができるのは、個人的には読みやすくて好きですよね。

 1話も日常パートから入ることで自然な会話で設定説明をしていましたし、こういう日常パートにも意味を入れるという表現が本当に上手だと思いますよ。



 そして、食事中にはそこの食堂で働いているフェイという1人の女の子がいて。

 彼女は伯母さんの家である食堂のお手伝いをしていて、父親はテロ被害にあった町にいるのだと。見るからに伏線っぽい話をしますよね。

 まぁ、結論から言えばこの子の父親が今回の目的のD.O.Gだったわけですが。オムニバス形式らしいこういう1話の短い尺での伏線回収はちょっと予想しやすいところがありますね。

 

 ただ、ここで言及するとしたら、化け物であってもただ化け物なだけではないと。少女の父親としての側面も知ってしまって、それでも夜子とサトルは彼を殺すしかなかった、そう考えたときの僅かな良心の呵責、みたいなものが化け物であるか人間であるかという部分に問いかけをしているみたいに感じるんですよね。

 大きな枠では、この第2話は最初に言ったように夜子たちが周囲からどう見られているか、が主題ですが。こういい小さな部分に副題として汲み入れているものも上手い塩梅になってます。

 1話で2度美味しい、その2度はどちらも夜子たちが化け物であることに通じる内容、ってのがいいですよね。



 さて、先に結論を話してしまいましたが話を戻して。



 日常パートを終えると、改めて戦闘パートに向かうわけですね。

今回のD.O.Gは目に見えないらしいと。そんな情報共有をしながら、プラス1の設定説明。

 D.O.Gは夜子の細胞を移植されて、特殊能力を持つことができるのだから、その能力としては細胞を変質させることでできる範囲でしかあり得ないというもの。

 例えば、空を飛ぶ能力、姿を消す能力、のようなものがあるとしてもそれは魔法のようにできるわけではなく、そういうことができる体に変質させることで結果としてできると。カメレオンのような体になれば透明化もできるでしょう、そんな話。

 

 2話の中盤。

 このあたりまで来るともう設定説明、補足があるだけで次々にあーなるほど、上手いなぁ、って思いながらワクワクして読めるんですよね。

 そしてこうしたD.O.Gが持つ特殊能力に関する言及がされることで、異能バトル的な面白さも加わってくる。1話同様に夜子は再生能力のある自分の命を盾にしながら、相手のD.O.Gの特性が何なのかを見極める展開になるわけですよ。まさしく異能バトルらしい感じじゃないですか。

 

 そして今回の肝はこの夜子さんの命の貼り方、にあるわけですよ。

 

 1話でサトルが言ってたこと。

 「夜子さんは本当はD.O.Gが誰かを傷つけるたびに心を痛めている」

 これを今度は魅せてくれたんですよ!

 

 夜子は最初こそ、部隊の人たちを嘲るように、戦いから逃げたらどうかなんて言うわけですが。もちろんこれは自分たち戦いに巻き込みたくないから。

 しかし、部隊はその提案を突っぱねる。彼らにも仲間がやられて引き下がれないという想いがあったりもした。

 だから、夜子さんはその気持ちを汲み取って部隊にこれ以上は下がれなんて言わなかった。でも、彼女は分かっている、普通の人間じゃ必ずD.O.G相手に無事ではいられないと。

 

 ならどうするか。

 簡単な話、夜子は自分が盾になることを選ぶわけですよ。

 本当に、もう。ここまで死なないからって自分を捨て石にできるのすごいですよ。そしてこういう行動だけで、夜子が他のD.O.Gとは違うこと、誰よりもD.O.Gを疎んでいること、そんなD.O.Gたちの被害にあう人を生み出したくないという意志がしっかり伝わってくる!

 

 そして、同時にそんな夜子のことを理解した上で側にいるサトルの株もぐんぐん上がる。

 

 さらに1話でちらっと言われた、夜子の再生能力があるだけで痛みは普通にある、みたいな設定がここでめちゃくちゃ生きてくるんだよ!

 何度も何度も部隊の人たちの盾となる夜子、おそらくはそんな風に戦い続けているからある程度は感覚が麻痺しているでしょうが、痛いものは痛いんですよね。

 そんな夜子の心情が、部隊の人々の「だって、あんた泣いてるじゃねぇか」というセリフで魅せられる、マジで好き!

 「痛いんだししょうがないでしょ」の一言で切り捨てる夜子だけど、もう彼女の覚悟と生き様をこれ以上なく感じられてヤバいのよ!

 

 このシーン特に挿絵がないんだけど、無意識の涙を流しながら戦う夜子の姿が目に浮かんだからね。なんなら、最初の口絵が勝手に頭の中で涙アリに変換されたりもしてた。

 

 そしてそんな夜子の無言の覚悟を見ることで、それまで彼女に陰口を言っていた部隊の人々の心が変わるわけですよ。

 シンプルな展開と分かりやすい感情、設定で殴る! この作品最大最強の武器はこの2話でも存分に発揮されている!

 

 ここで追い打ちをかけるように、夜子の再生能力には限界があることが明らかになる。

 彼女の再生能力は単純にエネルギーを消費するもので、そのエネルギー源は言うまでもない食事。食わなきゃ再生はできないと。

 サトルに自分の体を食わせるのを考えると予想はできた範疇だけど、上手いよね! あくまでこれが生体兵器、生物の枠組みでできる能力っていうのを補強しつつ戦いに緊迫感を生み出しているのよ!

 さらに、これまでの日常パートの大食いシーンにも意味が生まれるの。日常の中でこういう伏線張っておくのはやっぱり上手いし、何よりも普通じゃない生き物らしさが強調されてて本当に好きなんですよ。




 そして、戦闘残り時間(夜子が盾になれる限界が近い)がほとんどないことが分かって焦る一同。

 そこで部隊長の人が言うんですよ、サトルに向かって「お前が彼女を守らなくてどうするんだ!」って。それまで夜子に不信感を持っていた人のセリフとは思えない、やっぱり部隊の人々も夜子に感情移入しちゃってるんだと分かる一言。

 グッとくるわ、こういうの。

 

 最後の決着はサトルが能力を解放して終わりますけど。

 そのサトルの力。彼は他のD.O.G以上に夜子の細胞がないと生きられない(夜子を食べなきゃいけない)くらいで、そんな彼だからこそ逆に夜子の肉体を必要以上に食べ過ぎることで爆発的な身体能力を得られると。

 そんなわけでまたサトルが夜子を食べるんですが、なんかもう堪らんよね……!

 人間として生きている二人が見せるこれ以上ないほどの怪物らしい一面。サトル自身も内心では夜子を必要以上に食べることを忌避しているけれど、そうせざるをえない。そんな人外だからこその二律背反は見てるだけで興奮するの!

 

 これで第2話が終わり……。

 と思いきや、ここでもダメ押しのワンシーンを入れてくるのがこの作品よ。

 D.O.Gを殺す部隊なんてものに所属している部隊長の慟哭とそれに対するサトルの返答。この話でサトルがD.O.Gを殺したときに感じた良心の呵責と同じものを、この部隊長も持っていて、それで締められることでこの第2話はやっぱり「周囲の人たちがD.O.Gをどう思ってるか」に着地させた感じですよね。

 上手い。

 

 それはそうと、夜子さんをお姫様抱っこして去っていくサトルカッコ良すぎる!

マジでイケメンだな。夜子さんを世界中の誰よりも愛してるって感じがバリバリに伝わってくるのよ。自分が戦ってる理由すらもそんな「私情」って断言できるくらいですし。

 やっぱりね、好きな人、自分が大切にしたい人がいるなら、その気持ちをしっかり見せなきゃ駄目だよ。もちろん言葉だけでなく、行動も含めて。

 それがしっかりできているサトルはカッコいいんだよ、その生き様や怪物であることに誰がなんと言おうともサトルはそのままでいい。




 と、そんな感じで2話目の感想は終わりかな。



 あとは最後の1話。

 サトルと夜子の出会いの話ですね。

 ここまでの2話で存分にその関係性の太さを見せつけてくれた二人の出会い、気になって仕方ない部分までしっかり描いていた。

 それだけで満足感ヤバイよね。

 1話で1巻分の満足感を得られたといったけど、ここまでくると1冊で3巻分くらいの満足感があるかもしれないね。

 いや、冷静になれば1話1話は中編というくらいには短いし、文量はめちゃくちゃ少ないのだけど、それを感じないくらいに中身が濃い。それは逆に中編という短い中だからこそ、と言えるかもしれないけど。何度も言ってるけど、無駄がないんだよ、この作品には。出し惜しみなく、細部までこだわってるんじゃないかと思えます。



 さて、そんな前置きは脇に。

 改めて第3話を振り返りましょう。





 まず、最初。

 お決まりの食事パートです。

 

 「ラーメン特盛 ゼンブマシマシ」

 

 なんていう夜子さんに発言からスタート。

 もはやこの辺りになると夜子さんの大食いを微笑ましく見守ることができますね。可愛い。

 店主のおじさんと「お嬢ちゃん、そいつは冗談や遊びで食うもんじゃねぇぞ?」「私は客よ。食べないことが客失格なら、頼まれたものを客に出さないあなたは料理人失格よ」なんて会話も挟みながらほのぼの空間が広がります。

 

 実際ラーメン特盛食べ始めてからは「料理は提供された瞬間が最も完成された状態なのだから、出来立てを食べることが真に料理を味わうこと」なんて夜子さんの格言を聞けたりしますね。



 そして本題は過去話。

 ラーメン屋の店主が昔にも彼女のような少女が同じような大食いをしていたな、さらにはその少女に自分の作った賄い丼を食わせていた「あいつ」――言うまでもないサトルのことですね――がいたんだ、なんて思う様子が地の文で描かれます。

 お店から出た夜子とサトルは、このラーメン屋も変わらないね、なんて話をして。その後サトルは自分の墓参りに向かって、そこで過去回想パートに移行する感じですね。



 ラーメン屋の店主が思い返していた通り、D.O.Gになる前のサトル――当時大学生だった樹知(いつき さとる)はラーメン屋でアルバイトをしていたと。

 そのお店で夜子と出会う。

 ラーメン屋の外で3時のおやつを探してお腹を好かせていたそうな。夜子さん、可愛い。

 そして店主が回想していた通りに賄い丼を食わせたりしたと。

 

 とはいえ、夜子もただ飯を食うために彷徨っていたわけではなく。

 とある人物の家族を探していたらしい。

 その人物が樹朝子――サトルの母親。

 

 そういうわけで、場面は変わって樹家の食卓。

 夜子さんも混ざっての場で改めて話を聞くと、樹の母親である朝子はとある施設にいた夜子の面倒をみてくれていたのだという。施設とは、まぁ、いうまでもないね。樹のお母さんはそういう研究者だったらしいです。

 そして、自分の母親も同然にお世話になった朝子が亡くなったという話を聞いて、それが本当なのか確かめるために夜子はその家族を探していたのだと。実際に朝子が亡くなっている話を聞くと静かに涙を流していた夜子さん。

 

 さて、その後も食卓では朝子と夜子の話題を中心に会話が弾むわけですが。

 

 ここでプチ情報。

 とりあえず、この時点で夜子さんは27歳だったみたいです。

 普通にママ味を感じる年齢だから、ちょっとヤバいですね。これがもう何十年も生きてるとかいうと、ママ味からは離れるけど。27歳……、(あとで分かるけどこれは9年前の回想らしいので)現在では36歳。マジで普通にママ味を感じる。オギャりたくなるわ。やっぱり幼い見た目で母性のギャップって組み合わせは強いんだよ。

 

 その後。

 夜中にふと目が覚めたサトルと、小腹が空いた夜子さん、二人きりの会話パートになります。

 ……また食事だ。初見ではそこまで意識してませんでしたが、こうして改めて読み返しながらこの感想書いてると、本当に夜子さんめっちゃ食うなと思いますね。それがただ字面として多いだけでなく、この作中の食事回数だけで見てもよく分かるというのがね(笑)

 

 さて、閑話休題

 真夜中の会話をざっくり要約すれば。

 夜子さんは人体実験をしている施設にいて、そこの被検体だったわけだけど。朝子はそんな彼女を実の娘のように可愛がってくれ、夜子という名前も彼女からもらって、だから自分も本当の母親のように慕っていたのだと。そんな朝子との関わりが夜子さんの「人間」らしさの根底にあるのだと。

 そんな感じ。ありがちなやつですね! こういう実験施設で被検体にも普通に接してくれる人がいて、被検体が人らしい心を手に入れるというお話。何度見たか分からないけど、でも好き、こういうの!

 

 それから。

 母親だった朝子を失って、家族を失ったことが悲しいと独白する夜子に対してサトルは言うのですよ。

 自分たちを家族と思ってくれたらいい、って。自分の母親が娘のように可愛がっていた人なら、自分にとっては姉も同然だと。

 サトルくんのカッコいい発言はD.O.Gになる前からあったみたいですね。サラッとこういうの言えるのズルいわ〜!

 

 とはいえ、そう言われた夜子さんは「自分は怪物なんだから、そんなふうに言われる資格はない」のだと言い始めるけど。

 

 そこにサトルのお父さんもやってきて「そんなの関係ないだろ」と。夜子が朝子を母親と思っていたように、人間と化け物が家族になるのなんて簡単なことだと。

 あー、はい。サトルくんのサラッとカッコいいセリフを言えるのは遺伝でしたね!

 

 なんやかんやで家族とは、みたいなハートフルな話をしていたわけですね。

 

 それからしばらく夜子さんは新しい家族との日々を過ごすのですが、そんなほのぼのタイムは唐突に終わりを迎えます。

 

 ええ、D.O.Gがやってくるのです。

 サトルの家族が全員……。

 

 D.O.Gがサトルの家にやってきたのは、D.O.Gの母親たる夜子を探しての行動。

 そしてサトルの家族を殺したのに、理由は特にない。

 

 そんな状況を見た夜子の心中たるや。

 化け物の自分を家族だと言ってくれる人たちが、自分のせいで殺されてしまった。

 その一言だけで夜子の悲しみと怒りは察せるでしょうね。同時にD.O.Gの戦いに誰かを巻き込みたくない、誰もD.O.Gに殺させはしない、とこれまでの2つの話で文字通りに命をかけて戦っていた覚悟の根本。

 これより以前がどうだったのかは分からないにしても、この件をきっかけに夜子のその気持ちが増したのは間違いないでしょうね。

 直後のサトルたちを殺したD.O.Gとの戦いは、夜子が怒りをぶつけるだけの凄惨なもの……。本当に辛い……。



 そして、この一件で。

 夜子がどうにかしてサトルたち家族を救おうとして、自分の細胞を分け与えることでなんとか一命をとりとめたのがサトルだったという話。

 D.O.Gを生み出す危険性を誰より分かっていて、D.O.Gを自ら殺して回っている夜子が、サトルをD.O.Gにすることでしか助けられないと、どうか助けてほしいと涙を流すシーンは胸にめちゃくちゃ刺さりました。

 本当に、こういう化け物の抱える矛盾を見せられれば見せられるほど好きになってしまうよ。

 

 個人的な意見だけど。

 人外とか異種族っていうのは、その行動や思考にどれだけその「自分が普通じゃないという事実」が組み込まれているかが重要だと思うんですよね。

 化け物だから◯◯という考え方をする。化け物だから△△をしなければならない。化け物だけど、××は絶対にしない。みたいな。

 その積み重ねが何よりも重要。

 そういう意味ではこの作品は満点なのよ。最初から化け物であることを押し出していて、ささやかな日常描写にもその異質さや特異性をしっかり混ぜてきて、そうして化け物である夜子とサトルという人間の姿をこれ以上なく魅せてくる。

 

 本当に素晴らしいですね。



 ともあれ、3話目をまとめると。

 現在の夜子さんがサトルを大切に思っている理由、その原点にあったのは夜子とサトルの母親の繋がり、そしてこの回想で描かれたような夜子とサトル一家の邂逅があったわけと。さらにサトルがD.O.Gとなった痛ましき事件が明かされ、そんな背景を背負った二人だからこその1話や2話だったんだなと思わされるものでした。

 と、そんな感じ。




 そして、現在に戻って最後の一押し。

 自分の墓参りをするサトルの前に現れたのは、家族で唯一生き残った妹。

 9年前の当時は小学生1年生で、たまたま外出していたから生き延びた少女。幼かった故に兄のことも夜子のこともほとんど覚えていない。

 

 けれどサトルは当然気づくわけで。

 しかし何も言わないままに去っていく。

 夜子が良かったの? と問えば。

 サトルは、今の妹には今の家族がいるのだと、そして自分の居場所は夜子さんの側なのだと、もうだから本当にサラッとこういうの言えるのずるすぎるというイケメン発言で終わるわけですよ。




 ……終わりです。

 

 今度こそ本当に終わり!

 いやぁ、本当に1冊の満足度じゃないですね。コレ。1冊の中で全部に重要な要素が散りばめられてるんだもの。

 内容が濃すぎる。

 そんなんだから1から振り返ったこの感想もめちゃくちゃ長くなってるし……。

 

 

 少しだけまだ感想を書くとすると、もしこの話の続きがあるなら? という部分。

 おそらく世界中の化け物を殺して回ることに関してはそれ以上もそれ以下もないと思っています。それぞれの化け物と関わる中でその周辺のストーリーに触れたりはするでしょうけど、夜子さんとサトルの信念や関係性が大きく変わることはないでしょう。変わるとしても多少のグレードアップをするかどうか。

 

 となると、注目すべきはこの二人の化け物の戦いの果てです。

 

 いわゆる化け物が同じ化け物を殺す系の作品だと、最後にはそれまで正義の味方側だった化け物だけが残ってしまい、国とか世界中から追われるみたいなパターンがまず思い浮かびますよね。あるいは、最後に生き残った化け物はひっそりどこかの秘境で生きるとか。もしくは、鷹山さんみたいに最後には自分も滅ぼすパターン。他にも色々あるとは思います。

 では、この作品の二人の場合、どこに向かうんでしょうか?

 個人的な感情だけで言うなら、二人だけでどこか遠くの地でひっそり生きててほしいとか思いますけども、なんかそういう感じではないような気もするのですよ。

 

 TwitterのFFさんと話していたことで最終的に、夜子さんは自らをサトルに全部食わせて、そのあとでもう夜子さんを食べることのできないサトルも眠るように後を追う……、みたいなのとか可能性はありそうですよね。

 ただ、これだと最後にサトルが化け物として命の幕を下ろすのが問題かもしれない。この1冊を読んだ印象では二人はきっと最後まで人間であろうとすると思うんですよね。そうなると最後にサトルが化け物として食事をする、ことはないような気がするのです。

 ただ、国とか組織がD.O.Gに対抗できる何らかの兵器ができて、生き延びるために戦い続けなければならない、みたいな状況。普通の人間であり続けるには厳しい状況とかになったら、話は変わってきそうですけど。

 しかしそれでも夜子さんとサトルは自分たちが生き延びるために、自分たちを殺そうとする人を殺すようになるとは思えないんですよね。本当にどうしようもないほど追い詰められたら、潔く自害しそうです。

 そもそも二人はD.O.Gを殺しきった後に何か望みはあるんでしょうか? 少なくとも夜子さんにはそういう未来を考えている気配はないですし、この1冊でいちばん強く見えた感情って家族に対する思いじゃないですか。そうなるとサトルが側にいてくれることで、夜子さんの心としては十分すぎるほどに満足できてるのかもしれない。そして、サトルに至っては夜子さんの意志が絶対だから彼女に何もないなら彼にもあるわけがないんですよ。

 そうなると……、やはり最後は二人で世界からフェードアウトパターンなのかなぁ……。

 

 うーん。気になる。

 二人の行く末が非常に気になる。

 しかし、こうして考える限り明るい未来は少なそう……。まぁ、設定が設定だしね。そういう意味ではこの1巻ってかなり綺麗にまとまってるんだと思います。読後感がすごく良い。

 ともあれ、2巻とか出てくれたらめっちゃ嬉しい。

 でもこの1巻だけでも満足しかできていないので、これ以上を望むのもどうなんだろうとか思っちゃったりする。

 

 ので、この話はこれは終わりにしましょう。

 そして感想も今度こそ終わり。

 果たしてこの駄文をここまで読んだ人がいるのでしょうか?

 

 本当に誰得か分からない怪文書ができあがってしまったものだよ……。

 

 しかし、これで当初の目的だったMotherD.O.Gの余韻は吐き出し切れたと思います。少なくとも、こうして感想を書くために色々見返したことで自分の中で持て余していたものの大半は、確かな実感を持った満足感として吸収されましたし。

 やはり読んだ作品の感想を書くのは、自分の中に落とし込むのに重要ですね。

 好きな作品であればあるほどに。

 

 さて。

 長くなってしまったから締めましょう。

 

 MotherD.O.Gの感想追記は本当にこれで終わりです!