今回の感想は2023年1月のファンタジア文庫新作「VTuberのエンディング、買い取ります。」です。
※画像はAmazonリンク
あらすじ(BWより引用)
VTuberアイドルグループ『星ヶ丘ハイスクール』所属のVTuber――夢叶乃亜。
彼女を推すことに青春の全てを捧げ、V界隈でも名を馳せていた高校生の苅部業は、乃亜の魂の醜態がネット上に晒され、大炎上したことで人生が一変する。
「おれはあの夜に死んだ……」
運営から推しの臨終を告げられ絶望した業は、高校を休学し一年後VTuberの炎上ネタを扱うブロガーとして日々を過ごしていた。
そんな業の元に『自分のVTuberを炎上させてほしい』という依頼を持ち込む美少女、小鴉海那が現れ――。
「これは人助け……いえ、VTuber助けみたいなものです」
『推し』の最期をプロデュースする救済と再生の物語。
第35回ファンタジア大賞〈大賞〉受賞作!
感想
さてと。
これは一体どこから、感想を話したものですかね。
難しい。
良い悪いで言えば、間違いなく良かったです。それも”めちゃくちゃ”良かったと言えます。
ただ、上手く順序立てて説明ができないんですよね。なので、今回はまず具体的な内容に踏み込まない素直な感想を述べた上で、その補足として具体的な話をしていくことにしましょう。
というわけで、まずは漠然とした方の感想です。
「これは終わりのない闇の航海に繰り出す青年の物語だ。炎上事件で推しを失い、生きる意味を失った殉教の行く末。そこにあるのは希望か、絶望か……。
一方で、これは暗闇の中にいる誰かに救いの光を届ける物語でもあった。大切な誰かを想う純粋で温かな気持ちを、そっと寄り添うように紡ぐのだ。
これはVtuberと炎上を題材にして推しに向き合う人々の姿を紳士に描いた作品だ。
生々しく、痛ましく、狂おしい、そして何よりも優しい気持ちに溢れた登場人物たちの心を是非とも感じてみてほしい。そしてあなた自身の大好きを振り返ってみてほしい。そこには必ずあなたの胸を震わせる何かがあるはずだ。
これはそんな読者それぞれの心に呼びかける不思議な力を持ったストーリー、鎮魂歌であった」
と、言う感じでして。
これは読み終わった直後に書いた気持ちです。Twitterでツイートした文章そのままのやつです。
これは「胸に残る何かがある作品」って要約すればいいんですかね?
本作はあらすじにある通り、推しのVtuberを炎上事件で失った青年が炎上事件を取り扱うブロガーとなり、そこに自分を炎上させてほしいと望むVtuberの少女がやってくるところから始まるお話です。
そして、この少女を皮切りにこの1冊の中では1話につき1人の、合計3人のVtuberの物語を巡っていきます。オムニバス形式と言いましょうか。
その1つ1つのお話を通じて「推しを応援するファンの情熱」「亡くなった推しの回顧」「これから先の未来を生きる者たちへのエール」そういった様々な人の気持ちを描いていきます。
そしてそんな人たちとの物語を紡ぐ中で、推しを失って人生の希望を無くした主人公の持つ痛すぎる葛藤、心の変化をありありと見せるわけです。
Vtuberという電子上の存在だからこその展開や向き合い方、炎上事件。総じてVtuberというテーマに基づいたストーリーはそれだけでも十分に良いものだと思いましたが、個人的にはそれをベースにした上でそれを応援するファンの様々な心理を魅せることが本作最大の強みなんじゃないかと感じています。
苦しみ。痛み。悲しみ。といった負の感情から。
喜び。幸せ。温もり。そんな正の感情まで。
どこまでもまっすぐに描くことで常に読者の心を揺さぶってくるのです。
そして、そんな作品だからこそ闇があれば光があるもので。
本作のメインヒロインである海那ちゃん。彼女もまた主人公と同じく推しの死に向き合った少女です。そして彼女は自分と同じような悲劇を生み出したくないと行動をするようになります。
過去に縛られる主人公と対照的な未来を見るヒロイン。この陰陽の交わり、これが本当に良かったんですよ。二人の物語は読み終わると「あぁ、良かったな」って言いたくなるものがありました。
うん。わたしの感想としてはそんな感じです。たぶん。
”感情”にフォーカスして、その強みをしっかり魅せてくれた作品。だからこそ胸に残るものがあります。
非常に良い作品でした。
総評
ストーリー・・・★★★☆ (7/10)
設定世界観・・・★★★★ (8/10)
キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)
イラスト・・・★★★☆ (7/10)
次巻以降への期待・・・★★★★ (8/10)
総合評価・・・★★★★(8/10) 推しを持つ全ての人へ。その心に残る何かを残す作品でした。
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録
最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。