ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part106】飯楽園‐メシトピア‐ 崩食ソサイエティ

 今回の感想は2023年9月の電撃文庫新作「飯楽園‐メシトピア‐ 崩食ソサイエティ」です。

飯楽園―メシトピア― 崩食ソサイエティ (電撃文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 不健康⇒射殺!? やり過ぎ健康社会・日本に立ち向かえ!

 《メシトピア》――突如施行されたヘルスケア政策は、食料自給率健康寿命を改善し脚光を浴びた。
 だが、その実態は基準に満たない「不健康な食事」、そしてそれらを摂取する「不健康な人間(アディクター)」を社会から隔離・抹消する危険な命の選別だった!

 料理人を志すアディクターの少年・新島は、厚労省が率いる《食防隊》の魔の手から逃れるなか、生真面目な食防隊員の少女・矢坂弥登と出会い、ワケあって二人は禁制品であるカップ麺を口にしてしまう。

「お願い! 私もう一度、カップラーメンを食べてみたいの――!」
「おまえ食防隊だよな!?」

 それ以来、ジャンクフードの味を知った矢坂弥登が捜査と称して通い詰めてくるように!? 果たしてメシは銃よりも強いのか……?
 食と自由を巡るメシ×ディストピア! 命がけの逢瀬が幕を開ける!

 

感想

 これは、めちゃめちゃ面白かった!!!

 期待していたものを、期待以上のクオリティで、しかし決して突飛なものでない地に足付いたものとして安定した面白さをこれ以上無く見せてくれたような感じです。

 つまり、最初から最後まで大満足ってことですね!


 というわけで、本作の感想改めて。

 

 まずは概要から簡単に。

 この作品は第三次世界大戦を経た近未来の日本が舞台のお話。

 復興のための目標の一つとして掲げられたのが徹底した国民の健康食事の管理。

 食品添加物などの含まれる食材の一切を禁止し、それに違反するアディクターと呼ばれる人々は漏れなく処罰されるような世界で、厚労省の食料国防隊に所属する少女・矢阪弥登が任務に失敗し怪我したところを、アディクターの一人である信也ことニッシンから救われた一件……、それからしばしの時が経ってから物語が動き始めます。

 

 あらすじにもあるように、その一件でカップ麺の味が忘れられなくなってしまった弥登がニッシンあちアディクターの根城に乗り込んでくるわけで、そこは想像していたような笑える面白さが確かにありました。

 しかも、弥登自身が食料国防隊の中でも立場がある人間で、アディクターたちからも恐れられるような相手だからこそ、そんなやつがカップ麺食いたいからって理由だけでのこのこやって来たりするのバカなの? という、あのしらけた空気感は実にツボりました(笑)

 

 が、しかし、これはあくまで物語の導入。

 本作の中心にあるのは「食べること」と「生きること」、人が本能的に持つものでした。

 弥登がニッシンにもう一度会いたいと思ったのは「カップ麺の味が忘れられないから」だけでなく、その接頭に付く「食べなければ人は死んでしまう、そんな当たり前をその身で以て知った上で。自分を飢餓から救ってくれたのは、自分が違法だと信じて疑わなかったインスタント食品だったから」という言葉があるわけです。

 違反を取り締まる者として、本当に命を捨ててでも違法食品を食わないべきだったのか?

 世の中にはそれを食わなければ生きていけない人だっている。

 私たちが取り締まっていた者は本当に悪なのだろうか?

 と、そんな自分自身への疑念から生まれた衝動があったから、バカバカしい理由だとしても彼女はニッシンに会いに行きたいと願っていたわけです。

 

 だから、この作品が描くのはどこまで言っても「食べること」と「生きること」

 ニッシンたちアディクターと呼ばれ、弾圧されている人々がどんな思いで日々を食いしのいでいるのか。この作品世界には貧しい人々には国から栄養管理食品の支給だってあるのにそれでも苦しんで、必死になって、国が定めるルールに抗おうとする姿。果たして「生きること=ただ命があること=ただ栄養価のあるものを食べるだけ」としていいのか。

 そんな人としての本能的かつ根源的な問いかけをこの作品のような世界観だからこそ描ける形でどこまでも丁寧に細かく見せてくれた。

 これが面白くないわけないんですよ!

 だってこれ以上無く「設定」「世界観」がマッチしていて、そんな作品だからこその「キャラ」の悩みや生き様を見せてるんですから。どのキャラも発するセリフの1つ1つにちゃんと重みがあるの。これを面白いと言わずして何と言うか!

 これはもう、読んでこの作品の中にある食と生を感じてみて欲しい!

 

 それから、個人的に好きだった部分として。

 ヒロインの弥登の立ち振る舞いですよね。

 当然ですけど、彼女はそれまで何人もの犯罪者を取り締まってきて、いわばアディクターの敵なわけですから、そんな彼女がアディクターの人たちの気持ちを知りたいと言って乗り込んできても反発に合うわけですが。

 そんな中でも、決して誤魔化しの言葉は使わず。自分自身がこれまでしてきたことは間違っていなかったと、少なくともそう信じていたと言って。恨まれる覚悟だってできている、それでも今の自分はそんな過去が正しかったと知りたいからここに来たのだと。どこまでもバカ正直に、真っ直ぐ真摯に向き合える姿。

 出世も長生きもできないような人間だ、と称されるまさにその通りなんだけど、ここまで芯が強いのはもう素敵ですよ。カッコいいですよ。

 更に言えば、そんな犯罪者たちの気持ちが知りたい、なんていうこと自体が自分の立場からしたら人生を棒に振る行為だと自覚して後戻りができないと分かっていても、やがて当然の報いとばかりに訪れる報いが来たときですら、そんな姿を貫き通すわけですから。

 本当に最後の最後まで素晴らしかった。

 

 だからこそ、言いたい。

 2巻を読ませてくれ!

 これは1巻としては、予想していた形に収まっているから文句なんかないし、大満足しているけど、2巻読めなかったら泣く! そのくらい2巻読みたい! この引き方は駄目だって! マジで早く!
 

総評 

 ストーリー・・・★★★★ (8/10)

 設定世界観・・・★★★★★ (10/10)

 キャラの魅力・・・★★★★★ (10/10)

 イラスト・・・★★★☆ (7/10)

 次巻以降への期待・・・★★★★★ (10/10)

 

 総合評価・・・★★★★★(10/10) 文句なしで大満足!!! 食と生の重さを感じる作品!!

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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