今回の感想は2024年4月のMF文庫J新作「小鳥遊ちゃんは打ち切り漫画を愛しすぎている」です。
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あらすじ(BWより引用)
放課後、部室で密かに行われるのは……打ち切り漫画批評!?
俺、月見里司は高校生で漫画家志望。大人気の漫画誌、週刊コメットの漫画賞で最終選考まで残った経験もあり、今日も今日とて漫画部部室で、デビューを目指してネームを悶々と考える日々……なのだが、異様なまでに打ち切り漫画を愛好している部の後輩の小鳥遊がいつもちょっかいを出してくる。「お前……結局趣味が悪いだけじゃねえか。デスゲームやってる貧乏人を、金持ちが安全圏から見て楽しんでる感覚かよ」「ち、違いますよ! 私が求めてるのは散り際の美しさです! 土俵際の美学です! 敗者の生き様です!」「ただただ人間として面倒くさいな!」漫画同好会部室は、相も変わらず他愛のない会話で溢れている。
感想
待ちに待った、小鳥遊ちゃん書籍化ですよ!!!
MF文庫Jevoのときから、これが長編になったらどんなお話になるのかと気になって仕方がなかった作品!
結論、大満足!
ということで改めて感想を話していきましょう。
本作は漫画家志望の主人公・月見里司(つきみ さとし)と、打ち切り漫画を愛する後輩・小鳥遊(ことり ゆう)ちゃん。二人が漫画やその他諸々についての持論を語り合う放課後の日常を描くちょっと不思議(SF)な青春ストーリーです。
第一話はまさしく、MF文庫Jevoの内容を復習するような感じで、小鳥遊ちゃんの非常にエッジの効いた持論、面倒くさいファン心理を見せてくれてまして……、
わたしが気になっていた第2話以降、
これがもう、面白いのなんの!
まず、第2話から投げてくるテーマがクソほどメタいのですよ!
この作品そのものについて婉曲的な言及するかのように短編コンテストの話題を取り上げ、これによりわたしのようなMF文庫Jevoから楽しみにしていた人への軽いジャブを繰り出し、やっぱりこの作品良いよなと思わせてくれる。
そして、雑誌漫画、アプリ連載漫画、電子書籍と紙書籍……、そんなラノベや漫画に触れる人であればきっと誰もが考えたことがあるのではないだろうか心当たりのありすぎるようなトピックを次から次へと挙げてくる内容には思わず唸らされてしまい。
更には、そんなトピックを回す中に「打ち切り漫画を愛しすぎる」小鳥遊ちゃん同様に、「人気漫画がいちばん面白いに決まってる」という対極の感性を持つ四月一日(しがつ いちか)ちゃんや、「漫画を読む必要ってある?」とそもそも漫画に対する感性を全く持っていない先生の東海林(あずみ りん)を加えることで、より一層に様々な角度から極論に近いような発言を扱うことができるようにする配置も実に見事。
当初は「クソ漫画愛好家」なんていうパワーワードを使っていた作品らしく、そのクセの強さは健在というものはしっかり感じさせていただきました!
ただ、それだけで終わらなかったのが本作の魅力。
まず結局のところ、本作は青春部活動作品であるのですよ。
放課後にだらだらとおしゃべりして過ごす日常。先輩と後輩、それぞれが好きなものについて語るだけの時間。それは古き良き謎部活モノのような魅力はもちろんあって、そしてそこで語っている何気ないトピックには答えのないものも多数あって、それでも語るのはやっぱり「自分がそれを好きだから」の一言に尽きる。
漫画が好きで、漫画について話すのが好きで、漫画について話せる誰かのことが好きで……そんなささやかで、しかし青春を謳歌する彼らにとってはすごく大事な想いが随所に感じられるのがとても良いのです。
そこにエモさを感じ、しかしすぐに本作固有のクセの強さが塗りつぶしていくのもある種の味わいとして面白かったですよね。
そして、何より個人的に良かったのはやっぱり「メタ発言」なんですよ。
本作がラノベ作品である以上は、漫画作品関連の話題をあげればラノベ作品への言及は増えるでしょうし、そういう意味でのメタ発言はもちろん面白いのですけど。
それ以上に本作は会話の中で、この作品自体を揶揄する発言が非常に多い。
それこそが前述の月見と小鳥の青春ストーリーにおける最強のアクセントとなってくるし、この作品自体にあるキャラ設定や背景周りに関して「一体どこまでを作者が意図して描写しているのだろう?」と思えるくらい、まさしく本作が言及する打ち切り漫画的要素を兼ね備えているのですよ。
すなわち、本作にツッコミどころがあったとしたらそれは「作品のガバである」と同時に「作品のギミック」でもあるわけです。この相反する二つの面白さを完璧に生み出すためには、やはりメタ発言の存在が必要不可欠であるわけで。
考えれば考えるほどに深みにハマりそうな倒錯した気持ちが湧き上がってきます!
最終的な、感想の結論を言えば。
本作は間違いなく面白いです……
というより、何をしても、それが面白いのだと言える作品です!
例えば、事実として、この作品を一言で表すなら。
「この作品は結局、短編で何か賞を取ってしまったから、どうにか長編にしてやりました!」
っていう作品なんですよ。そう言って差し支えの無いものではあるんですよ。
でも、絶対にそれだけではないじゃないですか。
それをネタに昇華して、作品そのものの面白さにして……、という無数のステップを経て、最終的なイマココがあるわけで。
なので、何もしても、それが面白いのだと言えるようにした作品。
それってある意味では無敵の作品なのではないか?
クソ漫画批評なんて敵を生み出しそうな作品として、完璧に近い答えを生み出せるこの着地、あまりに美しすぎやしませんかね?
それが本当に良いな、とわたしは思ったわけです。
というわけで、感想は以上です。
総評
ストーリー・・・★★★☆ (7/10)
設定世界観・・・★★★ (6/10)
キャラの魅力・・・★★★★★ (10/10)
イラスト・・・★★★☆ (7/10)
次巻以降への期待・・・★★★★☆ (9/10)
総合評価・・・★★★★☆(9/10) できることなら、この2巻を出してほしいです。一体何をしでかしてくれるか、わたし気になります。
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録
最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。