今回感想を書いていく作品は「月の白さを知りてまどろむ」です。
DREノベルスより2022年~2024年に刊行されていた全3巻のシリーズ。作者は古宮九時。イラストは新井テル子。
※画像はAmazonリンク(1巻)
今回は全3巻のシリーズですので、作品全体を通した感想をまとめる以上、ネタバレになる部分も含んでしまっています。
特に1巻の内容なんかはある程度前提にしてお話しますのでご容赦ください。
また今回は実質的に推しカップル語りをしたいだけの側面もございますので、キャラに関する部分は色々踏み込んで話します。
それをご了承の上で、ネタバレが嫌だという方はブラウザバックをよろしくお願いします。
作品概要
まずは本作のあらすじからご紹介
””北の岩山の麓に広がる享楽街――アイリーデ。
かつて人々を脅かす巨大な蛇が神様によって封印されたという神話に由来するその街は、神への捧げ物として酒と芸楽、そして聖娼たちによって栄えていた。
化生斬りの青年・シシュは王様の命令によってアイリーデにやって来ることになる。
そこで彼が出会うのはアイリーデの中で最も特別な神話正当の妓館「月白」の主である少女・サァリ。
――月白の主が生涯で選ぶ客はただ一人
これは神話と人を巡る物語。そして二人が結ばれるまでを綴った異類婚姻譚””
といった感じでしょうか?
ジャンルとしては「ファンタジー」そして「異類婚姻譚」にあたります。
異類婚姻譚というのはあらすじだけでは少しピンとこないかもしれない部分ですが、月白の主であるサァリこそが街の神様であり、彼女が選ぶ客こそが神話に語り継がれる神への貢ぎ物となる。そういう意味で、人であるシシュと、神であるサァリの物語であるというわけですね。
(ちなみにわたしは読む前、あらすじだけ見たときはサァリが神への供になるようなお話だと思ってました!)
さて、そんな本作ですので感想としては「作品世界観・ストーリー」についてと「シシュとサァリの恋物語」の大きく2つのトピックでお話しようと思います。
そしてわたしは異種族異種間恋愛大好きマンなので、後者の比率マシマシでやっていきますね。
1:作品世界観・ストーリー
既に述べたように、舞台となる街はアイリーデ。
酒と芸楽、そして聖娼によって支えられている街です。
そしてその背景には神話による伝統というものが存在している、と。
本作のストーリーをざっくり言えば「この神話に伝えられる神様を巡る物語」でしょうか。
シシュは化生斬りとしてやって来たわけで、最初は街に蔓延る化生を狩る役割を担います。
ヒロインであるサァリは巫として、そんなシシュを含む化生斬りたちのサポートをする立場にありました。彼女が街を守るために、その力を使うのは、彼女自身が街の神様であるという立場もあってのこと。公には神話正当の妓館を収める主としてのお仕事、のような扱いではありますが。
そのためシシュはそんな化生斬りとして務めを果たす中で、少しずつサァリの事情やアイリーデという街の持つ神話の事実を知っていくことになります。
神様であるサァリ自身が存在するのならば、当然街にはかつて封印された巨大な蛇というものも存在していたり。あるいは他の神様も関係するような話があったり。
そしてそんな強大な何かが眠っているような場所というのには、いつだって人の悪意というものも集まってきます。アイリーデという街を脅かそうとするものや、神々の真実に近づきとんでもない厄災をもたらすようなもの。
そういった神々にまつわるモノを知りながら、街に振りかかる異変に立ち向かっていく。
それが本作の主なストーリーとなっていくわけですね。
世界観構築が最初に来て。
そこから生まれるストーリー。
更に言えば、後述する恋愛譚ともなるわけですが。
まず、率直な意見としてわたしはこういう設定から広がるファンタジー作品は大好きです。というより、個人的に好きな異種族恋愛っていうのがやはり設定ありきで如何にして種の隔たりを乗り越えていくものだと思っているので、設定という地盤がしっかりしている作品は自然と好きになるんですよね。
そして神話という、知る人ぞ知るような過去の真実に近づくお話も良いですよね。
徐々に世界観が広がっていき、ファンタジー作品固有の色が見えてくるのはそれだけで読んでいてワクワクします。
全3巻ではシシュとサァリの恋愛を中心にしていたこともあって、まだまだ語りきれていない部分も多くあるのではないか。そんなふうに感じるくらいには、最初から最後まで世界観での旨みの詰まっていた作品だったと思います。
また、本作はアイリーデという街を中心に様々な思惑も働くわけですが。
その中で1つのキーになるのは、シシュが何故アイリーデに送られたのかという部分。
その答えは彼の仕える王様の命令、なのですけど。
じゃあ王様はどうしてそんな命令を下したのか。
これは1巻から示されるものではありますが、物語のハラハラ感に一味加える良い背景がありまして、シシュとサァリの恋愛における心情的な部分でも上手くアクセントとして働いていたんですよね。
一方で、個人的にやや物足りなさを感じたのは化生や神々と相対する部分。
本作の設定上、街に現れる化生は人型を持って生まれますし、神々もまた人の身に降りることで顕現するものです。
そのため異形と戦うというよりも、どうしても人と人とで戦っているようなヴィジュアルが先行してしまったわけですね。
個人的にはもう少し見るからに人とは違う、みたいなものを相手にすることがあってもいいのかなと思ったんですよね。そういう意味では2巻の前半部分は結構好きなところあったんですけども。
まぁ、これはあくまで欲を言えばの範疇ですので、戦闘に関する部分が面白くなかったという意味ではありません。
内容に関しての感想はこんなところでしょうか。
2:シシュとサァリの恋物語
ここからが本題です!
異類婚姻譚である以上、ここを語らねばいかんでしょう。
というか、わたしが推しカップル語りしたいだけなんですが。
ここまでで二人の出会いの部分は何となく話したと思います。
街の外からやってきた青年と街を守る姫君。
そんな形で始まった二人の関係なので、ぶっちゃけ一目惚れような側面は結構あったんじゃないかと思います。
最初から好感度が高い、という意味ではなく。
お互いがお互いにそれまで出会ったことのないタイプの相手だったからこそ、興味は持っていたということ。
そこから化生斬りの一員とそれを支える巫として一緒の時間を共有すれば自然とお互いに相手を意識せざるを得なくて、相手の立場だったり、想いだったり、そういう人柄を知る機会に恵まれていくと。
そして気がついたときには、お互いがお互いを意識していて……、という具合ですよね。
しかし、まぁーーーー、本作の二人の恋愛はその意識してからが一筋縄ではいかない!!
しかもそれが二人の恋愛の障害となる神と人であり種族の差みたいな外的要因よりも、二人の心情的な要因が大きいものだから読者からすると「もう付き合っちゃえよ!」とも言いたくなるような状況がマジでずーっと続くんですよ!
何故そうなるのか、それぞれの立場とスタンスから見ていくと。
まずサァリは自らが月白という妓館の主であること、何よりも自分が神様であることがあります。そのため基本的に自他共に特別な立場であることを認識している。
それ故になのか、彼女は基本的に問題は自分でどうにかしなければ、という意識が強いのではないかと。そして彼女自身娼妓であればこそ、一度本心を隠す笑顔の仮面をつけたら中々その心には踏み込めない。
そんな彼女が、一人の男を意識するようになったらどうなるか。
離れていくんですよ……、この子は!!
ただでさえ神様の身を巡って様々な問題が起こっている中で、自分がシシュを大切に想えば想うほどに、シシュには自由でいさせてあげなきゃいけない。守ってあげなきゃいけない、彼を守れるのならば自分は孤独でも構わない。
みたいな方向に突っ走るわけですね。(まぁ、ここに至るには他にも重要な要因がいつかあったわけですが。それはひとまず置いておき)
完全に迷走してるよ!
なんでだよ! って言いたくなります!
でもね、ここに関してはサァリだけの問題とも言えなくて。
シシュ、お前もやらかしてるんだよ! というのがありまして。
シシュは性格としては実直で寡黙な人間。誠実さが美徳ではあるけれど、その生真面目さはときどき周囲の人からいじられるようなタイプ。
そしてそんな彼だからこそ、サァリは尊ぶべき存在だ、彼女はあるがままでいるべきだ、余所者の自分がむやみに干渉すべきでない、みたいな意識が強いわけです。
彼女が何をしようと自分はそれを受け入れ、彼女を守る剣といて働くべきなのだと。たとえ自分の中に芽生えた想いがあっても、それを彼女に押しつけるわけにはいかないと。
つまりこいつはサァリがどれだけ暴走しようとも、その暴走するサァリそのものを受け入れようとするので彼女を止められないんですよ!
というか、言ってしまえば、こいつはアイドルに自分から干渉するのはNGのファンみてぇな思考をしてるんですわ!!
そしてこの性質は神様として実際に格が上のヒロインに捧げられる神供としてはこれ以上なく完璧な男になるんですけど、こと二人が恋愛するにあたってはこれ以上なく最悪な噛み合い方をしてくるわけですよ……。
だってサァリが離れていっても決してサァリを責めることはないですし。場合によってはむしろ自分が何か嫌われることをしたんじゃないかと、自分を省みようとするんですよ。
本質的には、サァリが大切だっていう気持ちしかないのに、その性格故にその気持ちを言葉に出さない。
結果としてどっちもどっちでその気持ちを伝えないから分かるはずもなし。最悪一生結ばれない両片想いで終わってた可能性が全然ある。
作中でも、会話のすりあわせが足りないなんて言われるのがまさしくその通りすぎる二人なんですよ。
ですから、読者から見たときの「なんでそうなるんだお前ら~!」って言いたくなるような焦れったさが凄まじい。
しかし、まぁ紆余曲折(2巻と3巻の間にある、2巻の電子限定中編とかめちゃめちゃ言いたいことあるけど今回はやむなくスルーしますね)あってここからちゃんと進んで。お互いが正直に向き合うようになって、最終的には夫婦にまで至るわけですが。
そうなってからも、傍から見ればツッコミどころが大量で。
まずサァリは完全に想いの向きが反転します。
シシュが好きだからこそ、シシュから離れなきゃという意識が。
シシュが好きならばこそ、絶対にシシュを手放さないようにとシフトするんですね。
自分の気持ちを抑えていたような子が、こういう変化を見せたら……、うん察してましたけど、愛情が溢れすぎてて完全にシシュを溺れさせようとしちゃってます。
元々素の性格が素直で幼いサァリは無邪気にシシュに甘えているところがありましたが、そこに本来の娼妓としての誘惑を兼ね備えて、神様としてシシュを守り抜くという強い意識も加わったんですから。
もう止めようがないわけですとも。
真っ直ぐに好意をぶつけてくるだけじゃなくて、自分の持つ立場とか人と神の二面性とかそういうもの全部を使って愛情表現をしてくるから、彼女の愛には逃げ場がないなって思わされるような感じなんですよ。
重いと一言で表す以上に、彼女からは本当にシシュだけが自分の持つ愛のすべてなのだという想いが伝わってくる。
これはもう本当に読んでいるだけでも頭溶けそうなくらい言動の一つ一つに愛が籠もってて本当に可愛すぎて素晴らしかったですよ! サァリはマジで可愛いです!
しかし! ここに来てもやっぱりシシュがやってくれてまして……、
元々サァリの意志を絶対的に尊重するシシュは、そのスタンスがずーっと変わりません。つまりサァリの愛情表現に歯止めなんかかけるわけなく。むしろそれも全部受け止めていこうとしていくわけです。
サァリはこれ以上なく面倒な女だと。
こんな奴を育てた奴は責任取れよと。
そんなふうに他の人に思われている描写ありましたが、本当にその通りで。
元々街のお姫さまだし、神様だし。そして旦那が旦那だから。
……彼女の自由奔放さをとめるやつが作中にいないんですよっ!
だから愛が溢れるだけ溢れるようになって、それを全部受けるのがシシュになっていくと。
でも、サァリがそれだけ愛情を溢れさせてても、シシュがマジでまーったく負担に思ってないし、責任なんて言われなくてもシシュは取るから、二人だけの関係でいえば全く何一つ問題がないという。
すなわち、まとめると。
神様と神に仕える人としてこれ以上ないくらいに完璧な噛み合い方をするカップルなのに。
読者視点とか周囲から見ると、二人してなんかやばくない? と思えるような関係性を築いていて。それを形成するまでにも、お互い両片想いなのに何をしても進展しないどころか、何故か離れていこうとすらするとかいう迷走っぷりを見せてくる。
しかしながら、やっぱり本人たちはそれで問題ないと思ってるので飄々としているというか……、なんかもうこいつらはこの二人じゃないとダメなんだなと、そうとしか言えないんです。
……うーん、なんででしょうね?
色々ここまでアレコレ言ったのに、結局これただの割れ鍋綴じ蓋カップルがイチャイチャしてるだけだった、っていう結論にしかならないのおかしくないですか!?
いや、いいんですけど!
幸せな夫婦を見られて大満足なんですけども!
でもなんかやるせねぇですよ!
読者の心をこんなにもかき乱しておきながらさぁ!
……はぁ、というわけで。
最高の夫婦のお話でしたよ。
でも、ツッコミが追いつかねぇよこれ。もう少し周囲を安心させるような健全なお付き合いしましょうよ……。
一応、最後に個人的な趣味趣向のお話をすると。
異種ヒロイン側の面倒くさい事情くらい、ヒーロー側は全部呑み込んで支えてやれよという気持ちを持っているので、もうシシュが最高でしたよ!
なので結局、シシュと同じ意見ですけど。サァリはそのままでいるのがいちばん可愛いと思いますから。シシュに一生その愛を囁いて、シシュを溺れさせて、シシュに守られていってほしいです。二人でいるなら本当に完璧なんですから。絶対に離れちゃダメですからね! サァリが離さないで、シシュが離れないから言うまでもないことでしょうが。
また人が人外を想うのならば、その差を超えるために自らの命をかける必要があるのなら命の1個や2個くらい余裕で差し出せよ、とも思うのでそれをいともたやすくできるシシュのことは本当に大好きですね!
展開としても人×神様をやる場合。一生を共にと誓うのならば、人が神側に近づくか、逆に神が人に堕ちるか、どちらかが本質的な変化に向き合う必要があるでしょうから、そのツボをしっかり抑えているのもポイント高いです!
そして本作の場合、その展開がサァリがシシュに向ける気持ちを一段高めた上で完全にもう逃げない覚悟を固めるための枷のように機能していたのが本当にメシウマなんですよ。異種族カプにおいては、やっぱりその普通の存在ではないことが、二人の関係性を縛ったり特別にすることってのが大事だなと。
そんな感じでして、本当にわたしの好きな要素のいっぱい詰まった恋愛なのは間違いないです。ですのでこの辺りは素直にありがとうございます、ごちそうさまですと言わせてください。
巻別満足度と総合評価
最後に本作の巻別満足度と総合評価です。
まずは巻別満足度。
正直、1巻は世界観の下地を広げる段階だったので普通くらいな印象でした。
しかし話が進むにつれて物語に緊迫感が生まれ、サァリとシシュの恋愛が迷走していき面白さが増していく。そしてその加速で最後までやりきった、そんな感じですね。
ですので、総合評価としては最終巻の評価そのまま
★9.5/10 になります。
とても素晴らしい異種族恋愛を堪能しました!
おわりに
ものすごーく久々のシリーズまとめ感想でした。
3ヶ月くらい書いていませんでしたよ。
そして、久々のまとめがただの推しカップルを語りたいオタクという……、まぁわたしの感想って結局自分のためのものですからね。自分の吐き出したいのを吐き出しているだけなのです。
そして今回この「月の白さを知りてまどろむ」のまとめを書きましたが。
同作者の「Unnamed Memory」も最新刊まで一気読みしたのでまとめ感想を書きたいのですよね。こちらもまたオスカーとティナーシャについて推し語りするだけの内容になりそうな予感がしますが……、まぁ、時間のあるときに書きます!(たぶん)
それから本作はウェブ更新はまだ続いているみたいで、結婚後も続く神々とのあれやこれやがあるそうなので、こちらも時間があるとき読んでみようかと思っています。読んだので感想追記しました!
今回の感想はこんなところですかね。
では、また時間のあるときに一気読みしたシリーズの感想をまとめていきます。
追記(ウェブで続きを読んだ感想です)
ウェブ版で単行本に収録されていた第五譚以降の続きを読みました。
普段書籍の感想しか書かないので、ウェブ版で読んだ感想を吐き出す場所がないなということで、このまとめ感想に追記という形で記録をさせていただきます。
感想は各章ごとに、読み終わった時点で書き連ねたものになっています。
なので……、大体感想がうるさいですね。感情そのまま吐き出してるので。
前書きはこのくらいで以下感想です。
異聞譚(比翼連理)
王都で頻発し、アイリーデでも起こるようになった恋人失踪事件を調査していくお話でしたね。
この章で印象的だったのは、やっぱり視点です。というのも、この一連の事件ではシシュの元部下である化生切りの青年タセルが調査のためにアイリーデにやってきていて、彼の視点が結構多くあったんですよ。
そしてタセル視点で見たときの、サァリが最高に面白い。というか、一般人から見たらそう見えるんだなっていう描写を敢えて取り入れたような感じがします。
何故シシュ様はこんな女なんか選んだんだ、って怪訝に思ってるけど。読者からしたら、シシュがシシュだからじゃない? としか言えないのがもうツボりますね。
またサァリの愛情が無尽蔵で多様なのは、単行本3巻後日譚で感じていた部分で既にいっぱい感想を書いているので多くは言いませんけど。
今回の事件で、恋人だけが狙われるという部分から、愛情が人を殺すといったポイントにフォーカスが当たって、その中でサァリの持つ愛情の暗い部分がグッと引き出されるやつ! これがとても良かった!
特に、サァリにとってはシシュを一度は殺している、という事実がずっと残ってるんだなっていうのが分かるシーン、あれがもう最高にニチャァってなるんですよ!
やっぱりこういうのっていいですよね。好きな人に殺される好きな人を殺してしまうって形の激重感情に、神様と人間という関係性だったからこそそこに至ったというモノが乗っかってるの、異種族恋愛の趣をたくさん感じられて幸せです!
にしても本当にサァリかわいいな。
子どもっぽく甘えるのも、妻らしく淑やかに寄り添うのも、神様として威厳ある姿見せるのも。いっぱい笑って、いっぱい怒って、表情コロコロ変わるの超可愛い。
サァリがこんなに自由でいられるのは、シシュがいるからだぞ。シシュこれからも可愛いサァリを見せてくれ。頼むぞ。
第陸譚
だから、シシュとサァリに恋愛をさせるんじゃあないよ!
こいつらが普通に恋愛なんて高度なものをできるわけがないだろ!!!
でも、今回はぶっちゃけ面白かったからヨシッ!
もう二人が夫婦であること前提で、周囲からかなり手厚い介護があったので深刻な事態には至らず、終始シシュが迷走するボケボケ恋愛騒動レベルで収まってたからね。
笑いを堪えるのが大変だった、で済ませられる。
改めて第陸譚の内容としては、前回に引き続き外洋国の人外による事件を解決するお話。
しかしその舞台がアイリーデではなく王都。
そのためアイリーデの神であるサァリ自らが率先して解決するわけにはいかず、自らの神性を全てシシュに託すことで問題解決を図ろうとしたと。
その結果、神性を失いアイリーデの姫としての記憶を全て失った貴族の少女エヴェリとしての彼女が、王都でシシュの婚約者として現れる。二人の結婚式は2週間後、それまでにシシュは再びサァリに恋してもらうことはできるのか!? ……みたいなお話ですね。
もう一度、恋をさせてね。
というサァリのお願いもむなしく、シシュは基本的にいつも通りのシシュなのでまともな恋愛などできるわけもなく。それはもうとんちんかんな行動ばかりやっていくのですよ。
なのでもう序盤から相当に面白い。周囲のツッコミを見ながら、シシュが迷走してる姿見ると笑いが止まんないですよ💦
でも、相手はサァリだから。
そんなシシュのままでいいんですよ。
そもそも自分が記憶失うことだって、分かっててやってるやつだから。シシュなら大丈夫っていう無条件の信頼はもちろん、面白そうだからという気持ちも絶対あるだろっていう。
実際にエヴェリは不器用で恋の駆け引きなんかできないシシュがシシュのままだからこそ、もう一度恋をするわけで。
ただ、そこから始まったのが
エヴェリ視点で、自分のことをめっちゃ好きって言うのに、アイリーデの娼妓を妻にしている男に対する浮気疑惑騒動という……(笑)
もう読者目線だと、ただただ浮気疑惑かけられて困ってるシシュを見るのが愉快で仕方ないよ。
そしてフィーラや王様、周囲の人たちが頭を抱えている姿が目に浮かぶわ浮かぶわ。前回登場したタセルですら、シシュとエヴェリの仲を上手く取り持とうとするくらいだし。
もしもシシュとエヴェリになにか問題があって、サァリの記憶が戻ったら皆殺されちまうよ……、みたいな感覚があるから無駄に緊迫感を生み出してるように見えて面白いのよ。
ちなみに、今回のボケボケ恋愛騒動で個人的にいちばん好きだったのは、最後の事件解決後のシシュと王様の会話での王様の「?」「??」というやつ。こいつ何言ってんだ? というあの空気。
あと、個人的にこの章でニチャァってなったのは。シシュが、サァリが勝手に神になっていって心を取り戻すときの一件をちゃんと気にしてるのが分かった点ですね。
とりあえず、今回の事件(ボケボケ恋愛騒動の方ではなく、人外が起こす方)に関しては、ひとまず解決したけど。
完全に問題の根本を断ち切った感じではないようなので、まだまだ事件は起きそうですね。一体どうなるのか。
第漆譚
あーあーあー!
前回のボケボケ恋愛騒動やってサァリにウェディングドレスも着せたし、そろそろやりますか、みたいな感じでやってくるシリアス展開よ。
そろそろ来ると思ってたよちくしょう!
序盤こそ、人妻を寝取るのが好きとかいう「あ、こいつ絶対56されるやつだ……」とか思ってた男が出てきたりして大丈夫か? と別の意味で不安があったけど。
そんな彼が追う灰の女がもたらした情報と願いが最悪のトリガーになってしまいましたね。
でも、まぁ、いつかはこうなると思ってたというか。
愛情こそが人を殺す。
なんて、異聞譚でやってたけど。
それ以上にサァリは愛情こそが自らを滅ぼすタイプだよなぁとは思ってた。譲れない一線が強ければ強いほど、それは同時に決定的な弱点になるのは人だろうと神だろうと変わりませんて。
だから、今回の結末に関しては誰が悪いわけでもない巡り合わせとしか言えないのが正直いちばん辛いですね……。
あの場にいた誰もがそれぞれ目的があって、それがサァリの守るべきものと反りが合わなかったのなら、戦うしかないんだから。
なので、あとはもうシシュの今後のがんばりに期待というだけでしょう。
……でも、やっぱりこの章は辛いわぁ。
とりあえず最後にこの章の個人的好きだったシーン抜粋。
サァリのいつものお風呂へのお誘いをシシュが受けたらびっくりしてお医者さん呼ぶ? とか言い出すやつ。そしてお風呂で大事なお話をしてから膝から降ろされると、なんで捨てようとするの! とか言い出すやつ。捨てるて、言い方……。
このときのサァリ、やけに幼さにパラメーター振ってて可愛かった。その後、割と神様モードだったし、結末が結末なのでしばらく見られなそうなお子さまモードが貴重だったなということですね。
第捌譚
素晴らしい! 最高! それでこそシシュなんですよ!!
ヒロインのために命の1つや2つ差し出せ、とわたしは常々ヒーロー側には言いますし。
その上で、お前が死んだらヒロインは悲しむんだから勝手に死んだらぶっ殺すぞ、ともわたしは常々言います。
ヒロインのためにその全てを以て愛を見せてくれ!
言ってしまえば、そういう話なんだけど。
この章はまさしくこういうのじゃないですか!!!
シシュの持つサァリへの想い全部を使って、彼女を救うためだけにその命を燃やし尽くすようなやつ! もうわたしの性癖に刺さりすぎて笑みが止まらないんですよ!
特に今回の何が良いって、神様になっている状態じゃサァリを救えないって分かってから、じゃあ神様辞めて人間になります記憶とか無くなるのなんか気にしません、くらいの勢いで川に飛び込むまでがめちゃめちゃ早かったところですよ。そういうところ、そういうシシュがわたしは好きなんですよ!
でも、そんな危険なことをするもんだから今回過去に例を見ないくらいサァリを泣かせたんだぞ、それは目一杯反省しろ。マジで。何勝手に死んで終わろうとしてんだ。そんなのは許されない。サァリが一生側にいてというのだから、シシュは一生サァリの側にいなきゃいけないの。でも、サァリのために命の1つや2つは惜しむこと無く使いなさいな、今後も。
それはそうと、やはり言いたいのが。
シシュとサァリの関係値をリセットするのはやめましょうよ……!
サァリは愛情を常に伝える側だからいいけど、愛情を受け取る側のシシュはとにかく面倒くさいの! サァリが記憶を亡くしていたボケボケ恋愛騒動第陸譚では迷走してただけだけど、今回シシュの方が記憶なくしちゃったら面倒くせぇアイドルファン精神シシュがまた出てきたじゃんって! 尊い無理触れられない、じゃないんですよ! 触れろ! 愛せ!
でもまぁ、サァリがそんなシシュでも大好きだし、シシュを溺れさせていくのも楽しんでいそうなので、とりあえずこの件は不問にしてあげますけど(わたしの感想は一体何目線なんだ??)
――ちなみに、今回の個人的サァリいちばん可愛いシーンは「気を失わせてあげる」ですね。「旦那様、愛してますわ」とかもそうだけど、急に色気出されて愛されるのは身がもたない。ズルい。サァリは男心を狂わせる天才ですよ。
それからこれまでずっと話に直接入ってこなかった二人の子どもに関するものが今回一気に入ってきたけど。
二人は最初の儀のときに時期を逃して子どもが産めないみたいな状態だったから、このまま時間経つしかないのか? とか思ってたんですけど。だから今回の展開が正直びっくりしました。シシュが1回人間に戻ることで、もう一回死ねるドンをやった上で、客取りの儀をやり直せるとかいうのは天才的発想過ぎました。
あと本編物語に関しては。
まさか冒頭から二十五年経ってるし、なんか世界情勢がガラッと変わってるし、人外による被害が割と深刻な状況になってるしと、このシリーズとしては初めてアイリーデの外に出たのもあって色々一気に広がったなという印象。
その上で、目下の問題はサァリの眠りと共に目覚めた根の神だと思われるけど。
これを倒すだけなら非常にシンプルな話で決着しそうなんですよね。だから、何かしら別の問題も噛んできそうな気がしてるけど……、どうでしょうか。
とりあえず、サァリがいっぱい泣いてしまうような展開はないといいんですけどね。
わたしはサァリが自由にシシュ大好きってやってるのがいちばん好きなので。