ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part62】断罪のイクシード

 今回感想を書いていく作品は「断罪のイクシード」です。

 GA文庫より2010年~2012年に刊行されていた全5巻のシリーズ。作者は海空りく。イラストは純珪一。

断罪のイクシード ―白き魔女は放課後とともに― (GA文庫)断罪のイクシード5 ―相剋の摩天楼― (GA文庫)

※画像はAmazonリンク(1巻および5巻)

 

 

作品概要 

 本作は、ザ・王道といってもいいほどのファンタジー作品。

 

 ””普通の高校生の主人公・藤間大和。

 彼の学校に転入生の東雲静馬が転校してくる。

 第一声から、周囲の人間との関わりを拒絶するような静馬。

 そんな彼女の態度をどうにか崩してやろうと、そんな気持ちから静馬に関わろうとして、大和は彼女が転校してきた理由。平穏な日常の裏にある魔術や悪魔のいる超常の存在の跋扈する世界を知ることになるのだった。””

 

 と、そういう感じです。

 

 転校生ヒロインから始まるファンタジー

 ザ・王道ですよね。

 そんな本作最大の魅力は「世界観の詰め込み」と「鬱陶しいくらいの熱血」、そして何より「くっそめんどくせえメインヒロイン東雲静馬の圧倒的可愛さ」これでしょう。

 

 今回はこれらを1つ1つ話していこうと思います。

 

1:世界観の詰め込み

 これは文字通りです。

 全5巻に収める規模じゃない情報量が詰め込まれています。

 ファンタジー作品なので、それ相応の固有名詞や概念があります。

 

 ぶっちゃっけ、全部まともに理解して読もうとするのはかなり大変。

 

 なので、考えるな感じろ、の精神で読むべき作品。

 

 そしてそのスタンスで読めば圧倒的情報量の世界観を楽しむのにこれ以上無いくらい心地が良い作品でした。良くも悪くも詰め込みまくってるわけですから。

 日本だけに止まらない海外との関係性。各国の組織の陰謀渦巻く不穏な気配。国家転覆を目論む組織の持つ野望。イクシードと呼ばれる強化人間の存在と、その裏に隠された過去の事件。20世紀前半、日本が敗北した世界大戦から残り続けた亡者の抱く強い意志。

 そういったもの全部詰め込んで、誰もが全力でぶつかる異能バトルがあるんです。

 

 この圧倒的なまでの熱量は、感じて読む分には最高のエンターテイメントでしかないのです。そりゃ面白いですって!

 

2:鬱陶しいくらいの熱血

 これはひとえに主人公である大和の性格にも起因するものですが……、まぁ本作の登場人物は基本的に全員馬鹿だよね!

 

 とにかく自分の意志を曲げないやつばっか。

 人の話は聞かない!

 そして自分の想いを貫くために全力を出す!

 結果、超熱血ファンタジーが生まれます! 以上!

 

 というのは、あまりに雑すぎますが、真面目に見ると本当に馬鹿ばっかなんですよ。

 作品の空気感が熱血の一色に染まってるのです。

 

 ただ、それでも主人公の自分が守ると決めたものは何が何でも絶対に守り抜くという意志はどれだけ暑苦しくて鬱陶しくてもやはりカッコいいものですし、後述の本作メインヒロインである東雲静馬さんはとにもかくにも面倒くさい女なので、そんな彼女を幸せに引きずり出すためにはこのくらいの熱があったほうがいいとも思えるわけです。

 そして、ラスボスさんの野望。その奥にあった動機。これもまた読者や、巻き込まれた大和からしたら「は? 知らんわ、そんなクソみてぇな理由に世界巻き込むなよ老害が」の一言で切って捨てられるものだけど、そんな馬鹿な理想を抱いてまで世界を敵にする誇りと気高い意志は決して馬鹿にできるものではなかったのも本当。だからこそ、その身を捨ててまで果たそうとした野望はある意味で輝かしい。

 その他にも、2巻で登場した人狼の少女の物語や、大和を育てた父親たちの戦い、大和の幼馴染の少女の抱えた想い……色々なエピソードがありましたが、そのどれもがしっかり胸に刺さるものだったのは間違いないです。

 

 とはいえ、最初にも言いましたが、鬱陶しいくらいの熱なので。

 真剣に読み込むよりは、一気に読み切って感じる、にしないといけないタイプで難ありな作品だなぁと思いました。

 

3:くっっそ面倒くさい女

 本作のメインヒロイン、東雲静馬。

 彼女はとにかく面倒くさい女です。

 でも、そうであるからこそ可愛い。

 

 彼女は最初こそ、誰も寄せ付けない壁を持っていた。それはそのはず、彼女は復讐のために街にやってきたのだから。別に誰かと仲良くするつもりで転校して来たわけじゃない。

 だけどそんな彼女の心の壁を壊して、更には身を投げる覚悟の復讐からも救ってくれたのが大和。

 

 そんな彼に感じる恩、それから彼女自身気づかない恋心。それだけをモチベーションに彼女は以降、大和の側で彼を振り回して、ときに戦ってという日々を過ごしていたのだけど。

 

 彼女自身の心にあるのは、どうしたって拭えない自分自身の手はもう汚れている、自分はどこまで言っても魔術という平穏の裏にある非日常でしか生きられないという感覚。大和は自分を救ってくれた、だけど自分は彼に何ができるのか。

 そんなぐるぐるした思考にハマって、戦いの中で分かったのは、結局自分は大和の平和な日常を壊したという事実だけ。

 自分なんかが大和の側にいてはいけない。だけど、大和は絶対に自分を追いかけてきてしまう。でも、もう彼に非日常には関わって欲しくない。そんな悲壮な覚悟で大和から離れようとする静馬。

 

 この彼女が自分の大和に向ける想いを自覚して、その上で自分から逃げようとする展開は、本作固有の熱に乗せられるともうとにかく胸に突き刺さるんですよね。そして、同時に思うのがやっぱりこの作品のヒロインなだけあってやっぱり勝手に突っ走る馬鹿なんだなと。

 でも恋した女の子なんだから。

 全てが大和を好きだからこそ、その想いだけで突っ走る彼女の覚悟だから、やっぱり尊いものだと思えるし。そしてそうであるからこそ、馬鹿馬鹿しいほどの情熱で突っ走る大和には諦めの悪い男の意地っていうのを徹底的に教え込んで、二度と幸せから目をそらせないほどに明るい平和に引きずり出してほしいと思ってしまうわけ。

 このとにかく胸が痛くなる静馬の覚悟、これが本作最大の読むモチベーションになっていましたよね。

 

 そして、完膚なきまでに救われた静馬は最高に可愛かった。

 そもそもが好きな男のために、自分はどうなってもいい。彼の幸せのためなら彼を殺すことだって構わない。そんな風に考えるタイプの女の子ですから。

 

 恋を自覚して。逃げようとした幸せに無理矢理引きずり出してくれた男がいて。じゃあ、もう恋心を抑えられますかと。

 無理でしょう、と。

 自分に振り向かせるためならなりふり構わない、絶対に彼の心を掴み取る、そんな意志を固めた静馬は彼女自身も自覚があるタイプの完全な地雷女なわけで……、まぁー、もう愛が重いって素晴らしいよねと! 恋する女の子は最強だなと! そう思わせてくれたわけですよ!

 

 しかし、惜しむらくはこれがファンタジー作品であること。

 静馬の暴走ラブコメ劇場の結末は描かれない。

 もう絶対逃げられないだろう大和が、恋の暴走娘になった静馬にどう立ち向かっていくのか。

 それをめちゃめちゃ見たかったのに!!

 見れないの!!

 それだけが本当に心残りであります。

 

 ただ、そうだとしても。

 自分を卑下して、自分の想いから逃げようとしてぐるぐる思考迷路にハマって暴走しておきながら。完全に自分の逃げ道を壊されて、救われきったら今度は恋に全力向け始めて暴走するという。客観的にみてこいつ終始暴走しかしてねぇじゃんっていうヒロインは最高に可愛かったので良しとします。

 

 いや、本当にね。

 常に大和を振り回すドSな性格で口を開けば飛び出す毒舌を除けば、基本的に冷静で、異能バトル的な部分では天才少女らしい頭脳を存分に活かした姿がいっぱい見られてカッコいいのに。この子やってることが全部空回ってるのよ。

 そしてその根底にあるのに気づいてみたら、ただの恋心ですっていう。

 

 あー、可愛いわ。こういう暴走娘は本当に可愛い。最高。恋に馬鹿になって面倒くさい女になる子は大歓迎ですよ。

 

巻別満足度と総合評価

 最後に本作の巻別満足度と総合評価です。

 

 まずは巻別満足度。

 最初こそ作品の熱量と情報量に圧倒されていましたが、一気に感じるように読み切ってみるとしっかり終盤に向かってどんどん面白くなっていく作品でした!

 何よりどんどん面倒くさくなっていく静馬の可愛さが最高だった!

 

 総合評価は ★8.5/10 でしょうか!

 非常に満足!

 

おわりに

 今回読んだ断罪のイクシード

 つい最近完結した「落第騎士の英雄譚」を含めて、「カノジョの妹とキスをした。」や「超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!」などの作者のデビュー作ということで、それを踏まえると本作の熱量もデビュー作らしいもので良かったなと思いますよね。

 いもキスは全巻読んでて好きな作品ですが、超人高校生は残り2巻残してずっと読めてない状況が続いているのでできるだけ早く読み切りたいところ。落第騎士はアニメ含めて全く見たことないので、そのうち機会があればですね。

 

 今回の感想は以上です。

 

 最後に1巻のAmazonリンクとブックウォーカーリンクを張っておきます。

bookwalker.jp