今回感想を書いていく作品は「クロス×レガリア」です。
スニーカー文庫より2012年から2014年まで刊行されていた全8巻のシリーズ。作者は三田誠。イラストはゆーげん。
※画像はAmazonリンク(1巻および8巻)
1:作品概要
まずはいつものように本作のあらすじから。
””主人公、戌見馳朗は1回1000円でどんなトラブルも解決する学生ボディガード。
そんな彼が中華街で出会った少女ナタ。彼女は大陸に棲む、人の氣を喰らって生きる〈鬼仙〉と呼ばれる吸血鬼たちを滅ぼす鬼仙兵器だったのだ。
そんな彼女を捉えるためにやってくる鬼仙たちとの戦いに巻き込まれた馳朗はナタを守ることができるのか……!!””
と、1巻がそんな感じで始まります。
ジャンルは現代ファンタジー。
それも”大陸の鬼仙”なんて言うように、中国と日本固有のファンタジーを強く感じるものでした。ナタという名前も中国の哪吒に由来するみたいですし?
そんな本作の魅力はなんと言っても「対比で魅せるテーマ」これに尽きます。
今回はそれをメインで感想を話したいのでちょっと長くなってしまいそう……、そして作品の内容にも多く触れてしまいそうです。
2:1000円ボディガード馳朗
まずは本題の前に、主人公がカッコいいという話をしましょう。
主人公の馳朗は1回1000円でどんなトラブルも解決する学生ボディガードなんてものをやっています。
何でそんなことをしているのか?
これが当然1巻の肝になっていて、馳朗の過去に深く関わってくるものなのですが。
めちゃくちゃ簡単に言えば、過去に大きな事故から見ず知らずの人に救われたことがあり、その出来事がきっかけです。
1000円という少しがんばれば子どもだって持っているようなお金、たったそれだけの契約でその人の絶対的な味方になってくれる。そんな自分の理想のために、自分でできることを考えた結果が1000円ボディガード。
とにかく一度受けた依頼は曲げない。
その人の味方になると決めたら、最後まで守り通す。
誰かのために戦う真っ直ぐな主人公、それが馳朗という男でした。
これがもうシンプルにカッコいいですよね。
やはり1本、自分の軸が通っている主人公というのは良いものです。
また馳朗は自分が1000円ボディガードをするのは自分の意志で願望だから、基本的にそのために他の人の手を借りようとはしないんですけども。
しかし、馳朗にとって最も大事なのは「依頼してくれた人を守り抜くこと」なので、自分の手だけで届かないものであれば、即座にその小さなこだわりは捨てて他者の協力を仰ぐことができる。
そしてそのときに払う対価を決して厭わない。
場合によっては一度は敵対した相手にだって取引や条件を持ちかけたり、1000円で受けた依頼を解決するために1000円以上のお金を躊躇なく使ったり。
たった1000円。されど1000円。
1000円というそれだけの契約にかける馳朗の願いと価値の重さ。これもまた彼にとっての軸の強さを感じて好きな部分でした。
3:ファンタジーと科学がぶつかり合う現代ファンタジー
さて、そんな風にカッコいいと言った1000円ボディガードの馳朗ですが。
彼が戦うのは鬼仙と呼ばれる吸血鬼。
言うまでもなくファンタジーな存在で、超常的な力を持っているソレを前にして、普通の男子高校生である彼がどうやって立ち向かうのか?
その答えが科学の力。
馳朗は1000円ボディガードのためのAI搭載アシストスーツ・カエアンを常に着ているのです。様々な機能を持ち、あらゆる状況にも対応できるようになっているそのカエアンの助けを受けて馳朗は吸血鬼と戦っていきます。
ファンタジーVS科学。
この分かりやすく心躍るバトルは言うまでもなく面白い、現代ファンタジー作品ならではって感じがしますよね。
また馳朗がどうしてカエアンみたいなものを持っているのか。
それはカエアンを開発メンテナンスしている彼の義妹リコや、この兄妹の身寄りである白翁という大陸の鬼仙と島国のおにとを仲介する大きな家のアレコレが深く関わっていまして。
結論だけ言えば、馳朗はカエアン以外にも自由に扱える無数の兵器と莫大な資産があるわけですよ。
しかし先ほども言ったように馳朗の理想は1000円ボディガードで、自分の力だけで届かない理想のためにしか他人の手を借りない。
この兵器や資産もそう。
鬼仙というファンタジーから守るための力としてしか決して使わない。1巻でナタと出会ってから、どんどん鬼仙の事情に巻き込まれていき、バカスカ白翁の権力を使うようになる馳朗ですが、どこまで言っても日常にこれを持ち込まない信念がやっぱりカッコいいんですよ。(話が戻ってしまった💦)
ともかく。
現代科学の髄を使ってファンタジーに立ち向かうバトルシーンが面白かったぞ、という話。
4:様々な対比で魅せるストーリー
さて、ようやく本題。
1000円に感じる重さの違いだったり、現代科学VSファンタジーだったり。
本作にはそういった対比することで描く魅力が他にも数多くあります。
とりあえずそれを3つに絞って話しましょう。
・鬼仙と〈おに〉
1巻では大陸からやって来る鬼仙のお話と言いました。
これが2巻では島国固有の〈おに〉についても語られていきます。
鬼仙が人の氣を吸って、鬼宝と呼ばれる神話の武具のようなものを扱う存在だとしたら。〈おに〉はそれぞれが固有の超能力を持っていて、それを行使する存在といった感じでしょうか。
そんな2つの存在は古くから争いが耐えないらしく、馳朗の身寄りである白翁の家はその仲介をなす立場であると。
そしてここから派生して描かれるのは。
過去から続く因縁と、未来に繋ぐ今の意志。
物語の方向性として実に王道で、それでいながらクロスレガリアが意味する「レガリア:王の証」と物語とを繋ぐ非常に重要な要素でもありました。
・主人公の馳朗とライバルのジン
4巻で登場する馳朗の幼馴染ジン。
彼は最高のライバルキャラでした。
馳朗が誰かを守る利他的な理想の持ち主であるとすれば、ジンは自分の欲望のためだけに周囲を破壊することも厭わない利己的な精神の持ち主。
どちらも自分の理想のために決して曲げない在り方というのは同じなのに、決定的なまでにその向かう方向が違う。
だからこそ最大のライバルとなるわけです。
そして本作クロスレガリアの「クロス:交わる」「レガリア:王の証」という部分でもこの二人の在り方は強く発揮されていて。
王というのは、誰かのためにある存在であるべきなのか、それとも全てを力で平伏させるべきであるのか、みたいな感じですね。
つまるところジンというライバルが現れたからこそ、本作のテーマや既に話した主人公の信念というものにグッと深みが出てくるんですよ。
また馳朗は反りの合わないジンを毛嫌いしているような節がありますが、ジンは自分と反りの合わない馳朗をむしろ好んでいて。積極的にちょっかいをかけるジンと、それを面倒そうにあしらう馳朗、みたいな感じが幼馴染の仲の良さを表していてコレスキなやつでした笑
・二人の鬼仙兵器
鬼仙を滅ぼすための兵器として生み出されたヒロインのナタ。
馳朗の前にジンが現れたように、彼女の前にもまたもう一人の鬼仙兵器のウーが現れます。
そして彼女自身がナタと直接的に対比している部分があるというよりは、主人公とヒロインの関係という部分での違いを見せてくれたキャラだと個人的には感じました。
というのも、馳朗とナタは1000円ボディガードで繋がった守護者と依頼人、あるいは共に戦うパートナーのような関係。
一方でジンとウーは恋人。あるいは夫婦。
殺し合いの中で愛情を深めたという二人は、それはもう見ているだけでニマニマしちゃうバカップルぶりを披露しますとも。
馳朗にちょっかいをかけるジンに対して、ウーが私の幼馴染どっちが大事なのみたいな嫉妬をしたり。ジンはジンでそんな嫉妬するウーのことを溺愛していて、最愛の恋人のお願いだったら何でも叶えてやるぜくらいの態度。
これがもう恋人未満の馳朗とナタからは決して感じられないラブコメ風味がこれ以上なく出てくるんですよ!
いや〜、もうめっちゃ好き!
個人的に性癖なのが。
鬼仙兵器であるウーは自分の能力を使うためにジンの血を吸って、逆に〈おに〉と人の混血であるジンもまた自分の能力を使うためにウーの血を吸うという。
二人だけの閉じられた共生みたいなやつなんですよ。
マジで最高じゃない?
そんな感じで、読めば◯◯があるからこそ××が引き立つ、みたいな要素が本作にはいっぱいあります。
この味わいが出てくるのはやはりキャラが揃ってからで、シリーズ中盤以降になってしまうのですが、この様々な対比が見え始めてからはどんどん面白くなって読む手が止まらないシリーズだったのですよ。
5:推しヒロインの話
最後に、話の流れに組み込めなかった推しヒロインの話です。
推しカップルって意味ならジンとウーにまさる物はないのですが。
推しヒロインとなるとやっぱり蓮花(リャンファ)なんですよ!
彼女は鬼仙の少女で。
1巻ではナタを追う大陸からの使者として登場します。1巻でゴタゴタが収まってからは、ナタのお目付け役という名目で中華街に住み、馳朗や他の人との交流をしていく。
そして鬼仙の里では知り得なかった人の考えを知っていき惹かれていき、特に馳朗に強い感情を抱き始めて……、とそんなヒロインだったわけです。
性格としては気が強い感じで、序盤のイメージではツンデレヒロインタイプかと思っていましたが、馳朗に恋してからはとにかく真っ直ぐで馳朗のために戦う子で最高に可愛いんですよ。
他人との協力みたいな考えがない鬼仙だった彼女が携帯電話の必要性に理解を示さなかったのが、馳朗を好きになってからはいつでも連絡を取れるようにしたいって気持ちで携帯電話買ってアドレス交換しようとする日常シーンとか。
あるいは基本的に力でゴリ押しみたいな戦闘スタイルだったのが、馳朗の誰かを守りたいという気持ちを尊重して、周囲の被害を気にかけながら戦うなんて慣れないことをやろうとしているのとか。
あるいはナタと馳朗が離れ離れになってしまったときも、自分は正々堂々と恋をしたいのだと、ナタがいなくなってそれで選ばれるなんて意味がないのだと、恋敵であるナタを殴り飛ばしてでも取り戻したり。
最終決戦のときなんか鬼仙の仲間を裏切っても、自分は馳朗が好きだから馳朗のために戦うと堂々と言うくらいですし。
なんかもうめちゃくちゃヒロイン力高いんですよ、この子。
本作のストーリー的にはさ。どう見たって馳朗とナタの出会いから始まるボーイミーツガールで、蓮花は負けヒロインポジションだと思うのに、そんなの関係ないくらいに圧倒的な可愛さ見せてくるヒロインなんですよ。
終盤はメインヒロインが蓮花だと信じて疑わないくらいには、ヒロインだった。
なので正直最終巻の表紙にナタと馳朗、ライバルキャラのジンとウーの四人がいて、蓮花がいないのは何かのバグだと思いました。
マジで可愛かった。
蓮花が恋心を自覚するのもシリーズ中盤からなので、そういう意味でもやっぱり本作は中盤からが好きでした。
6:巻別満足度と総合評価
最後に本作の巻別満足度と総合評価です。
まずは巻別満足度。
ここまでで話したとおり、4巻でライバルのジンが登場し、さらに蓮花が恋心を自覚してからヒロイン力を発揮してきてからグッと面白さが増すシリーズでした!
そして総合評価です。
シリーズ全体を通しての満足度は ★8/10
満足の作品でした!
おわりに
カッコいい主人公、それと対比的に魅せられる最高のライバルキャラ、めっちゃ可愛いヒロインにバカップル。キャラ推しをしたがるわたしの好物みたいな作品でしたね。
しかしそれが4巻あたりからだったから、ちょっと作品に引き込まれるのに時間がかかってしまったのは事実ですね。数少ない不満ですね(残りの不満はほぼほぼ蓮花が最終巻表紙にいないバグ関連です)。
今回は感想はこんなところで。
気になった方は読んでみてください。できればまずは4巻まで。
最後に1巻のAmazonリンクとBOOKWALKERリンクを貼っておきます。
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