ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part59】オレと彼女の絶対領域

 今回感想を書いていく作品は「オレと彼女の絶対領域(パンドラボックス)」です。

 HJ文庫より2011年~2013年に刊行されていた全7巻のシリーズ。作者は鷹山誠一。イラストは伍長

オレと彼女の絶対領域 (HJ文庫)オレと彼女の絶対領域7 (HJ文庫)

※画像はAmazonリンク(1巻および7巻)

 

 

作品概要

 まずはいつものように本作の概要から。

 

 ””主人公の「オレ」は高校に入学して出会った先輩に一目惚れしてしまう。

 しかし彼が一目惚れした彼女、観田明日香先輩は「絶対不可避の予言を告げる魔女」として周囲から恐れられていた。

 話を聞けば、彼女は自分の見た悪夢が必ずその通り実現してしまうらしく、それを他人に伝えたり自分で解決しようとしたりしていたが全て失敗に終わりそんな噂がたってしまったのだという。

 好きになった先輩をどうにか救いたい、未来予知に立ち向かうオレの戦いが始まるのだった。””

 

 と、そんなお話です。

 

 ジャンルとしては「学園ラブコメ」×「SF」ですね。

 本作に登場する未来予知やその他異能に関しては全てファンタジーの代物ではなく、SFのような理論(主に量子力学)に基づく形で説明されるため、ジャンルとしては「SF」としておくのが良いでしょう。

 

 

全体を通しての感想

 では、そんな本作の感想について。

 

 まず触れるべきはやはり鍵となる「異能力」になるでしょう。

 

 基本的に本作のヒロインたちが持つ異能は、何かしらの幼い頃の心の問題によって発現していて、その能力が引き起こす不可思議な現象に関しては科学的な理論(量子力学)によって説明できる、といった形になっています。

 

 そのため、設定として見たときにこれはなかなか面白いものでした。

 

 能力が起こす事件があって。

 それを解決するために動くと、段々ヒロインたちの抱える悩みに触れていく。

 数々の不可思議現象はちゃんと理屈があって飲み込めるものになっているため、その仮説を踏まえた上で能力を攻略した上で、ヒロインを救わなければならない。

 

 このしっかりした話の骨子ができるわけですからね。

 もちろん創作物である以上、ある程度のご都合主義だったり拡大解釈のようなものはあるかもしれませんが、しかし能力に関して本作は曖昧なままで終わらせることがないようにしている気概が伝わってくるので、わたしはそれを良いなと思ったわけです。



 じゃあ、実際そんな設定を使った話は面白かったのか?

 と聞かれると、それはまた別の話です。

 

 正直、序盤はあまり面白いと思えませんでした

 

 というのも、なんか味が薄いんですよ、この作品。

 登場人物も物語もハリボテめいているというか。

 

 例えば1巻では未来予知の先輩を助けるお話なのですが。

・異能力によって苦しんでいると言う割に、逼迫感がまるでない。

・もちろんそれによる先輩の心情の深掘りがない。

・一方の一目惚れだけで命までかけていく主人公も違和感ありあり。

・基本的に主人公が自分で能力の問題点を解決したわけではなく、解決したのは天才幼馴染のヒロインという絶妙にヒーローとしての魅力を感じない展開。

 などなど、個人的に気になった部分として出てきました。

 

 この感覚は2巻以降も続きますが、流石に3巻あたりになるとそういうものかと慣れて来ることや、ヒロイン同士が恋敵としての絆を深めるような展開が生まれてくるので、普通に楽しめるようにはなっていたかと思います。

 

 しかしながら、最終巻。

 ここまで来ると、この違和感はほぼ全て解消されました。

 これは詳しく話すとネタバレになるのですが、ある種の素晴らしい伏線回収だったと思いますよ。

 だから、個人的な最終的な感想としてはシリーズ全体を見ればなかなか面白い作品だったなという結論になります。異能力ひいてはそれによって起こるラブコメをしっかり作者なりの理論で語られる作品だったのだと、そう思えるようになりました。



最終巻のネタバレ

 さて、ではそんな本作最終巻の内容をネタバレしていきます。

 ここからは色反転もしますが、見たくない方は飛ばして自衛お願いしますね。

 

――――

 最終巻は、基本的に明日香先輩視点で語られます。

 そして紆余曲折あって明かされるのは、この世界の主人公が明日香先輩であるということ。さらにはあらゆる異能力を生み出した元凶もまた彼女であるということ。

 

 彼女が夢見るものは全て実現する。

 それは本来、幼い彼女が夢想した非現実を全て実現させるような代物だったという。

 すなわち今あるこの時間の全ても彼女が夢見た、彼女の理想的な世界でしかないのだと。

 

 だからこそ、この作品はハリボテめいていたというわけですよ。

 オレ君が、明日香先輩に一目惚れしたのは、彼女が自分だけの理想のヒーローを願ったから。

 彼が他のヒロインたちを救っていくのも、その結果彼に惚れるヒロインが生まれるけれど彼は絶対に自分一筋でいてくれるのも、自分が恋敵の女の子たちと仲良くできるのも、全ては自分がそういう理想的な世界を思い描いてしまったから。

 異能力に苦しんでいるなんていう描写が少ない? そりゃそうでしょ、彼女は結局は自分が未来予知で苦しんでいますっていう悲劇のヒロインを演じていただけなんだから。本質的な苦しみはないんだよ。

 

 と、そんな話がされるんですよ。

 もちろん明日香先輩はそんな世界を自覚して生み出していたわけではなく、こうして明かされたものの全てが事実そうである証拠はどこにもない。彼女はきっと心の奥底でこうだったらいいなと思う程度だったのでしょうが、それが実現してしまう能力を持ってしまったから全ての話は変わってきたということです。

 

 いやぁ、この最終巻はびっくりでしたよね。

 ラブコメのご都合主義とか、主人公がヒロインにもてまくる現象とか、そういうのもひっくるめて一人の女の子の理想だったからの一言で片付けてくるんですよ。

 それまでに感じていた薄っぺらさが、それが事実なんですものって言われる驚きたるや。

 

 ある種の完璧すぎる伏線回収、じゃないですか?

 と、わたしは最終巻を読んでそう思ったわけです。

――――


幼馴染ヒロインに関する所感

 さて、最後に1つだけ。

 本作で語るべき部分があります。

 

 それは主人公の従姉であるサヤ姉。

 彼女はいわゆる幼馴染ヒロインであり、往年の暴力系ツンデレという明らかに設定ミスと思われる業の深い属性を背負った子なのですが。

 

 彼女は1巻を読んだときには、過去最低のヒロインだと思いましたよ。

 だって1巻のムーブを見ると

・彼女は主人公に好きという気持ちを伝えていない

・それなのに、明日香先輩にご執心になった主人公にあーだこーだ文句を言う

・すぐに暴力を振るって

・挙げ句の果てには、明日香先輩を助けにいく主人公の背中を押して「これで貸し一つよ」「自分は不戦勝なんか認めない」とか言ったのにもかかわらず、その直後のエピローグで「貸しがあるんだから、私の彼氏になりなさい」とかいう意味分からなすぎる告白をしてくる。

 ですからね。

 

 マジでやべー女だと。

 やっぱりツンデレ暴力系幼馴染は地雷しかいないんだと、そう思ってたんですよね。



 しかし、どうしたことか。

 2巻以降で全然印象が変わるんですよ。

 もう告白してしまった影響からか、主人公にもちゃんと自分が好きなんだからというアピールはかかさない上で、年上の頼れる幼馴染のお姉さんとしてのポジションで完璧なムーブをしてくるんですよ。それどころか明日香先輩含む他のヒロインとも、その持ち前の姉力で仲良くなって正々堂々恋のライバルをしようとする姿さえ見えるのです。

 

 あの1巻はマジで何だったの?

 と言いたくなるレベルですし。

 それどころか「ツンデレがはやってるからとりあえず1巻はそういうキャラとして出すけど、彼女は頼れるお姉さんキャラにしたいからさっさと告白させちゃえ」みたいな作品の都合的なものを邪推してしまいますよね。

 

 本作、ほとんど全ての謎は最後に解決しますが。

 こればかりはあまりに謎すぎて、最終巻のあの理論でも擁護しきれていない気がします。

 

(なお、このセクションの感想に関しては「ツンデレ暴力系幼馴染とかいう間違えた属性を許すな」という私怨に基づく表現が多々見られますがご了承ください。

 わたしは常々、幼馴染とツンデレという属性が意味分からないと思っています。

 だって長年好きな気持ちを抱え続けたまま、それを伝えずにいるような状態なんて、明らかに普通の好きってレベルじゃない、大きすぎるラブに変わってるはずなんだからそれがただのツンデレなんていう「素直に想いを打ち明けられなくて悪態をついてしまう」なんてものに収まるわけがないだろと。メンヘラかヤンデレになっててもおかしくないだろと。特にしばしば見受けられる「自分は好きな気持ちを告白していないのにもかかわらず、自分の好きな人に他の女が寄りつくとそれを邪魔しようとする謎のムーブ」なんて明らかにヤンデレのやることじゃんって。

 幼馴染にツンデレが合う要素どこ? とわたしは常に言い続けます。

 これは最近読んでいた「まぶらほ」でも証明されている。宮間夕菜とかいう幼い頃の初恋を抱え続けて愛情がオーバーフローした結果、暴力系のヤンデレさんになってちゃんとめっちゃ可愛いヒロインになっている子がいるのだから)

 

巻別満足度と総合評価

 最後に本作の巻別満足度と総合評価です。

 

 まずは巻別満足度。

 ここまでに述べたように、序盤は微妙に感じてしまう部分が多々あった作品でした。

 しかしながら、最後まで読むとこれはこれで良かったなと今は思っています。

 

 なので総合満足度としては ★7/10 です!

 

おわりに

 今回は「オレと彼女の絶対領域」を読んでいきました。

 

 正直、初見では少しびっくりでした。

 未来予知するヒロインがいるのはあらすじから分かっていましたが、それでファンタジー作品だと思っていたら、SFというか量子力学な作品だったんですもの。

 小難しい話は多々ありますが、ある程度しっかり分かりやすく噛み砕いていて、ラノベとして楽しめる作品になっていたかと思います。

 

 また、最終巻まで読むと評価がガラッと変わる作品でもあるので気になった人は是非読んでみてほしくもあります。

 

 今回の感想は以上です。

 

 

 

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