今回感想を書いていく作品は「まぶらほ」です。
ファンタジア文庫より2001年~2015年に刊行されていた全33巻(長編4+短編22+外伝6+番外1)のシリーズ。作者は築地俊彦。イラストは駒都えーじ。
※画像はAmazonリンク(長編シリーズ1巻、短編1巻、外伝1巻)
作品概要
まずは本作について、簡単な紹介。
まぶらほシリーズは第3回龍皇杯優勝作品で、基本的にドラゴンマガジンで連載されていた作品になります。
そのため、全22巻ある短編シリーズが本作の本編と言えるでしょう。
そしてその短編からキャラや設定、世界観はそのままに別の物語として書き下ろしたのが長編シリーズ。全4冊で構成されています。
それから、またまた少し別の世界線として、世の中には数多のコスチューム好きが立ち上げた組織があり日々しのぎを削り合っているという状況で、主人公がMMM(もっともっとメイドさん)と呼ばれる組織に拉致されご主人様にされるところから始まる物語が外伝のメイドシリーズ。全6巻で構成されています。
そして、番外の1冊は。サブヒロインの1人、神城凜にフォーカスしたスピンオフのような形になっている「凜の巻」ですね。
それぞれ導入となる部分、世界観は基本的に共通ですので、その部分に関してあらすじとして紹介すると以下のような感じです。
””舞台は魔法が存在する現代日本。1人1人が生涯に使える魔法回数が魔力量として表されるような世界。
主人公はエリート魔術師養成学校・葵学園に通うパッとしない主人公、式森和樹。和樹自身の魔法は8回しか使えない落ちこぼれだが、彼の先祖には偉大な魔術師が多数存在しており、彼との間に生まれた子供は驚異的な魔力を持つ可能性が高いという。
そこである日、彼の前に3人のヒロイン・宮間夕菜、風椿玖里子、神城凜がやってくる。彼女達の目的はなんと彼の遺伝子。こうして、和樹の平凡な日常は一変し、波乱の学園生活が始まるのであった。””
それを踏まえた上で、それぞれのシリーズについて紹介することとしましょう。
1:短編シリーズ(本編)
まずはドラマガで連載されていたもの+各種書き下ろしで全22巻構成になっているまぶらほ本編の短編集。
「にんげんの巻」から始まり、「ゆうれいの巻」で3冊、「ふっかつの巻」で8冊、「じょなんの巻」で10冊と続くシリーズですね。
まず、にんげんの巻はまさしく先ほど述べたあらすじを含む導入の巻。短編という形式で1話ごとにヒロインたちを見せつつ、その中でもメインヒロインとなる宮間夕菜と和樹にややフォーカスされていたような感じでしょうか。
続くゆうれいの巻は、主人公の和樹がゆうれいになってしまい、どうにかこうにか生き返るまでのお話。
ふっかつの巻は、和樹がふっかつしてから新たに栗岡舞穂がヒロインに加わってからのお話。ここでは同時に書き下ろしで、本作最大のメインヒロインとも呼ばれる山瀬千早のエピソードが描かれていき、続くじょなんの巻でヒロインとしてふっかつするまでの物語が綴られます。
最後のじょなんの巻は、本作のヒロインレースの決着へと向けた終章です。千早も加わった5人のヒロインそれぞれを存分に味わえるものになっているでしょう。
そんな短編シリーズの魅力は大きくわけて3つあると思っていて。
「日常コメディに重きを置くドタバタ感」「正統派ヒロイン山瀬千早」「短編形式の読みやすさ」です。
・まずは、日常コメディパート。
短編シリーズは基本的にラブ2割、コメ8割のコメディです。
それもかなりドタバタ感に溢れたコメディとなっています。
このドタバタ感を生み出す要素がまたいくつかあると思っていて、それが「メインヒロイン宮間夕菜の大暴走」「金の亡者しかいないクラスメイト」「魔法アリで基本的に何でもできる世界観」の3つでしょう。
――メインヒロイン宮間夕菜の大暴走について。
メインヒロインであう、宮間夕菜はヒロインの中で唯一幼い頃に和樹と出会っていて、そこで初恋をして和樹の元に押しかけ妻としてやってきたヒロインです。
そして基本的に彼女の言動は和樹が大好きであるというその一念から生まれており、その愛のためならあらゆる行為が正当化されると思っている行動力の化物になっているんですね。
結果、登場当初こそ圧倒的清楚系メインヒロインの風格をまとっていた夕菜は、ゆうれいの巻あたりから徐々にその化けの皮が剥がれてきて、清純派武闘派ヒロインなどと呼ばれるヤンデレ一歩手前くらいのやべー女に変貌しました。
その行動の一例を挙げると。
「他の女の子と仲良くしている和樹の腕を切り落とそうとする」「嫉妬の炎(マジの魔法)があふれ出すと周囲の建物が崩壊する」「和樹が危機に陥ったとき、自分の身を差し出して助けようとしていたが、和樹が他の女の子と密着しているのを見た瞬間、和樹さんは私が殺しますと言い出す」「和樹にお仕置きをしていいのは自分だけだと思っている」などなど。随所にヤンデレの気配が見えますね……。
ラブコメではありますが、基本的には夕菜の嫉妬がヤバいので普通にラブしている余裕はなく、結局いつものドタバタになってしまうというパターンが数多く見られました。
この夕菜の過剰な嫉妬に関してはみていて面倒に思う方もいそうですが、個人的にはめちゃめちゃ好きです!
結局夕菜の行動は全て和樹が好きだからこそ生まれるものなんです。和樹の優柔不断さや、他のヒロインの自分の気持ちを明言しないままにアプローチをしている様子を見ていると、ちゃんと好きだと言って暴走している夕菜はよっぽど好感が持てるんですよ。彼女の言う好きの気持ちがあれば何をしてもいいという考えを全面的に肯定はしませんが、それでも自分の好きの気持ちのために常に全力であろうとするのは本当に好きなヒロイン像です。……まぁ、その行動力をことごとく間違った方向に発揮するから残念系美少女なんだけど。
――金の亡者しかいないクラスメイト
和樹と夕菜の在籍する2年B組。そのクラスメイトは全員が、優秀な頭をダメな方向に使うタイプの金の亡者しかいません。
学校行事があれば、裏賭博、裏取引を開催して生徒たちから金を巻き上げようと画策し。新聞部や演劇部、各種部活動に所属している生徒はその立場を利用しては学校で事件を起こし、そこで金を動かそうと画策する。
さらにはB組全員揃って、そんな金稼ぎに全力を注ぐものの、基本的には「他人の不幸は蜜の味。他人の幸福砒素の味」を信念にして他人の足を引っ張り、自分だけが得をしようと思っている馬鹿ばかりなので、最終的にはクラス内での金の分配において醜い争いが生じてぐだぐだになって終わるのがいつものパターン。
さらには金稼ぎと同じくらいに好きなのが、幸せそうな奴を不幸にすることなので、ヒロインたちに囲まれる主人公和樹をいかにして不幸にするかを常に考えているような奴らです。夕菜の嫉妬に加えて、クラスメイトの妨害もあってで、和樹にまともな恋愛をやっている余裕がないの可哀想すぎる……。
ちなみに、B組の奴らは転校生である夕菜に対してはこの金の亡者思考を見せないために普通に良いクラスメイトと思われているのですが、和樹の恋愛妨害に気づいてからは「和樹さんにお仕置きしていいのは私だけです」と言って、そのたぐいまれない暴力性でお話をした結果B組全員をおとなしくさせたこともあるとかなんとか……。もちろんその後も夕菜に見られない場所なら和樹に手を出すクラスメイトたちなのですが。
――魔法アリで基本的に何でもできる世界観について。
これに関しては主にゆうれいの巻から登場する、教育実習生・紅尉紫乃による影響が大きいでしょうか。
彼女は死体や幽霊を偏愛しており、人体実験や怪しい薬を作ることも趣味のような先生でして。定期的にこの怪しい薬を和樹たちに使っては事件を起こして楽しむという厄介な人。
感情を暴走させる薬や、幼児化させる薬、TSさせる薬などなど。魔法アリでファンタジーだからこそできるコメディ話をいくつも生み出していて、普段とは違う笑いを提供してくれるので個人的に見てて楽しい部分でした。
・続いて、正統派ヒロイン山瀬千早
初登場はゆうれいの巻の書き下ろし短編。和樹が1年生の頃、まだ夕菜も転校してきていない本編開始前の文化祭のお話が描かれました。
それから転校してしまって、本当は和樹が好きだった気持ちを抱えたままで2年生になり再会することから始まる物語がふっかつの巻全8巻を通じて書き下ろしとして描かれていきます。おそらく彼女の書き下ろし全部集めたら単行本2~3冊分にはなってます。
ここで描かれる内容は、恋心を抱えて伝えられないままでいる1人の少女の切実な思い。本編が既に述べたようにコメディ全振りになっていて、この千早編がこの作品においていちばん普通に恋愛しているということもあって、それなのに失恋確定のような方向性で描かれるお話は常に胸を締め付けられるような思いになります。
しかし、そんな書き下ろしで初登場して、ふっかつの巻を通じて掘り下げられた千早はちゃんとヒロインとして最後のじょなんの巻では夕菜たちと対等な立場に参入するのです。この千早の異例の出世街道、正ヒロインと言われても納得しかできないヒロインパワーは本当にすごいですよ。なんかすっげぇ暴走しているメインヒロインさんにも見習って欲しいくらい。
・最後に、短編形式の読みやすさについて
こんなの言うまでも無いことだと思いますが、この作品めちゃめちゃ読みやすいです。
それはもちろん短編だからというのもあるでしょうが、それだけでなく。ドラマガで連載されていたというのもあって、基本的に40ページ前後で起承転結を持つ形があるんですよね。これは4コマ漫画が読みやすいのと同じような読みやすさです。
また、既に述べたように夕菜の暴走やB組の起こす事件といった基本的なオチパターンが決まっているのもこの読みやすさに繋がっているのではないでしょうか。
なので、安定した面白さ。いつものやつ。一度好きになればずっと読んでいられる。そういうタイプの作品として非常に大きな強みを持っているシリーズなんですよ。これが全22巻も続くわけですからね、読んでいる時間は本当に楽しかったですよ。
2:長編シリーズ
長編シリーズは既に紹介したように、設定や世界観そのままに全4巻でまとめた別世界線のお話。
その内容としては、夕菜の持つたぐいまれない魔法の力を持っているがその体の中には悪魔を宿していることで、賢者会議と呼ばれる組織にその身を狙われてしまう。夕菜を救い出すことはできるのか。といった感じのお話になります。
短編がコメディ極振りだとしたら、こっちはシリアス全振りですね。
現代ファンタジー世界観を存分に活かした現代兵器と魔法による戦いは普通に人死にがありますし。組織絡みの問題となってくるとただの高校生で解決できるものではなく、和樹たちの先生で政府のエージェントである伊庭かおりや、凜の退魔師としての剣術や玖里子の実家の財閥の権力なんかもかなり活用されていた印象があります。
特にシリーズ2巻の「アージ・オーヴァーキル」、3巻の「デソレイション・エンジェルス」はかなり精神的に苦しい展開が続き見ている側としても辛いものがありました。
そんなわけで、本編の短編とは違った味わいがあり、これはこれで面白いモノだったのですが個人的にこれは認められないと思ったのが最終4巻「ストレンジ・フェノメノン」の結末。
どういう結末だったか明言はしませんが、言ってしまえばものすごく読後感悪いです。ホラーや怪談話のオチを持ってきたような感じで、これはハッピーエンドとバッドエンドどっちなんだというのが読者の解釈に委ねられたような形になります。
正直、ないわーと思いました。
この読後感こそストレンジ・フェノメノンだろと言いたくなります。
3:メイドシリーズ
続いて外伝となるメイドシリーズ。
全6巻で構成されるこのシリーズは、最初にも述べたように「世の中には数多のコスチューム好きが立ち上げた組織があり日々しのぎを削り合っているという状況で、主人公がMMM(もっともっとメイドさん)と呼ばれる組織のリーラ率いる部隊に拉致されご主人様にされる」ところからお話が始まります。
そして、全シリーズの中で最も夕菜が暴走します。
当然ですがメイドたちに和樹を拉致されて黙っている夕菜ではなく「メイドは皆殺しです」「メイドに神の鉄槌を!」と言ってはメイドたちを片っ端から叩きのめすために戦いを始めるわけですね。
そんな夕菜を危険人物と認識して、リーラ率いる第五装甲猟兵侍女中隊は迎撃を始めて、このシリーズの大半はこの「メイドVS夕菜」という構図で話が進みます。
このシリーズにおける夕菜の何がひどいって。
やっていることのほぼ全てがメインヒロインのやることじゃないんですよね。
メイドは一匹残らず駆逐、みたいな思考している時点でアレですが。
それだけでなく「各種コスチューム部隊の間では、魔法による戦闘は厳禁という条約があっても、そんなの知ったことありませんと魔法を平然と使う」「条約だとか規約を全て紙に書いてあることといって破り捨てる」「目の前の敵を仕留めるためなら共闘、裏切りは当たり前」「リーラという巨悪(夕菜視点)を倒すために、刑務所から犯罪者たちを連れだした組織を編成する」などなど。
和樹のためならあらゆる手段が正当化されるという、思考が最も発揮されていて手の付けようがありません。対メイド用リーサルウェポンだとか、ワンマンアーミーだとか、破壊神カーリーだとか、言われる始末。
しかし、ある意味でこの暴走は夕菜のヒロインとしてのハイスペックさを強調するようなものでもあったため、やっぱり個人的には夕菜が大好きだと再認識できるものであったんですよね。
そんな夕菜の大暴走に立ち向かうのが、このメイドシリーズの正ヒロインであるリーラと彼女の率いる部隊。
リーラはシリーズ内で最も欠点の少ないヒロインと言われるほどの完璧メイドであり、夕菜の攻撃に対してもかなり余裕を持って対処できるスペックを持っています。ただその一方で自分のご主人様となるべきと認めた和樹に関することだと、結構冷静さを失ってしまう。夕菜のように表面的には見せないものの、それこそがメイドとしての自らを律しようとする強い意志となり、リーラの魅力になっていました。
しかし、そんなリーラたちも最初は和樹を拉致することから始めて、夕菜の襲撃があるたびに和樹を隔離して保護しようとして……、そこに和樹の発言権が一切ないんですよね。夕菜は言うまでもないですが、読んでいるとリーラも夕菜もどっちもどっちだなと思ってしまって苦笑が漏れます。
ただ、そうであるからこそ、というのか。
夕菜もリーラも和樹のために戦うという根底が同じで、なおかつ基本的にどちらもハイスペックであることから案外相性がいいんですよね。一時共闘していたときや、最後の戦いの結末を見ると、2人の戦いは一種のじゃれあいというか。それこそトムとジェリーのような、基本的には容赦ない殴り合いしてるけど、本当は仲良いよね君たちという気持ちになってこれが面白いシリーズになっていました。
※個人的に少しトラップだと思ったこと。
メイドシリーズの5巻にあたる「またまたメイドの巻」は、内容の半分が3巻と4巻の間にあたる時系列の出来事になっていて、所見で読んだときに「あれ? 読む順番間違えたか?」と本気で焦りました。
しかし、これは先に書いていたメイドシリーズのお話があって、その後で3巻と4巻の間の一幕をドラマガで連載したことで生じたのとのことらしいです。そう言われるとなるほど納得でした。
ですので、巻の順番通りに読むのは間違いありませんが。3巻→5巻の半分→4巻→5巻残り半分という順番で読むと、時系列順で過不足無く楽しめるかもしれません。万一にもこんなブログを見て、まぶらほを今から全部読むぜという方がいたらそれをオススメします。
4:凜の巻
最後に番外として、凜の巻。
これは本作のヒロインの一人、神城凜にフォーカスした1冊。
個人的に好きなヒロインではなかったため、この1冊で大歓喜ということはなかったのですが、それでもなかなか面白いと思いました。
というのも、凜の巻では彼女の家系にまつわる話、退魔師としての戦いなどが描かれるため普段の短編からは味わえない緊迫感があったのです。長編シリーズのシリアス、メイドシリーズの銃撃戦とも違うバトル展開なので新鮮さが一層あったかもしれませんね。
こうして番外で発売されるくらいに、刊行当時は人気のあったヒロインなので、ちゃんと凜ちゃんが好きな方はもっと楽しめるかもしれませんね。
巻別満足度と総合評価
最後に本作の巻別満足度と総合評価です。
まずは巻別満足度。
個人的な満足度という話になると、シリーズ中盤以降は夕菜の暴走具合に比例するところがあるので……、そこで山と谷ができてしまっている感じがしますね。
「じょなん2」「じょなん8」「メイド1」「メイド4」あたりは夕菜の暴走っぷりが凄まじく綺麗な山になっています。「ふっかつ6」に関しては千早編のクライマックスなのでかなり面白かったです。
一方で読後感の悪い「長編4」、夕菜の大暴走からいつもの日常に戻った落差で「じょなん3」あたりはちょっと物足りさを感じて谷ができています。
とはいえ、基本的には平均して常に一定の面白さがある作品でした。
なので総合満足度としては★8/10とします。
やはりこれだけ長く楽しく気楽に読めるシリーズは貴重ですよ。しかもラブコメメインの作品で。
おわりに
想像以上に楽しく読み続けられたシリーズです。
感想でも何度も言っているかもしれませんが、こういう長く楽しく読み続けられるシリーズはやはり良いです。もちろんずっと熱中して、のめり込むように、どんどん話が深まっていくようなシリーズも良いものですが。
そういうシリーズばかりだと、わたしはやっぱり疲れてしまうんですよね。
気軽に安定して楽しめるシリーズというのは貴重なんです。
そしてそれが20巻を軽く越えるような長編シリーズとなればなおのこと。
なのでまぶらほシリーズは本当に楽しく読ませていただきました。
以上で今回のシリーズまとめ感想を終わります。
前回のシリーズまとめ感想「最果ての図書館シリーズ」
【シリーズまとめ感想part54】最果て図書館シリーズ - ぎんちゅうのラノベ記録
次回のシリーズまとめ感想「藍坂素敵な症候群」
【シリーズまとめ感想part56】藍坂素敵な症候群 - ぎんちゅうのラノベ記録