今回感想を書いていく作品は「ダンタリアンの書架」です。
スニーカー文庫より2008年~2011年に刊行されていた全8巻のシリーズ。作者は三雲岳斗。イラストはGユウスケ。
※画像はAmazonリンク(1巻および8巻)
作品概要
まずは本作の概要から簡単にご紹介。
””舞台は近世20世紀初頭、第一次世界大戦後の英国(風の世界観らしいですね)。
主人公の青年・ヒューイが蒐書狂である祖父から、古ぼけた屋敷とその蔵書を引き継ぎ、その屋敷の地下で不思議な少女・ダリアンと出会う。彼女は、この世にあらざるべき幻の書物である「禁書」をその身の中に収めるダンタリアンの書架の管理者。
ダンタリアンの書架の鍵守として認められたヒューイは、ダリアンと共に幻書が引き起こす事件を解決して回るようになるのだった。””
という感じ。
本作は幻書にまつわる事件を解決していく「短編集」となっており、それぞれの短編は一応時系列順にエピソード番号が振られていますが、基本的に1つ1つの話に繋がりはなく独立してそれぞれ完結する形になっています。
そのため、本作は全8巻のシリーズモノではありますが、そのシリーズ全体を通した大きなストーリーといったものはあまり見られず、ダンタリアンの書架やその鍵守といった本作固有の設定や世界観に関しての深掘りや真実というものが描かれることもほとんどないことが特徴となっています。
とにもかくにも短編集として一貫されていたということですね。
それを踏まえた上で、本作の感想をまとめていきます。
1:徹底した短編集
既に述べたように、本作は最初から最後まで短編集であることが徹底されていました。
最終巻だから、ダリアンやヒューイの物語としての何らかのゴールがある、なんてことは一切なく、最後まで独立した短編事件簿としてまとめられていました。
そのため、第一に感想としてあるのは
・短編集としての満足感が素晴らしい!
・シリーズモノとしての大きなストーリーも見てみたかった……!
という2つにあります。
後者に関しては、もう言っても仕方のないことなので、前者に関してだけもう少し詳しく述べていきます。
本作は「幻書によって引き起こされる事件をヒューイとダリアンが解決する。」これが基本構造となって描かれていく作品です。幻書はこの世にあらざるべき書物、適切な人間が所有することで、それは現実の理をねじ曲げるような現象を引き起こしてしまう。これにより普通の人間にはなし得ない超常の事件が生じてしまうというわけです。
そして、本作ではダリアンには「この世には知るべきでないことがあるのです」と言われるように、この幻書の力は「人の身には過ぎたる力」として描かれます。
それ故に過ぎたる力に手を伸ばしすぎた者の因果応報、盛者必衰が結末としてやってくる。ほぼ全ての事件にバッドエンドが約束されています。
事件が起こったときにはもう手遅れ。
ダリアンとヒューイは、事件を解決するとは言うものの、基本的に二人にできるのは事件による被害者をこれ以上増やさないための問題の鎮圧だけで、事件の当事者たちのたどる破滅の運命を止めることはできない、という状況になってるものがほとんどです。
そのため読後感としては空虚感や寂寥感が自然と多くなったように思います。
しかしながら、全てが全てバッドエンドというわけではなく、時には心温まる結末を迎えるお話もあって素直に楽しむことができました。
とはいえ、そんな感情を別にして。
本作が短編集としての素晴らしい完成度を持っていたのは事実。
幻書による過ぎたる力、というものがそもそもに短い起承転結の構造を作るのに適しているんですよね。どのお話も必ずそれ相応の報いを受けるというものを結末に持ってこられるわけですから。
1つ1つのお話が綺麗にまとまっている。それは悲しい事件ばかりだとしても非常に読み心地は良いものですし、それぞれのお話に対する不満を持つということが無かったのです。
そういう意味で、シリーズ全体を通して安定した面白さがあったのは本作の強みだったと思います。
本編にまつわる事件1つ1つをここでは詳しく語ることはしませんが。
特に好きだったお話を選ぶなら
「美食礼賛」「月下美人」「黄昏の書」「幻曲」「調香師」「柩の書」「叡智の書」「人化の書」
あたりになります。いっぱいありますね。
また、個人的に好きだったポイントとして。
ダリアンとヒューイがほとんど関わらない10ページほどの幻書事件として描かれる「断章」がありました。
これはもうどのお話もマジでめちゃくちゃ面白い。
個人的に特に好きだったのは自分の分身を生み出す幻書のお話、表紙に描いた人間の内面を描き出す模倣の書のお話の2つですね。いやまさかのオチ、っていう短編としての驚きに満ちていて、幻書というものを本当に上手く使ったお話だなって思えるんですよ。
2:ダリアンとヒューイ
短編集としての本作の読み心地。
それを支えていたのはいうまでもなく、二人の主役によるもの。
そして、それは単に二人のキャラクター性というだけでなく。
本作は基本的にダリアンとヒューイの二人”だけ”が事件を解決する、ということにあったように思います。
すなわち、ほとんどの登場人物は一度限りということになります。そのためキャラ小説として読むに当たっては、基本的にこの二人のみに集中することができるということになります。
では、そんな二人をじっくり見てみれば。
基本的に幻書というものに関して詳しいのはダリアンなので、彼女が主導で事件に近づいていき、ヒューイは彼女に振り回されながらダリアンを支え助ける保護者として動くという関係性がしっかりできあがっている。
いわばこの二人だけの、探偵小説におけるホームズとワトソンのような形が明確になっているんですよね。それはやはり短編集としての安定した面白さに繋がっている。
そして、もっと細かい部分で見れば。
ダリアンは基本的に口が悪く、本を読むことと、甘いものを食べることに関して邪魔立てされたときはそれはもうとんでもない罵声がぽんぽん飛び出してきます。この傍若無人さはヒューイだけに止まらず、周囲全方向に向けられるものですが……、ぶっちゃけ可愛いんですよね。
それは彼女の見た目が12歳程度であることももちろん、そもそも彼女は人見知りでヒューイ以外に懐いていないんですよね。だから口がどんなに悪くてもそれは子犬がキャンキャン言っているようなもので微笑ましいだけという。ヒューイに対しては毒舌だけでなくワガママ放題な姿もたびたび見せますが、それだってヒューイにだけは好意を持っているからこそのもの。実に可愛らしいじゃないですか。
数々の事件の中ではヒューイの身に危険が及ぶ場合もあり、そうなると途端に取り乱してヒューイの身を案じて泣きそうになるときもありますし。ヒューイが自分以外の女性と親密そうにしていると嫉妬するような様子もいっぱいありますし。
ダンタリアンの書架。なんていうたいそうな肩書きを持って、幻書にまつわる事件では幻書の管理者として相応の毅然とした態度を見せている彼女ですけど、結局のところはヒューイ大好きな可愛い女の子でしかないのですよ。
やっぱり可愛いじゃないですか。
ヒューイはそんな彼女の保護者として。
ダリアンのワガママに仕方ないなと思いつつしっかり付き合ってあげて、幻書事件となれば淡々とその収束のための動くダリアンを支えつつ、ダリアンにはできない事件に関わってしまった人を救うために心を動かすことができる人間。
ダリアンの自由、ダリアンの日常、ダリアンの笑顔。
それを守れるのはきっとヒューイしかいないんだろうなと。
そんな風に思えるほど、彼女の保護者として完璧なムーブをしてくれるんですよね。
こんなヒューイだから、ダリアンも何だかんだ言いながら好きなんだろうなって。
ともあれ、こんなヒューイとダリアンの二人を中心にして描かれる様々な事件だから悲惨な事件の中でも、読んでいて楽しいと思えるところもいっぱいあったと思っています。ときにはダリアンがただの本好き、甘味好きとして暴走してるだけの事件すらありましたからね(笑)
巻別満足度と総合評価
最後に本作の巻別満足度と総合評価です。
まずは巻別満足度。
ここまでで述べたように、本作はシリーズモノのストーリーとしての盛り上がりはなく、短編集としての安定した面白さが強みの作品でした。
そのため、マジで安定した高い満足度がありました。
総合評価はそのまま ★8/10 ですね!
とても満足できました!
おわりに
今回はダンタリアンの書架の感想をまとめました。
2年以上読む読む詐欺を続け、なかなか購入するタイミングがなく、ようやく読めたという思いも大きかった作品でした。
あとは、感想にははぶきましたが、ぶっちゃけダリアンの毒舌が気持ちよすぎて幸せでもあった作品なんですよね。可愛い女の子には愛情持って罵られたいものです。
今回の感想は以上です。