今回の感想は2024年5月の電撃文庫新作「他校の氷姫を助けたら、お友達から始める事になりました」です。
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あらすじ(BWより引用)
他人に冷たい【氷姫】の心は、なぜか《お友達》の俺にだけ溶けていき──。
普通の高校生・海以蒼太が乗る電車には、他校の美少女が乗っていた。冷たい態度で他人を寄せ付けない【氷姫】──東雲凪。それが彼女の名前。ある日蒼太は彼女が痴漢に遭っているのを目撃し、勇気を振り絞って彼女を助ける。その次の日、彼の前に彼女が再び現れて……。
「電車に乗っている間、傍にいて……欲しいんです」
友人がいないという彼女のお願いを断る事が出来ず、蒼太はそれを引き受ける。彼女にとって初めてで、たったひとりの"お友達"になる事を。
「一番は海以君って決めてましたから」
世界でたったひとり、自分にだけ甘く溶けていく他人に冷たい【氷姫】。蒼太は彼女と"お友達"であり続けられるのか──。
感想
お友達? お友達ってなんでしょう?
ちょっとわたしの頭がバグっているのかもしれません。
だってわたしにはずっと恋人がイチャイチャしてるようにしか見えなかったのです!!
そんなはずはありません、これはお友達から始める恋愛ですもの。決してお友達になったときにはもうほとんど恋人くらいの距離感だったとかそんなことがあるわけないのです。たとえ、電車内で毎朝あんな距離感で楽しそうにおしゃべりしたり密着したりしていても本人たちがお友達というのならそうなんでしょう。
……なるほど、じゃあそれはお友達だ。納得納得……、できるわけあるか!
というわけで、長い前振りでしたが感想です。
本作は一言で言えば「温かい目で若者の青春を見守る系恋愛作品」です。
想像してみてください、年頃の男女が毎日電車の中でほとんど密着する距離感で楽しそうにお話していて、ちょっと電車が揺れたりしてぎゅっとなってしまうと女の子が幸せそうな顔をするんです。男の子はそんな彼女を見て気恥ずかしさを覚えながらも、ぎゅっと抱き返してあげるんだ。
あまーーーい! ……そんな男女がいたらそれが恋人だろうとなかろうと、周囲の人たちはとても優しい視線で2人の青春を見守ってたでしょうね! そうに違いない。それが優しい世界というものです。そうであるべきなんだ。
そして本作は読者にそんな気持ちを与えるような作品、というわけです。
ストーリーとしては、同じ電車に乗っていてそれまでは遠目で見ているだけだったヒロインと1つのきっかけから会話するようになって……、というもの。
大きな捻りはなくスムーズに入ることができる導入になってます。
しかしながら、本作は序盤からあっと言わされました。
それはヒロインの持つ恋心。
最初は確かに痴漢から助けてくれた恩人への感謝があり、そこから信頼できる人という形になったのでしょうが。彼女の場合その信頼というステップアップとほぼ同時に、異性として気になる相手、仲良くなりたい相手に向ける気持ちが芽生え始めているのです。
そのため最初から彼女の中に「初めてのお友達=大好きな人」という等式が自然とできあがっているのですよ。
だからこそ、そんな彼女との距離感はあまりにも近い。彼女からの気持ちに好意が溢れまくっている。お友達、という言葉に込められる気持ちが特別で重いものになっている。本人もそれを自覚していればこそ、より一層に。
誰にも心を開かないヒロインが自分だけに向ける特別な甘い甘い気持ち。
それが最初からほぼ全開で伝わってきます。
まさしく本作のテーマを本作最大の強みとして、初手から読者に致命傷を与えてくるような作品です。
あー、もう口の中から砂糖がドバドバあふれ出てくるね……!
そして本作は主人公が、そんなヒロインをちゃんと受け止められるのが良かったと思います。最初から電車内で綺麗な人だなと認識しているくらいには好意的に思っていたのもあるでしょうが、ちゃんと彼女の話を聞いて、彼女が明かしてくれる心の分だけ、ちゃんと気持ちを返してあげようとするような青年でした。
そうであるからこそヒロインから積極的に距離を縮めようとして、主人公が受け入れて、さらにもう一歩ヒロインが踏み出せるようになって……、ととても読み心地の良いテンポ感で二人の進展が綴られていくのです。
終盤には、ヒロインの家庭事情に関することで一波乱があるのですけど。
これもまた個人的には良かったと思っていた点があって。
悪者がどこにもいなかったんですよ。
彼女のお父さんもお母さんも娘想いの本当に良い人で。でもそうだからこそ少しだけすれ違ってしまって問題が起こるわけですが。主人公がヒロインに対して好きの気持ちをちゃんと持って、真っ直ぐに向き合って、周囲の人たちがそれを支えてあげて。すれ違いがほどけてしまえばヒロインのお父さんもお母さんもちゃんとそれを理解してくれる。二人のことを応援してくれる。
本当に優しい世界観。読後感ばっちり。ラブコメでヒロインと主人公の距離をぐっと縮めるような一波乱がこういうのばかりならいいのに、ってそう思うくらいです。
だからこそ、本作はとにかく幸せになるカップルを温かい目で見守りましょう、という作品なのです。
お友達ってなんだっけ? とか。
いつになったら正式に付き合うんだこいつら? とか
そういえば、こいつらがイチャイチャしてるのは電車内だよな? とか。
そんな疑問は野暮ってものですよ。わたしたち読者は見守るのみです。カップルがイチャイチャして幸せそうにしていれば、それ以上のご褒美はないんだ。いいね。幸せ空間を邪魔するのは御法度です。
総評
ストーリー・・・★★★☆ (7/10)
設定世界観・・・★★★ (6/10)
キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)
イラスト・・・★★★★ (8/10)
次巻以降への期待・・・★★★★ (8/10)
総合評価・・・★★★★(8/10) わたしたち読者は観葉植物。二人の幸せ空間を見守れるだけで大満足。
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
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