今回感想を書いていく作品は「Unnamed Memory」です。
電撃の新文芸より2019年から刊行されている全6巻+アフターストーリー既刊4巻のシリーズ。作者は古宮九時。イラストはchibi。
※画像はAmazonリンク(本編1巻およびアフター1巻)
作品概要
まずは本作のあらすじをざっくりと。
””永い時を生き、絶大な力を誇る厄災の象徴たる五人の魔女たち。
強国ファルサスの王太子であるオスカーは、幼い頃にその一人である沈黙の魔女に「子孫を残すことができない呪い」を受けていた。
それを解呪するために、彼が向かったのは青き月の魔女が棲むという塔へ向かう。そこで出会った魔女ティナーシャは、しかし解呪は困難であると言った。代替案として彼女が提示したのは、呪いに耐えうる魔力を有する伴侶を見つけること。
なるほど、絶大な魔力を持つ女性……、いるじゃん、目の前に。
「ティナーシャ、俺の妻になってくれ」
「嫌です!」
そうして始まる一年間の契約。彼女はオスカーの呪いを解くために、彼はティナーシャを口説くために。
しかしただの恋物語で終わることはなく、やがて二人は世界を巡る壮大な運命に巻き込まれていくことになり……””
そんな感じですね。
ジャンルとしては「ファンタジー」「ラブストーリー」でしょうか。
しかしながら、冒頭からオスカーの求婚で始まる本作で「結婚しよう」「しない」という押し問答も見所であるので「ラブコメディ」のような読みやすさもかなり大きかったのではないかと思います。
そして本作は全6巻+アフターストーリーが現在4巻まで刊行中です。
本編は1~3巻までで第一部、4~6巻で第二部の構成になっており。アフターストーリーも実質的には第三部のような形になっています。
したがって、第二部以降の内容を感想で語るにあたっては、どうしてもその前までの情報を前提にしなければなりません。
そして、わたしは今回オスカーとティナーシャという推しカップル語りをしたいだけです!!
一応、最初はがんばってネタバレになりそうな部分を極力排除して、全体を通した所感をまとめようと思いますが、それ以降はもうネタバレ配慮なしで二人に焦点を絞って感想を書きます!
その推しカップル語りに関してはそれぞれの章で区切って書いていこうかと思います。
1:できるだけネタバレナシな全体の所感
まず、最初に二人の恋物語について。
最初こそ結婚するしないというコメディちっくな押し問答に始まる本作ですが、読めば読むほどにその味わいが増していきます。魔女と王様という関係性だけも一筋縄ではいかない要素が盛りだくさんなのですが、どんどん設定や世界観、この物語が巡る運命を知っていくと一筋縄ではいかない程度の言葉じゃ収まらなくなるのです。
しかし、どこまでいっても本作のオスカーとティナーシャを繋ぐ愛は二人だけの特別なものを感じさせてくれますし。ティナーシャはなんだかんだでめちゃくちゃ可愛い普通の恋愛下手で、距離が近づいたかと思えば離れていくような猫系女子で、オスカーはそんなティナーシャを側でずっと手を引いてくれる押しの強いイケメン王子様なので、見てて実にニマニマできる夫婦であったと思います。
続いて、そんな二人を巻き込む物語。
序盤は魔法に関する事件をアレコレ解決するようなものだったりと、結構短編のような色が濃かったように思います。しかしながらティナーシャの過去、魔女になるに至った経緯などが明かされていくと徐々に物語の規模が大きくなっていきます。
そして3巻では一度大きなクライマックスを迎える本作は、そこにおいてオスカーとティナーシャが愛し合っている関係性が二人を壮大な運命へと巻き込むように膨れ上がっていくのです。
すなわち、恋すれば物語が進み、物語が進めば恋も進む。
そんな永久機関が完成している作品と言えるでしょう。
とても素晴らしいです!!
そして、そんな本作の世界観に関して。
これは本編以上にアフターストーリーでの掘り下げが凄まじいです。
本編ではやはりその物語に関係する部分までしか見せられないのですよね。魔法体系だったり、呪いのアレコレだったり、魔女に関するものだったり。もちろんそれすらも圧巻のストーリーも相まって大変満足感のあるものに仕上がっているのですが。
アフターストーリーではそんな本編を越えた先で、話の自由度が格段に広がっているんです。本当にざっくり言えば、旅モノのような、あちこち世界を回ってみる様な形のお話になっているので文字通りに世界がグッと広がるというわけですね。これは是非とも本編を読み切ったらそのまま読んでほしいものです。色々な国の風習やら問題やら、あるいは別の大陸のお話やら、マジでファンタジー作品としての面白さが格別になったようにわたしは感じましたよ。
また、同じ世界観で異なる時代を共有しているという同作者の「Babel」なども読んでみるとまたさらに違った印象を受けるかもしれません。わたし自身こちらの作品はまだ読めていませんが、アンメモ読み終わって即買いましたので、時間があるときにじっくり読もうと思っています。書籍化外でもそもそも作者さんがウェブではこの世界観のお話を色々書いているらしい? ので、それも読んでみなきゃいけないかなと。
その繋がりでアフターストーリーについて少しだけ触れますと。
どういうわけか、本編よりも重いというか……、人によってはシリアスがどんどん増してないか? と思うと言うか……、そんな感じになってます。
アフターストーリーなのに、本当にただ平和では終われないんですよ、この作品は。もちろんそれも面白いのですけど、アフターストーリーだからと言って油断して読むと痛い目に遭いますよという話ですね。
ただ、このシリアスに関して一言だけ言いたいのは、わたしは「アンメモate2巻だけは絶対に許さない」ということ。あの巻だけはわたしの精神がボコボコのボコにされて、本当に本当に辛かったんですよ……。
全体をざっくりまとめたら、こんな感じで良いでしょうか?
ネタバレは……、特にないですよね? ないと信じます。あったらごめんなさい。
では、残りはオスカーとティナーシャについてネタバレアリでお話ししていこうと思います。
2:オスカーとティナーシャについて
1~3巻
まず、本作の1~3巻について。
1巻では最初にも言ったようにラブコメディとしての楽しさが大きかったように思います。
それはひとえに、本作の見所の1つでありオスカーとティナーシャによる結婚するしないの押し問答によるものでしょう。
そしてこの基本的に押しが強いオスカーと、打てば響くようなティナーシャのやり取りはこの先もずっと続きますが、その中のちょっとした言葉の含みによって関係性の変化を感じさせてくるのが非常にエモいものとなっていたと思います。
そして1巻から、この二人のやりとりで読み心地の良さを担保してくれたのはティナーシャの口調にあったのではないかと思っています。
基本的には敬語で話す彼女ですが、オスカーの度重なる求婚や言動については度々その敬語が抜けるんですよ。
「結婚しません!」とかより「結婚しないよ!」っていう方がツッコミとしての切れ味が良いのはもちろんですけど。これが本来魔女であり人とは一線を画する存在であるけれど、一方で普通の女の子でもあるヒロインの二面性みたいな部分も読者に伝わる要素として機能してるのが上手いと思いました。
それからは色々と話が進むわけですが、最初の3巻の中ではやっぱりティナーシャが恋心を自覚するまでの展開、これがすっごく好きなんです!
魔女になってまで抱え続けていた過去。それはかつて彼女が王女として生きていた国にまつわるものであり、彼女はそこで生きていた国民たちへの想いに由来するものです。それを精算することだけを目的に生き続けてきた。停滞したままの人生を送ってきた。
そうであればこそ、彼女は誰よりも人のことを愛しながらも、同時に魔女であり絶大な力を持つ自分はむやみやたらに人の世界に踏み込むわけにはいかないという複雑な心持ちになっているのです。
塔で暮らしながら、塔を登ることができた挑戦者の願いを叶える。そんな風に生きてきたのも彼女が持つ人への干渉の最低限のラインがあったでしょう。そういった彼女が持つ人へ向ける想いの二律背反の寂しげな表情というのは、作中で常に付きまとっていたものでした。
だからこそ、です。
そんな過去に囚われたままのヒロインには、普通に恋をして幸せになることを分からせなきゃいけないよね!
オスカーと共に過去を清算して。
そこで彼女の終わるはずだった人生は、しかし終わることがなかった。
そうしたら否が応でも未来に目を向けなければいけない。そうなったときにもう何の寄る辺もない彼女にとって、いちばんに意識するのはどうやったってオスカーになるわけで。でもどうやって関われば良いのか。それまでずっと人との付き合いを魔女として避けてきた、そんな気持ちじゃもうこれからはどうやったって生きられないわけですよ。
ふっふー! 来た来たここです! 長寿ヒロインの良いところ! こういうの!
わたしは大歓喜しました!
そこからはもう、対人関係が下手くそなのはもちろん恋愛小学生のティナーシャのあまりに可愛い言動の連続ですよ! あまりに自分の感情に無自覚すぎて城の人たちに「私ってオスカーのことが好きなんですか?」とか聞き出し、果てには本人にも直接問い詰めるようになるあの大暴走がもう堪らんて!
そうして結ばれる二人、最高のハッピーエンド!
第一部完!!
って思ってたらこの作品はそうならないんだよなぁ……、どうしてなの!?
4~6巻
3巻で過去へと遡る呪具によって魔女になる前のティナーシャに出会い、彼女を救うという決断を下したオスカー。それによって歴史は改竄され、ティナーシャは魔女になることがなく、彼女の母国も存続したまま……、という状況で始まるのが本作の第二部、4~6巻になります。
そして、この4~6巻に関するわたしの感想は
「このときのティナーシャがいちばんヤバい。マジでこいつには幸せを分からせなきゃ!」になります!
幼少期のティナーシャは過去のオスカーに救われ、女王として自らの国を守っていったわけですが、やがてはその命を落としそうになる。その際、彼に聞いていた四百年後という未来にたどり着けるように長い眠りにつく魔法を自らにかけます。
そして新しい時代のオスカーに出会うわけですが、最初こそずっと会いたかった人に会えた喜びがあったものの。次第に過去で自分を助けたオスカーと今のオスカーは別人であることを悟り、同時に自分を助けてくれたオスカーが大好きだったのは当然彼の妻になった歴史にいるティナーシャで、そしてそんな過去のオスカーに勝手に重ねて見てしまって振り回した現在のオスカーには随分と嫌われてしまっただろうと、そんな風に思っていきます。
更には、かつての女王として目覚めて、現在も存続する母国の王族として重要な立場にいるのだから自由な恋なんてものはできない。そう理解すれば、彼女は徐々に母国のために自分が成すべきことをしよう、それから過去のオスカーが残してくれた情報で現在のオスカーにかけられている呪いを解呪することだけに専念しよう、と意識を切り替えていくわけですね。
うんうん、ティナーシャの気持ちは分かるよ。
色々複雑な状況だったし、オスカーには上手く説明できないこともいっぱいあっただろうし、立場も立場ですし。仕方ないよね。
……とでも言うと思ったのか!
ここまでのティナーシャの言動全部オスカー側から見たらマジで舐めてんのかこいつって言いたくなるんだよ!
だって、オスカーからしたら?
なんかいきなり出会った見ず知らずの少女から、無条件の信頼と好意を寄せられて?
その上で自分にかかっている呪いを解くためになんかめちゃめちゃ親身になってくれて?
なんでそんなに好かれているかは分からないけれど、そんなふうに振る舞われたらどうしたって心は揺さぶられるわけで?
理由を知れば自分じゃない世界線の自分と勝手に重ねていたとかいう色々物申したい理由を言い出しやがって?
でもそういう諸々の彼女の事情を知ってしまえば、オスカーにだってもう今の彼女を受け入れるだけの気持ちの整理はつくし、それどころかもっと彼女のことを好きになれるというのに、何故かその頃にはティナーシャが自分から離れるようになっていて?
果てには、私はもう十分に幸せです、とか意味の分からないこと言い出すの?
ふざけてんのか!?
散々好き好きオーラ出しておきながら、人の心を誘惑しておきながら、勝手に逃げるんじゃあないよ! そういうところ! 魔女じゃなくなっても、恋愛小学生なの全然変わってないし! むしろ魔女として人への執着を切り捨てていたいたときよりも、普通の人のままで自分の恋心に勝手に見切りつけながら、それなのにいっちょ前にオスカーに他の女の影が見えると嫉妬するようになってるのは、本当にたち悪いよ!!! 十分幸せですってなんだ! 幸せの上限を勝手に決めるんじゃあない! お前はもっと幸せになれ! 女王のときだって殺されそうになって、それから眠りについて、数百年後の知り合いも誰もいない世界で、心は普通の女の子のままで一人で生きていこうとするとか……、ああ、もう本当に! 本当に!
マジで、この世界線のティナーシャだけは、本気で一生幸せにしてやらないと気が済まないです!
オスカーを惚れさせた責任を取りなさい!
そしてオスカーに一生幸せにされなさい!
個人的にこの女がオスカーに好かれている自覚がなくてガチやべぇなと思ったのは、間違いなくオスカーの求婚直前のあのシーンですよね。
元々、今回の世界線で二人が想いを素直に伝えられないのは、お互いに王族という難しい立場にあったからというのが1つの大きなポイントだったわけで。
ティナーシャがそれを放棄する宣言をするのなんか、もはや読者からしたら完全にオスカーを誘ってるようにしか見えないのに、本人はマジでオスカーに好かれている自覚がなく、その後のオスカーの求婚にも周囲はまぁそうなるよねみたいな空気なのにティナーシャ一人だけなんか驚いてるんですよ?
もう、これを見たときは、思わず天を仰ぎたくなりましたね。
というわけで、ティナーシャに幸せを分からせなきゃという怒りが爆発する第二章ですけど。正直、この感想も読者として1巻~3巻の状況だとか、魔女だった頃のアレコレも知っているからより一層こんなふうに思ってしまうところはあると思っていまして。
そういう意味では、魔女としての彼女と、人としての彼女の対比がこうして描かれるのが本当にティナーシャという子の魅力を最大まで発揮するのに絶大な効果を発揮していたのかなと。思ったり。
そしてその上でオスカーとそれぞれ結ばれていく過程を見ると、ティナーシャにとって決して譲れない運命の相手っていうのはオスカー以外ではあり得ないのだと分かるし。さらにはどんなティナーシャであっても変わらぬオスカーの愛情っていうのが素晴らしいなって思うのです。
さらには、第一章におけるオスカーとティナーシャの絆が作り出した、この第二章という新しい世界線で再びその二人が結ばれて。その上で、時を巻き戻す呪具という本作の核心へと一気に踏み込んでいき、世界の運命に立ち向かうという構図。これが最高にエモすぎるんですよ!
そして、二人が選び取った未来。
それが続くアフターストーリーになるわけですけども。
この最後の決断と、そこでの二人の交わす言葉の一つ一つはもう本当に最高だった……! ティナーシャのセリフは特に好きだった。
after the end
そんなわけでラストのアフターストーリーまで来ましたが。
正直、わたしの情緒がいちばん乱されてるのがココからなんですよ。
過去に遡る呪具を破壊したオスカーとティナーシャ。
もう二度と書き換わることのない新しい世界線で再び魔女と王様として出会い結ばれた二人だったけれど、その身に刻まれたのは過酷な運命。
過去に遡る呪具のような、世界の理をねじ曲げるものが残り11個、世界には存在しているという。二人はその全てを破壊するまで、永遠に転生を繰り返し続ける、そんな使命が与えられて……、というのがアフターストーリーの概要になるわけですが。
まず、この設定が完全にやってますよ。
もはや言うまでもないでしょうけど、創作物における「ダメージが即座に回復する能力」とかいう類いのものは、「どれだけ致命傷を負わせても絶対に死なないからひどい目に遭わせてもいいよね?」の裏返しなんですよ。
だってそうだよね、絶対に死ぬほどのダメージを負わないんだったら、そんな設定意味ないもの。わたしが過去に読んだ作品には、堂々と何回でも殺せるキャラが欲しかったので死なない設定にしました、とか言う作者もいたくらいですし。
つまり今回の「永遠に転生し続ける」設定は、言うまでもなく「オスカーもティナーシャもこれから何回も殺しますね^^」宣言に等しいわけですよ!
……いや、あの、初手で読者の心を折りに来るのやめません?
二人で永遠の時を生きられる設定なのに、それが不老不死ではなく、転生し続けるものにしたのは絶対悪意がありますよ……、泣きますよ?
いや、でも、そこまでシリアスにはならない可能性だって……、アフターストーリー既に4巻出てますが、どっちも1回も死なない巻、そんなものはありませんでしたが?
……、なるほどね、この作者さんそういう人か?
もうこの設定になってから嬉々として二人を虐めてるんじゃないかと疑ってしまいます。
特に、2巻、あれは本当にひどいですよ。
死ぬなら死ぬでいいんです、がんばって受け止めますから。仕方ないです。過酷な旅ですから。そういうことがあってもね。物語としても、ate2巻のああいう巡り合わせだっていつかは来てもおかしくないだろうとは思ってましたよ。
でも、あの……、すっげぇハイスピードで2巻読み始めて早々にほとんど通り魔みたいにやるのは、なしじゃないですか? 殺し方に手心が一切ないですよね?
わたしの心がメタメタにされて……、うう。
ate2巻を書いた作者をわたしは絶対に許しません。
……、しかしですね。
この何度も死んでは生き返る設定、一概に全部悪いとは言えなくて。
この設定には「それぞれ生き返ってからある程度まで成長するまでは過去の記憶とかが一切ないまっさらな状態である」というものが添えられてあるんですよ。
これによってオスカーとティナーシャが何度も死にますけど、その度に新しいラブコメ始められるんですよ。既に本編1~6巻で二人の関係性を別の切り口で見ることによる新しい魅力発見っていうものの良さは読者が全員分かってるわけですから、もはやこれはサービスとも言えるような展開。
シンプルに天才かと思いました。
ショタオスカーに言い寄る変態不審者お姉さんのティナーシャとか、ロリティナーシャお姫様を守る家庭教師オスカーとか、あるいは夢の中だけでもあなたと結ばれたい儚い恋をするティナーシャとか。
言ってしまえばオスカーとティナーシャだけで何度でもカプ厨を満足させる作品になったわけですよ。
さらには、オスカーもティナーシャも死んですぐに生き返るわけではなく。
生き返るまでには何十年というスパンがあることで、お互いが相手を失って独りですごす時間にその愛の重さがずっしり詰まっているのも最高に美味しいポイント。
このときばかりは悲しい状況で喜んじゃいけないのに、こういう状況でしか見られない愛を見せられると喜んでしまうわたしの性癖が憎いと思いましたよっ!
特に個人的にはティナーシャが独りで生きる時間が、魔女としての400年よりもよっぽど長く感じてしまうと言っていた本編からの変化とオスカーへの依存っぷりがあまりに素晴らしすぎて素晴らしいと思ってます。
そして当然ながら、お互いがちゃんと過去の記憶も全部持っている状態では読者のいちばん慣れ親しんだ夫婦としての微笑ましい距離感をずっと見せてくれるわけで。
そんな二人が新しい土地に行ったり、発展する新しい技術に触れていったりしながら旅する様子は、ちゃんと本編のアフターストーリーらしいほのぼの空気感が味わえます。
ですので、何度も転生するという設定は。
たしかにオスカーとティナーシャを何度も殺しますよという心ない作者のえぐい宣言ではあるわけですが。実際、ate2巻だけは絶対に許さないと誓ったりもしましたが。
何度も死に別れをする悲しさの反面、一時的にとはいえ死があることによって際立つ時間もあるのだということを非常に上手く見せてくれてたんですよね。
不老不死としてただ生き続けるだけよりも、二人の関係性の情緒を味わうという意味では断然効果的な設定だったんですよ。
実際に、わたしはそういう部分では大喜びしてしまっています。そしてこの手の設定によって、既に完成された夫婦からまだこんなにも魅力を引き出せるのかと感心させられてしまいました。
そして、そんな死に別れによる魅力はもちろんですけど。
このアフターストーリーは、単純に長い時を生き続ける存在になってしまったことでの魅力がめちゃくちゃ素晴らしくてですね!
わたしは、人が人外を愛することにはそれこそ種の壁を越えるほどの覚悟だったり何だったりが必要だと思うわけです。
例えばですが、人の生命力を糧に生きるような存在がいて。そんな者を愛する人がいたらどうなってしまうか。当然ですが、人の方はやがてソレによって生命力を吸われて死ぬことでしょう。しかしながら、そうであってもその愛を貫くだけの覚悟と想い。そういうものが素晴らしいと思うんです。
他にも、自分よりも長い時を生き続ける存在を愛してしまったのならば。自分もまたそんな長い時を生きるだけの存在に変わるか。あるいは、短い寿命の方に合わせて共に心中をするのか。はたまた、独りで残す相手が永遠に忘れないだけの愛を残すのか。そういう様々な選択と、その中でどんな結末を選ぶのか。それこそがわたしが異種族恋愛に求めるものです。
もっと端的に言えば、異種族恋愛なんてものは、壊れて当たり前。おかしくなって当たり前。その普通ではないこと、変であること、おかしいものを存分に見せてよ! ってことなんです。
その中で言うと、まず本作の場合は「二人で永い時を生き続ける」という形であるわけです。
人間であったオスカーが、人外の魔女であるティナーシャと同じような寿命を持ったものといえます。(もちろん二人とも元々は人間で、先にティナーシャが魔女になっていただけで、現在は二人とも同じ呪具を壊すための存在に変質させられているという細かい部分で変則的ではありますが)
ですので、そういう角度で見たときに。
オスカーがティナーシャと同じようにずっと隣で変わらずにいようとする姿勢。
これがとっても素晴らしいと思うのです!
ただでさえ、元々魔女として人間とは一線を引くような姿勢を見せていたティナーシャです。本編時点の400年でも相当に精神的に抱えていたものは大きいでしょう。そこから更にその何倍もの時間を生きていくとなったら当然のように彼女の在り方はどんどん人から離れていきますとも。
そんな彼女に関しては、人外ヒロインとしてもはや当たり前の変化というか、そうでこそと思うのであまりツッコミどころもないんですけど。それにどんどん人から離れてしまうティナーシャもそれはそれで可愛いですし、あんまり問題ないというか。
ただそんな彼女が、変わらずに人として普通の愛情を持ち世の中に関わっていけるのは、そうあれるようにオスカーが変わらず振る舞っているからに他ならない。彼女が人から離れていくのなら、自分が人らしくあって彼女の手を掴まなきゃいけないと。
オスカーは、ティナーシャと同じように長い時を生きることの心の摩耗を実感しながらも、そのスタンスを決して曲げないようにしている。
これは一途な愛を曲げないという、素直な見方をすればとても綺麗なモノだけど。
しかし、それも何百年も何千年も続けているのだったら、それはもう普通の心の在り方ではないと思うんですよ。純粋なままに歪み始めていると思う。
それが長い時を愛する人と生きるようになった時点で、元々人間であった身に何も弊害があるわけではないのを示すみたいですし。
わたしにはこれがもう、人への執着を捨てて離れようとしながらもなんだかんだで人の営みを見ては心を痛めてしまうティナーシャよりも、たった1人のためだけに人らしく振る舞おうとしているオスカーの方がよっぽど人らしさと人外らしさの矛盾を抱えておかしくなっているように見えてまして。
でもそうであるからこそ美しいし、素晴らしいと思ってしまうのですね。
そしてわたしはそんなオスカーの性質が大好きで。
これが最新刊のate4、基本的に平和だった巻ですが、その最後のシーンで最高に効いてきたなと思ってるんですよ
オスカーは決して変わらない。ティナーシャを愛し続けるし、彼女を守り続ける。けれど、呪具を壊す二人の旅に付きまとう永遠の命を終わらせようとしたらオスカーのアカーシアで自分達を滅ぼすしかないんだよ?
オスカーはそのときになったら、一体どうするつもりなんでしょう。ティナーシャの方はもうそれを受け入れてますし、むしろオスカーが自分のために色々傷ついているのを分かるから今はある程度彼に合わせてあげてる感がありますからね。
でも、それはもう限界来てますよ。
人外二人が続ける執着まみれの旅の終着、どんな結末になるのか……、これがもう今から想像するだけで思わず興奮してしまいそうで。
ああ、それがすごく楽しみだなって。
二人とも愛して愛することは変わらず。
夫婦として最高の距離感を見せてくれることも変わらず。
でも、徐々に徐々に何かが壊れてしまっている仄暗さ。
示唆されてる終わりもきっともう何もないまま平和には終われないんでしょうね、って。
人外になってまで続ける長い長い旅としてのそんなお話にこれ以上に素敵なことがあるでしょうか? わたしの中で本編の運命を書き換える物語よりも、このateの方が性癖に刺さって情緒を乱されるのってこういうことなんですよ。
ああ、わたしは基本的に幸せで平和なカップルを見るのが好きであるはずなのに。
好きなカップルの形が異種族恋愛で、その性癖が普通ではないことを前提にしてしまっているから、こういうなんだか幸せからどんどん遠くに行ってしまうような空気感で大歓喜してしまうという矛盾。
このわたしの性癖を的確に刺激してくるのがね……、本当になんて作品を読ませてくれたんだと思っています。
……さて、なんかだらだら書きすぎましたので、この辺りでとりあえず締めましょう。
巻別満足度と総合評価
最後に本作の巻別満足度と総合評価です。
まずは巻別満足度。
基本的には全体的に高水準で良かったです。
各章の終わり3巻や6巻は、それぞれの世界線での二人の関係性の集大成でもあり、大きく世界のアレコレに踏み込むクライマックスですからそれに伴って満足感も上がりました。そしてアフターストーリーになってからも楽しみが尽きないのはいいですよね(ate2だけは初手のダメージが大きすぎて読み切ってもそのマイナス分が帳消しできなかったけども……)
そんなわけで、総合評価は
★9.5/10
とします!
おわりに
アンメモ、正直感想まとめるの大変すぎました……。
オスカーとティナーシャだけで見ても、アレコレ言いたいことあって、全然綺麗にまとまらないです。なので、もう感情をばーっと吐き出すだけの感じになってしまいましたし。
ただ、大満足しているのだけはしっかり伝われば良いと思います。ate2だけは絶対に許さないを度々言ってますけど、あれも好きの裏返しみたいなものですしね。
(いや正直な話、わたしはかなり広範囲で人外ヒロイン大好きなので、機械ヒロインとか不死ヒロインとか大好きですし。そうなればすっごいボロボロになってしまう展開もよく見ますし。決して嫌いなわけじゃないんですよ。というかそういう設定がある作品大好きなもの多いですし、自分で理想のヒロインとかを妄想するとそういう設定を無意識に付けたくなってしまうくらいにはたぶんおそらくめいびー好きなんですよ! わたしはシリアスが好きじゃないのに、ヒロインを虐めたいわけでもないのに、ヒロインには全て平和で幸せになってほしいのに! ……でも無意識にわたしはそういうものを求めているんだな、という自覚をするときに自己嫌悪的なアレで心がダメージを受けてしまって。なので物語読んでいるときにそういうのを見ると本当に辛いんですよ! でも異種族とかのお話大好きだから読んでしまう無限ループ……)
というわけで、感想書いているだけでも段々わたしの心に傷が増えていくので……、ひとまずはこれで感想まとめを終わりにします。お疲れ様でした。
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