今回の感想は2024年5月の電撃文庫新作「バケモノのきみに告ぐ、」です。
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あらすじ(BWより引用)
バケモノに恋をしたこと、きみにはあるか? 或る少年の追想と告白。
城壁都市バルディウム、ここはどこかの薄暗い部屋。
少年・ノーマンは拘束されていた。
どうやら俺はこれから尋問されるらしい。
語るのは、感情を力に換える異能者《アンロウ》について。
そして、『涙花』『魔犬』『宝石』『妖精』。名を冠した4人の美しき少女とバケモノに立ち向かった想い出。
「とっとと倒して、ノーマン君。帰ってイチャイチャしましょう」
「……いや、君にも頑張ってほしいんだけど?」
全くやる気のない最強で最凶な彼女たちの欲望を満たし、街で起こる怪事件を秘密裏に処理すること。
これこそが俺の真なる使命――――のはずだった。
だが、いまや俺はバルディウムを混乱に陥れた大罪人。
魔法も、奇跡も、幻想も。この街では許されないようだ。
でも、希望はある。どうしてかって?
――この〈告白〉を聞けばわかるさ。
第30回電撃小説大賞最終選考会に波紋を呼んだ、異色の伝奇×追想録。
ラスト、世界の均衡を揺るがす少年の或る〈告白〉とは――。
感想
本作は、主人公のノーマンが囚われてる状態からスタートします。
彼は罪を犯していて、そのための尋問が始まるとのこと。
相手が尋ねてくるのは、彼をこよなく愛する《アンロウ》と呼ばれる異能を持つ四人の少女たちについて。果たして主人公の口から紡がれる、四人との物語とは……、といった感じのお話ですね。
まず率直な感想として「シリーズモノの5巻かな?」と思いました。
ヒロインが四人いて、それぞれと絆を深める1〜4巻をスキップして、四人と主人公の絆を見せるある種のクライマックスとなる5巻をドンっと持ってきたような印象、と言えばより丁寧でしょうか。
というのも、主人公のノーマンから語られる内容は全てヒロインたちと既に仲良くなっている状態で、彼女たちとアンロウという異能力者が起こす事件を解決していったというお話だったんですよね。てっきりヒロイン四人との出会い的な部分とかが語られるかと思っていましたのに。
ですので、本作はヒロインから主人公への感情、逆に主人公からヒロインからの感情が完成された状態でずっと続いていくわけですね。そうなると四人分の過去を話すのに、わたしとしてはそこに大きな差を感じられなかった。
そうすると、四人との話が繋がる終盤においても相応に心を震わせるようなキャラ同士の関係性やその集大成のような熱量を感じる部分はあったのだろうと思いますが、イマイチ乗り切れない。やはりこれがシリーズクライマックスの5巻だと言うのなら、ヒロインたちとの絆を深める1〜4巻に当たる部分を見せてよ……っていう気持ちがありますね。クライマックスシーンだけ見ても、なんかそれがすごい、っていうのは分かってもどれだけすごいのかという共感や没入は難しいですよ。
しかしながら。
この感想に関してはある程度、個人的な「見たいものがなかった」ことに関しての不満のような気持ちが多く籠もっています。だってそうですよね、ヒロインと主人公の関係性が最初から出来上がっている状態でスタートの作品なんて昔からいくらでもあるでしょうに。
ですので、もう少しフラットに見ていきます。(それでも個人的な観点は多分に含まれるでしょうけど)
まず、本作の構成に関して。
主人公の口からヒロインたちと解決していった事件を1つ1つ語るようなストーリー。
これは設定、世界観、キャラ紹介としては見事だったと思います。
ちゃんと1話1話をコンパクトにまとめながらも要点要点を抑えていたような印象がありますね。特に本作固有の《アンロウ》という存在が持つ異能力の設定、能力の発現には段階があることや、能力は四種類の指向性で分類されること、などを四人の話を通じてステップバイステップで丁寧に読者に説明する構成が上手かったと思っています。そしてその中で実際の《アンロウ》であるヒロインたちの持つ個性や性格というものを、《アンロウ》となり犯罪事件を起こした犯人と対比して魅せる構図も良かったと思います。
個人的には、バケモノであることの意味。普通の人との差異。そういう存在であるからバケモノなのか、あるいはそういう超常の力を社会を乱すために使うからバケモノなのか。そういった観点で、真にバケモノたるはなんであるのかという話を進めていく本作のバケモノに対するコンセプトがしっかりあったのは非常に好感の持てるところでした。これがしっかり主人公のヒロインに対するスタンスにも繋がってますし、そんな主人公だからヒロインたちも好意を寄せるのだろうと伝わってきます。
それから四人の話が終盤でしっかり繋がってくるストーリー、ヒロイン四人が一同に介していがみ合いながらも主人公のために一致団結するような関係性、そういった部分も良かったと思いましたし。終わり方も、なるほど、今後のストーリーがしっかり作れるような雰囲気がバッチリあるじゃないかと感じました。
しかしながら、最初にも言ったようにヒロイン四人とも主人公が好きという事実は変わらないため、序盤がただののろけ話四連続という形になってしまっていたようにも見えますし。そこから続く転の展開でも、序盤から主人公が囚われている状態という物々しい雰囲気で始まった割にはシリアス要素がほとんどないよなと思うような内容だったりして。
読者をここでグッと惹きつけるぞという、変化に乏しいのでは無いかと感じてしまう部分があるのも間違いはないのかと思います。
ですので、本作は総合的に見ると、要素要素では光るものがあるのに。
それが上手く読者に伝わりきらない作品なのではないかという印象がありました。
結局それはわたしが言うヒロインとのなれそめのような深堀りがないために、イマイチ乗り切れないという話になるのかもしれませんが。
一応、少し視点を変えてみて。
本作をシリーズモノの0,5巻のプロローグとみなして、ヒロインたちとの過去編は0巻のような番外編、あるいは今後少しづつ振り返るお話としてそのうち読めたらいいなくらいで済ませておく。その上でヒロインたち四人と始める今後のお話という部分に期待をするような構成として見れば、この巻は0,5巻であるのだから、まだ盛り上がりきらずとも、面白い部分は今後に残っているはずだと少しは前向きな見方にもなるかもしれません。
そして最後に余談レベルではありますけど。
完全にこの作品そのものの感想とは別の観点になりますが。
本作には「異能力」「ヒロイン四人と主人公の関係性」「四人と主人公、五人集まってこその展開」「異能犯罪事件を解決するサスペンステイストのお話」といったそれぞれ面白い魅力になる要素があるわけで。
これを1つ1つしっかり掘り下げていこうとしたら、果たして何巻かかるのかと。
わたしが言ったようなヒロインを1人につき1巻づつ掘り下げる構成をやったら、最低4巻かかりますよね。
……昨今のラノベの継続率とかを考えるとそんなのは明らかに難易度高いよなぁと。
ですから初手でやりたいこと魅せたいものを全部ぎゅっと詰め込むぜ、みたいな本作はある意味でめちゃくちゃ理にかなった作品だと思ってしまうんですよね。そもそもウェブ初作品ということもあって、そういう作品コンセプトを早めに明確に提示しておくのが大事だったのかもしれないですし。細かい掘り下げは続巻が安定してきたら順次出せばそれで問題もありませんし。
そういう意味では決して文句のつけようがない作品なのが否定できません。
と、ここまで長々お話しました。
最後に総評といきましょう。
総評
ストーリー・・・★★★☆ (7/10)
設定世界観・・・★★★★ (8/10)
キャラの魅力・・・★★★☆ (7/10)
イラスト・・・★★★★ (8/10)
次巻以降への期待・・・★★★☆ (7/10)
総合評価・・・★★★☆(7/10) わたし個人としては、異種族恋愛を味わうにはまだまだ足りてないな、という感想がいちばんですね。結局。この辺話し始めると長くなりそうなので感想からほぼ全部カットしましたけど。
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録
最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。