ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part162】この物語を君に捧ぐ

 今回の感想は2024年5月の講談社ラノベ文庫新作「この物語を君に捧ぐ」です。

 

 ※今回の感想は多大なネタバレを含みます。ご了承ください。

 

この物語を君に捧ぐ 【電子特典付き】 (講談社ラノベ文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 「あなたの担当編集をさせてください、柊先輩」

 ある日、無気力な男子高校生・柊悠人の前に現れた自称編集者の女子高生・夏目琴葉。
 彼女は悠人に小説を書いてほしいと付きまとってくる。いくら断られても、決して諦めずに。
 ……まさか、知られたのか? 自分がかつて、世間から天才だともてはやされたプロの小説家だったことを。その過去から逃げるため、知り合いもいない地方の高校にやってきたというのに。

 筆を折った元天才小説家と、ある”重大な秘密”を抱えた編集者女子高生が紡ぐ、感動必至の青春ストーリー、ここに開幕――。

 

 

感想

 いやぁ、良かったですね!

 素敵な感動作品でした。

 

 本作は、過去のとある出来事から筆を折った高校生小説家の主人公が、あなたの担当編集をさせてくださいという後輩の女の子と出会うことで始まるお話でした。

 

 そして、今回の感想がネタバレになる理由ですが。

 わたしはこの作品の第二章の序盤、主人公が演劇部のために書く最初のプロットが出来た段階で本作のオチを察してしまいして……。

 いや、だってその内容が「死を前にした少女のお話」ですよ。作中の主人公には何の意図もないとしても、読者からしたら作中作に何の意味もないなんてことはないんですよ。(……基本的にメタ読みしかしない弊害、こういうところで出ますよねぇ)

 ですので、わたしはそれ以降本作品を「あ、ヒロインが死ぬ、もしくは難病を患っているお話なんですね」と思いながら読んでいました。そして主人公の書いたその物語こそが、そんなヒロインの生きる死ぬに対する部分でクリティカルヒットするようになるんだろうな、とも。

 そうなると、そういう読み方をした上での感想になるわけですよ。どうやってもネタバレしかないじゃないですか……。




 ただそういうのが分かった上で読み進めても、この作品は面白かったです。

 一言で言えば、展開に無駄が無かったから、でしょうか。

 

 本作は全三章の構成。

 第一章では、主人公とヒロインの出会いから始まります。そこではヒロインが編集者になりたいという並々ならない情熱をしっかり感じさせてくれる。特にその中でも口絵になっているあのシーンは強烈でした。そして、そんな彼女だからこそ、主人公の心を少しずつ動かしていけるのにも納得感があり。

 そして、こういうヒロインに感化されて、主人公が再起するお話ってやっぱり真っ直ぐでいいじゃないですか!

 

 続く第二章では、ヒロインに動かされた主人公が演劇部のために脚本を書くパートになります。主人公が再起するための第一歩になるのはもちろんのこと、そこでしっかり主人公が何故筆を折ってしまったのかという過去に踏み込んでいく。そして彼の迷いを晴らすために尽くすヒロインの行動力がやはり大きなパワーを持ってました。

 そして、その中でわたしのメタ読みもありますが、ヒロインの持つ病気への伏線が巧みに張ってありましたね。体調を崩しやすいだの、精一杯に生きるだの、ともう小さな表現の一つ一つがそうとしか思えないようになっていて。そこまで来ると、序盤から見せ続けている彼女の並々ならない情熱の根底が見えてくるわけですから、グッと引き込まれてしまいましたよねb

 

 そして終章となる第三章。

 これはもう言うまでもないですね。

 彼女に対して、主人公ができることはなにか。

 小説家であるならば、彼女が自分の小説を愛するのならば、必要なのは文章を書くことだけ。必死になってたった一人のために捧げる想いの全て。ヒロインから主人公への大切な気持ちも、主人公からの願いも、その全てが文字によって交わされていくことこそ。小説家と編集者という形で始まった本作のエモさですよ。

 ヒロインに救われた主人公が、今度はそれをヒロインに還元する。そういうの本当に最高です。

 更に言えば、彼が筆を折った背景で、彼がそもそも小説家になろうとしたきっかけ。そしてここに来て彼女のために書く小説。彼の綴る文字の全てが結局のところ常に「誰かのために書き続けた文章だった」という点で一貫されていたのがすごく気持ちいい。



 内容は王道の感動ストーリー。

 先の展開を察しながら読んでしまったかもしれない。

 けれどそれを完璧に仕上げてくるのなら、そこに込められた熱はしっかり伝わってきます。

 そうしてやがて辿り着く本作のラストは、やはりこの先の未来も二人らしい物語で繋がる関係性を示しながらも、主人公にヒロインの心を変えてしまっただけの責任と覚悟を見せ続けなきゃいけないものを残している。個人的には良いモノだと思いました。

 

総評

 ストーリー・・・★★★★ (8/10)

 設定世界観・・・★★★★ (8/10)

 キャラの魅力・・・★★★★☆ (9/10) 

 イラスト・・・★★★☆ (7/10)

 

 総合評価・・・★★★★(8/10) 非常に丁寧に仕上げられた素敵な感動作品でした

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

bookwalker.jp