ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part192】後宮の死化粧妃 ワケあり妖妃と奇人官吏の暗黒検視事件簿

 今回の感想は2024年9月のアース・スタールナ新作「後宮の死化粧妃 ワケあり妖妃と奇人官吏の暗黒検視事件簿」です。

後宮の死化粧妃 ワケあり妖妃と奇人官吏の暗黒検視事件簿【電子書店共通特典SS付】 (アース・スター ルナ)

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あらすじ(BWより引用

 先帝の死後、斎の後宮では物騒な殺人事件が頻発していた。

 事件の真相を探るべく、後宮丞の絳(コウ)は屍をよみがえらせるという妖妃を訪ねる。

 妖妃の名は綏(スイ)紫蓮(シレン)。先帝の娘であり、後宮の死化粧師である。

 彼女の本領は崩れた屍を復元し、最も美しい姿で葬ることだ。

 絳は紫蓮に被害者の屍の検視を依頼する。すると事件の裏には絶えず、「男尊女卑」「身分差別」「家庭内暴力」といった不条理な悲劇が存在していた。

 そして事件を解決していく過程で紫蓮と絳は、宮廷最大の謎である先帝の死の闇に辿り着くのであった──。

 

感想

 遺体を修復して生前の姿を取り戻す技術。

 それを「エンバーミング」ということを、この作品で初めて知りました。

 土葬分化ではかかせないものであるようで、火葬分化の日本では認知度が低いみたいですね。……実際に知らなかったわけですが。




 という前書きはさておき、本作の感想です。

 まずはいつものように概要を。

 

 先帝の娘であり、屍を修復する後宮の死化粧師である紫蓮。

 後宮内で物騒な事件が頻発する折、後宮内の事件を調査する後宮丞の絳によって持ち込まれた遺体の修復を依頼される。修復にあたる際の検視によって、明らかになる遺体の死因……、それは後宮内で起こった事件の真相に繋がっている。

 紫蓮の死者に向き合う姿に惚れ込んだ絳は度々彼女の元を訪れ、そして次々に後宮内の事件を暴いていき、やがて紫蓮の父である先帝と彼女の母の死の真相にも迫っていく。

 

 と、そんな感じのお話です。あらすじにある通りですね。




 本作は死者を弔うため死者を生前の姿へと戻す死化粧師の紫蓮が主人公であるため、物語が常に「死」と共にある作品であります。

 そして個人的に、このテーマに対しての作品全体が持つ要素の噛み合わせが非常に良かったなと思いました。

 

 具体的に挙げていくならば、

 

 まずは当然、本作が後宮モノであるという点です。

 後宮みたいな閉鎖的空間は事件の温床といっても過言じゃないくらいに、様々な作品を見ていても事件が頻発します。すなわち後宮モノという要素から作品の空気感を物々しい不穏なものにするというのは、ごくごく自然なわけですよ。

 ですのでそこから死者が発生して、死化粧師の紫蓮の元に遺体が運ばれて話が動き始めるという流れがスムーズで導入から物語に入り込みやすかったと感じました。

 

 そして「死」をテーマにして、紫蓮は死者を弔うための死化粧を施す者であるために、死生観や死者に対する向き合い方という点でフィクションに留まらないリアリティを感じさせてくれる点も良かったですよね。

 彼女の持つ死者に対する向き合い方。後宮という中で頻発する事件、権力による隠蔽が横行し、報われない死に直面している人が数多くいる現状。

 その中で彼女にできるのは、遺体から見出す真実、死者が語る言葉に真摯に耳を傾け、誰もが目を向けようとしない真実を代弁すること。たとえ彼女の仕事が穢らわしいとそしられても、彼女の語る真実が権力者からしたら不都合なものであったとしても、全ての死者に平等に。死そのものは決して穢らわしいものでない。人の死、それを生者が恣意的に改変してしまい貶めてしまったのなら、そのときこそその人の死は穢れてしまうのだと。その理想は後宮という世界に真っ向から立ち向かうものであり、だからこそ気高く輝いて見えましたよね。

 そして死化粧師として本来の仕事である、死者を修復し遺族に最後の瞬間は生前の幸せな表情で別れさせてあげること。彼女自身が、幼い頃にまだ死化粧師として未熟だった頃に、先代の死化粧師だった実の母を失ってしまった過去があるからこそ、遺される者の悲しみやちゃんと別れを告げられないことへのやるせなさを理解できて。自分自身の果たすべき役割を果たそうとする姿には非常に好感が持てましたね。

 

 更に、本作の事件の被害者となってしまう人物たち。

 ここで描かれる関係性も見事で、一言で言えばあらゆる愛を認めるジェンダーフリーのような考え方を見せてくれるのです。

 この様々な愛を見せるというのは、それ単独であっても魅力となる要素ですが。物騒な事件が頻発するような厳しい環境だからこそ、そこにいる人たちの持つ愛の尊さが際立つというものですよね。そして更に本作の場合、中心にあるものが「死」である以上、これを逆にどんな人であっても最後に辿り着く死は平等であるというのを魅せるための要素として見ることもできるんですよ。

 

 要素の噛み合いが良い、と感じたのはこういう部分です。

 したがって、全体を通した本作の感想としては、見事に作り込まれた作品だったなというものになりましょうか。

 作品の中央に「死」を置いて、そこに後宮モノや主人公・紫蓮のキャラとしての背景や信念など様々な要素を上手く組み合わせて、作品の持つ魅力をどんどん深掘りしていくような感じでしたね。

 とても面白かったと思います。

 

総評

 ストーリー・・・★★★☆ (7/10)

 設定世界観・・・★★★★ (8/10)

 キャラの魅力・・・★★★☆ (7/10)

 イラスト・・・★★★☆ (7/10)

 次巻への期待・・・★★★☆ (7/10)

 

 総合評価・・・★★★☆(7/10) 全体を通して上手い作品でした

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。 

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