今回の感想は2024年7月のオーバーラップ文庫新作「自分をSSS級だと思い込んでいるC級魔術学生」です。
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あらすじ(BWより引用)
「あ、あいつ、もしかしてとんでもない実力を隠しているんじゃ……」「――フッ(計画どおり……!)」
「……ッ!(こいつ、なにかヤバイ!)」「フフッ(これは……勝ち目がないぜ!)」
「SSS級」。かつて400年前に存在した大英雄が達した最強の極致。そして長き時を経て、その最強と同じ高みへ達した者がいた。その者こそ、クロフォード魔術学園に通う平凡な学生・一之瀬シオンだった――。
――というのは嘘である。彼は「本当の実力を隠している実力者」のように振る舞うことで快感を覚える異常者だった……! 学園の内外で「SSS級」のように振る舞い続けるシオンだったが、その奇行はいつしか周囲を巻き込み……?
SSS級(本当はC級)魔術師学生の勘違い英雄譚。ここに開幕!
感想
いやー、うん、この主人公すっげぇおもしれー男ですね。
いわゆる中二病拗らせた主人公なんですけど、根が真面目で努力家な男が本気で中二病をするとこうなってしまうのかという新天地を見せてもらったような感覚ですね。
本作は学園ファンタジー作品。
真の実力を隠している最強主人公……、を演じて悦に浸る本当に平凡な力しか持っていない主人公が、その大物感を演出する振る舞いをすることで勘違いした周囲の人々が感化され触発されて――という感じのお話ですね。
最初にも述べたように、この主人公はいわゆる中二病です。
だってそうでしょうよ。特別な力なんて何もないのに自分は最強なんだというロールプレイをするのは、学校にテロリストがやってきたら俺が撃退してやるんだと妄想するイタい奴と同類ですからね。ですから、この主人公を見ていると共感性羞恥がえぐいんですよ。背中がかゆくなって仕方がない。
しかしながらこの作品はどういうわけか、そんなロールプレイから生まれるイタい言動であるはずの主人公の全部がちゃんとカッコよく見えるんですよ。
それはおそらく、彼が尋常ではない努力家だから、なのでしょう。
真の実力なんてものはない。魔術に才能がないことは子どもの頃から散々思い知っている。それでも自分は最強の魔術師になるのだ。どれだけ成長が遅くとも絶対に諦めない。周囲がどうとか知ったことか。自分は自分にできることを突き詰めていくだけ。
そのたゆまない努力を重ねてきた主人公だからこそ、たとえそれが最強の真似事であったとしても「努力は絶対に裏切らない」「どんな強敵を前にしても逃げない者は誇っていいのだ」というような言葉の数々がただの理想や妄言なんかじゃない、彼自身が持つ信念の重みのある言葉になっている。
だからこそ自分の才能に悩んでいた彼女も、自分の家系の使命の重さに苦しんでいた彼も、この主人公の言葉に強く影響されて自分も同じようになりたいと憧れるようになれるのでしょう。
これがただ努力家なだけの主人公だったら、自分が努力した成果をひけらかしたりはしないだろうけど。本作の彼は中二病で自分を影の実力者のように演じていたからこそ、婉曲的ではあれどその尋常じゃない努力を周囲に見せていくことになったんだろうなと……、そんな風に思うと中二病に全力である主人公っていうのを見事に魅せてくれた本作はすごかったなと。カッコよかったですよ。
そんな主人公に大きく関わっている人物の今後の動きが本作では気になるところ。
この1巻時点では自分の才能に悩む少女、英雄の子孫であることに悩む青年の二人がメインとなっていてそれぞれが自分の悩みを吹っ切って歩み出していて良き良きですが。
それ以外でも冒頭から主人公に攻略済みな先生がいたり(真面目な努力家な部分が発揮して、人気の無い彼女の講義を熱心に受けまくって、更に個人的に先生の講義の手伝いも行うとかいう、そりゃ先生からしても生徒の中で特別な子に思ってしまうわみたいな感じで。当然主人公にはそんな気は全くないので、ただただ一方的に意識して空回ってる先生が可愛いだけという話)、匂わせだけはしてるけど1巻で明示していないどうやら主人公とお昼ご飯を一緒に食べるくらいに仲の良い学園最強の女の子もいるみたいで、この二人はシンプルに可愛いヒロイン枠で良かったですよね。
中二病に努力家を会わせてしまった結果、恋愛とかに全く興味の無い化け物みたいな主人公になってて、恋愛的にはなかなか難しそうですが……、まぁうん是非ともがんばってほしいところですね。
それから、今後の展開という点で注目したいのは。
主人公が実際に強くはないというのがどうなるかですよね。
彼のブラフが通用するのは人間や人間と同じくらいの意志を持つ相手に限られるわけですから、それが全く通用しない相手を前にしたら果たしてどうするのか? そうでなくとも、ブラフだけで乗り切るというワンパターンな展開では面白みが薄れてしまうのではないか?
そういう観点で、このアイデアが一発ネタで終わらないかどうかが作者の腕にかかっている状況なので、是非ともあっと言わせるアイデアでこれからも驚かせて欲しいところですね。
実際1巻は主人公の魅力でやりきっているのであまり気になることはないですが、読み終わってから改めて思い返すとストーリーとしての進展がほとんど無かったですし。主人公の思惑を地の文や他者の視点を介して説明することに重きが置かれているのもあってやや冗長さを感じるところも多々あったのかなと思いますしね。
総評
ストーリー・・・★★☆ (5/10)
設定世界観・・・★★★ (6/10)
キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)
イラスト・・・★★★☆ (7/10)
次巻への期待・・・★★★★ (8/10)
総合評価・・・★★★☆(7/10) 努力家が中二病を全力でやるとこうなる
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
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最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。