ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part238】フェアリーメイド

 今回の感想は2025年1月のオーバーラップ文庫新作「フェアリーメイド」です。

フェアリーメイド 1.傷だらけの妖精職人と壊れかけの人工妖精 (オーバーラップ文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 彼の使命は、最愛の妖精を壊すこと。

 訳アリ主従が紡ぐ、心揺さぶる別れと絆の物語――


 人々の便利な生活のために生み出された擬似生命「人工妖精(フェアリーメイド)」。彼らは社会に不可欠な存在である一方、経年劣化によりごく稀に暴走し、人を害する危険性もあった。かつて人工妖精の暴走事故により両親を失った青年リュウジは、相棒であり初恋の人工妖精ティルトアと共に、 人工妖精を解体し暴走に対処する「壊し屋」として働いている。日々の依頼をこなしながら、近頃増加している、寿命を迎えていないはずの人工妖精が突如激しく暴走する原因不明の症状“アリシア・シンドローム”の調査を始めたリュウジとティルトア。真相に近づくにつれ、二人はやがて過去の因縁と逃れられない使命に向き合うこととなり――?

 

感想

 感想がとても難しいです……

 なんでしょうか、なにかが足りない。どこか満足しきれない。

 そう思えて仕方ないのですよね。



 本作は、フェアリーメイドと呼ばれる、かつて滅びた妖精を人形に押し込めて生み出された存在が人々の生活を支えるものとして存在している世界を舞台にしたお話。

 主人公のリュウジは、過去に自らが生み出したフェアリーメイドのアリシアの暴走事故をきっかけに、フェアリーメイドを解体する”壊し屋”として働いていた。

 相棒のティルトアと働いている中で、近頃頻発するようになったアリシア・シンドロームと呼ばれる特異な暴走事故の謎に近づいていき、それはやがて二人の過去にも繋がって……、みたいな感じで進んでいきます。




 本作は鍵となる大きな要素がいくつかあり、それが主人公ヒロインに深く関わってくるために、序盤はなかなか世界観の全貌が見えない、一方で終盤に大きく話が深まっていく。

 そういった印象を受ける作品だったと思います。

 

 そして、その鍵となる大きな要素は、主に2つあったと思っていて。

 1つ目は「人間と人工妖精の関係性」――これは主人公ヒロイン、だけに留まらず。二人が依頼で出会う者たちからも感じ取れる要素です。

 2つ目は「人間と妖精の起源となる歴史」――1つ目の要素にも関わるものですが、ここではどちらかと言えば”物語として徐々に迫っていく謎”というニュアンスです。



 1つ目の「人間と人工妖精の関係性」について。

 個人的に、ここはかなり複雑なポイントだと思っていまして。

 それはおそらく、フェアリーメイドというものの設定に起因するものだと思っています。

 

 フェアリーメイドというのは。

 人々に尽くすアンドロイドのような便利なモノであると同時に、感情を持ち人形に囚われることに憎しみを覚える人間と対等に生きる存在でもある、そういう風に本作では描かれていたように思います。

 

 したがって、純粋に機械がそうであるように人々の生活を支える基盤となり世界観にも密接に関わりながら、人間と奴隷のような虐げるものと虐げられる存在、あるいは主人公ヒロインのような寄り添うパートナーのような存在という人間関係のドラマを描くときにも重要な要素となってました。

 

 そして、人間関係については。

 フェアリーメイドというものは、すべからく暴走の危険性を孕んでいるというのが結構シビアな設定ですよね。

 

 経年劣化と言えばはやい話ですが、人形に閉じ込められる妖精の魂というものが自然と穢れを帯びてしまい、それが一定のラインを越えると暴走してしまうということらしいです。

 それゆえに人間よりも圧倒的に寿命が短いと。

 それが”別れ”のエピソードを生み出し、パートナーのように寄り添い合う関係であれば、大きな悲しみとして響いてくると。主人公ヒロインはもちろん、彼らが依頼先で出会う人たちにも同じようなものがありました。

 

 しかし、そんなハートフルな雰囲気と同時に、人形に閉じ込められることは妖精からしたら虐待をされているのと同義であり、そして事実として人の手足として働かされてるために、憎しみの連鎖という関係も生み出してしまっている。

 人々は便利な道具を手放したくないだろうけど、妖精たちははやく解放されたい、あるいは自分達をこんな目に遭わせる人間にどうにか反抗してやりたい、そんなふうに思っているものも少なくない。

 

 だからこそ、そんな人工妖精を生み出し、あるいは解体する職人たちにはそれぞれの想いがあり。主人公のリュウジもまた幼い頃の思い出や事件、そして現在”壊し屋”として何を思ってフェアリーメイドに向き合うのかというポイントへと繋がってきますね。

 



 続いて2つ目の要素「人間と妖精の起源となる歴史」について。

 

 本作の話の方向性としては、近頃頻発するようになったアリシア・シンドロームというものを解決する、というものが序盤から明確に示されています。

 そしてそのアリシア・シンドロームというものは、かつて主人公が目の当たりにした事件が第一例となっていて、彼自身が生み出したフェアリーメイド・アリシアによるものだったと。

 

 様々な依頼の中で、アリシアという名前を持つフェアリーメイドが共通して同じ症状を引き起こしていること、そしてそれがどうして起こってしまうのかというメカニズムを解明する中で、

 そもそも、どうして過去に妖精たちは滅びることになったのか。人間たちと妖精の歴史はどのように始まっていたのか。という数千年規模の話へと話は徐々に広がっていきます。

 そして、その真実こそが現在その妖精たちの魂を捉えて生み出した人工妖精という存在の中で問題となって表面化してきたのだと。さらに人工妖精として特別製であるティルトアはそれに無関係ではいられないのだと、終盤で話がぐっと深掘りされていくのです。




 このように、本作は鍵となる設定から複雑な世界観が密に編まれている、そういう作品だったのだとわたしは感じています。

 鍵となる要素が、従属関係を含む現在のシビアな作品世界観、歴史的な規模での過去に起こった出来事、主人公やヒロインの人間関係のドラマ、そういう幅広い部分までに密接に関わっていて、奥深さを味わうことができるのだと思いました。

 その点で、本作はたしかに面白い、良い作品だった。そう言うことができます。




 しかし、個人的な物足りなさがどこかにある。

 それはキャラに対する、わたしの好き度合い、なのかもしれません。

 

 主人公のリュウジも、ヒロインであるティルトアも、どちらもフェアリーメイドとは無関係でいられない。さらに二人の関係は幼少期、過去の大きな事件も共にしてきている。

 だからこそ、それぞれが今どんな気持ちで依頼に向き合っているのか、アリシア・シンドロームという事件の究明に向かっているか、そういう部分で強い意志や言葉が見られたのは良いんですよ。

 ただ、1冊を通しての変化というものが、果たしてどれだけあったのかと。

 二人の気持ちやスタンスは、物語冒頭から基本的には固まっているものであって、主人公が”壊し屋”であり、ヒロインは寿命僅かな人工妖精であるという事実から、その二人の別れの未来も最初から分かりきっているもの。

 そんな物語的クライマックスに向かう中では、過去の歴史の真相というものはあれど、二人にとっての”意外な真実”や”二人の関係を大きく揺さぶる出来事”というには弱いものしかなかったわけです。

 そうなると、最初から別れに対する二人の葛藤や不安というのは本作で描かれると序盤で予想でき、実際そうなるのですが。逆に、二人の気持ちの変化という思わぬ何かがないために、読者として見る立場の不安や緊張感があまり生まれなかったのではないかと。

 

 あくまで、これは後付けの理由かもしれませんが。

 事実として、わたし自身は本作の主人公とヒロインをそこまで好きになることはなく、まぁそういうお話になるよなぁくらいの完全な第三者視点で見てしまっていたので、読んでいる気持ちが淡々としてしまったところはあったと思います。

 

 

総評

 ストーリー・・・★★★☆ (7/10)  

 設定世界観・・・★★★★☆ (9/10) 

 キャラの魅力・・・★★☆ (5/10)

 イラスト・・・★★★☆ (7/10)  

 次巻への期待・・・★★★ (6/10) 

 

 総合評価・・・★★★☆(7/10) キャラを好きになれなかったのが、個人的には少し悩みどころでした

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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