ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part98】バスタブで暮らす

 今回の感想は2023年8月のガガガ文庫新作「バスタブで暮らす」です。

バスタブで暮らす (ガガガ文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

あらすじ(BWより引用

 22歳女子、実家のバスタブで暮らし始める。

 「人間は、テンションが高すぎる」ーー

 磯原めだかは、人とはちょっと違う感性を持つ女の子。

 ちいさく生まれてちいさく育ち、欲望らしい欲望もほとんどない。物欲がない、食欲がない、恋愛に興味がない、将来は何者にもなりたくない。できれば二十歳で死にたい……。

 オナラばかりする父、二度のがんを克服した母、いたずら好きでクリエイティブな兄、ゆかいな家族に支えられて、それなりに楽しく暮らしてきたけれど、就職のために実家を離れると、事件は起こった。上司のパワハラに耐えかね、心を病み、たった一ヶ月で実家にとんぼ返りしてしまったのだ。

 逃げ込むように、こころ落ち着くバスタブのなかで暮らし始めることに。マットレスを敷き、ぬいぐるみを梱包材みたいに詰め、パソコンや小型冷蔵庫、電気ケトルを持ち込み……。さらには防音設備や冷暖房が完備され、バスルームが快適空間へと変貌を遂げていく。

 けれど、磯原家もずっとそのままというわけにはいかなくて……。

 「このライトノベルがすごい!2023」総合新作部門 第1位『わたしはあなたの涙になりたい』の【四季大雅×柳すえ】のコンビで贈る、笑って泣ける、新しい家族の物語。

 

感想

 ――酸いも甘いも日々の中で。

 

 本作を読んで最初に思ったことです。

 

 磯原めだかはバスタブで暮らしている。

 子どものころから、どこか周囲と違う自分を自覚していて。そんな世界に生きづらさを感じていて。大学を卒業して、就職して、けれど挫折して実家に戻ってきて。そうしてこころ安らげる唯一の場所となったのがバスタブの中、そういうお話です。

 

 この作品はとにかく地続きで時間が過ぎていく。

 そして、それはバスタブ暮らしでありながら、言うまでも無い実家暮らしの中の出来事。

 バスタブの中で暮らしやすくするためにあれやこれや手を尽くしてくれる兄や、豪快で子への愛に溢れていた母、口数は少なくとも強くその存在感を感じる父。四人家族が生み出す、そこにしかない空気感というものに満ち満ちていた。

 

 そして、この作品はそんな普通の日々であるはずなのに。

 どこか現実と虚構の隙間にあるような感覚を強く覚える作品でした。

 というのも「へのへのもへ人」「能面」「人狼族」「腎臓のかたちをした漬物石」そんな表現の数々に彩られているから。たぶん、これは生きづらさを感じるめだかだから見える世界なんだと思います。

 このどこか非現実で、けれどずっと現実が続いているような感覚というのは自然と読者にも伝播してくる。読書を体験として魅せるような強い力を感じる。

 

 そうして進んでいくめだかのバスタブの日々。

 Vtuberを始めてみたり、その活動の中で自分の中にある気持ちを言葉にしたりして過ごす。けれど優しい温かい日常はずっと続くわけじゃない。悲しい出来事が起こって、また心が迷子になって、けれど勇気を出して、家族と言葉を交わして。

 小さい頃からずっと感じてきた生きづらさ。それがようやく融け始める。

 

 何というか、誰だって正しく生きられるわけじゃない。

 この正しくというのが周囲に順応することなのか、それとも幸せに生きることなのかそういう定義は置いておいて。

 正しく生きられない。だとしても、それで終わるわけじゃない。磯原めだかは20年以上の時間と、家族がすぐ側にいたバスタブ暮らしを経てそれにようやく向き合えた。その一冊の物語が、読んだ人にも生きるエネルギーをわけるような、そんな作品だと思いました。




 ……と、そんな感じのことを、当然ながら色々日々悩んだり、考えたりしているわたしは感想として書きましたが。

 

 すっごい正直な気持ちを言うと、こういうお話は読んでいて好きじゃないですね……、ごめんなさい。

 あくまでラノベを読むのが娯楽でありたいわたしにとって、こういう読者に直接触れてくるようなお話はダメなんですよ。個人的にどうしても好きになれない作品。

 ただ感想で言ったことは事実で不思議な力のある作品だとは思いました。

 

総評

 ストーリー・・・★★★☆ (7/10)

 設定世界観・・・★★★★ (8/10)

 キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)

 イラスト・・・★★★ (6/10)

 

 総合評価・・・★★☆(5/10) あくまで個人的に、こういう作品は好きになれません。ごめんなさい。

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録

 

 最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。

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