今回感想を書いていく作品は「明日、ボクは死ぬ。キミは生き返る。」です。
電撃文庫より2013年から2014年まで刊行されていた全3巻+短編集のシリーズ。作者は藤まる。イラストはH2SO4。
※画像はAmazonリンク(1巻および短編集)
作品概要
まずはいつものように本作の概要を。
""主人公・坂本秋月。
彼の目の前で一人の少女・夢前光が交通事故で亡くなってしまう。
すると秋月の前に謎のローブの人間が現れ「お前の寿命の半分で彼女を救えるとしたら?」と問う。そんなことができるのならやってみろと言うとそれは現実になる。
ただし、それは光に秋月の寿命の半分を与える……、それは一日ごとに光の人格が現れて自分の体が乗っ取られるという二心同体の状態でのお話なのだが。こうして自分の体を好き勝手に使う光と、それに振り回される秋月のちょっと不思議な生活の幕が開けるのだった。””
と、こんな感じのお話です。
ジャンルとしてはちょっと不思議なラブコメディって感じでしょうか。感動アリ、笑いアリな感じの作品です。
そんな本作についての感想を簡単に言えば
「設定を活かした『姿が見えない、声も消えない、触れることすらできない』そんな状態の二人の想い合う心がとにかく素晴らしい!」
になるでしょうか。
詳しく話していきます。
1:光が巻き起こすハプニング
本作は冒頭で述べたように、秋月と光が一つの体を一日置きに共有することから始まります。
そして光は初っ端からやらかします。
女子更衣室への突入やら女子へのセクハラやら。
まぁ、元々の女子の感覚でいた気持ちも分からなくもないけど……、今の君は秋月の体(男)なんだよっ! と。秋月からしたらたまったものじゃない。自分の知らないところで自分が何かをしていることになっていると。
本作は基本的にこの、光が秋月の体を使って問題を起こす、秋月はそれに振り回される、という形で物語がジャンジャカと軽快に広がっていきます。
初っ端の事件だけで終わるならともかく、光は何かをやらかすということをやめませんからね。
勝手に女の子を口説いたり、勝手に女の子に貢いだり、勝手に女の子にセクハラしたり、勝手に散財したりと……、それはもう秋月のそれまでの生活をぶっ壊す勢いでやらかしていきますとも。
そして彼女のやらかしによって広がっていく物語には、彼女に負けず劣らずでクセの強いキャラばかりが登場してくる。ブラコン腐女子を極めているツンデレ妹ちゃんとか、徐々にヤンデレ化していくおさげ眼鏡おっぱいちゃんや、光のことが好きすぎる残念イケメンなどなど……、もはやカオス一歩手前の様相。
そんなハイテンションコメディがすごく面白い!!
2:夢前光というアホの子
読み進めていくとすぐに分かることですし、作中でも明記されることですが、夢前光という女の子は基本的にアホの子です。
天然でお人好しまで加わると、それはもう手に負えないレベルのアホアホ。……だからこそ、秋月の体を使って勝手に問題を起こしまくるわけですが。
しかし、そんな彼女を嫌いになることは決してできないんですよ。
それは彼女が何より優しい女の子だから。
彼女の行動はいつだって「誰かのために」という想いで溢れているんです。
それが空回りすることも多いですし、他人に(特に秋月に)迷惑をかけることなんか日常茶飯時。
ただそれでも彼女はどこまでも優しい。
彼女の視点になってみれば、死んでいきなり見ず知らずの男の体になっていた状況なんですよ。
慌てふためいたり当たり散らしたりしたって誰も文句を言えない状況。それなのに彼女はそんな自分の泣き言を一切漏らさない。それどころか自分の状況すらままならないというのに、そんな自分を二の次にしてまで誰かのために何かをしたいと思える。
こんなにも強い優しさがあってたまりますか。
彼女は誰がどこから見たってアホの子です。
でも、憎めない。
それどころかその心の奥底にある優しさがこれ以上ないってほどに綺麗でカッコいい女の子なんですよ。
3:秋月と光、二心同体のタッグ
そんな光だからこそ。
秋月もまた惹かれていくわけです。
自分の体で勝手に好き勝手やるのは迷惑だし、大変だし、訳がわからないことばかりだし……。それでも彼女は誰かのことをいつも想っている――何よりも体の持ち主である秋月のことを想っている。
それが分かるからこそ、秋月は逆に自分を顧みない彼女自身を大切にしたいと思うのです。
……まぁ、しかしね。
秋月くんが惚れた弱みだからと言って、無意識に甘やかすから光ちゃんは調子に乗ってどんどんやらかすんですけどね。ただ、逆に言えば、光は光で自分が多少の無茶をしたって秋月は許してくれるという気持ちはあるでしょうし。
そういう意味では良いパートナーなんですよね。
で、ですよ。
こんな二人の関係性というのが本作最大の魅力となることはもはや言うまでもないでしょう。
秋月と光は一日ごとの交換日記のみで交流をしています。
文字のみの会話。
既に述べたように、光は自分の弱音なんか一切吐き出さない子なんです。すぐにふざけて、茶化して、逃げ出す。交換日記でしか通じていない相手に自分の本心を隠すなんて簡単なこと。交通事故に巻き込まれたときの真実、自分が死んでしまって残してしまった友人や家族に会いに行きたいけど勇気が出ない、何を言えばいいか分からない。そんな悩みは自分が抱えて自分で解決すれば良いと、そうやって隠そうとするんですよ。
でも、秋月がそんなことをさせない。
たしかに姿を見ることはできないし、声も聞こえない。触れることだってできない。同じ体を使って生きている、いちばん近くにいられる関係になっても、どうしようもないほどの壁が秋月と光の間にはある。
しかし。
だからこそ。
秋月は何よりもいちばん近くにいる顔も見えない彼女の気持ちをくみ取ろうと必死になれるんですよ。姿が見えない、声が聞こえない、触れることもできない、本心を隠そうとされたらどうしようもない。そんなアホの子で面倒くさい光だから、気持ちをくみ取れないときもあるし、泣かせてしまうときもある、怒らせることだってある。
それでも、光のために何かしてあげたい。笑っていて欲しい。そう願って秋月は行動し続けて、交換日記という細い繋がりだけで言葉を投げかけ続けるんですよ。
最初に動き出すのはいつだって光。
彼女が手を引くから、秋月の灰色だった世界は変わっていく。
だからこそ、秋月は光のためにできることをする。
そして彼の真っ直ぐな想いの強さがあるから、笑顔で本音を隠し続ける光も甘えられる。
この相思相愛とも言える、二心同体の二人の思い合う心っていうのがもう本当に素晴らしいんですよ。
最初に言った「『姿が見えない、声も消えない、触れることすらできない』そんな状態の二人の想い合う心がとにかく素晴らしい!」っていうのはこういうことなんです。
4:文字通りに光のような女の子(作品の結末について)
アホの子でコメディを生み出し。
その真っ直ぐすぎる優しさで癒やしを届ける。
自分の悩みは隠して、嫌なことからは逃げて、他人を事件に巻き込む才能だけに特化したようなどうしようもないお騒がせ娘。
そんな夢前光という女の子、最大の魅力は本作の結末にこそ宿っていたと思います。
本作では1巻と2巻のオチと、3巻のオチの印象が本作はガラッと変わるんですよね。
端的に言えば1巻2巻ではコメディ的な「そんなオチかよ!?」と言いたくなるような結末で、3巻は「心に消えない静かな感動を落とす」ような結末になっているんです。
1巻2巻はいつだって笑顔で秋月を振り回してくれる光がいるから。
シリアスなんて似合わないんだよ、とそう言わんばかりに光が良い雰囲気を台無しにしてくれるんですよ。
でも3巻は光がいなくなるから……。
何もかもを笑いに変えてくれるあの子はもういない……、っていう雰囲気になってしまうんですよ。
とはいえそれで終わらせてくれないのも光ちゃんクオリティで。
最後の短編集がやってくる。
3巻の裏側を描くこの1冊が見せたのは、ただではいなくなってくれない光の最後のワガママでした。
トラブルメーカーらしい彼女の最後の仕掛け爆弾と願いは、彼女がどれだけこの作品に、秋月の心の中に爪痕を残していたのか、それがもうはっきりと分かるんだね。これが光という女の子の持っていた、文字通りに光のような明るさと温かさがどれだけかけがえのないものだったかを象徴していると言わずして何というか。
姿も見えない。
声も聞こえない。
触れることすらできない。
勝手に自分の体を使い始めた女の子。
それが最後の最後まで心の中に居座り続ける笑顔の絶えない女の子。
何度でも言いたくなる、こんなにも魅力的なヒロインはいないって。
ズルいよね、ズルすぎるよ。
5:巻別満足度と総合評価
最後に本作の巻別満足度と総合評価です。
まずは巻別満足度。
グラフを見ての通り、最初から最後までどの巻も満足できる作品でした。
そして3巻の満足度を一層引き立てる短編集まで味わいたっぷりの作品でもあります。
そして総合評価です。
シリーズ全体を通しての満足度は ★9.5/10
文句の付けようがない傑作でした!
まとめ
本当に素晴らしい作品でしたよね。
光ちゃんというお騒がせ娘の生み出すコメディに笑い、二心同体な秋月と紡ぐ絆に胸を熱くさせられて……、何よりも心の中から消えてくれない強さを終始見せてくれた光にどこまでも惹かれ続けた。
マジで光ちゃんが好きすぎる……。こういうキャラ、ドストライクなんですよ。もう好きしかないよね。ずっと言い続けられそう。本当に好き。
ここままだとキリがなくなるので、今回の感想はここまで。
最後に1巻のAmazonリンクとBOOKWALKERリンク貼っておきますね。
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