今回感想を書いていく作品は「いつか天魔の黒ウサギ」です。
ファンタジア文庫より2008年から2013年まで刊行されていた全13巻+短編集5巻のシリーズ。作者は鏡貴也。イラストは榎宮祐。
※画像はAmazonリンク(1巻および13巻)
- 1:本作の概要
- 2:鉄大兎と紅月光、二人の主人公
- 3:俺様生徒会長・紅月光
- 4:純粋でどこまでも一途なヒメアの愛
- 5:数奇な運命に巻き込まれた鉄大兎
- 6:その他、個性的すぎるキャラクターたち
- 7:世界の真実と運命に縛られた者たち
- 8:日常短編集「紅月光の生徒会室」
- 9:巻別満足度と総合評価
- おわりに
1:本作の概要
””普通の平凡な高校生、鉄大兎。
ある日死んでしまい、しかし生き返ることで忘れていた幼い記憶を取り戻す。
それはとある少女ヒメアとの約束。
彼女を愛し守ると誓った想い。
しかし、その約束は果たされることなく「最高の魔術師」として恐れられるヒメアは人間たちに囚えられ実験動物として扱われる日々を過ごしていた。
いつか必ず大兎に救ってもらうことを信じて……。
ヒメアとの約束を思い出し、彼女と再会を果たすことになる大兎は大きな世界と運命に巻き込まれていくことになる。””
……、というのが1巻のあらすじ。
そして本作の一人目の主人公である大兎の物語。
2:鉄大兎と紅月光、二人の主人公
本作には鉄大兎ともう一人、主人公と呼べるキャラクターがいます。
それが紅月光。
””大兎が通う学校の生徒会長で完璧超人と名高い彼は、しかし幼い頃に双子の弟である紅日向によって両親を殺害されてしまう。
その後復讐を胸に、世界中の魔術やら何やらを学びながら生きて、ある日ひょんなことから雷を司る悪魔ミライと契約をかわす。””
というのが月光サイドのおおまかなストーリー。
そして月光の一昨年である日向はヒメアを攫い、人間たちの実験動物にさせていた犯人でもあり。
月光の物語は必然、大兎の物語とも関わってくるわけです。
いつか天魔の黒ウサギという作品は、大兎と月光、二人それぞれの主人公としての歩みを描きながら世界の真実や運命と戦っていく物語なのです。
最初こそいがみ合ったり。
お互いにソリが合わなかったり。
信頼というか何というか……、まぁ、絆みたいなものが芽生えるような?
仲のいい友達ほど喧嘩をするというか?
そんな感じの大兎と月光、二人だからこそ魅せられるW主人公の魅力そういったものは存分に発揮される作品なので。
まずは1つ。
本作はこの二人の主人公の物語という構造が素晴らしい!
というお話です。
3:俺様生徒会長・紅月光
では、そんな二人の主人公についてもう少し話したいので話します。
月光について。
先述の通り、月光は幼い頃に、弟の日向によって両親を殺されているので天涯孤独です。
日向は幼い頃から平凡な日常の裏側にあるモノ(本作のファンタジー要素となる部分)が理解できていたために、起こした事件というのが物語が進む中で色々説明されますが、その詳細は置いておいて。
月光はそんな幼い頃から基本的に自分は何でもできる天才だと思っていたわけです。
しかし、日向のような非日常を知るような特別はなかったのだとその事件で知ってしまう。
そしてだからこそ。
その後復讐に身をやつす中で、月光は自らを「天才」と自称し続けるようになるのです。
自分は絶対的に正しい。
世界は自分を中心に回っている。
天才である自分にできないことなどあるはずがない。
その結果生まれたのが本編1巻で登場する俺様生徒会長・紅月光というキャラです。
これがまぁ、もうね。
本当に自分以外の全てを見下すような、世界の中心が俺だと言わんばかりの態度で鼻につくわけですよ。
しかし、日向の事件の真相が明かされたり。
月光の身の上が分かってくると。
月光は自分に言い聞かせていただけだと分かるわけです。たぶん、それは月光の自己防衛的なものだったんだろうなと。
天才じゃないからこそ、天才であろうとする。
言ってしまえば努力と執念の塊のような男なわけですよ、月光は。
そしてこの月光の魅力が見えてくると。
終盤に向かって、徐々に物語がクライマックスになって過酷な状況になっていくと、そのカッコよさが際立つんですわ。
幼い頃から自分を必死になって奮い立たせてきて孤独に戦い続けた自己中心的過ぎる男が、自分の弱さを認めて、仲間たちとの絆を受け入れ、そして自分ならどんな状況にでも打ち勝つことができるのだと信じ戦い続ける。
こういうのって最高にかっこいいんですよ!
堪んないんですよ!
月光の変化と成長、そして揺るぎない信念。
主人公としてこれ以上ない魅力をみせてくれたのが紅月光という男だった。
4:純粋でどこまでも一途なヒメアの愛
月光について話したなら、次は大兎……、と言いたいけれど。
大兎の前には、ヒメアを話さないといけないと思う。
てか、ヒメアについて話したい!!
では改めて。
ヒメアは最古の魔術師として世界中から恐れられていた存在。だからこそ人間たちに捕まって実験動物にされたりしたわけで。
そんな彼女の孤独を埋めていたのは、大兎との約束、大兎を愛しているという想い。
ヒメアは最初から最後まで、とにかく大兎のことが好きだという気持ちを示し続けます。
それは言ってしまえば重すぎる愛情。
けれど、どこまでも純粋な恋心。
大兎のことが好きで、とにかく好きで、大好きで。大兎が幸せになってくれればそれでいい。
という好きな気持ちをとにかく”好き”という言葉でしか表現ができない、と言えばいいでしょうか。
それはある意味でどこか気味悪くも映ってしまう。何故そこまで大兎のことを好きなのかと。好きだから好きとしか言えない、そんな理由がないほどに純粋すぎるヒメアの愛。
これがもう最高に可愛いわけですよ!!
大兎が好き!
大兎以外どうでもいい!
邪魔するやつは殺そう!
みたいな過激派の思想が常にある一方で。
大兎が好き!
大好き!
一緒にいれるだけで幸せ〜!
っていう、月光からはイロボケと言われるほどの恋に盲目な姿もいっぱい見せてくれる。
そして、
大兎が好き!
だから、大兎が幸せでいてくれればいい。
もちろん大兎に自分のことを好きになってくれたら嬉しいけど……、でも大兎を縛りたいわけじゃない……。
みたいな健気すぎる想いもあって。
とにかくもう可愛いんですよ!
個人的にヒメアがいちばん可愛いと思うのは日常短編集である「紅月光の生徒会室」でのお話。
日常なのでヒメアはマジで「大兎好き〜」しか言わないレベルのアホの子になってるんですよ。
そして基本的に大兎以外の全てに興味がないんですが「◯◯したら、大兎くんに好きになってもらえるかもよ?」とか「◯◯したら、後で大兎とイチャイチャできる時間を用意してやる」と言われたらノータイムで「じゃあやる!」と言い出すチョロすぎる様子が、何度も何度も見せられるんですよ。
かわいいよね!
超絶かわいいよね!
ヒメアはかわいいんだよ!
というわけで、純粋でどこまでも一途なヒメアの愛が素晴らしいという話でした!
5:数奇な運命に巻き込まれた鉄大兎
大兎はある日ひょんなことからヒメアとの約束を思い出し、彼女に再会する。
というのが1巻のお話と言いました。
それまでは本当に普通の高校生。
だから彼の視点から見ると、ヒメアがどういう存在なのか、月光たちは何と戦っているのか、そういうのが全然分からないままに非日常なファンタジーに巻き込まれていくわけですよ。
そしてこれは読者視点も同じ。
この作品は基本的にどこまでも「え、これってどうなってるんだ?」という疑問が尽きないままに物語が進むのです。
そういう意味で大兎はやはり主人公としての要素を大いに持っているキャラクター。
でもって、大兎のカッコよさというのは優しさと覚悟、でしょうか。
何もかもが分からない非日常に巻き込まれた一般人、それが分かっていても、しかしヒメアを守ると誓った想いは決して曲げない。
自分が無力だと自覚して、ヒメアを守るためならと普通の人間を辞める覚悟で大きな力を手にして戦う。
彼女の笑顔のために……、先ほど述べた一途すぎるヒメアの想いにしっかり真っ直ぐ向き合えるのが大兎の良いところ。
とはいえ、やはりこれも主人公の宿命か。
大兎の優しさというのはヒメアにだけ向けられるものではなく。
幼馴染の女の子、時雨遥にも向けられていて……恋の三角関係が勃発したりするんですよ(笑)
また、他にも。
既に述べたように月光との友人としての絆。特に月光が自分は独りで戦えると自ら孤立していたような男と親友になれるくらいの度量もあったりもしますしね。
基本的に大兎は良い奴なんですよ。
6:その他、個性的すぎるキャラクターたち
もうね、ここまで三人紹介したけど。
ぶっちゃけそれ以外にも魅力的すぎるキャラクターはめちゃくちゃ多いのよ!
大兎の幼馴染の時雨遥。
遥は大兎のことが好きないわゆる普通の幼馴染……かと思ったら、実はがっつり非日常に関わるキーパーソンで、その中では大兎を裏切り続けているという葛藤があったり。
4巻で登場するセルジュとハスガという二人の兄弟。
特殊な異能を持つが故に迫害され続けた過去を持ち兄弟二人だけで生きてきた、というどこか月光にも近いものを感じさせる奴らとか。
月光の相棒(?)である少女ミライ。
基本的におバカガールで、常にテンションが高く月光を怒らせてばかりだけど。
他人と関わろうとしない月光には、このくらい能天気でおバカな子が近くにいたほうがいいよねって思えるような子。
日常短編集とかだと、月光とミライのカップルは見てて楽しいですしね。
月光たちの非日常に、自ら飛び込んできた一般人の碧水泉とか。
余命二年の病を患っているからこそ、1日1日を楽しく生きようと心に誓う彼女は、そしてだからこそ、余命二年とかいう悩みをふっ飛ばすような常に命の危険に見を晒す非日常で生きることが幸せだと言うようなどこか頭のネジが外れたムードメーカーな女の子。
この子もめちゃくちゃ好きなキャラ。
その他にも。
物語の根幹に関わってくる月光の弟である日向や、黒守先生という大兎や月光たちの先生なんかもいて。
それぞれのキャラが自分の信念みたいなのを持っていて、だからこそ魅力的に見えるというのは言うまでもないですし、月光を中心に集まった生徒会メンバー(大兎、ヒメア、ミライ、セルジュ、ハスガ、泉)の絆が最高だったみたいなのも言うまでももないこと。
個人的に少し語っておきたいのは。
個性的すぎるからこそ生まれる会話劇の面白さですね。
例えばメインのメンバーだけで見ますよ。
1 基本的に普通の男子高校生である大兎。
2 他人を全て見下している自己中心的な紅月光。
3 大兎以外の全てがどうでもいい、やはり自己中心的なヒメア。
4 能天気でおバカな月光のパートナー、ミライ。
……こんな四人でまともな会話が成立するか?
するわけないでしょ……。
実際会話が整理しないんですよ。
本作の会話、とにかく一方通行な噛み合ってない会話が多いのよ。
しかし、これがまぁー面白い!
個人的な趣味でいうと、ヒメアの大兎以外どうでもいいみたいな思考は、彼女が普通の人間じゃないからこそ生まれているもので、そういう人外の良さみたいなのが引き立つのは大好きなわけですよ。
7:世界の真実と運命に縛られた者たち
さて、ここまでキャラの魅力にフォーカスしてきて色々話したわけですが。
ここまで本作の設定や世界観にまつわる話を一切していません。
何故かといえば、理由は単純。
「設定が複雑すぎて説明しきれないから」
です!
……まず、ですね。
1巻のあらすじを述べたと思うんですが。「大兎が幼い頃の約束を思い出しヒメアと再会する」というざっくりしたあらすじ。
……これが1巻の内容の全部なんですよ。
大兎の項でも言ったと思うけど、本作はとにかく分からないことが分からないままに進むんです。
全13巻を読んだ、わたしの所見として。
1〜6巻 プロローグ
7〜10巻 序章
11〜13巻 本編および最終章
というイメージがあるくらいには、プロローグと序章が長い。
設定や世界観がとにかく複雑すぎる。
なので、本作は13巻まで読まないと何もわからないんですよ。
しかしこれっていうのは悪いことではなく。
むしろ良いところだと思っていて。
最初から大きな枠組みのストーリーや設定がしっかり作り込まれているってことなんですよ。そしてそれをしっかり13巻という長編シリーズとして描ききった。
だから最終巻を読み終わったときの満足感が半端ないのよ!
そして何より設定や世界観、伏線が複雑だからこそ。
それを10巻くらいまでに積み重ねて積み重ねて積み重ねて……、11巻から13巻のラストで一気に解放したときの落差が大きくなるわけで。
これもまた最初から長編シリーズにするぞ、って思って作られた長編シリーズだからこその魅力だと思うわけです。
なので、本作の細かい世界観や設定については語りません。
ただ、それでもざっくり言うなら
本作は「大いなる存在によって定められた運命に抗うような物語」なのかなと。
世界の秘密に近づき、それぞれのキャラに秘められている隠された真実を知り、大いなる存在や化け物たちの陰謀が錯綜する中、運命を変えるために抗う……そんなお話が好きなら間違いなくハマる作品だと思います。
一方で純粋なバトルファンタジーだとか、そういうものはあまり期待しない方がいいかと。
それぞれが戦うことで、どんな目的を達成しようとしているのかという部分にフォーカスされているので、戦闘そのものの熱量みたいなものが薄いんですよ。
どっちが勝つんだ? とか、カッコいい必殺技でキメる! とか、そういう魅力がある作品ではない感じ。アイツを倒せば全部解決だ、みたいな明確な敵も基本的にはいないですし。
だから、やっぱり複雑な設定と世界観で魅せるタイプの作品かなというのが正直な印象。
そしてそれがもうめちゃくちゃ面白い!
というのがわたしの感想ですね。
8:日常短編集「紅月光の生徒会室」
本作は本編の他に日常短編集として「紅月光の生徒会室」というものが全5巻あります。
基本的にシリアスマシマシな本編とは一転して、こちらは常識のない自分勝手すぎる奴らが起こすドタバタがメインな感じです。なので本編を読んでいると、この日常が癒やしになって非常に心地良い。
勿論コメディとして単体で見ても良いものでした。
で、ここで少しだけ話しておきたいのは読む順番。
こういう短編集って「本編全部読み終わってからでいいのか?」「刊行順に読んだ方がいいのか?」という疑問が尽きないと思います。
この作品に関しては「刊行順に読む」が最適解。
もっと厳密に言えば「本編11巻より前に、紅月光の生徒会室5巻を読むべき」になっています。これは読めば分かる、というやつです。
なので刊行順を書いておきますと。
本編1~5巻 → 紅月光の生徒会室1巻 → 本編6巻 → 紅月光の生徒会室2巻 → 本編7巻 → 紅月光の生徒会室3巻 → 本編8巻 → 紅月光の生徒会室4巻 → 本編9~10巻 → 紅月光の生徒会室5巻 → 本編11~13巻
の順番になります。
9:巻別満足度と総合評価
最後に本作の巻別満足度と総合評価です。
まずは巻別満足度。
このグラフを見ての通り、いつか天魔の黒ウサギは1巻でがっつり読者を引き込み、以降は溜めの巻と一気に面白くなる巻を繰り返しながら、終盤に向けて面白さが爆増するようなシリーズでした。
そして総合評価です。
シリーズ全体を通しての満足度は ★9/10
すっごい大満足の作品でした!
おわりに
今回は色々言いましたが、超短く言えば
「めちゃくちゃ面白いファンタジー長編シリーズ!!」
ってことです。これまでにも様々な長編シリーズを読んできていますが、その中でも屈指の面白さがありました。何よりも最初から最後まで読む手が止まらない、という意味での面白さが格別です。
なので気になったら本編1~13巻、短編集1~5巻までを揃えて一気読みしてみてほしいですね。
今回の感想は以上で。
最後に1巻のAmazonリンクとBOOKWALKERリンクを貼っておきます。
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