今回の感想は2023年4月のファンタジア文庫新作「蜘蛛と制服」ですね。
神さまのいない日曜日の作者入江君人先生とイラストレーター茨乃先生のタッグの新作と銘打たれて刊行された作品、最初に言いますけど大満足でした!!
※画像はAmazonリンク
あらすじ(BWより引用)
三匹の蜘蛛と、虫愛ずる少女の物語。「神ない」コンビ最新作。
異世界に転移した女子高生・琥珀は、3匹の人食い蜘蛛を助け、彼らとともに迷宮を旅することになった。
「私は”化け物(バーシャ)”、あなたの敵よ」
出会った冒険者を倒したり、蜘蛛の糸で綺麗な服を作ったり、一緒に食料を探したり。虫が好きなことを隠さなきゃいけない前世よりよっぽどあたたかい、蜘蛛3匹と過ごす毎日。
「わたくしは、魔道士協会に籍を置く大天才魔女――」
しかし、一番小さいヒメちゃんが、しゃべり始めただけでなく自分のことを魔王の娘と名乗って――!?
入江君人×茨乃の神ないタッグが生と死を描く、珠玉のファンタジーのはじまり。
感想
いやぁ、これは素晴らしかった!
ただ、公式のあらすじで感じてた印象とは違う印象があったので改めて自分で少し整理してあらすじです。
””幼い頃から死体に虫がたかる、そういったものに心を惹かれていた少女。しかしそれが周囲から見て気持ち悪いものだと知っているから、押し殺し優等生を演じ続けていた。
しかし、抑圧された気持ちに限界が来て。
一匹の蝶に手を伸ばして、電車の前に飛び出し命を落としてしまう。
目を覚ますと、そこは異世界で何故か蜘蛛たちの苗床になってしまっている。同じような周囲の人たちが悲鳴を上げる中、彼女だけは蜘蛛に食べられる幸せを噛み締め、蜘蛛たちを慈しんでいた……。””
と、そんな冒頭から物語が始まります。
つまるところ、公式のあらすじにある蜘蛛たちとの旅が始まる前に「そもそも少女は蜘蛛の餌となる」という背景が説明されるんですね。
そして少女はそんな蜘蛛たちに食われることに喜びを感じちゃってると(苦笑)
本作はこの価値観が”普通じゃない”女の子の生き様、あるいは死様を鮮明に描いた物語。
これがとにもかくにも美しい!
左眼を食い尽くされて。
腕が伽藍堂になり。
それでもなお幸せを感じて、自分の愛する子どもを育てるように蜘蛛たちに自らの身を食わせ続ける女の子。
自らの身を彼らの生きる巣として差し出して、蜘蛛たちを害として殺そうとする人間たちがいるのなら自らが盾となり、あるいは人間たちを殺していく。
「幼い蜘蛛たちが成長するまで、彼らの餌となり、彼らの巣となり、彼らの盾となる。そしていつか自分は彼らに食い尽くされて死ぬんだ」
と、心の底からそれを願う少女の異様さ。
漫画のようなヴィジュアルがあったらグロ一直線でしかない内容なのに、文章で綴られるだけの本作はそれがただただ純粋で美しい彼女だけの在り方として真っ直ぐに見ることができる。
(少しだけ変なことを言うと、蜘蛛たちに自分の身体を食わせるヒロインにママ味を感じちゃう謎があるんですよね。なんかマジでお母さんだよ、蜘蛛たちに捧げる愛情が。これが可愛いと言っていいかは分からないけど可愛い。最高)
でもって、もう少し内容に踏み込めば。
本作は三匹の子蜘蛛と少女が生きていく物語になっていまして。
その中で見えてくるのは蜘蛛たちに対して際限のない慈愛を捧げる少女の姿と、そんな彼女の目線だからこそ見えてくる蜘蛛たちの微笑ましい姿。
質実剛健で素朴なお兄ちゃん蜘蛛と無邪気な妹蜘蛛、それに加えて実は転生したら蜘蛛でした状態の子が一匹。それぞれがまるで人間のように感情豊かに描かれる様が本作の個性であるのは言うまでもなく。
三匹の蜘蛛たちが、少女の身体のどこを食べるのかで揉めていて、それを宥める女の子というシーンみたいなものが本作の共生関係をこれ以上なく温かく描いていて個人的に大好きです。
あとは日常的に蜘蛛を身体の中に棲ませている様子とか、蜘蛛たちにとって好ましくない物も少女が一度食べてからその血を介して蜘蛛たちに与える描写とか、とにかく見てて生理的な気持ち悪さと同時にある綺麗さが堪らないのですよ。
四頭一個の化け物。
そんな家族でも何でもない、捕食者と被捕食者の絆にも強く惹きつけられた作品でしたね。
また蜘蛛に捕食されて幸せを感じるような歪みを初っ端から見せつけてくれたヒロインですが、しかしそれが異様であると……少なくとも周囲から見て忌避されるものであると理解はしている。
それ故に彼女は「自分が間違っている」という認識が根付いてしまっているんですね。これが彼女の心の弱さとして、一方で異世界で蜘蛛と共に生きる道を選んでからの成長、あるいは人間たるか蜘蛛とと生きる化け物たるかという悩み。そういう部分で見せられる彼女の心情描写も非常に良かったですね。
まとめると。
これはもう設定勝ち、と言っていいくらいのインパクトがある作品でした。最初から最後まで読む手が止まらなかった。
今後少女と蜘蛛たちがどんな生と死を歩んでいくのか。その果てが蜘蛛たちに食い尽くされると決まっていればこそ、その過程が気になって仕方ない。
”普通じゃない”少女の生き様を描く珠玉のファンタジー作品。
そう言っても過言ではない、期待以上の作品でした。
まぁ、とはいえ誰にでもオススメできる作品かと言ったらそうではない。
いやだって、蜘蛛に食い散らかされる人間って、はっきり言ってグロじゃん……。生理的嫌悪感というものがあるよ。わたしたち読者は彼女と違って”普通”ですから。
本作は蜘蛛たちがデフォルメされたイラストで描かれるから可愛いけど、リアルタッチの絵だったら絶対ヤバいやつだよ。ただ他のエグいダークファンタジーみたいな作品と比較すればさほど重くはない、はず。
だから、そういうのを呑み込んだ上で、蜘蛛を愛する少女の生き様を見ると楽しめる作品だと思います。
総評
ストーリー・・・★★★★ (8/10)
設定世界観・・・★★★★★ (10/10)
キャラの魅力・・・★★★★★ (10/10)
イラスト・・・★★★★ (8/10)
次巻以降への期待・・・★★★★★ (10/10)
総合評価・・・★★★★★(10/10) 文句の付けようがない最高の満足感!!
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録
最後にブックウォーカーのリンクと、以前書いた「神さまのいない日曜日」の感想リンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。