ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part47】賭博師は祈らない

 今回感想を書いていく作品は「賭博師は祈らない」です。

 電撃文庫より2017年から2019年まで刊行されていた全5巻のシリーズ。作者は周藤蓮。イラストはニリツ

賭博師は祈らない (電撃文庫)

※画像はAmazonリンク(1巻)

 

 

あらすじ

 まずはいつものように本作のあらすじからご紹介。

 

 ””舞台は18世紀末ロンドン。

 「勝たない」そして「負けない」を信条に掲げる1人の賭博師ラザルスは、しかしある日想定外の大勝ちをしてしまう。

 賭博場の目をつけられてはまともに生きていくことすら危うい賭博師である以上、勝ちすぎた分の精算をしなければならない。

 そこでラザルスが購入させられたのは1人の奴隷少女リーラだった。喉を焼かれ声を失い、感情も無くして主人の望むままに振る舞う彼女との出会い……、それがラザルスの運命大きく変えていく。””

 

 と、まぁこんな感じでしょうか?

 ジャンルでいうなら「ギャンブル」「ラブコメ(?)」「歴史モノ」とかになりましょうか。

 

 そんな本作の感想を一言で述べるなら

強固な史実の世界観と設定に裏付けされた圧倒的なエンターテイメント」

 ですね。

 

 詳しくお話しておきます。



1:主人公ラザルスの物語

 本作の中心にあるものの一つ。

 それは間違いなく「ラザルスとリーラの出会いと変化、成長」にあるでしょう

 

 ラザルスは賭博師として既に完成されていた。

 「負けない」――言うまでもなく、生活が困窮するほどに負けては生きていけない。

 「勝たない」――勝ちすぎて敵を作り、自ら命の危険に晒されるような行為はするべきではない。

 その2つの信条を胸に、日々賭博師として淡々と生きていくだけのルーティンがラザルスには出来上がっていた。

 

 しかし、そんなラザルスの心はリーラと出会って少しづつ変わっていってしまう。

 成り行きから手にした奴隷少女。

 どうでもいいと言って切り捨てても良かったはずなのにそうはしなかった。それはきっと放り出したら死ぬと分かっているような少女を見殺しにするのは気が引けたとか、寝覚めが悪いとか、その程度の理由だったはずだ。

 それでも誰かと関わることは何らかの変化をもたらしてしまうもの。

 賭博師として常に冷静で合理的だったラザルスの中に優しさだとか他者への慈しみだとか、そういうものが生まれてしまったのだ。

 

 これは言ってしまえば「日々無気力に生きていた主人公が、ヒロインと出会って心の熱を取り戻す」そんな作品と同じような魅力がある作品と言えます。

 少なくとも1巻はリーラと出会って僅かに熱くなったラザルスのカッコよさというものが存分に発揮されていた!

 

 しかし、間違ってはいけない。

 ラザルスは元々無気力だったわけでも堕落していたわけでもない。

 賭博師として、最初からこれ以上なく完璧だったのだ。

 だからリーラと出会って彼にもたらされたのはただの変化ではなく、自らのアイデンティティを崩壊させる災厄と言ってもいい。

 そんな変化に対してラザルスはどう向き合うのか。変わってしまう前の過去にはもう戻れない。ならばそれを受け入れて前に進むしかない。

 けれどそれは決して簡単なことではなく……。

 

 というこのラザルスの変化が良いものでもあり、悪いことでもあり、その両面を満遍なく見せてくれた。

 これが本ッ当に良かった!

 

 

 この作品って、1〜5巻のストーリーラインを整理するならばこうなるんですよ。

 1巻、ラザルスとリーラの出会い。

 2巻、リーラの成長。

 3巻、ラザルスが自身の変化を自覚する。

 4巻、アイデンティティが崩れ去った主人公のリスタート。

 5巻、最後の結末へ。

 これがもうね、めちゃめちゃ美しいじゃないですか?

 ラザルスという主人公を軸にした物語としてこれ以上の形はないというくらいに完璧な構成。

 シリーズモノとして読んでいて満足できないわけがないと思わせるんですよ。読者に約束された勝利をもたらすんですよ。

 

 だから、まずは1つ目の本作の推しポイント

 

「最高に魅力的すぎるラザルスの物語」

 

 というお話でしたね。



2:奴隷少女リーラ

 ラザルスが最高の主人公!

 というのが分かったとして、

 そんなラザルスの魅力を生み出したのは「リーラとの出会いがあったから」である以上、リーラについても語らなければなりませんよね。

 

 リーラは奴隷少女。

 喉を焼かれ、言葉を話すことができない。

 

 それは事実だけ見ても非常に痛ましいもの。しかし18世紀末という時代を考えれば当たり前にそういうことがまかり通ってしまう。

 ラザルスの賭博師という、その日暮らしで、未来の生活も安定しないような生き方もそうですが二人のこの設定は作品世界観を深め、同時に初見で読者を引き込むのには十分すぎる効果を発揮していましたよね。

 

 しかし、もちろんそれだけではなく。

 リーラがリーラだったからこそ生まれた物語や感動もあるのです。

 

 言葉が発せず、筆談をしようにも文字が書けないからまずは学ばなきゃいけない。そんなリーラだからこそ小さな仕草や表情の一つにこそ、その本心が込められている。

 そんな彼女を引き取ったのはラザルス。基本的に誰かに腹を割って話すような人間ではなく、必要最低限の優しさしか持ち合わせていないような人間。

 そんな二人だからこそ、最低限の会話だけで育まれる関係性というものがあり。言葉が足りないからこそ分からない心、すれ違う想いというものが生まれて。分からないからこそ分かろうとする変化が生まれる。

 みたいなものとかね?

 

 もっとシンプルな話で言うのなら。

 奴隷少女として心を殺していたリーラが、少しづつ自分の気持ちを開いていく変化があるでしょう。

 これこそさっき言ったような、リーラのささやかな仕草や表情にはっきり見えてくるものであり。ただの地の文、されど地の文、巻を重ねるに連れて変化する、そこに込められているリーラの想いの数々にはスッと染み入るものがありました。

 

 そして、何より重要なのは。

 リーラの幸せとは一体何なのかという話。

 奴隷少女を拾って、優しくして、心を取り戻して……、じゃあ、それで何もかもが幸せなハッピーエンドになるのか?

 そうはならない。

 この作品はどこまでも現実的で、それでいてわたしたち読者が生きる現実よりももっとずっと荒んでいるような(というのは、今を生きるわたしの偏見かもしれませんが)そんな世界なのです。

 

 だからこそ、真剣に向き合わなければならない。

 リーラの未来と幸せについて。

 ここで多くは語りませんが、賭博師と奴隷少女、そんな二人を生み出した世界、その全てが集約されるような最終巻の結末は見事としか言いようがないものでした。

 

 この作品でしか見ることのできない感動が必ずある。

 

 というわけで。

「本作のメインヒロイン・リーラのお話でした」

 

 彼女はラザルスのような分かりやすい魅力があるタイプではないかもしれませんが、ラザルスにとって、物語にとって、この作品にとってなくてはならない存在。

 そういう意味で読めば読むほどに感じ取れる魅力の詰まった子でした。



 ちょっとだけ、個人的なリーラの好きな話。

 完全な余談なんだけど。

 4巻でラザルスに訪れる決定的な破綻。

 そのときにリーラが直接ラザルスの助けになるわけではないけれど、ラザルスがリーラにそうするように、リーラがラザルスの小さな変化からその不調を感じ取って、その身を案じる姿っていうのがね。

 すっごい良かったなぁって思うんですよ。

 

 あと3巻のラザルスが。

 リーラについて知らないって言うのはナシだ、と。それは自分から聞かなかったことと同じだから、って。いう本当にささやかな文章でサラッとあるやつなんですけど、これも本当に記憶に残ったシーンで好きです。



3:二人が生きる世界

 ラザルスがカッコいい。

 最高の主人公の物語。

 それを支えるリーラというメインヒロインの存在。

 

 それを語る中でいくらか触れたものがありますね。

 

 作品世界観。

 

 18世紀末のロンドン。

 金と命をかけるような賭博が当たり前に存在して。奴隷という在り方を平然と許容してしまう。現代のような平和を約束する法律など十全に整備されているわけもなく、悪や暴力が至るところに蔓延するような時代。

 そんな時代だからこそ、賭博師としてのラザルスが生まれた。奴隷少女というリーラが生まれた。感動や悲しみ、不幸と笑い、この作品の全てが生まれた。

 と、そんな風に言えるくらいに、この作品の世界観というのは、この作品の根底に根付いていたと言えるでしょう。

 

 これはもうすごいと、そういうしかありません。

 

 史実に基づく設定を忠実に書くだけでもすごい。

 歴史上の人物をモチーフにキャラを生み出すだけでもすごい。

 作品独自の空気感を生み出すだけでもすごい。

 こんな世界観だからこその物語っていうのを作るだけでもすごい。

 

 ””これだけでもすごい””

 そう言える要素が際限なく積み上げられていくんですよ。

 

 こんなのもう純粋に”すごい”と言うしかないじゃないですか。

 それ以外の言葉が見つかりませんよ。

 

 だから、これは是非一度読んでみてほしい。

 ここにしかない世界が必ずあるから。

 そしてこれまで語ったようなそんな世界だからこそ生まれる物語に必ず呑まれるから。

 そう言いたくなるような作品でした。



4:まだまだあるぞ、賭博師の魅力

 ここまで全部、賭博師は祈らないというシリーズ全体を通しての話をしてきました。

 しかし1巻1巻にある面白さや、ラザルスとリーラ以外のキャラの魅力、賭博師の熱いゲームなんかの話が全然できていないんですよ。

 なので、その辺の残り全部簡潔に吐き出します。

 

・1巻の魅力

 導入として、作品に引き込む掴みが強力だった! ラザルスとリーラの二人の出会いと今後が気になる最高のスタートダッシュ

・2巻の魅力

 帝都ロンドンから外に出て始まる物語。

 そこで出会った少女の物語が、リーラの過去と重なって。大きな一歩を踏み出す覚悟をしたリーラとそれを支えるラザルスの絆に感動!

・3巻の魅力

 この巻は何と言ってもあの少女のインパクト。

 バースという街の権力争いに巻き込まれ、色々な陰謀や野心を見せつけられた巻で、そして何よりも純粋すぎる愛の狂気にゾクゾクした……!

・4巻の魅力

 主人公ラザルスのリスタート!

 打ちのめされて。何もかもを失って。それでも立ち上がり、自分の過去とこれまでにケリをつけて、元恋人のフランセス、今は遠くにいる友人たちに真っ直ぐ向き合って戦うラザルスがカッコよすぎたび

・5巻の魅力

 最後の最後までこの作品ならではの魅力に満ち満ちていた巻!

 他の作品では味わえない読後感で大満足!

・つまり言いたいこと

 5巻を通したシリーズとしても抜群に面白いけど、巻別に見ても見所しかない!

・サブキャラたちも癖が強い

 ストリートファイターで豪快なお得、ラザルスの友人ジョン。こいつの魅せた1巻での戦い方が好き!

 ラザルスの元恋人で、最強の賭博師の1人フランセス。4巻で掘り下げられるラザルスとの痛ましい過去と今が最高!

 2巻で出会う地主の娘エディスとそのメイドのフィリー。エディスの真っ直ぐな優しさと、お姉さんみたいな包容力。それに対照的な腹の読めない”いい性格”をしているフィリー。

 3巻で純粋な愛を見せてくれたジュリアナ。あれは本当にすごかった。

 4巻5巻で巻き込まれた事件、その中心にいたジョナサンとルロイの信念。この二人の物語を通じて、終盤に来ても深まるどうしようもない時代の痛ましさに胸が締め付けられた!

 とにかくどいつもこいつもいいキャラで、いい生き様を持っていた!

・賭博シーンが面白い

 純粋なゲームとしての読み合いはもちろん。

 ときに命すら賭けなければならない緊迫感が生み出す興奮と熱量が素晴らしい!

 ファンタジー要素は一切なし、現実的な理論と計算、イカサマだけで魅せる展開はまるで自分がその賭博場にいるかのような錯覚を生み出すほど! いや、たしかに読んでいたあの瞬間、わたしの現実はあの世界にあった!

 当たり前だけど、現代でも行われるようなゲーム(その前身となったもの)しか行われないからルールが非常に分かりやすい!

・賭博の裏にある戦い

 言うまでもなく、賭博には賭けるものがある。

 多くは金だろうけど。

 この作品の賭博にはそれ以上の多くのものが積まれている。だからこそ、その席に座る者たちが何を思い、何のために戦うのか。

 そしてそれを読み合う、水面下の攻防、これもまた非常に読み応えがあって面白い!

 

・結論

 

 この作品は全部面白いよ!

 

5:巻別満足度と総合評価

 最後に本作の巻別満足度と総合評価です。

 

 まずは巻別満足度。

 グラフを見ての通り、読めば読むほど面白さが増すシリーズでした!

 こういう1巻1巻しっかり積み重ねていく作品はやはり良いですね。

 

 そして総合評価です。

 シリーズ全体を通しての満足度は ★8.5/10

 大満足の作品でした!



おわりに

 というわけで「賭博師は祈らない」について色々語りました。

 何度も言うような形になりますが、要約すると

・素晴らしい世界観

・カッコよすぎる主人公

・ヒロインと主人公の絆

・5巻というシリーズ全体を通した構成

・1巻1巻に込められた熱量

・賭博というゲーム

 という内容でした。

 気になったら是非読んでみてほしいシリーズですね。巻数も少なめなので読みやすいと思いますし。

 

 今回の感想は以上で。

 最後に1巻のamazonリンクとBOOKWALKERリンクを貼っておきますね。

 

Amazonリンク

 

 

 

BOOKWALKERリンク

bookwalker.jp

 

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