ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part53】花守の竜の叙情詩

 今回感想を書いていく作品は「花守の竜の叙情詩(はなもりのりゅうのリリカ)」です。

 ファンタジア文庫より2009年~2010年に刊行されていた全3巻のシリーズ。作者は淡路 帆希。イラストはフルーツパンチ

花守の竜の叙情詩1 (富士見ファンタジア文庫)

※画像はAmazonリンク(1巻)

 

 

 いつもなら、ここで作品の概要を紹介から始めるところですが。

 この作品の感想で2巻や3巻の内容に触れようとすると、どうしても前巻のネタバレのような部分に触れてしまうので、今回は1巻ごとに感想を書いていこうと思います。

 ですので、2巻感想には1巻のネタバレ、3巻感想には2巻のネタバレが含まれるようになります。

 

1巻感想

 エッセウーナとオクトス。

 東西に二つの国に分かれた島で、エッセウーナが遂にオクトスを制圧した。

 オクトスの姫であるエパティークは囚われの身となり、絶望に伏していたが、そんな彼女の前にエッセウーナの第二王子であるテオバルトが現れ、伝説の銀竜を呼び出す生け贄になれというのだった。

 

 と、そんな風に始まる物語。

 

 これはもう、すごく良かったです。

 過去の罪に向き合う強さと伝説に向かう旅の中で育まれる愛情がなんと美しいことか。

 ファンタジー恋物語はこうであるから、やめられない。

 

 まず、本作の中心となる二人。

 

 テオバルトはエッセウーナの第二王子。

 妾の子であり、王位継承の火種になることも危惧され冷遇されている。しかし現在の王である父に愛される妹のロゼリーに懐かれていることで、わずかながらの居場所が確保されていた。しかし、父が病に伏したことで、その立場が危うくなる。次期国王となる第一王子から、伝説の銀竜に父を癒やしてもらうという建前の元、追放されることになるのだった。

 

 そして、エパティークは滅びたオクトスの姫。

 銀竜を呼び出すための贄としてとらえられていたというわけですね。

 エパティークはまさしく姫となるべく育てられた少女で、最初こそ奴隷のような扱いに激怒し、自らの不幸を嘆き、テオバルトを含むエッセウーナを憎んでいた高慢な姫という印象が大きかったのだけど……、

 

 銀竜を呼び出す聖地で向かう中で彼女が目にしたのは、自国であるオクトスの民が持つ王家への恨み。

 テオバルトから聞かされたのは、父である国王が如何にして民に自由のない生活を強いてきたかという事実。そしてそれを知ろうともせずに王家の中で悠々と過ごしてきた自らの行いの持つ意味。

 旅の道中では、実際にエパティークを恨むオクトスの民に襲われたり、テオバルトの命を狙うエッセウーナの使者に襲われたり。そんな追っ手から目を欺くために母親に売られた幼い少女エレンを買い取ることにもなる。エレンを目の前にすると、より一層に子どもが売られるような貧しい現状を生み出した王家の罪を突きつけられしまう。

 

 知らなかった、ただそう言うだけの現実逃避にどれだけの意味があるのか。

 辛い現実であろうと受け入れなきゃいけない事実を聞き、エパティークが少しずつ変わっていく。エレンに見せる情愛。罪なき命のために、自らの贖罪のために、その身を捧げる覚悟。物語が進めば進むほどに、野に咲く強い花のように、その心が持つ力強さを見せるその姿に惹かれないはずがない。

 ここにエパティークがしの身を隠すためのただの偽名だったはずの、アマポーラという名前に見いだす意味が絡んでくると本当に美しいとしか言えなくなるんですよ。

 

 そして、変わりゆくエパティーク――アマポーラを見る中でテオバルトの心にも生まれていく変化ですよ。気の迷い、くらいの気持ちから始まった行動が、やがて本当の意味でアマポーラと彼女が愛するエレンを守りたいという気持ちに繋がって、父と母と娘、三人家族の絆を結んでいって。親愛を育み。

 やがて、自らもまた第二王子としての無知の罪に向き合わなきゃいけなくなる。

 そんな旅でたどり着いた果てでは、あらゆる願いを叶える銀竜の真実と代償。

 詳しくは語らないけど、本当に素晴らしい。感動しますよ。

 

 この一冊で切なくも甘い愛の物語は綺麗に締められている。

 けれど、続く2巻3巻があるのだと。そして、2巻3巻のあらすじを見ると既に胃がキリキリするというか……、二人にまだ過酷な運命を背負わせるのかと。ただの平穏が遠そうだなぁと思いつつ、続きを読んでいきます。

 

 

 

2巻感想

  テオバルトとアマポーラの旅は別れで終わってしまった。

 アマポーラを守るために、その身を捧げたテオバルトは伝説の銀竜となり月神に仕えねばならなくなったから。もう側にいることはできない。テオバルトは、アマポーラとエレンを国から遠く離れた別の大陸に置いていくことしかできなかったのだ。

 そして神の使いとして、地上に蔓延る悪魔退治をする中で、テオバルトは大きな傷を受けてしまい、銀竜としての存在が消えかかる事態に直面する。逃げ出した悪魔は、アマポーラのいる国の王への復讐を望んでいて。さらに悪魔を生み出す元凶たる存在、悪魔の母がアマポーラの命を狙っていると知り……。

 

 一方のアマポーラは、偶然拾ってくれた老夫婦の元で普通の村娘として暮らす。

 しかし、農作業などろくにやったことがない姫には辛い日々。

 手際が悪く、周囲から嘲られ、それでも大切な娘のように育ててくれる老夫婦のために、何よりいつかテオバルトが返ってくるのを信じて、今できることを精一杯にするしかなかったのだ。

 そんな日々の中で、彼女が街で織物を売っていたときたまたま歌った歌に目を付けられて公爵家の次男ガエタノが迫ってくる……。老夫婦とエレンの身を盾にして、アマポーラに王家仕えの歌姫になって、自らをその夫するように強要するのだった。

 

 と、1巻のネタバレ全開で、冒頭のあらすじを語るだけでも内容が濃い2巻ですよ。

 

 感想1つずつ話していくけど。

 

 まず、軽いところから月神の話。

 わたしは本当に、神々の問題みたいなのがたまらなく好きでして。

 かつて信仰を集め、人々を守護していていた神が、徐々に人々が信仰を失い、それでも加護を与え続ける中でだんだん闇堕ちしていくとかもう大好物の設定。この作品の場合、身心を失った汚れた魂が神の心を汚して、その淀んだ心を切り離した結果、最初こそ汚れた魂を食うだけだったソレが徐々に暴走し、地上に悪魔が蔓延する事態になってしまって……、月神はそれを悔いて、悪魔を退治するためには、人を銀竜として遣わすしかないこと。しかし、そもそも神の力を分け与えることにも問題があって、悪い心を持つ者は竜になれず、竜と人の混ざり物にしかなれない。そのこともまた悔いている。

 みたいなやつ、最高じゃないですか。

 そして、誰かこういう神様を救ってあげてくれ……。神の側に二千年侍り続けた銀竜の一人が、特にそんな神を一人のさみしさを抱える女の子と理解しているみたいだから。そんな彼にはずっと側にいてあげてほしいと想う。

 

 そんな風にして生まれた悪魔を退治する役割を担うテオバルト。

 悪魔を生み出す元凶、月神の切り離した存在を殺せばアマポーラの元に戻れると信じて戦う姿がもう最高だし、アマポーラはアマポーラでずっと信じて待ってるのが堪らない。織姫と彦星じゃないけど、会いたいのに会えない、けど心はいつだってあなたの側に……みたいなやつ嫌いな人間いないでしょう? いないよね。

 最高にラブロマンスだわ。

 更に言えば、それだけじゃなく。仮にアマポーラの元に戻ってこれたとしても、テオバルトはもう竜になっているのだから必ずアマポーラには先立たれることになって、その先ずっとアマポーラへの想いを抱え続けなきゃいけないという未来を考えるとこれまた辛くて。しかも、かつての銀竜伝説を作った人が先輩銀竜としてテオバルトの前に立つものだから、より一層にそんな未来が確かな実感を持ててしまうのもキツい。

 でも、それでも愛を一途にできるとしたら、それがどれだけ素敵なことだろうかと思ってしまう。元々は普通の人同士だったのに、生きる時間も違う存在になってしまうとか。こういう恋は大好き、超好き。



 ともあれ、テオバルトがんばれと言いたくなる中、アマポーラに迫る公爵家の次男の問題。

 脳破壊のような展開はないと信じながら、老夫婦やエレンのために望まぬ結婚を受け入れようとするアマポーラを見てるだけでもう胸が痛くなるんだよ。そして、そもそものアマポーラの身寄りになってくれた老夫婦も本当にアマポーラのことを想っているのだと分かるから、より一層に家族の愛情の尊さと、それを汚そうとする邪悪への気持ちでぐちゃぐちゃになる。

 マジでテオバルトがんばってくれと叫びたくなるのよ。

 

 終盤にはようやくアマポーラとテオバルトの並行していた物語が交わるわけだけど。

 アマポーラが歌姫となるべくやってきた王城、そこで王の命を狙う悪魔と、アマポーラの命を狙う悪魔の母。どっちも相手にして、全部守り切らなきゃいけない戦いが厳しいはずがなく……。

 そして、そもそも王の命を狙う悪魔の事情。何故彼女が悪魔になってまで王を憎むか、みたいな部分も悲しい愛の物語があったり、察してはいたけど明かされた真実に驚かされたり。とりあえず、王様めちゃくちゃ良い人じゃんってなって好き。

 アマポーラを狙う悪魔の始祖に関しては、因縁は決して切れない、と言ったところかな。

 結局、騒動が一段落したときにはもう手遅れな状況で……、どうしてこんな悲しい結果にならなきゃいけないのかと涙したくなるけど。この2巻は3巻へ続く引き方なので、どうにか幸せな結末を見せて欲しいと願わずにいられない。

 

 

3巻感想

 幸せな未来を掴むための最終巻。

 消えかかっているテオバルトを救うために、アマポーラはその記憶の全てを捧げてしまった。しかし未だに、悪魔の始祖からその命を狙われる現状は変わらない。今度こそアマポーラを守ろうとするテオバルト、しかし記憶が失われた二人の距離感は……、という具合で2巻から続くお話。

 

 この巻は、とにかくアマポーラの持つ心の強さが眩しかった。

 

 まずそもそもに、かつて何も知らない姫だった過去を受け入れ、今のアマポーラになったのは全てテオバルトとエレン、三人で旅したあの時間があったからこそ。言ってしまえば、アマポーラのアイデンティティとなるほぼ全てにテオバルトが根付いていると言っても良い状況。

 だからこそ、テオバルトの記憶を失ってしまったという事実がとにかく重い……。

 自分が一体誰を忘れてしまったのか。娘であるエレンを愛する気持ち、そこに同じくらい強くあったはずの何かがない不安。忘れたわけではなく、失った記憶は決して戻ることがないけれど、それを求めては苦しむ姿が幾度となく描かれるのは、もう見ているだけで痛々しい。

 さらには名前も知らないテオバルトの姿を見て、彼になつくエレンを見て、彼が自分の待ち人だったらと思ってしまったことに自らの不貞を感じて涙する姿もあると、胸が締め付けられるよ。そんな風に心を痛めなくてもいい。彼があなたの思い人で間違ってない、そう何度言いたくなったことか。

 

 けれど、そんな不安定な状態のアマポーラだったけど、その心の芯は決して揺るがなかった。

 まず何よりも、自分がどんなに辛い状況にいようとも、愛娘であるエレンは絶対に守ろうとする母親としての覚悟。

 悪魔がアマポーラの友人であるリサをそそのかしてその命を狙われたときも、愛する心に迷ってそこに悪魔がつけいろうとしたときですら。かつて自分の罪に向き合ったその気持ちは忘れずに、二度と過ちを犯すことはないと邪念を振り払い、文字通りに魔が差してしまったリサすらも赦してしまう器の大きさ。

 自分の記憶の欠損にすら、やがてその名前も思い出せないテオバルトがそうであると分かったら、彼を信じて、記憶がない現状すらも受け入れて認めてしまえる。必ずまた戻ってきてと約束することができる。亡くしてしまっても消えない愛情。

 そのどれを見ても本当に、強かった。

 これがまだ二十にも満たない少女の見せられる覚悟かと。

 

 そして、そんな母を持つエレンもまた強かった。

 四歳の身でありながら。大切な母が、父の記憶を失って。父はそんな母を遠巻きに見守ることしかできない。そんな状況でも、ぐっと気持ちを我慢して、母に寄り添っていられる。それだけでもすごいのに。

 そんな二人が再び心を通じ合うきっかけまで作った。いや、もちろん幼い彼女が深く考えていたことはないのだろうけど、ただ一途に自分の母と父への愛情をその小さな体で示し続けた。それだけのこと。それだけのことがどれだけ尊いか。

 血は繋がってなくとも、こんな娘に出会えたアマポーラとテオバルトは幸せだと思うし、こんな両親に出会えたエレンも本当に幸せなんだと思う。

 

 だからこの三人の絆は絶対に壊れない、引き裂けないのだろうと、そう思える。

 大切な妻と娘、二人を守るために悪魔と戦い続けたテオバルト。

 長い長い因縁の中にいた神と銀竜たちにとっても、これを最後にするためと挑んだ最後の戦い。

 その結末は、これ以上無いハッピーエンドでしかありえない。

 何度も何度も過酷な現実に阻まれた恋がようやく幸せに届いた。

 そして未来を見ることができた。

 その瞬間、ぶわっと涙が溢れ出てきましたよ。

 特に最後の二人を繋ぐ歌、アレはズルい。ロマンチックすぎる。




 最後に少しまとめましょう。

 とにもかくにも、美しい恋物語で家族の愛の物語でした。

 それを生み出したのは偶然で必然的な出会い。そして誰もが自分の背負う者に真っ直ぐ向き合って、罪を受け入れる心の強さを持つことができたから。その心情の変化を追い、幸せな結末へと至るまでの過程はこれ以上ないほどに満たされたものになりました。

 

 それはそうと、アマポーラの変遷を見ると、姫から敗戦国の人質となり、愛した人が竜になっていなくなる未亡人期に突入したかと思ったらその愛した人を忘れるとかいう、密度高すぎる時間を送っていて、冷静になると笑ってしまう。

 この何というか、ヒロインのアマポーラがエレンと二人きりでテオバルトに会えない時間が続いて苦しむというのがなかなか男性向けラノベじゃない方向性のラブロマンスで新鮮さがありましたね。

 

 

巻別満足度と総合評価

 最後に本作の巻別満足度と総合評価です。

 

 まずは巻別満足度。

 1巻から非常に満足度高い作品でした。2巻は3巻に続く巻という構成だったため、2巻単独では「続き読まなきゃ精神衛生的に無理!!」という状態になるので満足度が少し下がります。ただ3巻はちゃんと締めてくれたので、シリーズ全体を通せば大満足!!

 シリーズ全体を通しての満足度は ★9.5/10

 といったところでしょう。

 

 

おわりに

 なんか、久々に家族愛みたいな部分で泣けるような作品を読んだような気がします。

 アマポーラとテオバルト、エレンの三人の絆が本当に良かったんですよ。家族の平和な未来を思うと心がすごく温かく満たされます。

 最高でしたわ。

 

 それはそうとして、前回の竜と祭礼もそうでしたが。

 全3巻くらいのものだと、1巻ごとに感想書くのも結構良いかもしれないと思ってしまいました。まぁ、竜と祭礼は1巻ごとに綺麗にまとまるシリーズで、今回は前巻のネタバレ踏まないと2巻3巻の感想を書きづらいという理由はありましたが。

 ちなみに、次回のシリーズ感想もまた3巻のシリーズで、1巻ごとに感想書くやつになりそうです💦

 

 今回の感想はこんな感じでおしまいにしましょう。

 

 最後に1巻のAmazonリンクとBOOKWALKERリンクを貼っておくので、気になったらチェックしてみてください。

bookwalker.jp

 

 

前回のシリーズまとめ感想「竜と祭礼」

【シリーズまとめ感想part52】竜と祭礼 - ぎんちゅうのラノベ記録

 

次回のシリーズまとめ感想「最果ての図書館シリーズ

【シリーズまとめ感想part54】最果て図書館シリーズ - ぎんちゅうのラノベ記録