今回の感想は2024年3月の電撃文庫新作「蒼剣の歪み絶ち」です。
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あらすじ(BWより引用)
少年は「生きたい」と願った──願いの代償に、運命を破滅させる魔剣に。
《歪理物》──この世界の歪みを内包した超常の物体。
伽羅森迅が持つ蒼剣もその一つ。願いの代償に持ち主を破滅させる《魔剣》に「生きたい」と願った彼は、生きながら周囲をも呪う運命を背負わされた。
《本》に運命を縛られた無機質な少女・アーカイブと共に彼は《歪理物》が関わる凄絶な事件と戦いの日々へ身を投じる──彼の歪みに巻き込まれ、アーカイブの依り代とされてしまったあの少女を救うために。かつて希望を見せてくれたあの少女を……。
「絶対に助ける。……たとえそれが、アーカイブを消すことになっても」
二人の呪われた運命の歯車は、一人の女子高生と《文字を食らう本》に出会い、急速に回り出す。
その先に待つ未来は破滅か、それとも──。
最後の1ページまで最高のカタルシスで贈る、第30回電撃小説大賞《金賞》受賞作。
感想
これは良かったですね~
熱い異能バトルと過酷な運命に立ち向かう少年少女の姿。
こういう素直な作品を嫌いな人はいないのではないでしょうか? というような真っ直ぐな面白さがありました。
改めて本作の概要を簡単にさらいながら感想を言っていきますと。
””世の理を歪めてしまう歪理物(ヴァニット)というものがある世界。
主人公の伽羅森は、あらゆる歪みを断ち切ることができるものの、所有者を不幸に陥れる呪いの剣によって生きながらも周囲に被害をもたらしてしまう。
そんな彼とバディを組み、歪理物による事件を解決する少女アーカイブは、伽羅森の恩人である少女が1冊の本によって歪められてしまって、運命を決定づけられてしまっている。
そして、二人が出会った少女・日継は、あらゆる固有名詞を持つ存在を文字を媒介して吸収してしまう本を手にすることになり、さらにその本は吸収したモノを吐き出すこともできるようで日継自身もまたその生産物だという真実を知ってしまい――。””
という感じで物語が始まります。
なかなか、最初から設定が濃密なタイプですね。
しかしながら、
「周囲に被害をもたらす青年」「運命が決定づけられた少女」「あらゆる存在を吸収できてしまう作り物の少女」
と、誰も彼もが分かりやすく大きな困難を抱えていて、それをどうやって乗り越えていくのか。抗っていくのか、戦っていくのかと。そういう期待が持てる導入になっており、個人的な読み始めの第一印象はとても良かったです。
そして、その期待にはしっかり答えてくれる。
三人で様々な事件に関わる中でアーカイブや日継を縛る歪理物である、それぞれの本にまつわる真実へと近づいていくお話が展開されますが。
その過程では他の歪理物を狙う組織とのバトル展開も多く、このバトルも本作の大きな魅力の1つ。理を歪めるアイテムは、それぞれが圧倒的な力を持つ間違いないけれど、基本的にはピーキーな能力ばかり。それ故に強みも弱みもハッキリしているため、そこを如何にして補うように戦うのかが大きな鍵となっていき、異能バトルとして見応えのあるバトル展開になっていました。
さらにこれは当然ながら、バトル展開に限らず三人それぞれが持つ困難への立ち向かい方にも通じてくるもので。
例えば「未来が決定づけられているために”それ以外では決して死なない”アーカイブがいるからこそ、彼女に被害を集中させれば、伽羅森は周囲を気にせず剣を振るうことができる。しかしそれは問題の根本的な解決にはなっておらず、伽羅森自身の心に抱く罪悪感は消えない」といったような、
それぞれの噛み合わせによって過酷な運命を解決こそできずともお互いに和らげ合うことができる、この塩梅が本作のキャラたちの関係性に大きく響いてきて、そんな状態の三人だからこその協力して困難に立ち向かう展開は見てて真っ直ぐに面白いと思えるものになっていたのです。
ここではあまり多くを語りませんが日継も二人に大きな影響を与えていきますし。時間で積み上げた信頼関係というよりも、同じように境遇が苦しい仲間の協力という空気が強かった1巻なので、今後シリーズモノとして続くのならこの日継との関係性がどう動いていくかは楽しみな部分になっていますよね。特に彼女とアーカイブの関係性は目が離せない。
またキャラ単独で言えば、そのアーカイブが個人的にかなり好きなキャラだったのが良かったです。
食事やらの感性は依り代の少女を引き継ぎ、運命を受け入れなければならない、という状況であるために、歪理物によって生み出されたアーカイブという個人の気持ちを基本的には見せないのですが。小さな言動の1つ1つに、しっかり依り代の少女のものではない、アーカイブ自身の意志を感じられる姿がビシビシとわたしの好みを刺激してくれる。
それはきっとあの一言にも集約されていたことでしょうし。まだまだ大変そうな状況に思える彼女が今後伽羅森や日継とどういう関係でやっていくかという”これから”にも期待が持てますし。
実に、良い具合の異種族ヒロインをやってくれてましたよ。
そういうわけで。
全体を通すと、非常に熱い異能バトル展開と主人公ヒロインたちが抱える問題に立ち向かう王道ストーリーラインがとても真っ直ぐで面白かった作品ですね。
総評
ストーリー・・・★★★★ (8/10)
設定世界観・・・★★★☆ (7/10)
キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)
イラスト・・・★★★★ (8/10)
次巻以降への期待・・・★★★★ (8/10)
総合評価・・・★★★★(8/10) 真っ直ぐに面白いファンタジー作品、やっぱりこういうのがいいですよね!
※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。
新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録
最後にブックウォーカーのリンクを貼っておきます。気になったらチェックしてみてください。
余談
今回の感想は基本的に良かったという方向でしか書いていませんが、実を言えば少しだけ気になってしまったのが1点あって。
アーカイブ側から見ればこれは良い話としてまとまっていた話だけれど、伽羅森サイドで見てみると彼自身の大きな目標であるアーカイブの依り代にされた少女を救うことと、それが同時にバディであるアーカイブという存在を壊してしまう、この二律背反に関する葛藤がやや弱いように見えてしまったんですよね。
この作品、話のメインに据えられていたのがアーカイブと日継のヒロイン二人だったために、終盤にいけばいくほどそこをフォーカスした反面主人公側の話が薄れてしまったのかもしれないと感じました。
ただ、まぁー、基本的にヒロイン見てうへへへ~ってなるようなわたしみたいな読者にはあまり影響もないのですけど。逆にヒロインを重視すればこそ、やっぱりアーカイブという存在の不安定さや複雑さ、そういうのを強調するためにはやはり伽羅森側からの葛藤は重要だったかなぁとも思ったりしまして。
とはいえ、この1巻の結論としてまだまだ彼女の不安定さは変わっていなかったから、個人的には別にいいかって流した感じです。なので感想本文では無く、追記としてつぶやく形にしました。