ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【新作ラノベ感想part55】恋と呪いとセカイを滅ぼす怪獣の話

 

 今回の感想は2022年10月のMF文庫J新作の「恋と呪いとセカイを滅ぼす怪獣の話」です。

 ※ちょっと色々問題があって、既に絶版? になってしまっている作品ですね。ただ、今回は別にその辺りの話をするつもりはなく、純粋に本作の感想を綴っていきます。一応言及するとすれば、すぐ下に画像でAmazonリンクになっているのですがリンク先に飛んでももう新品の定価のものはありません。

恋と呪いとセカイを滅ぼす怪獣の話 (MF文庫J)

 

 

あらすじ

 星墜ち島には、特別で孤独な子どもたちが集められている。

 十数年前に太平洋に堕ちた星の影響で、奇妙な『呪い』を宿す能力者たちだ。

 他人の感情に触れられる少年・御蔵真久良、時間を5秒追加できる少女・式根稀音、視界を映像記憶に変える少年・大野原春、怪物を視る少女・神津うづ花。

 社会から隔離された島に暮らす彼らの青春は、少し変わっている。

 「おまえが俺を好きじゃなくて本当によかった」

 「好きになる相手をまちがえたら人生おしまいよ」

 「これは愛じゃないから安心して」

 「同じ物を好きにならず、同じ者を嫌いになれた」

 それは恋と嘘と契約による夏の怪獣ミステリー。

 そして、ありふれたハッピーエンドの物語だ。

 

感想

 いやー、これは面白かったですね!

 単巻で久々に良い満足感です!

 ちょっと複雑なお話でもありましたので、その辺りを整理しつつ感想書いていきますね。いくらかネタバレをしてしまいますがご了承を。絶対にネタバレを見たくないと言う方は目次からネタバレ回避用の場所まで飛んでください。

 

 

 まず、本作はあらすじに述べられているようにちょっと特殊な能力を持つことで島に隔離されている学生たちのお話です。

 そしてそんな本作のテーマは「主観」です。つまりは、人それぞれ見えている世界が違う、ということを主題にしているわけですね。そんな本作は主な登場人物が四人いて、その四人それぞれの視点を1章、2章、3章、4章で切り替えながら進行していくものになっています。

 

 ですので、まずは各章の視点を担当するキャラ紹介をしましょう。

 

 まず最初の第1章は他人の感情に触れられる少年・御蔵真久良(みくら まくら)くんです。

 彼は他人の感情を見ることができると言います。それは例えば、動物の耳や尻尾のような形で見て、そしてその耳や尻尾に触れることで他人の感情に触れることができるのだと。

 そんな彼の視点の特性は言うまでも無く、他人の感情が見えること。……なんか禅問答みたいなこと言い出したな、と自分でも思いますが違うの。彼にとっては感情というのは目に見えるもの。普通だったら他人の感情は見えないから、人は他人がどう思うかを考えようとするでしょう。しかし、彼にはそれがないのです。他人の気持ちは見えるものだから、考えたり察したりするものじゃないんですよ。見えているものが全て。それが本当か嘘かに関わらず。感情が見える、という事実を持つ少年にとっては、自分の目で見たものが真実なのです。

 

 

 続いて第2の視点は時間を5秒追加できる少女・式根稀音(しきね きね)です。

 彼女は他人よりも多くの思考時間を持つことができます。他人とは時間の流れが違う、なんて表現がされていたり。

 そんな彼女がその膨大な思考時間を使って考えるのは大好きな真久良くんのこと。そりゃもうストーカー一歩手前のレベルで世界の全てが彼を中心にできている視点は、率直に言って可愛い。……人によっては怖いとか言うかもしれませんが、この作品のテーマらしく”わたしの主観”で語るのなら、めちゃくちゃ可愛いです。一途な女の子ほど可愛いのってないと思うくらい。

 しかしながら、彼女のその思いは彼には届かない。何故なら彼女はその恋心を全部、他人には観測できない自分だけの長い思考時間の中でだけ表現するから。そして大好きな彼、真久良くんにとっては”自分の目で見ることのできない感情は存在しないものだから”。

 

 そして第3章は視界を映像記憶に変える少年・大野原春(おおのはら はる)くんです。

 彼は目で見たものをカメラで撮影したかのように記録して映像化することができると言います。

 この第3章は内容として終盤なので、話せることが少ないのですが、1つだけ言えるのはこれまでの二人が見てきた世界とはやっぱり違う新しい事実が判明していきます。とあるキャラとキャラの関係性だったり、意外な性格が見えるのはもちろん。この特殊な能力者が暮らす島に関する真相だったり。はたまた「特殊能力というのは本当に存在するものなのか」「実はただの妄想なんじゃないか」ということだったり。

 

 この作品のテーマが”主観”であればこそ、最後のポイントは重要ですよね。他人の感情が見える、人より長く思考時間が持てる、それって本当なの? 証明のしようがなくない? あなたがそう思い込んでいるだけなんじゃない? というお話。

 そんな疑問があって、事実がなんなのかは分からない。

 けれどたった一つ間違いないのは、その能力を持つと言う人にとっては、その能力を介して見た世界だけが真実であるということ。主観とはそういうもの。その人の中にある感性や価値観、考え方一つで変わる。そしてその根っこに、能力というのは必ず関わってくる。

 そういう意味でこの作品のテーマを深める要素として能力は非常に良いアクセントとなっていました。これが面白いのですよ。

 

 そして、話を戻しまして。

 最後の4章の視点を持つ怪物を視る少女・神津うづ花。

 3章から続くクライマックスのシーン。そして3章から続く最終的な結論となる部分。ここまでそれぞれの視点を見てきた。たしかに見えるもの、感じるものは人によって違うのだろう。じゃあ、そんな人々はそれを共有することはできないの? 同じ場所にいるようで、全然違う場所にいるの? 心を通わせることはできないの? そんな問いかけ。

 答えは、まぁ、実際に読んでみてくださいという感じですが。

 ひとつだけ言えるのは、あらすじにも言われているようにありふれたハッピーエンドがそこにはあった、ということです。……あ、このありふれたハッピーエンドっていうのも疑いたければ疑っていいんですよ~。そうやってこの作品を読んでみるのも、また一つの主観、でしょうから。

 

 

感想(ネタバレ回避用)

 さてさて、長くなってしまいました。

 まとめましょう。

 

 人それぞれ見えている世界が違う、という主観をテーマにして、登場人物それぞれの視点が切り替わる度にそれまでとはまるで違う世界が見えてくる作品でした!

 特にこの要素を顕著にしているのはそれぞれのキャラの持つ能力、呪いと作中で言われるそれは本当に特殊な能力なのかそれともただの痛い妄想なのか、それが分からないけど、少なくとも能力者本人にとっては自分がそういう能力を持っていることが事実でそんな能力を介して感じる世界があるのだということ。

 それぞれが自分を特別だと認識するからこその、それぞれの視点で見えてくる新しい真実やすれ違いが非常に面白く。同時にそんな自分だけの特別を持つようなクセの強いキャラばかりの作品だから、何気ない会話文でも笑って楽しむことができました。
 そして、そんなどこか歪んだ本作はその歪みとは裏腹に、あらすじが述べるようなありふれたハッピーエンドだったのも印象的ですね。

 

 こんな感じです。

 1つ内容に全く関係ないところを言及するとすれば。

 137ページの「一人称がぼくの男のひとは、だいたいアブノーマルな性癖を持っている」って作者自身の書いていた「変態王子と笑わない猫。」の主人公横寺陽人くんのことですかね?(違ったらごめんなさい笑)

 

総評

 ストーリー・・・★★★★ (8/10)

 設定世界観・・・★★★★ (8/10)

 キャラの魅力・・・★★★★ (8/10)

 イラスト・・・★★★☆ (7/10)

 

 総合評価・・・★★★★(8/10) 主観をテーマにした青春群像劇、大満足です!!

 

 ※星評価は10段階。白い☆で1つ、黒い★で2つ分。★★☆だと評価は5、★★★★★だと評価は10ということになります。基本的には「面白さ」よりも「わたしが好きかどうか」の評価になります。評価基準に関しての詳細は以下のリンクより。

新作ラノベ感想の「総評」について - ぎんちゅうのラノベ記録