ぎんちゅうのラノベ記録

主に読んだライトノベルの感想を書いています。

【シリーズまとめ感想part50】魔王なあの娘と村人A

 今回感想を書いていく作品は「魔王なあの娘と村人A」です。

 電撃文庫より2011年から2016年まで刊行されていた全11巻のシリーズ。作者はゆうきりん。イラストは赤人

魔王なあの娘と村人A ~幼なじみは勇者です~ (電撃文庫)魔王なあの娘と村人A(11) ~魔王さまと俺たちのグラデュエーション~ (電撃文庫)

※画像はAmazonリンク

 

 

1:作品概要

 まずはいつものように作品のあらすじをご紹介。

 

 ""《個性者》と呼ばれる人と、そうでない大多数の一般人《村人》、大きく分けて2種類の人間が生まれるような世界。

 個性者は《魔王》や《勇者》と言ったファンタジー世界のジョブのような《個性》を持つ人のことで、彼らはその個性に沿った行動をしたがる――《勇者》だったら人助けやボランティア、あるいは他人の家のタンスや引き出しを漁ったりといった感じで。

 ただの《村人》な主人公、佐東二郎は高校生になって《魔王》の個性を持つ少女、竜ヶ峯桜子と出会って個性者たちの起こすドタバタな日々に巻き込まれていく。""

 

 といった感じのお話。

 ジャンルはズバリ、ブコメですね。

 あらすじ的にはコメディ要素強めに見えますが、想像以上に恋愛要素も強めの作品。

 

 というか、魔王がめっっっっっちゃ可愛い!!

 

 それを含めてあれやこれや感想を述べていきたいと思います。

 

2:個性者が生きる世界観

 まず本作について語る上で重要な設定《個性者》

 

 既にあらすじでも述べたように。

 個性者は《魔王》や《勇者》と言ったファンタジー世界のジョブのような《個性》を持つ人のことで、彼らはその個性に沿った行動をしたがります。そうせずにはいられないようです。

 

 そんな彼らは普通の人から見たら、変な人たち。はた迷惑な人たち。自分勝手な人たち。

 そんな風に映っています。

 まぁそりゃそうでしょう。

 ズカズカと他人の家に勝手に上がってきて、勝手にタンスとかを漁るような人がいたら不審者じゃないですか。

 ゲームの中の勇者ならまだしも。

 ただ、個性者というのはそういった自分の言動を「それが当たり前」であると思って疑わないんですよね。

 だから止めようがない。

 

 じゃあ、個性者とはそういうものだと受け入れたとして、本作の世界観。

 個性者がいる世界っていうのがどうやって成り立っているのか。

 

 まず、個性者は将来的に《テイルユニバース》と呼ばれる異世界のような場所で様々な物語を生み出す演者としての成功が約束されています。

 すなわち生まれながらにしての未来のスターってことですね。

 そんな個性者たちなので、国や政府による支援が非常に手厚く行われている。

 それによって個性者たちが自分の個性を発露するための行動を一般人は阻害してはいけないと定められていて、基本的には個性者たちはその個性に従った生き方や振る舞いが許されています。

 とはいえ、そんな風に無制限の自由を与えたらどんな事件が起こるのか分かったものではないのでその対応も必須。

 個性者たちは常に「黒服」と呼ばれる専門の役人たちから監視されていて、周囲に大きな被害をもたらすような行動をしようとしたらその前に取り押さえられる仕組みができています。

 

 こんな感じで基本的には個性者という人たちを受け入れた秩序ある社会が形成されている、というのが本作の世界観。

 

 そんな中で、一般人で《村人》な主人公が個性者たちの起こすドタバタ(主に魔王と勇者のドンパチ)に巻き込まれていくのが本作の主な内容になってきます。

 

 そして個人的にここで1つ本作の推しポイント。

 

 この作品は1巻ごとに、その巻で個性者についてどんなことを描きたいのか、というテーマが明確になっているんですよね。

 

 例えば

 1巻であれば「個性者という人たちの概要」でしょうし。

 以降の巻では「個性者にとって、自分の個性を否定されることの意味」「個性者が持つ自由で不自由な生き方と将来」「個性者と一般人の相互理解」「個性者から見えている周囲の世界」「個性者が持つ社会的立場と責任」と言った感じで毎回1つのテーマに絞った内容が描かれます。

 

 これによって、読者であるわたしたちが巻を追うごとに個性者という本作のキャラたちへの理解が深まり、そこに対する好感が生まれていくんですよね。

 言うまでもなく本作はラブコメでもあるわけですから、個性者が以下に特別で一般人とは違う人なのかが描かれるにつれて、そんな個性者なヒロインの育む恋心が大きく切実なものに見えてきて堪らないのですよ。

 これはシリーズを通して読むことを意識したときに間違いないメリットになっていました。



3:魔王なメインヒロイン竜ヶ峯桜子

 本作のメインヒロインである魔王。

 

 これがもうとにかく可愛い!

 

 魔王の個性は、簡単に言えば「どうやって人類を滅亡させるかを常に考えている」ような性質があって、ヒロインの桜子は高校初日から人類が嫌いですなんて自己紹介をしてしまう。

 そんな彼女がクラス委員長となり、主人公が副委員長になることから二人の交流が始まっていきます、と。

 で、個性者っていうのは、どうやら基本的には一般人を路傍の石のようにしか認識ができないみたいで。一般人の姿が見えていない、声が聞こえていない、というのはデフォルトみたいなんですよ。(いわゆるドラ〇もんの石ころ帽子を被ったような状態ですね)

 ただ、家族や学校の先生といったその人にとって何らかの重要な立場にある人というのはちゃんと認識できるようで……。

 

 はい、もう分かりますね。

 魔王が主人公と交流する中で、それを認識できるようになっていく感情とは何か、言うまでもない。

 ただの村人ではなく、魔王にとって大切な「村人A」になっていく過程、彼女の淡い恋心、これがもう最高なんですわ!

 巻を重ねるごとに好きな気持ちが溢れていく魔王がマジで可愛いの!

 

 普段は村人Aさんって呼んでるけど、影では一生懸命名前を呼ぶ練習をしていたり。他の個性者たちに村人Aさんが馬鹿にされると、村人Aさんはすごい村人なんですからって反論したり。村人Aさんに良いことがあったら自分のことのように喜んでくれたり。

 魔王なんて個性とは裏腹に、ものすごく純粋で見ているだけ癒やされるような女の子なんですよ。



 個人的に彼女との恋愛模様で好きなのはやっぱり将来を含めた話。

 先ほども言ったように、個性者は将来テイルユニバースという世界で活躍することが約束されています。

 そしてそれは国や政府よる多大な支援を受けて定められていること。作中ではそんな個性者たちが自分の個性が赴くまま生きられると同時に、将来を選べない不自由さとして描かれる。

 

 魔王も例に漏れず。

 彼女は自分の将来がもう分かっている。

 高校を卒業したら、村人Aさんとは離れ離れになってしまう。村人Aさんと一緒にいようとしたら彼にもテイルユニバースの世界に来てもらわなきゃいけない。

 そんなの強要できるわけもなく、けどそんなことができたらいいなという願望はあって。魔王のそんな心中から溢れたと思われる言葉の数々にはきゅーっと胸が締め付けるように甘いんですよ。

 個人的にこの、立場の違い、避けられない運命、みたいな要素がある恋愛は大好物なので大好きでしたね!

 

4:勇者と魔王の戦い

 勇者と魔王がいれば、それは戦う運命。

 

 そして本作のコメディ要素の柱にこの戦いがありました。

 

①魔王が人類滅亡計画を発動する

②しかし、その計画は一見すると人々に光夫与えるようなもので喜ばれている

③そんな魔王の計画を勇者が阻止する

④勇者にブーイングが殺到する

 

 というのが本作のコメディテンプレート。

 

 1つ例をあげて説明すると。

 ”ある日学校にめちゃめちゃ安くて豪華な学食ができて、生徒たちから大好評。

 しかしそれは高校生に安くて旨い食事を与えることで、食べ過ぎ偏食などの不摂生な食生活を行わせて、将来的に生活習慣病にするとかいう魔王の計画だったのだ。

 それを阻止するために勇者が学食にシュールストレミングをぶちまける!”

 みたいな感じですね。(魔王の計画も勇者の止め方もどっちもどっちでひどいわ笑)

 

 これはつまるところ。

 一種の勘違い系のコメディの面白さがあったやつなんですよ。

 魔王の人類滅亡計画、勇者の計画阻止、どっちもそれを真面目にやっているのに、周囲からちゃんと理解されずに誤解されて生まれる笑いです。魔王は必死になって悪いことしてるのに褒められて、勇者は正義をやってるはずなのにみんなに文句を言われて、それぞれ「なんでこうなるのー!?」って感じであたふたしてるの。

 そしてこれがテンプレートとして使われていくので毎回安定した面白さがある。

 というか、毎回毎回「魔王はよくこんな壮大で迂遠な計画思いつくなぁ……💦」と思いながら読んでました。

 もちろん他の個性者たちも面白おかしい奴らばかりなので、見てて飽きませんでした。



5:最終巻への不満(ネタバレ含みます)

 個性者という設定と世界観を上手く使った安定したコメディと、最高に可愛いヒロイン。

 

 ラブコメとしてこれだけあれば文句なし、と言いたいんですけど、どうしても個人的に許せない最終巻……。



 その許せない要素というのが、主人公の村人Aさんのとある要素について。

 

 最終巻に至るまで、村人Aの心情として魔王を一人の女の子として意識しているけれど「個性者との恋愛なんてあり得ない」と思っている節が見られます。

 個性者との恋愛を想像するだけで頭痛がするような描写もあり、明らかに何かワケアリだなと。

 

 結論として、それは個性者との恋愛に発展しないように役所のよって洗脳を受けていたから、という話だったのですが……

 

 それがたったの一文でサラッと流されたんですよ!!

 

 それはないでしょ!!!!

 

 洗脳ってのが、一般人全員にされてるのか。それとも村人Aさんだけが特別個性者と仲良くなりすぎたからかけられたのかも分からないし。最終巻まで読んでいれば、個性者っていうのが社会的に大事な存在だから役所から常に目を掛けられていて、一般人と仲が深まりすぎるのを危惧して一定以上の関係には発展しないようにする処置をするみたいなことがあってもおかしくはないと思いますが、そんなの想像の話でしかないから。

 それに愛の力で洗脳が解けたぜ、ってご都合主義にするにはあまりに軽すぎるんですよ……、いやね、わたしは愛の力で全部解決だぜ! みたいな展開は嫌いじゃないですよ。ただこの作品に関しては納得ができないだけ。

 最終巻までずっとワケアリですよ感を出していたのを、サラッと流して誰が納得できるのか。

 

 例えばですよ。

 わたしが最終巻読む前にイメージしていたものですと。

 村人Aは幼馴染の勇者の少女と過去に何かあって、それが原因で個性者に対する感情を制限されてしまったのだと。しかし、最終巻で魔王がピンチな状況になり、それを助けたいと強く願ったことでその枷を破った。

 そこで同時に個性者に深く踏み込みすぎるとまた洗脳をされてしまうかもしれないというリスクも理解して、それでも魔王が好きだから助けるために行動する。

 結果魔王を助けることができたけど、また恋心を忘れてしまった。

 だけど最後やっぱり魔王が好きな気持ちで全部思い出してハッピーエンド!

 

 みたいな感じです。

 こういうのなら、ちゃんとワケアリを匂わせていたワケの部分の説明もしつつ、村人Aさんの強い恋心を見せつつで、ご都合主義なハッピーエンドで納得感があると思うんですよ。

 そういうの一切なく、ただ最後の最後で「俺洗脳されてたみたいだけど、なんとかなったわ。じゃあ告白するぜ」みたいな感じでサラッと流されるのは本当に納得がいかない。

 

 最初に言ったように、巻を重ねながら個性者というものの掘り下げがしっかりされる本作だからこそ、個性者との恋愛の壁っていうのもあったと思うんですよ。

 それは将来を選べないことや、国によって管理されているという社会的立場です。

 

 別にさ、そういう社会体制を変える戦いをしろとか言いたいわけじゃないんですよ。

 ただその個性者との恋愛の壁っていうものをしっかり主人公に見せつけた上で、それでも魔王とともに歩む未来を選ぶっていう決断を見せてほしかったの。

 それを演出する上でいちばんキーになると思うのが、村人Aが過剰なまでに個性者との恋愛を意識しない、っていう部分だと思ってて。

 だからこそ納得ができないの。

 

 ちょっと方向性変わるかもしれないけどね。

 洗脳とかじゃなく、過去に個性者の女の子(幼馴染の勇者が妥当でしょうかね)に恋していたけど、何かしらのハプニングが起こってトラウマになって忘れていた、とかでもいいんですよ。

 個性者と恋愛するっていうのが、主人公にとって大きな壁なんだ、というのがあってそれでも! っていうのを見せてほしいのよ。

 

 愛で全部解決、というものをやるなら。

 それでも納得できるだけの強い思いを見せてほしい。

 魔王から村人Aさんへの恋心ではそれを存分に感じていました。だからこそ最高に可愛いヒロインでしたし、そんな魔王の可愛いを見るためだけにでもこの作品を読む価値はあると思ってます。

 ただ、村人Aさんからのソレをわたしは感じなかった。

 

 だから、何度でも言いたい。

 マジでなんでそこをサラッと流したんだ!!!

 絶対に流しちゃダメだっただろ!!!

 

6:巻別満足度と総合評価

 最後に本作の巻別満足度と総合評価です。

 

 まずは巻別満足度。

 基本的にラブもコメディも安定していたシリーズ。

 コンスタントに魔王が可愛い。

 なので特別この巻で盛り上がるということはなかった印象ですね。期待していた最終巻も前述のように不満が残る形になってしまいましたし……。

 

 そして総合評価です。

 シリーズ全体を通しての満足度は ★7.5/10

 最終巻次第ではもう少し良かったはずなのに……

 

おわりに

 ちょっと今回は個性者というものの説明が多くて感想の要領を得ない部分がある気がしています……。

 話した内容をまとめるなら。

 

・個性者の設定、個性者がいる世界観の構築が良い👍

・1巻ごとにテーマを持って個性者の設定を掘り下げるからシリーズものとして読み続ける旨みがある

・魔王がとにかく可愛い

・個性者と一般人の恋愛という、ある種の異種間恋愛のような要素が最高

・魔王と勇者の戦いが生み出すドタバタコメディ

・最終巻の主人公に不満……

 

 こんな感じですね。

 わたし個人は不満も残ってしまいましたが、正直魔王の可愛さだけでも読む価値があると思ってるシリーズだったので、気になったら読んでみて欲しいですね。

 

 以上で今回の感想はおしまい。

 最後に1巻のAmazonリンクとBOOKWALKERリンクを貼っておくので、気になったらチェックしてみてください。

bookwalker.jp

 

 

 

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